229:一息と身支度と検証の続き
気が付けば星明りが照らす時間になっていたのですが、私には【暗視】スキルがあるので部屋の中が大変な事になっているのが見えてしまいますね。
「窓を開けても良いですか?」
鼻が駄目になっているのでよくわからないのですが、蒸し暑いと感じてしまうくらい湿度が高くなった室内の匂いも酷い事になっているような気がしますし、これから売り払う事を考えると少しくらい掃除をしておいた方が良いかもしれません。
「あー…勝手にどうぞ…」
怠そうにソファー型のシェーズロングにだらしなく身体を投げ出したまふかさんの許可を取ってから、せめて換気でもしようと私が窓を開けると、フワリと入り込んだ夜風が火照った身体の上を撫でていきました。
「はー…これからどうしようかしら…」
そうして私が夜風を堪能している間にまふかさんはそんな事を呟いていたのですが、別にこれは2回戦のお誘いという訳ではなく、もっと包括的な問題と言いますか、改めて冷静になったところでこの館を売り払った後はどうしようという事なのだと思います。
「これから、ですか?」
クランも解散してしまいましたし、その影響で配信の方も炎上しているようですし、根本的な解決策を言うのならこんなクソゲーを止めて別の人気タイトルに切り替えた方がまふかさんの為になると思うのですが、そうなったらそうなったらで寂しくなってしまいますね。
「そんなに深刻な話じゃないわよ、ただちょっと、ね。第二エリアをソロはちょっと厳しいし、だからといって誰かと一緒はもう懲り懲りだし…どうしたものかって…だからと言って中途半端に止めるなんて恰好悪い事は出来ないから、キリの良いところまではやりたいとは思っているけど…」
最初期のMMORPGならエンドコンテンツ寄りのいつまで続くかわからない物が多いので、思い立ったが吉日と言う様に止め時を自分で考える必要がありましたが、今時のゲームは結構キリの良いところと言うのがありました。
この辺りは昨今のゲーム事情や流行り廃り的なものが関係しているのですが、昔と違って今はVR系のものが多く、プレイヤーが仮想現実の中に入ってゲームをする事が主流になっています。
そうなるとどうしてもゲームをプレイするというハードルが年々高くなってきており、実際にプレイするより実況や配信を見ていた方が良いという人の方が多いのが実情です。
するとどうしてもゲームをプレイするという事自体がマニア向けの趣味になってきているのですが、そういう“わざわざ”ゲームをプレイするなんていうプレイヤーがしたいのはお金の殴り合いではなく、ゲームならではの体験やプレイスキルによる優越の差や勝敗を楽しみたいという層が増えてきています。
勿論廃課金推奨のゲームもありますが、大半はそういう風潮にあわせるようなマニア向けの技量が必要なディープなゲームを出すか、新規プレイヤー獲得の為の目新しい新作を出す傾向にありました。
これにはAIの進歩による新作の製造難易度の低下というのもあるのですが、こうなると一つのゲームを長くプレイしてもらい課金させるより、別の新しいソフトを買わせようとしたり、バージョンアップさせた2作目3作目を購入してもらう方が良いとなり、課金要素は運転資金の調達目的と言った感じの会社が増えてきています。
まあ2作目といってもデータ自体は同じと言いますか、半分以上使い回しというのもザラですし、ダウンロードコンテンツのような物で延命しているような作品も多いのですが、とにかく次の作品に移行するための区切りを設定している会社も多く、その区切りまではプレイしたいというのがまふかさんの考えのようでした。
「そういうあんたはどうするの?第二エリアに行ったって事は結構酷い目にあっているのでしょ?」
「私は……」
改めてブレイクヒーローズの事やこれからの事を考えるのですが、色々と酷いところはあると思いますが、こうやってまふかさんとも仲良くなれましたし、そう考えると意外と悪いゲームではないと思えてくるのですよね。
「結構気に入っていますので」
「ほんと、あんたはそういう奴よね」
「どういう意味ですか?」
私は私なりに考えて行動しているつもりなのですが、まふかさんはどこか呆れたように肩をすくめてみせました。
「言葉通りよ…っと」
言いながら、やっと寝椅子から起き上がる気になったのか、まふかさんは上半身を起こします。
「まふかさんも洗いましょうか?」
流石にかなりベトベトになってしまいましたし、まずは一旦【水魔法】で身体を洗っておいたのですが、まふかさんもどうでしょう?
