210:白いアラクネ
大量の蜘蛛達を引き連れて現れたのは真っ白いアラクネで、その体高は2メートル足らずと他の蜘蛛と比べても大柄なのですが、1メートルちょっとの蜘蛛の下半身に80センチ程度の少女の上半身が乗っているだけなので、よく見ればあまり変わらない体格をしていますね。
そして蜘蛛の部分はフカフカしていそうな短めの白い体毛で覆われているのですが、足先や要所要所に葵色のツートンカラーが入れられており、何かキラキラとした神々しさまで感じてしまいそうな不思議な色合をしています。
そんな蜘蛛の体の上に乗っているのが太ももから上を再現した整った容姿の10歳くらいの少女で、その肌は病的に白いのですが痩せているという事は無く、むしろその胸はなかなか豊満で、着ているベアトップの白い振袖から零れ落ちそうになっているというなんともマニアックな恰好をしていました。
髪型は毛量の問題か重そうに見える白く長い姫カットをしており、どこかぼんやりとした淡く輝く紫の瞳と同じ色の小さなこぶが頭の上に6つ並んでおり、独立してキョロキョロと辺りを見回しているのですが、それより気になるのが彼女の周りを浮いている紫色をした12個の大きな水晶玉と無数の小さな水晶球で、そんな物が私達の動きを警戒するように音もなく浮いていました。
(退避は…)
時間経過で拘束が弱まらないかと私は手足を動かしてみるのですが、体に絡まる白い枷の強さは変わらず、相変わらず身動きはとれません。
一応イビルストラ化した牡丹にも拘束の輪がかかっているのですが、スライム形態になれば突破できるでしょうし、単独突撃させる事は出来ますが……流石にこれだけの蜘蛛に囲まれている状態では突破は無理でしょうし、スライムが一発二発いれただけで倒せる相手でもなさそうです。
(ぷい?)
(絶対にやめてくださいね)
そんな事を頭の中で考えていると、牡丹が「やってみようか?」と少しやる気になるのですが、こんな所で牡丹を喪う訳にもいかないので、絶対にスライム形態にはならないようにと厳命しておきます。
そんなふうに私達が【意思疎通】で相談している間にも、白いアラクネがまるで蜘蛛達の女王であるというような気品を感じさせる足取りで近づいて来ているのですが、その視線の先にいるのはカナエさんのようでした。
(ぷ~…?)
何故カナエさんの方を先に狙うのだろうと牡丹が首を傾げる気配があり、私もカナエさんがこの白いアラクネの気を引くような事をしているのかと横目で見てみると、その肝心のカナエさんはカタカタと震えながら強制ログアウトのカウントダウンが始まっていました。
あまり大きな声では言えませんが、カナエさんのズボンには大きなシミが出来ていて、地面にはホカホカとした水たまりが出来ているのですが、まあこんな大量の蜘蛛達に囲まれてというシチュエーションだけでもかなり怖いですし、あまり虫は得意ではないと言っていましたからね、仕方が無い事なのでしょう。
(そこまで再現しなくてもいいとは思いますが、それより…)
『失禁』なんてステータス異常をわざわざ作らなくても良いのにと運営に対する恨み言をいいたくなったのですが、そんな事よりもと私は近づいて来る白いアラクネを改めて観察してみます。
遠くから見ていると白いアラクネに乗っている少女の口は人間のものに見えたのですが、近くで見ると内側には鋏角のような一対の触肢があり、顔についている目も白目があるのでなんとなく人間と同じように見えるのですが、虹彩や瞳孔といった物がない濁った眼が薄く光っており、しっかりと人外でした。
そんな人外の瞳に見つめられるとカナエさんは小さく「ヒッ」と叫び声をあげてビクンビクンと身体を震わせているのですが、私としては妙にこの白いアラクネが無防備に近づいて来ている事が気になりました。
従者のように横に控えているアイアンゴーレムのような鋼色の蜘蛛もいますし、あのやたらと素早い黒い蜘蛛も遠巻きにこちらを窺ってきているのですが、拘束さえ何とかすれば手が届きそうな……とか考えていると、白いアラクネの周りをまわっていた水晶玉がスッと間に入って来るように動き、睨みをきかせます。
「っ…!?」
それは本当に文字通りのひと睨みで、水晶玉の内側から瞼を開くように巨大な目が現れたかと思うと、バチリと身体がはじけるレベルの衝撃がきて、先程受けたのとは比較にならないレベルの『拘束』が入ってその場に縫い留められました。
(魔眼もち…)
残りの11個も同様の事は出来るのでしょうし、それどころか本体の物を合わせれば14個、頭のコブが感覚器官だとすると合計20発の魔眼の一斉掃射が飛んでくる可能性があるのですが、こうなるともう対策が無ければどうしようもないですね。
「ドウホウ、ニ、アダナス、マヨイビ、トヨ」
そして手を伸ばせば届く距離までやって来た白いアラクネは他の蜘蛛と違って片言でなら喋れるようで、調子の取れていない少女の声が語った内容から推理してみると、たぶん同胞というのは蜘蛛達の事でしょうし、この白いアラクネは蜘蛛の討伐や諸々の条件によって現れるユニークモンスターと言う事でしょうか?
