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214:ベローズソード

「んぐっ!?」

 いきなり口の中に硬い物が突っ込まれたかと思うとトロリとした液体が流し込まれて、その息苦しさに(むせ)て吐き出してしまいました。


(な、なに…!?)

 いきなりの事で混乱したのですが、目を開けると目と鼻の先に心配顔の牡丹が居て「ぷーいぷーい」とMP回復ポーションを私の口の中に突っ込んでいました。


「あ、んフッ!りがとう…ゴホっ、ございます、で、ですが、飲ませる場合はもう少し少量ずつで、お願い、します」

 ゲホゴホと気管に入ったポーションを吐き出しながら、そういえば牡丹にMPを吸われて気絶してしまった事を思い出します。


(それより…)

 殆ど咽て零したので回復が足りずに頭がクラクラしたのですが、まずは周囲の安全を確認しなければと思って立ち上がろうとしたところで……糸によって左手が地面にくっ付いているのを忘れていて、ガクンと引っ張られるようにしてバランスを崩しました。


(ああ、もう)

 襲って来たダークスパイダーの死体は牡丹が回収したのですが、糸に関してはドロップアイテム感覚で残っているようですね。


 結構頑固にこびりついているのですが、それでも時間経過のせいか……それとも口から離れると強度が低下するのか、力を込めれば何とか剥がせそうな粘りになっていたので、何とかして左手を固定していた糸を振りほどきます。


 勿論そんな事をしている間にも『レナギリーの卵嚢(らんのう)』は疼くように胎動しており、お腹が少し張っているような気がするのですが……これはもしかして卵嚢が成長しているのでしょうか?


(何が…?ッ!?)

 上から撫でてみると下腹部の辺りにシコリのような物があり、確かめるようにコリコリした所を押してみた瞬間、下半身が溶けてしまったような感覚が押し寄せてきて、膝が震えてその場にへたり込んでしまいました。


(お腹の、中で…暴れ…ッ!?)

 押さえつけられた事を抗議するような卵嚢の動きは乱暴そのものなのですが、ネトネトした糸が快楽神経に直接張り付き弄り回すような苦しさに子宮が疼いて、身体が火照り、汗が滲みます。


 別の生き物が体の中で成長しているという恐怖に眩暈がして、吐き気がこみ上げてくるくらい苦しくて辛い筈なのに、卵嚢が激しく動くと納まりきらなかった『媚毒』が溢れてボトボトと零れ落ち、その度に終わらない射精感にも似た爽快感が駆け抜けていきバチバチと頭の奥で火花が散りました。


(は、はやく…脱出しないと…頭、が、おかしくぅ、んっ、んん…ッっ!!?)

 『翠皇竜のドレス』の耐性も『媚毒』には効果があまりないのか収まる様子はなく、塗りたくられたダークスパイダーの毒の影響で卵嚢の状態が悪化していくのがわかります。


 手前の所を弄られただけでこの有様で、もしあのままダークスパイダーに一番奥まで貫かれていたら今頃どうなっていたのかはわからなかったのですが、とにかく何とか精神力を総動員して途切れそうな意識を必死に繋ぎ止めました。


「ぷぃ~…」

 お腹を押さえて悶える私に対して牡丹が「これを」と毒消しの薬草を渡してきたのですが、分かっていた事ですが『媚毒』とは種類が違うのか効果はありません。


「循環せしひっ、いの……」

 せめて【ウォーター】の魔法で毒だけでも洗い流そうとしたのですが、魔法を使おうとすると卵嚢が邪魔をしてきて、暴発した水魔法で辺りがビチャビチャになりました。


「はっ…んっ…ぁっ、あぁ…」

 ヌルついた水のかかった場所は濃度の高い媚薬にでも侵されたように敏感になり、ドレスが擦れ、空気が触れただけでも軽く意識が飛びます。


 良いように『レナギリーの卵嚢』に弄ばれている気がするのですが、何とか卵嚢を宥めすかしながら下腹部を押さえて悶えていると徐々に外が騒がしくなってきて、血の気が引きました。


「ッ…!?」

 一瞬脱走が見つかったのかと青ざめてしまったのですが、どうやら蜘蛛達の意識はこちら側(内側)ではなく外側へと向かっているようで、小屋の中に蜘蛛が押し入って来るという事はありませんでした。


(もしかして)

