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209:パニッシュメント

「はっ…ッ」

 デスサイズを貫き(に止めを刺し)着地した瞬間、堪えていた物が決壊し、ドッと汗が流れ、私は地面に両手をついて呼吸を整えました。


 遅れて衝撃を吸収しきれずに捻った手首がジンジンと痛みますし、自分の意志とは関係なく『翠皇竜のドレス』が消費した魔力を効率的に絞り出そうと蠢き始めます。


(駄目、刺激が…)

 絡みついた糸が胸を押しつぶし、むにゅんむにゅんと無遠慮に捏ね繰り回したかと思うと、硬くなった場所をいきなり捻り引っ張り上げられました。


 こんなに乱暴に扱われたらただただ痛いだけの筈なのに、ドレスの呪いのせいか全ての痛いが気持ち良いに変換されているようで、何度も脳の芯を貫くような刺激が全身を突き抜けて、頭がパチパチします。


 ドレスは私がやめて欲しいと思う動きばかりするようで、シコシコと扱き上げられると切なさが体の奥に溜まっていき、それらが一気に胸から吸い出されるようにして魔力が吸われていきました。


(駄目だめ、んく…ん゙…んん゙、こんなの…ッーー…ッッ!!?)

 その時の感覚は身体が裏返るような気持ちよさで、ポタポタと色んな物が零れていくようです。


「だ、大丈夫…?」


「はひ…大丈()です…」

 何とか【ポーカーフェイス】が働いているので喋れますが、流れる汗は止まりませんし、フラつく私の表情は酷くて(トロけていて)、何かあるのは明白です。


 こうしてカナエさんと話している間にもにちゅにちゅと下が擦られ、トロトロとした液体が溢れてドレスに吸われていくのですが、こんな恥ずかしい姿を見られているかと思うと物凄くドキドキしました。


「そ、そう…えっと…」

 カナエさんは魅了にかかったように私の痴態から目が離せないようで、ゴクリと唾を飲み込む音や、モジモジとこすり合わせるだけの刺激で身体が震えてしまっている事、火照った太股の奥からは湿り気のある汗以外の匂いがしてきて……誘っているのかと思いました。


(もしくは、襲われるかですが)

 今カナエさんに襲われたらそれはそれで良いかと思うくらいには頭がフワフワしていたのですが、カナエさんを壊してしまわないように、精神力を総動員してぐっと堪えましょう。


「なンとか、なりましたね…」

 まだ呂律がちゃんと回らなかったのですが、私はそんな事を言いながら出来るだけ平常を装って立ち上がると、牡丹が「ぷっ」と『HP回復ポーション』を差し出してきました。


「ぁりがとうございます」

 何か変な空気に流されて、手を出すか出されてしまうかという事になりかけていたのですが、とにかく私は渡されたポーションを開けて、痛んだ手首にかけながら辺りを見回します。


 流石に【ルドラの火】付きで投げたナイフは無くなっているのですが、最初に牽制として投げたナイフは落ちていたので、先に回収しておきましょう。


(少し、落ち着きましたが…)

 ちょっと人前で痴態を晒しすぎてしまったのですが、まあ今更変に意識してもおかしいですし、覚悟の上(一度襲われた後)だったので諦める事にしましょう。


 そしてたぶん色々な蜘蛛を倒したからだと思いますが、私はレベルアップしていて、これでレベルは25ですね。


「これが…情報にあった新種の蜘蛛かしら?」

 私が自分のステータス画面を確認していると、少し遅れてカナエさんも自分の(心臓)を押さえながら動き始めたのですが、自然と肩がぶつかるくらいまで距離に詰めてこようとしていました。


 この距離だとお互いの汗とか色々な匂いが気になってしまうのでもう少し離れたいところなのですが、カナエさんは戸惑っているような顔をしながらもどこか嬉しそうな顔をしていたりと、奇妙な百面相をしています。


「そうだと思います」

 続いて私はデスサイズに刺さっていた剣を抜きにかかると、ヌトリとした液体が剣に纏わりついて来る事に気がつきました。


(ああ、なるほど)

 デスサイズが糸を吐いてこないと思っていたのですが、どうやらこの表面のヌメリが糸だったようですね。


 剣を抜こうとすると張り付きネチョネチョしていて、【ルドラの火】で焼き切ろうとすると、私の魔力に反応して少し伸縮したような気がします。


 燃え尽きる前に例の黒い靄のような粒子に変わっていたのですが、この表面を覆っていた糸が欺瞞効果を発揮していたのでしょうか?


「カナエさん?」

 そして何故かこのタイミングで手を繋いで来たカナエさんに声をかけると、カナエさんはハッとした様子で慌てて離れました。


「そ、そうねェ、この蜘蛛も興味深いわ、ちょっと調べてもィい?」

 やっぱり魅了の効果が出ているのか、語尾が裏返りながらも焦ったようにデスサイズを調べ始めるカナエさんなのですが、小さく「このドキドキは魅了の結果、恋じゃない」と呪文のようにブツブツと繰り返しているのですが、感覚が強化(【高揚】バフ)されているので普通に聞こえるのですよね。


「どうぞ」

 私は何も聞かなかった事にして、何事もないように返事を返したのですが、カナエさんに触られた所が熱を持っているようにポカポカして、汗ばんでいた手の感触を思い出して何か切ない気持ちになりました。


 色々と敏感になった結果の変な気持ちなのだと思うのですが、カナエさんも似たような気持ちなのかデスサイズの横に座り込んだまま手を止めていて、そんな様子を見ながら牡丹が不機嫌そうに「ぷぃー」と尻上がりの声を上げているのですが、とにかく私は護衛として周囲を警戒する作業に戻ります。


(それにしても、いったいこの蜘蛛は何なのでしょうね)

 ワンダリングにしても強さが中途半端な気はするのですが、そもそも南の森の奥にはデスサイズが湧いているようなエリアかダンジョンがあるのでしょうか?


