225:諸々の検証と媚毒粘液と魔水晶の謎
色々と試してみようという事でやって来たのはアルバボッシュの北側で、この辺りの敵は角兎かウルフくらいなので厄介な敵もおらず、通る人も疎らなので色々と試すには丁度いいですね。
というのも私の場合は魅了の効果で次から次へとモンスターがやって来てしまうので、検証しようとするとどうしてもモンスターハウス化してしまうのですよね。
そうなると他のプレイヤーに迷惑をかけてしまう可能性がありますし、第二エリアのモンスターの場合は群れられると対処不可能になる可能性があります。
それと比べるとここなら検証の片手間で排除していけますし、ある程度なら群れられても対処は可能です。
それにわざわざここまで戻って来たというのはアルバボッシュの葉っぱを確かめてみたかったからというのもあるのですが、こちらもやはり『精霊樹の葉』ではあるようで、違いとすれば光らない事と、葉っぱの大きさが幼樹の1.5倍くらいの大きさがある事でした。
効果としてはどちらも変わらないようで、『精霊の幼樹』はアルバボッシュの精霊樹と同じ物のような気がするのですが、その辺りはエルフェリアに行ったらわかるのでしょうか?
まあそれはおいおい調べるとして、ここに来るまでの間に【魔翼】の動きを試してみたのですが、これは翼を動かすというより魔力によって浮遊するという感じで、その魔力の噴射方向を制御するような独特な飛翔感がありました。
例えとしては適切ではないと思うのですが、ジェットエンジンと反重力エンジンの違いと言いますか、空気を押し出して飛ぶのと反重力を発生させて飛ぶのの違いと言いますか、同じ翼でも根本的にはかなり違う物のようで、一から学ぶつもりで練習した方が良いかもしれませんね。
あと【魔翼】の方は魔力を放出して飛ぶので羽ばたく必要が無くて、痛覚もそれほどありません。
基本的には魔力で構成されているので再生も可能ですし、それでいて普通に動かせるのでこれなら色々な事が出来そうなのですが……まあ言ってもスキルレベルが1なので動かせる程度なのですが、自由度が高まるのはいい事だと思います。
そして肝心の飛翔性能なのですが、こちらは数センチ浮いてスーっと移動できるような感じで、今のところは速度を出す事が出来ません。
ただ【腰翼】だと羽ばたいて空気をかくまでの微妙なタイムラグがあったのですが、【魔翼】の場合は噴射方向のスイッチを切り替えるようにいきなり方向を変えられるので、速度と加速は悪いけど小回りは利くみたいな不思議な飛翔感になりますね。
体を【魔翼】で浮かしておけばスカート翼で一気に加速させる事もできますし、慣れていけば【腰翼】時代と似たような動きは出来ると思います。
「ぷっ」
後は牡丹の【跳躍】なのですが、速度がかなり上がり、細い通路であれば三角跳びの要領で屋根まで上れるようになったのですが、一歩が大きくなった分小回りが利きづらくなったようで、その辺りは要練習といった感じでした。
そして人間だったらたたらを踏むような状況でも、牡丹の場合は地面と接する部分の形を変える事で調整出来るようで、トトトトと小走りになるような形でウネウネとさせれば何とかなりそうとの事です。
むしろ鍛えていけば壁の表面の微妙なデコボコを蹴るようにして垂直に登っていけるようになったりと、牡丹は牡丹で結構面白そうな動きが出来そうですね。
因みに【秘紋】で付与していた翼に関してなのですが、パタパタと動かしても機動力にあまり関係しなかったどころか、バランスを崩していたようなので途中で解除しています。
「それじゃあ牡丹、そろそろ良いと思うので色々と試してみようと思いますが…」
「ぷい」
大量のギャラリーに見られながらの検証というのは何か違うような気がして人気のない場所を選んだのですが、黒色のスライムを従え【魔水晶】を周囲に浮かしているとなるとそれはそれで目立つようで、町の中ではあちらこちらからプレイヤーの視線を感じました。
奇異の目で見られるだけなら良いのですが、スキルを研究されるのは少し嫌だったのでそういう取り巻きを振り切る為にも道から逸れた場所に向かったのですが……なだらかな草原を移動していると、草むらの奥から結構な数の角兎がこちらの様子を窺ってきていました。
大半の角兎達は私の魅了の力に捕らわれてソワソワした様子なのですが、それでもレベル差を感じてこちらを警戒するように耳をピンと立てて立ち止まっている状態で、そんな中から勇気のある角兎が1匹2匹と突撃してきており、近づいてきたのは蹴り倒しておきます。
ここまでスキルが強化されていると動物虐待をしているような気持ちになるのですが、その角におもいっきり刺されたら致命傷になりますからね、気をつけましょう。
ただこうやって角兎を蹴っていると思うのですが、第二エリア用に色々と装備を新調してきたのですが、結局靴はただの市販品と言いますか、その辺りで売っているアウトドアシューズなので攻撃力が足りないような気がするのですよね。
『海嘯蝕洞』に行った時のようにスパイクのついた靴があればいいのですが、あれはあれで町の中を歩くには不向きですし、だからといって靴を幾つか用意しておくというのも収納量の無駄遣いのような気がします。
(そうですね…)
「PUXII!!?」
試しに【オーラ】で靴を覆い、跳びかかって来た角兎を蹴ってみたのですが……これは結構いいかもしれませんね。
