224:準備と魔翼
昨日はなかなかハードな一日だったので、休憩する意味合いも兼ねて午前中はリアルの方で色々な用事を終わらせていたのですが、結局ワールドクエストの行方が気になってしまい、お昼ご飯を食べてからブレイクヒーローズにログインする事にしました。
そしてその繋いでいない間にも『蜘蛛糸の森』の進行状況は眺めていたのですが、攻略自体はあまり進んでいないようですね。
というのも『蜘蛛糸の森』に入る人はちらほら出てきているのですが、ソロでは蜘蛛の大群をどうする事も出来ないと撤退する人が多くて、攻略用の臨時PTが募集されていたりするのですが、第二エリアでの募集の効果は捗々しくありません。
これはモモさんなどの有名PTですら内部分裂状態と言いますか、男女混合PTに関しては軒並み解散の危機に陥っているようで、攻略用の臨時PTも人が集まらずに難航しているようですね。
これについては第一エリアを結構な速度で攻略されたので運営がテコ入れしたなんていう陰謀論じみた意見が一部から出てくるくらい集まらないのですが、流石にそれは考えすぎでしょうか?
とにかくそういう訳でいまいち攻略の進んでいない『蜘蛛糸の森』なのですが、ワールドクエストである『レナギリーの暗躍』の方は少しだけ進んだようで、『蜘蛛糸の森』が存在する事と蜘蛛達が暗躍している事がNPCにも伝わっており、その事をエルフェリアに居るアルディード女王に伝えようというクエストが発生しているようでした。
そういうクエストを受けてエルフェリアに向かおうとする人、単純に『蜘蛛糸の森』を攻略すれば片がつくだろうという人、南の森を周回している白いアラクネを退治すればいいんじゃないかという人という感じで、大体三つのグループに分かれて攻略が進められているようで、少し前に発見された『毀棄都市ペルギィ』にも人が向かっているようなのですが、状況が進行していくワールドクエストが開催されている事ですしと、大抵のプレイヤーは蜘蛛関連のイベントを進めようとしているようで、私も蜘蛛達の事情が気になりますし、流れに乗る形でエルフェリアへのルート開拓を目指す事にしましょう。
そういう訳で方向性が決まった後は、まずはいらないアイテムを売却したり投げナイフやポーションなどの消耗品を補充したりしておいたのですが、そろそろ市販のポーションだと回復量が足りませんね。
一応WMなら品質『A』ランクのハイポーションの販売が始まっていたのですが、今は誰もが取り合いをしている感じで、値段が高騰しているので数を確保する事ができません。
ここぞという時に使用する用に1本2本確保する程度なら何とかなるかもしれませんが、日常使いにするにはもう少し安定供給されないと難しいと言いますか、そもそも『セントラルキャンプ』の発展度が足らないからかブレイカーズギルドがまだ進出してきていないので、WMを開くためには一々『セントラルライド』に戻らないといけないのも問題です。
まあ何かの用事で第一エリアに戻った時にWMは覗いてみる事にして、とにかく今はMP回復ポーションと何かと使う機会の多いスタミナ回復ポーションを10個ずつ購入しておく事にして、他の消耗品もいつもと同じくらい買い込んでおきます。
あとアイテムで少し気になったのは牡丹の装備に関する物なのですが、盾だけだと流石に火力が不足しているので専用の武器を持たせようかと思ったのですが、意外と使ってみると【鞭】スキルが便利なのですよね。
なので出来れば『ベローズソード』のような実用的な【鞭】スキルで使える武器を持たせてあげたいのですが、魔法的な武器の開発は今のところあまり進んでおらず、売っていたとしても分銅鎖や分銅の部分をナイフに変えたような物が売っているくらいで、良い物がありませんでした。
これは魔法的な物はリアルの知識を使って製造できないからであり、そういう武器を入手する場合は何かしらのドロップ品を狙う方が早いと言われているのですが……そう簡単に手に入るものでもないですし、テイムモンスター向けの装備を落とすダンジョンやモンスターの情報というのも今のところありません。
一応私の場合は【オーラ】を細く伸ばしたりして魔法的なもので鋼線のような武器を再現する事はできるような気がするのですが、魔力操作や諸々のスキルとステータスが必要になってくるので、私なら出来るけどという感じで牡丹に適しているかは不明です。
そういう訳で、むしろスライムらしく体を液状化させて触手のように振り回せないかというアプローチの方が良いような気がするのですが、牡丹はポヨンポヨンとした水風船のような水滴型の可愛らしいスライムであり、物を掴める程度にニョロリと伸ばすのが精一杯なので、武器にするには全然長さが足りません。
(どうしましょうか?)
