222:糸からの脱出
外を目指す前に一旦外部ネットに繋いで他のプレイヤーの動向を探ってみたのですが、どうやら『蜘蛛糸の森』の近くまで来ていた人達はカナエさんを追っていた蜘蛛達によって蹴散らされてしまったようで、他のプレイヤーも蜘蛛の猛攻を受けて撤退中のようですね。
というのも現在この付近まで到達出来ているプレイヤーの多くは情報を探るために隠密系のスキルを伸ばしているような人達で、正面切っての戦闘はあまり得意ではないのかあっさりと戦略的撤退を選んだ人が多いようです。
勿論中には『蜘蛛糸の森』に侵入する事に成功して情報を発信している人もいたのですが、蜘蛛達に発見された後はあっさりとやられてしまったようで、情報提供は途中で途切れています。
そんな風に必死の思いで集めた情報が掲示板や情報サイトにあげられ始めており、皆さん大盛り上がりであーだこーだと言っているのですが、私が一番知りたかった白いアラクネの動向に関する目撃情報もチラホラとあり、こちらは大量の蜘蛛を引き連れて『蜘蛛糸の森』に近づくプレイヤーをひき潰しているようですね。
私達の場合はまず会話からだったのですが、すでに人間との抗争に入っているせいかすぐに戦闘になってしまっているようで、津波のように押し寄せてくる蜘蛛達によって南の森を進むプレイヤー達が一方的にボコボコにされているようで「白っぽい蜘蛛が」とか「アラクネが」みたいな情報しかないのですが、『蜘蛛糸の森』から離れているのがわかれば問題ありません。
勿論外を徘徊しているので脱出する際に遭遇する確率が無い訳ではないですし、別の個体が居るという可能性もあるのですが、そういう可能性に関してはもう遭遇しない事を祈るしかないですね。
とにかくそんな情報を見ながら私達はこの奇妙な円形ドームの出口を探していたのですが、ぐるりと一周回ったところで壁の中に埋め込まれた上に登るための螺旋階段を発見しました。
位置関係を考えると山頂に建てられた本殿の下に広がるすり鉢状の螺旋階段という感じの道なのだと思いますが、結構な長さがあるような気がしますね。
まあ出入口はここだけなので登るしかないですし、卵嚢を排泄した後なのでスッキリ快調ですしと文句を言わずに登る事にしたのですが……。
「はぁ…っ、は…ぁ…っ…」
潮を噴くくらい中をグチュグチュに掻き回されたり、母乳を噴いたりする快感を覚えた後にこの地味な肉体労働は少し厳しいですね。
段差を乗り越えてたぷんたぷんと胸が揺れる度に『翠皇竜のドレス』が敏感な乳首をキューっと締めあげますし、足を上げる時にはヌチュヌチュと湿った糸が大陰茎に食い込み擦れてピリピリした刺激が広がり、歩くだけで太股の内側が擦れてゾクゾクしてしまいます。
今は気持ちよくなっている場合ではないと甘美な誘惑をグッと堪えて私は足を動かすのですが、卵嚢が無くなってからの一番の変化と戸惑いはあれほど嫌だったドレスの動きも心地いい疼きへと変わっている事でした。
「牡丹…」
まるで卵嚢が抜けた事によって感じる空白感といいますか、一種の物足りなさを感じてしまっているのですが……私はあえて牡丹に声をかける事で他者を意識し誤魔化しながら目の前の問題に集中する事にしたのですが、どうしても肌が汗ばみ息が上がってしまいます。
「あっ…まって牡丹、動かないで!」
イビルストラ化している牡丹は右前垂れに投げナイフを、左前垂れに鋼の盾を持ち、それ以外の糸垂の部分でマンイーターの蔓を無数に持ってという、端から見ると蔓で出来たマントを羽織っているようにも見える様な状態なのですが、私の【ランジェリー】スキルが上がるとイビルストラの糸の部分が伸びたような気がしますし、牡丹の【鞭】スキルが伸びてくるとウネウネとよく蠢くようになっているのですが、ドレスの呪いを受けてビンビンになった乳首の先端を擦るように蔓や前垂れが動いているのでちょっと腰が引けてしまいました。
「ふぁ…ひっ」
それだけで足がカクカクと震えて軽く甘いきしてしまったのですが、壁に手を当てて何とかその刺激を受け流します。
そう言えば牡丹のレベルも上がっていたのですが、スキルは【鞭】と【筋力増強(微)】が2レベルずつ上がり、【ドレイン】と【大盾】と【鞄】と【投擲】が1レベルずつ上がり色々と強化されて刺激が強くなっているのかもしれませんし、S Pも余っているので何かしらのスキルに振っておかないといけないのですが、今はちょっとそれどころでないので脱出してから落ち着いて考える事にしましょう。
因みに【魔水晶】は私の周辺50センチの位置を旋回するように設定しており、とりあえず防御重視で相手の攻撃を弾いてもらうようにしているのですが、そうするとキョロリと水晶球の中のドラゴンのような生き物が頷いたような気がするのですが、この子にも意思というものがあるのでしょうか?