硬化させた【オーラ】の結晶で蹴れば攻撃力が上がるというのもあるのですが、何より一番いいのが形を自由に変えられる事で、ソールの形状も自由自在、これなら場所に応じて靴を買い替える必要がなさそうといいますか、靴自体をオーラで作る事も可能なようなので、何か良い靴装備が出てくるまで【オーラ】で凌ぐというのもアリでしょう。
とはいえ何が起きるかわからないのがブレイクヒーローズですし、意図的な形を作り続けるのにはコツが必要そうですし、いきなりスキルが封印されて裸足になる可能性も考えるとサンダルくらいは履いておいた方が良いかもしれません。
【ランジェリー】の範囲に入っているサンダルなら私のスキル構成でも効果を発揮させる事が出来ますし、グリップの問題が解決できるのならそういう装備に変えておくのも良いかもしれませんね。
ついでに【オーラ】による鞭や糸が作れないか試してみたのですが……これはスキルレベルが上がっていたからか、使える【オーラ】の量が増えていたので意外とあっさりと出来ました。
ただある程度の太さの場合は射程が足らず、糸のような細さにする場合は維持をするのに神経を使うので実用性はいまいちですね。
例えるのなら轆轤を回して結晶を細く長く伸ばしていく作業のような集中力が必要になってくるといいますか、これが靴のように足を覆っておくというような大雑把さなら問題ないのですが、糸を維持しようとすると結構な集中力が必要です。
たぶんこれは【オーラ】がもともを体の一部を覆うようなスキルであり、そういう使い方に対しては多少のサポートを受けられるのに対して、武器の生成や細かな造形物に対してはサポートが働かず、完全に私の手動になっているからだと思います。
この難易度だと流石に何かと並行してというのは難しいかもしれませんが、それでも立ち止まって糸の生成に集中していれば何とかなりそうですね。
因みにこの【オーラ】なのですが、本来はフワフワした気体に近い物質で、相手へプレッシャーをかけたり、体の一部や全体を覆って攻撃力や防御力の強化みたいな使い方をするスキルなのですが、私の場合は【翠皇竜】の力で結晶が作れるのでそれを使って色々と変化させているという感じで、攻撃力は結構可変的です。
(少し集中して……今!)
「PIxx…tx!?」
結晶を混ぜなければ相手を縛る事も出来ますし、結晶を混ぜるとワイヤーのように相手を切断する事も出来る便利な物質で、試しに足元から地面に流した【オーラ】の糸を使って突撃して来た角兎を絡めとってみたのですが、流石にこのレベル帯のモンスターが辺りの魔力の流れを見る事もないのであっさりと引っ掛かり、その下半身を絡めとりました。
(これなら大丈夫そうですが…絵面は酷いですね)
捕まえた角兎は後ろ足に絡まりついた紫混じりのピンク色の糸を振りほどこうと暴れているのですが、暴れる度に糸が食い込み血が流れて泣き叫んでいます。
「ぷぅぃー…」
そんな光景を牡丹が何とも言えない顔で見ていたのですが……とにかくさっさと次の検証をしようと、私はドロリとした【媚毒粘液】を両手いっぱいに作り出して、それを角兎に擦りつけました。
「PUIXx!!?」
すると角兎は恐怖に目を見開き叫び声をあげながらビクンビクンとし始めて、その様子を見ていた他の角兎達が反応を示します。
「PUI?」
「PUX!」
今まで怖気づいたように茂みに隠れていた角兎達も一斉に跳びかかってきており、混乱効果?で同士討ちを始めるのですが、跳び出して来たうちの大半は私の方に襲い掛かっていますし、相変わらずよくわからない効果ですね。
角兎を【テイミング】したらどんな状態異常にかかっているのかがわかるのかもしれませんが、テイムモンスターには【媚毒粘液】が効かないようですし、地道に検証するしかありません。
こういう時にスコルさんが居たら検証を手伝ってくれるのかもしれませんが、今は練習用の魔石を集めているようですし、そんなタイミングでスキルの検証まで手伝ってとお願いするのは流石に迷惑でしょう。
というより私もドゥリンさんに魔石を集めておくと言ったのですが、第二エリアだとのんびり【解体】する暇もなく、殲滅したらすぐにその場を移動してというのを繰り返していたので全然魔石が確保できていません。
言った事を守らないというのも何なので、ワールドクエストの進行度を確かめながら魔石集めやスキル経験値を稼ぐための狩りをしてもいいかもしれないとか考えながら、私は跳びかかって来る角兎を蹴り殺したり【魔水晶】をぶつけてみたりしたのですが、【魔水晶】の直接的な攻撃力は高くないようですね。
普通に硬球をぶつけている感じと言いますか、角兎レベルでやっと当たり所によっては致命傷というくらいの威力しかありませんし、ぶつけたらぶつけたら内包している魔力の減少が激しいですし、MPの一部を使った盾とするかスキル補助と割り切った方が良いかもしれません。
後は魔力波や光線も試してみたのですが、確かに一瞬ビクンとして動きが止まるのですが、倒したかと思って見ているとフラフラと起き上がるのでダメージを与えているのかがよくわかりませんね。
色々とわからない事ばかりなのですが、これ以上角兎を苛めていてもわかりそうにないですし、程ほどの所で検証を切り上げる事にして、群がってきていた角兎は牡丹と協力して殲滅する事にしました。