それとも討伐数によって引き起こされるイベントの一つが発生しているのかなと推測してみたのですが、それが合っているのかはわかりません。
とにかくカナエさんは近づいて来る白いアラクネに目を大きく見開き、ガタガタと震えて声も出ない様子だったのですが、ただその様子がおかしいといいますか、自分でもよくわかっていない状態に戸惑っているようで、もしかしたら私に飛んできた状態異常以外の何かに襲われているのかもしれません。
(助けてあげたいのはやまやまですが…)
私も『拘束』があってどうにもなりませんし、それを何とかして動けるようになったとしても、これだけの蜘蛛達に囲まれた状況ではどうしようもありませんね。
血路を開く事は出来るかもしれませんが、どうやらこの白いアラクネは周囲の蜘蛛達にバフを撒いているようで、今までより動きが機敏といいますか、何か強化されている感じがします。
まあ単純にアラクネの親衛隊だからレベルが一段高いだけ言う可能性はあるのですが、こんな状況で【看破】は使えませんし、確かめる術はないので大人しくしておきましょう。
そういう訳で私は事の推移を見守る事にしたのですが、白いアラクネが私達の傍までやってくると少し屈みこみ、カナエさんの両脇に手を刺し込んで『拘束』から無理矢理引き剥がすように持ち上げました。
「あ゙あ゙ぁ゙っ!!?」
魔力の動きから『拘束』を引き千切る時には多少強度を緩めたのが分かったのですが、それでも相応の痛みがあったのか、カナエさんは悲痛な声をあげて顔を歪めます。
フィールドでの切断と違って体や精神の失調による強制ログアウトは落ちるまで意識がありますし、徐々に冷静さを取り戻せばカウントダウンは止まりますからね、カナエさんは色々な状態異常が入りガタガタと震えながらも、その怪しげに光る白いアラクネの紫の瞳を見返していました。
そして白いアラクネは涎を……じゃなくて、どうやら口から垂れているのは糸のようですね。白濁した糸を口からポタポタと滴らせたかと思うと、その糸を口移しで飲ませようとカナエさんの口を塞ぎます。
「んーーっ、んっっ!!?」
まともに動けないカナエさんは流し込まれる糸に溺れる寸前で、白いアラクネの糸を吐き出そうとゲホゴホと暴れているのですが、少女の腕と蜘蛛の部分の触肢でギチギチに掴まれている状態では身を捩るのがやっとです。
それでも何とか吐き出し溢れてボタボタと垂れていくのですが、全部は吐き出す事は出来ず、何割かは飲み込んでしまっているのかみるみるうちにカナエさんの様子がおかしくなり、切羽詰まったような表情を浮かべながらもその身体から力が抜けました。
白いアラクネはくちゅくちゅと唾液を貪るように器用に動く鋏角によってカナエさんの口の中を弄び、溢れた糸すらも小さな水晶球を器用に動かして身体に擦り込んでいくのですが、服の中に入り込んだ水晶球が震える度にカナエさんは切なそうに身体を震わせます。
因みにカナエさんの服装は隙間の無いタクティカルジャケットにズボンという恰好で、野外活動で砂や砂利が入り込まないような作りになっていたのですが、そんな隙間の無い服の中にすら小さな水晶球がいくつも潜り込み、魔力を放ちながら微細に振動するとそれだけでカナエさんの身体が跳ねます。