 私は震える指で外部ネットに繋いでみると、どうやら南の森に入ったプレイヤーと蜘蛛達の間で接触があったみたいで『蜘蛛糸の森』から蜘蛛達の増援が出て、小規模ながら戦闘が起き始めているようですね。


(よかった、来てくれたのですね……後はこの隙をつく事が出来れば良いのですが)

 暫くその体勢で耐えていると、一通り私を苛めて満足したのか卵嚢の胎動も収まったようですし、私は呼吸を整えてからゆっくりと顔をあげました。


「ぷ~…」


「ありがとう、ございます」

 もう身体中酷い有様で震える足には力が入らないのですが、何とか立ち上がる事も出来ましたし、まずは装備を整えようと牡丹が持ってきてくれた剣を見てみたのですが……最初に目に入るのは所謂蛇腹剣(じゃばらけん)という伸び縮みする剣だったのですが、名前は『ベローズソード』と言い、レアリティが『Legend(レジェンド)』の武器で、品質『A』ですね。


 始めて『Legend』の武器を見た気がするのですが、それは硬質な白い鉱石に金色の装飾が施された1.4メートルくらいの長さの瀟洒なツーハンデッドソードで、調べてみると刃の部分は音晶石(おんしょうせき)という魔力に反応する特殊な鉱石を加工した物が使われているようで、よく見てみると互い違いに配置された三角形のパーツが集まり刃になっているようですね。


 そんな構造の為に横幅が通常の物より2倍ほど広く、パーツ同士を繋ぐ糸は私の魔力色(ピンク交じりの紫色)で淡く光る特別製の糸が使われていたのですが、これは『フォレストスパイダーの糸』のように魔力によって伸縮し、魔力を通していなければ粘度の高いお餅のような素材で、魔力を通すと鞭としての性質が強くなるようなのですが、詳細はわかりません。


 そんな造りだからか収納状態、つまり剣の形状だとパーツの隙間から魔力光が漏れてギザギザの模様が入っているように見えるのですが、それが不思議な質感の白い剣身と合わさりなかなか綺麗ですね。


 武器として考えるともともと私の身の丈近い大剣である事や、幅広の剣身である事、更に伸縮するギミックが組み込まれているので意外と重量があるのですが、私の種族特性(筋力:BかC)と筋力増強のスキルがあれば扱うのに支障は無く、むしろ魔力を一定量流すと刃を浮かしたり操作する事もできたりするようで、それを応用すれば刃を浮かして重量を軽減する事もできました。


 つまり重量のある状態で大剣として使う事も出来ますし、鞭として伸ばすと魔力の込められた鋭い刃で相手を切り裂く事も出来る軽い武器に早変わりするという色々と便利そうな物だったのですが、問題なのは私の【鞭】スキルのレベルが2と低く、5メートルくらいまで伸び縮みさせるのが限界だという事です。

 それだけ伸びたらまあ十分ではあるのですが、地味に【鞭】スキルが4ある牡丹のようにウネウネと動かせませんし、制約もまだまだ多そうです。


 他の欠点としては鞘が無い事と大きさがある事で持ち運びが不便な事なのですが、そこはまあ、牡丹を収納しておいてもらえばいいですね。


「ぷい!」

 そして自信満々に運搬を受けもってくれた牡丹が持って来た武器はそれだけではなく、私の鋼の剣や投げナイフ、後はカナエさんのクロスボウや槍もあったのですが、その中でこれは何なのでしょうという……ガンランス?みたいなギミックとトリガーのついた大型の槍がありました。


 どうやら色々と物色していたので戻るのが遅れたようなのですが、もしかしてこれは拉致イベント用の詫びアイテムというもので、ちゃんと周囲を探索したら自分のスキルや特性に応じた武器がありますよと言う感じなのでしょうか?


