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207:糸と蔓と黒い蜘蛛

「もう少し上手く行くと思ったのに、なかなか難しいものね」

 結局カナエさんのクロスボウは二発ともカス当たりという散々の初陣を飾ったのですが、私も初めてB L O(FPSゲーム)をプレイした時はまともに当てられるようになるまでに時間がかかりましたし、まああんなものだと思います。


「最初はそういうものだと思いますよ」

 カナエさん的には二回とも外した事は恥ずかしかったのか、顔を赤くしながら装填していないクロスボウを構えてみせるのですが、すぐさま問題点の洗い出しを行ったりクロスボウの微調整を開始ししようとするところは如何にも生産職の方らしいですね。


「そ、そう?」


「ええ、むしろあれだけ小さな動く的によく当てられたなと感心していました」

 これだけ木々の生い茂る森の中で、一抱えあるような大型のクロスボウでピョンピョンと跳ねる兎を狙って当てるというのはなかなか難しい事だと思います。


 まあ木に巻き付き蠢いているだけのマンイーターを外したのは少し問題ですが、ウネウネと動く蔦のせいで核となる花の部分が狙いづらいですし、植物系のモンスターはしっかりと中心部を捉えないと致命傷になりづらいですからね、あんなものでしょう。


 ただ細かな事を言うと、トリガーを引く時に指が震える事や、狙いすぎて無意識にクロスボウがモンスターを追ってしまう点は改善するべきだとは思いますが、その辺りを偉そうに指摘するのは野暮なのかどうなのか悩みますね。


 まあカナエさんは自分でトコトコん納得がいくまで理論を煮詰めていくタイプのようですし、改めて聞かれるまでは横からあーだこうだと言わずに見守る事にして、私は早速仕留めたフラワーラビットやマンイーターを折り畳める程度にまで解体し、牡丹の中に収納する作業を開始します。


「あ、ありがとう…」

 褒められるとは思っていなかったカナエさんが照れたように視線を逸らしたのですが、まあ実は私としてはドレスにくちゅくちゅされながらの作業だったので、それどころではなかったのですよね。


 戦闘に集中していれば多少はマシなのですが、自己主張を始めた擦れて剥かれてジンジンと甘痒い敏感な部位は痛いくらいに大きくなっていて、風がそよいだだけで腰砕けになりそうなのですが、何とか顔には出ないようにして【ポーカーフェイス】で誤魔化します。


 それでもいつポタポタと滴る汗や汗以外の液体に気づかれないかと物凄くドキドキしましたし、そんな状態でしゃがんで解体作業をすると乱暴に乳首が引かれ、股の間に食い込んだトロトロに湿った糸が私を弄ぶようにグニグニと動き、その度に作業する手が止まりました。


「ねえ……」

 一瞬頭の中が真っ白になり、その余韻をやりすごしていた私はカナエさんの言葉に対して不自然な間を開けてしまったのですが、そんな様子を見ていたカナエさんがどこか恥ずかしそうに顔を赤く染めながら、言いづらそうに口ごもります。


「っ…はい?」

 そんな様子に私は内心ビクついてしまったのですが、努めて何でもないという様子で牡丹の口の中にフラワーラビットをグイグイと詰め込み続けながら、私は聞き返しました。


「ああ、えっと…角とか尻尾が生えているのね、そういえば貴女って人外種だったっけ?」

 カナエさんは話を逸らすように私がレッサーリリム化している事について言及してきたのですが、戦闘中にレッサーリリム化したのでそういう事を気にしている余裕がなかったみたいですね。


「ええ…今はセントラルキャンプで不審者の話もありますし、それに…んひっ!?」


「ぷっ!?」

 「色々と問題(魅了の効果)がありますので」と言おうとしたところで、しゃがみ込んで解体していた私の角をカナエさんがいきなり掴み、変な声がでました。


「へー、こんな手触りなのね…」


「ま…まってください…そこはっ!?」

 カナエさんは知的好奇心で私の角を触っているだけなのかもしれませんが、ゾリゾリと敏感な部分()を触られると、エッチな所を直接触られるよりキツイといいますか、脳髄が蕩けるような脳内麻薬がドバドバと出ている感じがして、ドレスの下が大変な事になっていくのがわかります。


「んっ…ッー……カナエ、さん?」

 そのままぎこちない手捌きで扱き上げられて意識が一瞬飛んだのですが、そんな私を見るカナエさんの目がギラギラしていき呼吸が荒くなっていくのですが……カナエさんの魅了耐性ってどれくらいなのでしょう?