とにかく何とか呼吸を整えた私は改めて螺旋階段を上り始め、ほどなくして青白く光る糸が通路を塞いでいる所までやって来ました。
糸が輝いているというより薄い糸の膜の向こうの灯りが透けているという感じで、ここがきっと出口なのでしょう。
「すぅー…はぁー…」
その膜の向こうには大量の蜘蛛が行き来している気配がありますし、私は一度ゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ちつけます。
(ぷい!)
牡丹も「準備万端」というように前垂れを振り、私も『ベローズソード』を右手に持ち、気持ちが挫ける前に突撃する事にしました。
(流石に待ち構えられているよう…ですがっ!)
捕らえられていた繭の中から転がり落ちたのは張り巡らされた糸に知られていますし、この先で待ち伏せされている可能性が高いのですが、ゆっくりしていてもジリ貧になるだけですし、死中に活を求めるためにも私達は一気に糸を切り裂いて外に飛び出します。
(目指すは出口だけ!!)
斬り裂き乗り越えた先には青白い光が灯された灯篭が等間隔に並ぶ和風建築の中で、小さなドーム球場くらいの広さのあるという無駄に広い祭事場という感じの場所でした。
柱らしい柱は無く、床や壁は古びた板張りでアチコチ蜘蛛の糸が張り巡らされているという、どう考えても大規模PTが戦闘をする事を前提にしているフィールドですね。
私達が飛び出したのはそんな部屋の奥にある祭壇の裏にある隠し扉の中からで、RPGとかでよくあるボスが待ち構えている部屋の奥にある隠し通路から飛び出してきたという恰好です。
そしてそんな祭事場一面を埋め尽くしている大小さまざまな蜘蛛、蜘蛛、蜘蛛……開幕いきなり数十体から吹きかけられる糸はMAXレベルの【腰翼】とスカート翼を利用して一直線の急加速でやり過ごし、跳びかかって来た2体のフォレストスパイダーは『ベローズソード』で薙ぎ払います。
その隙に近づいてくるアイアンハンターは数度刃を当てるようにして蛇腹剣で薙ぎ払い、左第一脚と第二脚を斬り飛ばし行動不能にした後、攻撃の成否を確認しないまま一直線に出口に向けて私達は駆け抜けました。
因みに斬撃については2撃目から【剣舞】の効果が乗っているようなのですが、威力の増加が目に見えてわかるのは3初目や5発目という奇数回数の時であり、9発以上連続で当てるとアイアンハンターでも容赦なく切断できるようですね。
「ぷっ!」
「わかっています!」
身体はドレスにいたぶられ色々と酷い状態になっているのですが、戦闘が始まり快楽を受け入れるともう脳内物質がドバドバ出ているような爽快感に包まれ、人間状態から『レッサーリリム』になる時の感覚の広がりのその先に到達したような、認識能力が一段上がったような気がします。
分析すると快楽をキーとした強制ゾーン状態と言いますか、普通ならシステム的に補助されていても脳に負担がかかってしまう状態を脳内麻薬で一時的に誤魔化していると言いますか、リミッターが外れているような感じです。
「ふふふ…」
気持ちよくなれば気持ちよくなるほど感覚が研ぎ澄まされ能力が上がっていくような感じに笑ってしまったのですが、とにかく最初の糸の攻撃以降は断続的にフォレストスパイダーやダークスパイダーから糸が吹きかけられているのですが、そちらの対処は牡丹の蔓にお任せです。
ただ魅了の効果でヘイトを買いすぎているのか攻撃が止む気配はありませんし、体力の消費は激しいですし、試しに【魔水晶】に【媚毒粘液】を使わせフォレストスパイダーにぶつけてみたのですが「Gixi!!」と呻いて怒らせただけで効果もありませんでした。
ただ【媚毒粘液】を受けたフォレストスパイダーが他の蜘蛛に襲われてぐちゃぐちゃになっていきましたし、同士討ちか混乱の効果でもあるのでしょうか?