「……カナエさん、巻いておいて(クロスボウを)ください」

 そんな事を考えていると、急に森がザワついたような気がして、私はカナエさんに戦闘準備をしておくように声をかけました。


「え、何?どうしたの?」

 完全に上の空だったカナエさんは頬を紅潮させながら顔をあげたのですが、それからすぐに異変に気付いたのか「はて?」というような不思議そうな顔で首を傾げます。


「何か来ます」

 というよりいつの間にか辺りは葉擦れの音すら止まったように静まりかえっていたのですが、すぐにドドドドドッ!!と地鳴りのような音と振動が広がってきました。


「何なになにっ!?」


「ぷーぅい!」

 そんな地鳴りに怯えて私の腕に抱きついて来ようとするカナエさんと、それを阻止しようとする牡丹の間でやり取りがあるのですが、今は止めて欲しいですね。


「2人とも落ち着いてください!」

 こんな時に訳の分からない喧嘩をし始めた2人を叱りながら、私は森の奥からやって来る海嘯蝕洞(かいしょうしょくどう)で感じた事があるようなゾワリとした感覚に、即時撤退を決めました。


「牡丹、撤退しまっ…ッ!?」


「ぷ…ぅいっ!?」

 流石にこれは何か不味いと全力逃走に移ろうとスカートを広げ、牡丹にはイビルストラに変化してもらったのですが、私達がその場を離れるより早く、体高1メートルちょっとの黒い蜘蛛が私達の退路を塞ぐように駆け抜けて行ったかと思うと、バチリと奇妙な力場に捉えられるようにして私達の体が動かなくなりました。


(麻痺じゃない…拘束!?)

 ピリピリと肌が粟立つような感覚に耐えながらステータスを確認すると、そこには『拘束』のステータス異常が出ており、よく見てみると体のあちこちに白く光る輪の様なものが絡みついているのが見えました。


 いくら『翠皇竜のドレス』に状態異常耐性があるといっても、物理的に拘束されたら意味がありません。

 その後にも何度かバチンバチンと同種の攻撃を受けると、その度にステータス異常や能力低下の衝撃がやってきます。


「ッ…ぅ…」


(ぷ!?)


(いえ…)

 牡丹は何とかイビルストラ化するのが間にあい私の腰の辺りに巻き付いているのですが、動けないのなら迎撃した方が良いかと問われ、私はリスポーンする事も想定してイビルストラ(所持品)のままでいてもらう事にしました。


「ぐっんん…ひゃひほへ!?」

 私達の状況はそんな感じだったのですが、カナエさんの方はもっと厄介な事になっているようで、何か色々な状態異常が入ってまともに喋れなくなっていたのですが、最低限の対策は出来ているのか即死するような事はなさそうですね。

 状態異常におかされながらも、何とかタクティカルジャケットのポケットから小指サイズの薬瓶を取り出し、その蓋を取ろうと四苦八苦していました。


 その顔には「すぐに使えるようにしておくんだった!?」みたいな悲壮感があったのですが、失礼ながら少し笑ってしまって、肩の力が抜けたような気がします。


 そんな事をしている間にも黒い蜘蛛の数は増え、退路が塞がれ、身動きが取れなくなった私達に向かって押し寄せてくるのは蜘蛛蜘蛛蜘蛛蜘蛛と、視界を埋め尽くすような大量の蜘蛛の群れです。


 何かもうそれだけで気持ち悪い恐怖の映像なですが、そんな大軍を先導するように走って来る黒い影はデスサイズで、それに続くのがフォレストスパイダーで、少し遅れて八本足のアイアンゴーレムといった見た目の鋼色の蜘蛛がカシカシとやって来ます。


 新種の蜘蛛に対して【看破】を使えば名前くらいはわかったかもしれませんが、流石にこの数の蜘蛛にスキル反応(看破に反応して攻撃)されたら轢き殺されるだけですからね、状態異常に耐えながら大人しく蜘蛛の大群の動きを見守りましょう。


(どうなるかですが)

 わざわざ足止めなんて回りくどい事をするという事は何かのイベントなのだと思いますが、どうなるのかはさっぱり見当がつきません。


 そんな事を考えている間に身動きの取れない私達は大量の蜘蛛達に囲まれてしまったのですが、恭しく道が開かれたかと思うと、その蜘蛛達が開けた道を通って上半身は少女で下は蜘蛛という和装の美しい白いアラクネが現れました。

※蜘蛛の女王より報復を受けるイベント。発生条件は南の森で一定数の蜘蛛を惨たらしく殺す事で、この必要討伐数は全プレイヤーの討伐数や倒し方によって変動します。


※カナエさんが取り出していたのは状態異常を治す飲み薬で、効果は『毒』『麻痺』『弱体化』の治療です。

 ただカナエさんの場合は実戦経験が余りにも不足しすぎていて「中身が零れないように、蓋は固く締めておいた方が良いでしょう」とか、咄嗟に使う事まで頭が回っていませんでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これ男とか女とか関係なく すっごくトラウマになるよね 蜘蛛まみれ [一言] ゲームはリアルすぎるとアレだなァ
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