「ごめんなさい、自分でもよくわからないんだけど、何か手が止まらなくて…」


「まってください、それは本当にっ…まず、ぃッ!?」

 「やめられないの」という感じで角を扱き上げ続けるカナエさんは、何かもう猫にまたたびでもやったのかという様に夢中になり、私の声は届きません。


「はひっ!?」

 私は何とかカナエさんの魔の手から逃れようとしゃがんだまま後ずさろうとしたのですが、それで角にかかるカナエさんの指が新しいベクトルの刺激を生んでしまい、よろめいてしまいました。


「コリコリが、うふふ…」


「だ、だめ……本当にッ」

 覆いかぶさるようにマウントポジションをとったカナエさんの仄かな温かみや、戦闘後の汗や木の削りカスと油の匂いが混じったような香りに、頭がクラクラします。


 ただでさえドレスに弄られ昂った身体はどこを触れられても全てが気持ち良いというのに、もう撫でる事しか考えていないようなカナエさんは私の角をしっかりと掴んで離さず、コリコリと扱き上げられるたびに私の身体が跳ねました。


「あっ…ッ…はー…はー…」

 戦闘職と生産職で力の差は圧倒的なのですが、呼吸すらままならず、頭が回りません。


 擦りつけてくるカナエさんの腰とピクピクと昂っていく身体、顔を真っ赤にして太股をモジモジとさせながらとうとうその手が私の胸に伸びて来たのですが……そのタイミングでフラワーラビットをモグモグし終えた牡丹が参戦し、「ぷいっ!」と横から体当たりを入れてカナエさんを吹き飛ばしました。


「っ~~~……」

 無防備なところに一撃を受けてズザーと受け身も取らずに1メートル程吹き飛ばされたカナエさんは、うつ伏せのままブルりと身体を振るわせたかと思うとビクンビクンと短く身体が跳ね、それから余韻を感じるような脱力した間をおいて……ログアウト開始のカウントが始まります。


「え、ちょ、ちょっと、カナエさん!?」

 体当たりが良い感じに入ってしまい最後の堤防が決壊したのか、色々と堪えきれなかったカナエさんはもう穴が入ったら入りたいという様子でログアウトを開始したのですが、セントラルキャンプに近いといってもこの辺りはフィールド側ですからね、ログアウトするまでに時間が必要です。


「ーーーーーぃぃ?」

 ほっておけばモンスターに襲撃を受けるのは確実ですし、カナエさんは恥ずかしさのあまり半泣きになり、顔を真っ赤にしながらもログアウト(ゲームからの逃亡)する事は諦めたようで、視線をキョドらせながら蚊の鳴くような声でポツリと呟きました。


「え、はい?」

 よく聞こえなかったので私はく了承と疑問(「はい」と「はい?」)を同時に声に出しながら首を傾げたのですが、カナエさんは小さな声でもう一度同じ言葉を繰り返します。


「一度、戻っていい?」


「あ、はい」

 こうして出鼻が挫かれた私達は一旦セントラルキャンプに戻る事になり、正直これで南の森の調査もお開きになると思ったのですが、カナエさんは私に【魅了】がある事を知ると、別の意味でおもいっきり顔を真っ赤にして叫びました。


「魅了があるならあるって最初に言ってよ!!」


「…すみません」

 PTを組むからと言って全てのスキルを開示する必要性はまったくないのですが、まったくもってその通りだと私は素直に謝罪します。


「本当に、なんで……あーもうっ!」

 途中で放り出す方がモヤモヤするのか、それとも初志貫徹の意地(決めた事は守る)なのか、カナエさんはかなり長い間葛藤した末に、先程の暴挙はブレイクヒーローズではよくある?事故だと思い込む事にしたようで、精神対抗系のスキルを取得してから調査を続行する事になりました。


 それでも最初の内は色々と気まずくて、カナエさんが顔を赤くして時々チラチラと私の顔を見てきたり、汗以外の何かを吸ったカナエさんのインナーとズボンが変わっているという事にはお互い触れないようにしたりしながら、蜘蛛の糸と蔓についての調査を続けます。