 その辺りはよくわからないのですが、ガンランスの方もレアリティは『Legend』で、トリガーを引く事でセットしたギミックを発動させられるようなのですが、【槍】スキルの無い私には発動させる事ができませんでした。


 とにかく武器データとして分かる範囲では一時的に魔力ブーストをかけて攻撃力を上げるギミックがつけられており、更に三つまでギミックを増設できそうな感じなのですが、その辺りはプレイヤーが自由に改造してくださいと言う感じですね。


 『ベローズソード』もそうですが、このレベル(『Legend』)の武器が蜘蛛達にやられて運ばれただけで手に入るというのも何か変な気がしますし、今まさに『蜘蛛糸の森』と『南の森』の境界線辺りでプレイヤーと蜘蛛達の戦いが始まっていますからね、その蜘蛛達にやられて運ばれただけでこのレベルの武器が手に入るとは思えません。


 もしかしたら白いアラクネに直接拉致されるのが条件になっているのかもしれませんが、まあその辺りの仕様を推測してもしかたがないですね。


 色々と気にはなりますが、これ以上のんびりしすぎて蜘蛛達に見つかっても何ですからと移動を考えていると、そんなタイミングでまふかさんから連絡が入りました。


『ねえ、ワールドアナウンス聞いたでしょ?これからペルギィか糸の森に行こうと思うんだけど、あんたも一緒にどう?』

 そんなお誘いの連絡だったのですが、発情しきっていた身体は脳に響くようなまふかさんのよく通る声を聞いただけで気持ちよくなってしまい、下腹部がキューっとなって幸せな気持ちが溢れてしまいそうでした。


『い、いえっ、今PT中で…ッ』

 そうなるとまた卵嚢が蠢き始めてどもってしまいましたし、今まさに『蜘蛛糸の森』に居るとまふかさんに言うと「またあんたは!」とか怒鳴られそうなのですが、嘘は言っていません。


 カナエさんが戻って来てないとはいえPTを組んでいる状態ですし……と思いPTウィンドウを確認してみると、気持ちが落ち着いたのか、それともPTメンバーをずっと放置して落ちている訳にもいかないという責任感か、カナエさんがログインしてきていたのですが……とにかく今はまふかさんの提案を断らないといけないですね。


『ふ~ん、そう』

 私の返事はお気に召さなかったのかまふかさんが不機嫌になるのがわかるのですが、卵嚢に揺さぶられながらだとその怒った口調ですらザラリと頭の中を弄られているように響き、それだけで涎が垂れてしまいました。


『すみま、せん……それよりっ、まふかさん…は動画の撮影中では?』

 確かクラウドファンディングやスパチャで集めたお金でセントラルライドの貴族街に豪邸を立てる企画や、その後はファンの人達と一緒に第二エリアを攻略するという動画をあげていたような気がします。


『ーーーよ…』

 まふかさんは消え入るような小さな声で、恥ずかしそうに何か言っているのですがよく聞こえません。


『えっ、と…?』


『だから、そっちは無くなったのよ!色々酷い目にあって解散したのッ!!それよりさっきから何!?妙に色っぽい声出したりして、こっそりオナっているんじゃないでしょうねっ!?あーもう!こっちまで変な気分になってくるからそういうのはやめなさいよね、変態っ!』


『へ、変態っ!?ち、違いますよ!?というより、変な気分に…ィ゙っ!?』

 ガーっとまふかさんに怒られて、卵嚢のデバフで【ポーカーフェイス】が崩れていた事に気づいて一気に恥ずかしさがこみあげてきて頬が羞恥に染まるのですが、いえそれよりとにかく、まふかさんはちゃんと説明してくれなかったので動画のコメント欄を遡って確認してみると、まあ色々と大変な事になっていたようで、多少編集やカット用に遅らせて配信していたので規約違反(エッチなコンテンツ)に引っかかる前に配信を終了させる事は出来たようなのですが、現場にいた人達にはバッチリ見られてしまいお祭り騒ぎだったみたいですね。


『本当…んっ、最悪だったんだからッ!ねえっ、聞いて、る!?』

 だからこその逆切れと(女性)へのお誘いだったのかもしれませんが、とにかくまた今度いつか穴埋めをする事を約束させられて、なんとかまふかさんは解放してくれました。

※卵嚢中に蜘蛛にやられると結構大きなデメリット付きです、頑張って逃げるか戦うかしましょう。


※そして新武器入手でやっと鋼の剣から卒業出来ました。取得条件はレアイベントである白いアラクネに遭遇して『レナギリーの卵嚢』を植え付けられた後に『蜘蛛糸の森』にやって来る事で、所謂酷いデバフに対する詫びアイテムです。

 本来なら個人個人で入手場所や条件があるのですが、ユリエルとカナエさんの場合はPTメンバーという事で一括りで置かれていました。


※因みにユリエルのスキルには【扇動】という声で味方にバフをかけるものがあり、実はまふかさんの方も色々と大変な状況になっていました。

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