水魔法でビチョビチョにしてみたり、捏ね回していたりするとそのうち何かしらのスキルを覚えないかと試行錯誤を繰り返してみたのですが、すぐに覚えられる訳でも無いようですし、いつまでも牡丹を捏ね繰り回していても仕方がないので一旦諦めましょう。
とにかく一通り必要なアイテムの補充をした後、人前でスキルの調整をするのもなんなのでセントラルキャンプのテントに戻ってきたのですが、こうやって人目を遮れる場所があるのは良い事ですね。
それだけで第二エリアに拠点を構えた意味があるというものなのですが、とにかく今は【腰翼】の上位版である【天翼】と【魔翼】のどちらを取得するかと言う事や、牡丹のSPを何に割り振るかを考えなければいけないのですが……まあ私のスキルに関しては、見ため的なものやスキルの説明を読んだ結果【魔翼】にしておきました。
というのも【天翼】はやや魔法寄りの性能となり浮遊する感じになるようで、物理寄りの【魔翼】の方が単純な速度としては速そうなのですよね。
私の場合は【ルドラの火】などの魔法攻撃を主軸にはしていますが、機動力が下がるとお話しになりませんし、『レッサーリリム』に天使のような羽がついていても違和感があるような気がします。
そういう訳で【魔翼】にSPを振ったのですが、振るとすぐに【腰翼】の表面が溶けるようにして剥がれ落ちていき、その下から新しい翼が生えてきました。
「ふっひっ!!?」
それは無数の襞がついたチューブで無理や包皮をゾリゾリと捲られていくような感覚に近く、その刺激をやり過ごそうにも襞がプチプチュとしてくるたびに身体が跳ねました。
(せ、せなかがっ…とけ、とけ…るっ、外に、人がいるのにぃっ…んひあぁああ…ッッ)
腰の辺りから全身に向けて甘い刺激がピリピリと広がっていくような感じで声が出そうになるのですが、テントの外には普通に人がいて、大声を上げたら大変な事になってしまいます。
その事実が更に追い打ちをかけてくるような気がするのですが、とにかく情けない声が出そうになるのを必死に我慢して、両手で口を押えて歯を食いしばりながらその変化に耐えきりました。
「ふっ…ッー…ふー…」
何度か激しくいった後にやっと変化は収まったのですが、本当に不意打ち気味にやってくる、こういうエッチなのは止めて欲しいですね。
余韻に浸るように私は涎を垂らしながら少しの間脱力していたのですが、とにかく生え変わった【魔翼】の色合は私の魔力光を黒っぽくしたような色で、見た目は根元が細くて途中から広がった中折れした菱形といった形をしており、生物的というより魔力の塊というような翼に変わっていました。
他のスキルとの兼ね合いか、要所要所に鱗のような結晶が散りばめられており、大きさは全長1メートル程度、左右に伸ばすと2メートル程とテントの中で広げるにはちょっと大きすぎる翼で、今も距離感を把握しきれていない左翼がバサバサとテントの布地に引っかかっているのですが、当たっているという感触はあるものの華奢な骨格が捻られるという感じはありませんね。
軽く揺するように翼を動かしてみるとテントに穴が開いて少し裂けたのですが、物理的な攻撃力を持った魔力で作られた翼と言う感じなのでしょうか?