要検証だとは思うのですが、とにかく忍び寄って来ていたデス・サイズの巨大な鎌の一撃を屈みながら回避し、そのしゃがんだ姿勢から踏み込もうとしたところでいきなり足場にしていた板が吹き飛び、床下から糸が噴き出してきました。
(見えているのですよね)
スコンと足場が抜けたせいで普通なら踏ん張りがきかないのですが、私達はスカート翼の羽ばたきで強引に前進して後転するように受け身を取った後、押し寄せる蜘蛛達を牽制するように蛇腹剣を振りそのまま踊るように移動を続けます。
どこかスローモーションに見える世界の中、時々床下から噴き出す糸をホバリング気味に回避しながら半分振り返って追って来る蜘蛛達を横目で確認すると、今私達が出て来た祭壇の上にへばりついている6メートル近い巨大な一つ目のような繭の化け物と目が合いました。
「ッひぃ!?」
その瞬間、繭の化け物の瞳がジッ!と激しい音をたてて光ったかと思うとピンク色の光線が放たれ、防御に回していた【魔水晶】が魔力波を放ちある程度を相殺してくれたのですが、その一撃で【魔水晶】は砕け散ってしまい、相殺しきれなかった余波でピリピリと身体が痺れます。
(この繭がここのボスですか…)
その光線自体は見えていたのですが、部屋中に張り巡らされた糸から同種の光線が放たれ空間を埋められては回避しきる事ができません。
流石にその光線は連射はしてこないようで、私は祭事場の出入り口に向かって後退しながら建物と一体化したような繭のモンスターを確認するのですが……名前はコーンサキュドゥと言い、レベルは45となかなか高レベルですね。
これが本殿に潜んでいた物の正体であり森中に糸を張り巡らしている元凶なのだと思いますが、レベル帯を考えると第二エリア中盤から後半あたりにかけて戦うレベルのモンスターだと思います。
蜘蛛のレベルも地味に高いですし、もしかして攻略順番を間違えて高レベル帯に迷い込んでしまっているのでしょうか?
そんな事を考えながら光線の第二波に備えて2つ目の【魔水晶】を生み出しもう少しだけ観察するのですが、繭の化け物からは八本の太い糸が伸びてウネウネとしており、見ようによっては糸で出来た巨大な繭の蜘蛛という感じですね。
そしてコーンサキュドゥの体内には小さな繭がいくつもあるようで、その繭からは次から次へと新しい蜘蛛が生み出されており、私が倒す以上の蜘蛛が新しく生み出されて部屋の中を埋め尽くしていきました。
(ぷっい!)
(わかって、います…けど!)
蜘蛛達の猛攻や増援だけではなく、巨大な八本脚の糸による振り下ろしや薙ぎ払い、時折発射される光線を警戒して顔をあげていれば床下に張り巡らされた糸がいきなり突き上げてきてとなかなか忙しく、ここだけ弾幕ゲーになったような状態なのですが、私の勝利条件は彼らの殲滅ではないですし、どうやらコーンサキュドゥは祭壇の上に張り付いたまま動けないようですね。
倒すのは難しそうですが撤退するだけならなんとかなりそうといいますか、戦闘が始まって1分もたたないうちに部屋の中の蜘蛛が10倍以上にまで増えてという増殖力で火力まで備えていたらどうしようもない敵になるのですが、とにかく時折放たれる魔力光線を【魔水晶】で軽減しつつ、牽制するようにコーンサキュドゥに向けてナイフを投擲してみたのですが……オーラのような魔力の膜に守られているようでこの程度の攻撃では弾かれます。
【ルドラの火】ですら吸われて無効化される可能性が高いですし、MPが尽きて【魔水晶】が作れなくなったら光線に貫かれて終わりです。
それに今のところレッドネームではあるのですが、地下のレリーフを見る限りでは敵か味方かもわからないので、倒してしまっても良いのかわかりません。
そんな状態ですので、折角ボスを見つけたのですがとにかく今は脱出が優先と、追いすがる蜘蛛達の猛攻をいなしながらジリジリと開けっ放しの出入り口の方向に後退し、私達はMPが尽きる前にその場から逃げ出しました。
※逃げましょう → ボスを見つけました、倒せそうですか? → 無理そうですね、残念ですが諦めて逃げましょう。
※少しだけ修正しました(6/20)。