そう思って提案してみたのですが、まふかさんは何処か怠そうに手を振ります。
「あたしはパス、あんたの魔法は何処か信用できないし、普通にお風呂に入るわ」
「どういう意味ですか?って、お風呂があるのですね……折角なので私もご一緒していいですか?」
流石に水洗いだと限界がありますし、暖かいお風呂に浸かれるのなら浸かりたいと思って聞いてみたのですが、まふかさんには速攻で、全力で、拒否されてしまいます。
「絶対に嫌よ!入るならあたしの後にしなさい!」
今更恥ずかしがる事もないと思うのですが、まふかさんなりの拘りがあるのでしょうか?
「隅々まで洗って差し上げますよ?」
「そういうのがあるからあんたと入るのは嫌なの!いい?絶対に入ってこないでよね!?」
「……振りですか?」
そういう古典芸能もありますしと私が聞いてみると、おもいっきりバスルームの扉を閉められ拒否されてしまいました。
「今更だと思うのですが、どうでしょうね?」
「ぷぃー…」
まあここまで拒否されるのならしょうがないと、私はまふかさんが出てくるまで寝椅子に腰かけ何とも言えない顔の牡丹をポヨポヨとしながら待つ事にしたのですが……べちょべちょになった寝椅子からはまふかさんの匂いがしてきて、ムラムラしてきてしまいますね。
「ぷー…」
「わかっていますよ」
というより隣の部屋でまふかさんがお風呂に入っているというのもまた何か変な気持ちになるといいますか、落ち着かないのですが……あまりまふかさんの事を考えていると牡丹が怒り出すのやめておきましょう。
そうして私が心頭滅却と冷静さを保とうとしている内にまふかさんはお風呂からあがって来て、今度は私がお風呂に入る番となったのですが……ホームに備え付けられているお風呂は大昔の貴族スタイルのもので、水はけの良さそうな部屋の中に排水溝をつけて猫足のバスタブを置いただけというストロングスタイルなものですね。
そして今は殺風景な部屋の中にポツンと備え付けのバスタブがあるだけなのですけど、色々と家具や装飾品を揃えれば確かに貴族気分が味わえるような仕組みになっていてハウジングが捗りそうなのですが……今のところは購入時の備え付けの物だけといいますか、アメニティ用品的な物しかないのが少し寂しい気がします。
(えっと…?)
湿気とか色々と大丈夫なのでしょうかと心配になってくる構造なのですが、とにかく気にしても仕方がないとお湯を出そうとしたのですが……よくわかりません。
これがもっと安い宿だと薪で沸かしたりお湯を運んできたりしてバスタブにお湯を溜めるような原始的なタイプであり、この館はまだ魔法的なギミックでボタンを押せばお湯や水が出る仕組みなのでかなり楽なのですが、説明書らしき注意書きも何もないと困った事になりますね。
「ぷっい!」
「そうですね、早く体を洗って出ないとなのですが…」
私としてはゆっくりと入りたいのですが、まふかさんを待たせているので急がないといけません。
なので何とか現実のお風呂と勝手が違いすぎる操作パネルを操作し、試行錯誤しながらお風呂にお湯を張ったり、牡丹が飛び込んでお湯が撒き散らされたりしたのですが、なんとかかんとか入浴を無事に済ませられました。
因みに色々と汚れていた『翠皇竜のドレス』に関しては、ついでに洗って【修復】をかけたら新品同様に戻ってくれたので、体をしっかりと拭いてからそのまま着用します。
そうして私達がお風呂から上がると、寝椅子や絨毯が片付けられていて、いつでもこの館を引き払えるように片づけを終えたまふかさんが仁王立ちで待っていました。
「遅い!どれだけ入っているのよ!」
「だから一緒に入ろうって言ったじゃないですか」
「ぷい」
それなら3人でのんびり入れたのにと反論すると、まふかさんは何故か胸を隠して身を守るようにしながら後ずさりします。
「と、とにかく、こっちの片づけは……って、何?」
流石に館を処分して家を出るとなるとあのエッチな下着からちゃんとした服装に代わっているのですが、黒いビキニに前開きの白いジャケット、下はボタンを外したローライズのホットパンツを羽の意匠が彫り込まれた大き目のバックルのベルトで固定してという、なかなかスタイルに自信が無ければ出来ない大胆な恰好をしていますね。
「いえ、似合っていると思いまして」
「そう?ありがと…そういうあんたは相変わらず変な恰好よね、ドレスの方は知っていたけど、靴とか靄っぽいの出てるし……あと、何、これ?…って!?」
私がまふかさんを恰好を見ていたように、まふかさんも改めて私を姿を見ながら不思議そうな顔をして【魔水晶】を軽く指で弾いたのですが、それが攻撃ととらえられたのか【魔水晶】はパチリと反発するような音をたてていました。
「第二エリアで手に入れたスキルなのですが、他にもこういう……【媚毒粘液】というスキルも入手したのですが、効果がよくわからないのですよね」
言いながら【媚毒粘液】を両手いっぱいに作り出してみるのですが、まふかさんはそのトロトロしたローションのような液体を見て顔を顰めます。
「何これ?」
「さあ?よくわかっていないのですが、何かトロトロした液体です」
どこか警戒しているまふかさんによく見えるよう近づけてみると、まふかさんの顔がみるみるうちに真っ赤になり、鼻と口を手で押さえながら後ずさりました。
「まって、これ…」
モンスターを倒すことが出来なかったので、ダメージが入るタイプの毒ではないと思うのですが、これはもしかして何かしらの効果が出ているのでしょうか?