大本が魔力なので骨格という制限もないようで、結構好きな形で動かす事が出来るのですが、これなら近づいてきた敵を打ち払うといった使い方も出来そうですし、【収納】で大きさ自体も変えられるようなので、かなり便利になりましたね。
ただスキルレベルが1に戻った事もあり、空気をかいているという感覚は薄れて浮力的にはいまいちなのですが、それに関してはレベルを上げれば改善されるでしょうし、そもそも最近では【羽ばたき】の効果の乗ったスカート翼の方が飛翔には貢献してくれていましたし、二つ合わせて4枚翼で羽ばたけば結構飛べるような気がします。
(牡丹は…)
続いて牡丹のスキルなのですが、【隠陰】を付与してみた結果、結構便利だと思ったのですが、牡丹としては私の機動力について行けなくなった事が悔しいとの事で、機動力関係のスキルが欲しいとの事ですね。
「ぷー~いっぷー」
との事で、試しに【秘紋】を使って牡丹に【腰翼】を付与してみたのですが、そうすると牡丹の背中に小さなゼリー状の羽が生えてきたのですが……本当に見た目が変わったくらいの効果しかありません。
これはスキルレベルがどうのというより、私の移動力が【腰翼】とスカート翼に【翠皇竜】と【人外化】と【羽ばたき】という複数スキルが乗ってかなり強化されていたからだと思いますし、牡丹もそれだけのスキルを追加やっと私と同程度、もしかしたら根本的な種族の違いみたいなものでそれ以下という可能性があるので、この方面に伸ばしていっていいのか悩みますね。
それに牡丹的にもスライムと言う形に多少なりともポリシーがあるのか、翼はあまりお気に召さなかったようですし、牡丹は牡丹の機動力の確保を目指した方が良いでしょう。
そうなると今のところ取得できる移動系のスキルとしては【体捌き】と【ステップ】と【跳躍】の三つが候補に挙がってくるのですが、効果としては【体捌き】は戦闘時に有利なポジションを占位する歩法のようなもので、【ステップ】は横移動と歩幅の強化、【跳躍】はジャンプ力で縦の移動の強化という感じで、牡丹の場合はどれも似たような感じのような気がするのですが、本人的には立体的に動けるようになる【跳躍】が良いそうですね。
「わかりました、では【跳躍】にしておきましょうか」
そういう訳で【跳躍】を取得させたのですが、取得するとポヨンポヨンと跳ねる強さが増したようで、一回のジャンプで立っている私の顔の位置くらいまで跳びはねられるようになり、テントの天井にぶつかりそうになっていました。
「ぷ!ぷ~い、ぷ!」
スキルの調子を確かめるように私の周りをポヨンポヨンと跳ね回る牡丹なのですが……テントが壊れないうちに止めて欲しいですね。
「牡丹…」
因みに牡丹が習得できるスキルについて補足なのですが、上級スキルに関してはいきなり覚えさせる事は出来ないようで、牡丹は牡丹でスキルレベルを上げて取得できるようになる必要があるようです。
つまりいきなり私の取得している上級スキルである【剣舞】や【魔翼】などを取得させる事はできないようで、地道に経験値を稼いでいく必要があるようですね。
「…まずは色々と試しましょうか」
「ぷっい!」
とにかくこのまま牡丹に跳ね続けられたらテントが壊れかねないですし、私も【魔翼】に慣れる必要がありますし、今回のワールドクエストはすぐにクリアされるというタイプでもないので時間はまだありそうですし、スキルレベルがもうすぐMAXになるというスキルが幾つかありました。
そういうスキルを先に上げても良いですし、【媚毒粘液】の効果を確かめなければいけませんしと、とりあえずまずはお互いの空腹度の回復させた後、色々と検証してみる事にしました。
※【天翼】は天使系の種族になるキーとなるスキルの一つでしたが、そちらには進みませんでした。
因みに【天翼】でも【魔翼】でも両方魔力的に浮けるのですが、【天翼】の方がフワーっと浮いてホバリングが上手い感じで、【魔翼】の方がもう少し直線的にビュッと動く感じです。
※少し修正しました(6/24)。