「次はどうすればいいのですか?」

 そうして調査を始めるとカナエさんも調子を取り戻してきたのか、私達の間にもポツリポリと会話らしきものが生まれてきました。


「あー…じゃあ次は何匹か生きているフォレストスパイダーを確保できない?個体差による糸の強さを調べてみたいから」


「わかりました」


「ぷ」

 そうして私達はカナエさんの算定したルートを移動しながら、『レッサーリリム』の効果で寄って来たフォレストスパイダーやマンイーターをカナエさんが調べられる状態にする作業に入るのですが、それ自体はまあ何とかですね。


 人間形態ならちょっと難しいですが、レッサーリリム化していれば【腰翼】を使って森の中を立体的に動けますし、糸に気を付けて全ての足を切り離せば無力化していけます。


「こういう生体工学もたまには面白いものね」


「そうなのですか?」

 カナエさんはあまり虫とかは得意ではないとの事でしたが、ゲームの中のモンスターはモンスターと割り切っているようで、それはそれで調べてみるのは面白いとの事でした。


「ええ、特にこの辺りの魔力反応による刺激を電気的な刺激に変換した場合に何か応用できる事は無いかとか推察してみるのだけど…」

 カナエさんが嬉々としてフォレストスパイダーやマンイーターを解体していった結果、生きているフォレストスパイダーの糸と死んだ後にドロップ品として残っているフォレストスパイダーの糸、生きているマンイーターと死んだマンイータの蔓にはそれぞれ魔力が通っているか通っていないかの違いがある事がわかって来ました。


 そうして『フォレストスパイダーの糸』とか『マンイーターの蔓』といったアイテム名で一括りで纏められてはいるのですが、魔力の流れやすさや効果などは内部処理的に結構細く分かれているようで、実験に使った部分が先端か根本かといった場所の違いによってもその効果が変わっていくのだそうです。


 その辺りは本当に色々と違いがあるようで、カナエさんが言うにはまだまだ検証が必要だという事なのですが、とにかくこの辺りで一番採れるフォレストスパイダーと共生しているタイプのマンイーターの蔓には蜘蛛の糸を弾く効果があるものが多く、魔石か何かで魔力を流してあげれば似たような効果の魔力付与品が作れそうだという事でした。


「効果は『微』から『小』、上手くいって『中』くらいかしら?あまり効果はなさそうだけど、防具に対するアプローチとしては汎用性が高い(繊維系として使える)し、蜘蛛の糸との組み合わせて考えると色々と面白い物が出来そうね」

 そうカナエさんは評価していたのですが、むしろこれらの素材の真価は武器へ転用した時で、この糸を弾く蔓の反発力を利用すれば弓系の武器を強化できるかもしれないとの事でした。


「上手く行けば遠距離武器に対して何かしらのブレイクスルーが起きるかもしれないわ、これは凄い事よ!」

 今までの弓矢は矢の改良をする事で威力を高めるしかなかったのですが、この蔓や糸を使えば弓本体の改良も可能になり、上手く行けば魔力付与の遠距離武器が作れるかもしれないとの事でした。


「よかったですね」


「ま、まあこれから研究が必要なんだけど…」

 「まだまだこれから」とカナエさんは照れたように謙遜するのですが、今回の南の森の調査が無駄足にならなくなりそうで良かったです。


 そうして調査も一段落して、私達が少し気を緩めた瞬間、いきなりゾワリとした感触に肌が粟立ち、咄嗟に(勘で)鋼の剣で首元をガードしました。


「ぐっ…」

 その瞬間ガツンとぶつかって来た黒い影と、重く鋭い感触。


 吹き飛ばされた私は【腰翼】を使って何とか受け身を取りながら、耐久度が大幅に減った鋼の剣と投げナイフを構えるのですが、その視線の先にはキチキチと巨大な鎌のような腕を持つ黒い蜘蛛が、静かに佇んでいました。

※きっちりとフラグを回収して、ワンダリングと遭遇していくユリエル達。


※ユリエルが魅了の事を黙っているのは、何でそんなスキルを取っているの?って言われたら困るからとか諸々で、あと自分から「私って魅了あるんですよね」とかいうのも、何か自慢とか変な意味で取られるかもしれないと思ってあまり言いふらしたりはしていません。


※黒い蜘蛛の手が「鋏」から「鎌」になりました(5/20)。

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