「……」
まふかさんの症状としては目が潤み赤面し、発汗があり、乳首が勃起し、流石にちゃんとズボンを履いているので下がどうなっているのかはわかりませんがモジモジしていますし、声が甘い音色になってきてと……もしかしてこれは相手を『発情』させる物かもしれませんね。
モンスターに塗りつけた時はビクンビクンしてから味方に攻撃されていましたが、あれは【媚毒粘液】が気化して周囲のモンスターに『発情』という影響を与えて敵味方の判断がつかなくなっていたのかもしれません。
「ほんと、なんであんたはそんなスキルばっかり…」
状態異常に耐えながら、顔を真っ赤にして後ずさるまふかさんなのですが、その足取りはどこか不確かで、私の事を潤んだ瞳で見つめてきているのですが……凛々しいまふかさんの弱々しい姿は、とてもクルものがありますね。
「………」
「…ぷっ!」
何か変なスイッチが入ってしまった私は両手いっぱいの【媚毒粘液】持ちながらまふかさんとの距離を無言でジリジリと詰め、視線だけで牡丹に合図を送り……その合図を受けた牡丹がまふかさんの足を掬うようにタックルをしかけます。
「って…このスライム!?ッひぃッ!!?」
牡丹的にはまふかさんが酷い目に合うのはセーフなのか、容赦のないタックルに尻もちをつく形でステンと転倒させて固定する事に成功したのですが、それが上手く行きすぎて私の方が急ブレーキをかけないとぶつかるような状態になりました。
その際、手のひらから零れ落ちた【媚毒粘液】が太股にかかったのですが、それだけでまふかさんは嬌声を上げながら身体を震わし、ホットパンツに恥ずかしい染みを作ります。
「どういう効果があるかわかっていないので、折角なのでこのまま確かめてもいいですか?」
太股を伝う【媚毒粘液】が効果を発揮しているのか、収縮するたびにホットパンツが吸収しきれなかった汁気が断続的に噴き出してきているようなのですが、本当に凄い効果があるようですね。
「い、いや…ま、まって、おねがい…んひぃぃぃっっッッ!!??お゙お゙っお゙ぉッッ!!?」
まふかさんは自分の身体を侵す媚毒に耐えながら甘えたような声で懇願してくるのですが、そんな姿を見せられたら余計に止まる訳にはいきません。
まずはビキニの下から「ここを擦って!」と主張している蕾を粘液まみれの指で擦り上げてあげると、それだけでまふかさんは頭の中がお花畑になってしまったようなのですが、【魔水晶】のレーザーの事とか色々とありますし、試したい事はまだまだあります。
「私もまふかさんに酷い事をしたい訳ではありませんので、止めて欲しいっていうのなら止めてあげますよ?」
言いながら私が実際に手を止めてあげると、まふかさんの身体はもっと苛めて欲しいという様に震えながらも、弱々しく首を振りました。
「はっひ…ひゃ…ひゃめ…」
「すみません、よく聞こえません」
ニッコリ笑いながら耳元で囁いてあげるとまふかさんの表情が絶望に染まるのですが、その見開かれた瞳の中に暗い被虐心がある事をちゃんと確認した上で、私達は最後の売却手続きの為に不動産屋さんがやってくるまで、まふかさんの身体で色々なスキルの効果を確かめさせてもらいました。
※ユリエルの前だけ弱い自分を曝け出せるとか、合意の上でのイチャイチャプレイですので2人はこう見えても仲良しです。
そしてまふかさんが問題なくお風呂に入れたのは館を購入した時に説明を受けていたからです。