「ッ…ん゙く…」
勿論隣にいる私はその間何事もなくという事は無く、小さな水晶球が纏わりついて来ているのですが、このヴヴヴと魔力を放つ水晶球の内部には硬い芯がありながら表面はゼリーのように柔らかく、そんなものが体のあちこちに纏わりついて震え始めると、その刺激に堪らなくなってしまいます。
ドレスの呪いで何倍にも敏感になった胸にも水晶球が纏わりつき、防御不可の魔法攻撃である魔力波と振動によって神経を直接責められ、スカートの中に潜り込んだ水晶球達が濡れて出入りのしやすい場所をちゅぽちゅぽと攻めながら中と外から魔力が放たれると、下腹部全体が一気に揺さぶられました。
(そっち、は…!?)
しかも質の悪い事に、この水晶球は後ろの穴にまで入ってこようとしているようで、何とか水晶球の侵入を阻止しようとお尻に力を入れるのですが、そんな私の抵抗を邪魔をするように前に入っている水晶球が震えます。
「くぅうっ…ん゙ッ、んん゙ッッ!!?」
皺の一つ一つを伸ばされるように擽られ、他の場所に気を取られている隙に少しずつこじ開けるように入って来ながら、水晶球は甘く震えます。
(こんなの絶対おか…なんで、なんでッ!??)
そんな状態で送られてくる魔力波に翻弄され、こんな事を知ってしまったら本当に帰ってこれなくなるような恐怖と、そんな所で感じてしまっている事への羞恥心によくわからなくなり、とうとう中に入り込んだ水晶球がクニュリと動くと、いけない期待感に背筋がゾクゾクとしました。
「や、やめ…それは、ほんとうっ、ひっ、イ゙イ゙イ゙っっ!?」
そうしてまんまと入り込んだ水晶球が前と後ろから防御不能の魔力振動を放つと、下半身が溶けてしまったのかと思うような衝撃に襲われ意識が飛びました。
「ひッく…ゔッッ!!?はっ、はーー…んぎイ゙い゙!!?」
勿論水晶球の攻めが一度で終わる事は無く、無数の水晶球がさらに群がって来るのですが、もうこうなってしまうと二個目の水晶球を阻む力はなく、中で擦れてぶつかり激しく震え、二乗三乗と増していく水晶球の責めに意識は何度も何度も飛びました。
「ーー、ーーー…」
水晶球の責めだけでこんなに強いのに、糸の毒まで受けているカナエさんは早々に意識が飛んだのかビクンビクンと与えられる刺激に反応するだけの人形となっていて、ボタボタと零れ落ちた白濁した糸が辺り一面を汚しています。
そうして完全にカナエさんを無力化した白いアラクネはやっと口を放し、続いて私に毒牙を伸ばそうとしてきたのですが……この時の私は意識が朦朧として完全に抵抗力を失っていて、その怪しく紫色に光る瞳に【精神対抗(微)】が反応したのですが、もう白いアネクラの糸を受け入れるしかありませんでした。
※大きな水晶玉は硬質で完全な円形をしていますが、小さな水晶球はちょっと水滴っぽいというか、フヨフヨした感じです。
※何故カナエさんの方を先に → 牡丹的には状態異常のかかりが悪く、無力化しきれているのかわからないこちら側が狙われると覚悟していたので、カナエさんの方が先に狙われた事に対して不思議に思いました。
因みに内部処理的には蜘蛛をどれだけ苛めていたかが反映されているので、実験を繰り返していたカナエさんの方が先に狙われたというのが真相です。




