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21:アルバボッシュとブレイカーズギルド

 遠くから見れば地を這うような高さに見えた町を囲む壁も、近くで見れば見上げるような高さがありました。大型バスが2台同時に通れるような大きな門の横には門兵が6名立っており、簡単なチェックをおこなっているようですね。

 大半の人は銀色のカードを見せるだけで通過していくので、順番待ちというのもありません。きっとあれ(銀色のカード)がギルドカードなのでしょう。


 とにかく、私は一度深呼吸をして、帽子を被りなおし、翼が収納されている事を確認してから、その流れに乗りました。


「そこのピンク髪、止まれ……そ、それは?」

 まあ私の場合は止められますよね。指摘されたのは手に持っている金角兎の事でしょう。かなり驚いた様子で、隣に立つ別の門兵の人と顔を見合わせています。


「襲われたので狩ってきました」


「そ、そうか……言うほど気軽に狩れる奴ではない筈なんだが…」

 それ以外に説明がし辛かったので端的に説明したのですが、逆に困惑させてしまったようですね。

 門兵は私の頭から足先まで眺めた後、最後に手に持っている金角兎を見ています。


「そいつが狩れるという事は……もしかしてブレイカーか?」


「はい」


「ではギルドカードを提示してもらおう」

 と、来ましたね。ですがそう言われても、そのギルドカードを手に入れるために入ろうとしているのですから、提示なんてできません。


「ギルドカードを手に入れるために来ましたので、生憎、今は持っていません」

 正直に言うと、門兵達は顔を見合わせた後、近くにある小さな詰所を顎で示します。


「ではすまないが、こちらで必要書類を記入してもらおう。町を出る時にはギルドカードの提示をしてもらう事になるが、いいか?万が一ブレイカーの名をかたる不届き者の場合、牢屋に入ってもらうぞ?」


「かまいません。出る時の手続きもここですればいいのですか?」

 もし通過が難しいようなら、はぐれの里まで行って“紹介状”を貰ってくる事まで考えていましたが、なんとかなりそうですね。持ち物を調べられる事もありませんでしたし、意外と緩い検問です。


「ここでもいいが、アルバボッシュには4つの門がある、そのどれでも問題ない。何、そう緊張するな、お前が嘘を言っていなければ何の問題もないさ」

 連れていかれた詰め所で書かされたのは誓約書のような物で、簡単にまとめると『私はブレイカーである事を証明します』といった物ですね。手順化されているというか、手抜きというか、簡単に通してくれますね。


「本当にこれだけで良いのですか?」

 聞かなくてもいいのですが、ここまで警戒していたのにあっさりと通過できてしまう事に対して、そんな質問をしてしまいました。


「ああ、今年はブレイカーの召喚が多いらしいからな、そういうお触れが出ているんだ。それにそもそも、ゴールドホーンラビットなんて、精霊の加護でもなければ倒せないだろ?」

 という理由らしいです。まあ本当に「怪しい奴め!こっちに来い!」なんてやられたらゲームとして成り立つかわかりませんし、かなり緩い設定になっているのでしょう。それか、一定のモンスターを狩れる実力を見せる事が“証明書”代わりになるという裏設定があるのかもしれません。

 それにどうやら住人達から見たブレイカーは“何か奇抜な恰好”をしている人物という認識もあるようで、魔物的な特徴を消しておけば納得してくれるようです。腰翼も展開したままだと見咎められるのでしょうが、収納していれば変な装備を付けているなくらいですましてくれているような節があります。


 私は出された誓約書に自分の名前である『ユリエル』と書くと、それで手続きが完了しました。


「ブレイカーズギルドはこの通りをまっすぐに行った噴水広場の横だ。大きな看板が出ているから見落とす事もないだろう」


「ありがとうございます、早速行ってみます」

 手続きをしてくれた門兵さんに頭を下げて、私は町の中に足を踏み入れました。


 精霊樹の影響なのか、町の中は少し空気が違いますね。巨大な精霊樹の枝葉が伸び、空が緑で覆われているのですが、宙を舞う光や、日中でも淡く輝く街灯のお陰で薄暗いという印象は受けません。


 町の中心には精霊樹があり、その周囲に公共施設や商業施設などが集中しているようですね。町の形は根に沿って建物が広がっているため完璧な円形ではなく、全体としては少し歪な形をしており、道もまっすぐには通っていませんが、とりあえず中央に向かえば一通りの店があるという感じです。


 巨大な根が建物を貫いていたり、あちこち不自然な坂になっていたりと、町の構造はかなり立体的です。その間を縫うように、丁寧に敷き詰められた石畳が広がり、石材と木材の四角い家が立体的に組み合わさったという複雑な街並みを作り出していました。


 とりあえず門兵さんに言われた方向に歩いていくと、精霊樹から湧き出る水で作られた、噴水広場がありました。その横に『ブレイカーズギルド』という大きな看板が出ている建物がありました。初心者装備から少し装備を買い揃えた感じの人まで、色々なプレイヤーが出入りしており、どうやらそこが私の目的地のようですね。やっと到着しました。工房から考えて2時間ちょっと、これは確かに移動が大変かもしれません。そんな事を考えながらこめかみに手をあてていると、噴水広場前にいるプレイヤーが消えていっている事に気づきます。


(何でしょう?)

 そう思いながら近づいてみると、アナウンスが入りました。


『アルバボッシュのポータルを開放しました。リスポーン地点の再設定を行いますか?<YES><NO>』

 どうやらギルド前の噴水広場がリスポーン地点になっているようですね。私は<YES>を選択してから、試しにポータルを開いてみます。

 選択できるのは『プルジャの工房』だけですね。どうやら人外スタートの正式名称はそういう名前だったみたいです。一つ謎が解けたような、どうでもいいような、ちょっと奇妙な納得感みたいなものを感じたのですが、それ以上に周囲の視線が気になりますね。


 盗み見るようにしてヒソヒソと囁いている周囲のプレイヤーの視線は、どうやら私の持っている金角兎に注がれているようです。ほかのプレイヤーの方々も、【解体】を持たない人はそのまま手に持っていたりするのですが、金角兎は大きさ(3倍)もあり、目立つのでしょう。カメラ(録画AI)を出している人もちらほら見えますし、面倒ごとが起きる前に、ブレイカーズギルドの中に入ってしまいましょう。


 アルバボッシュのブレイカーズギルドは赤いレンガを積み上げたような2階建ての建物で、『精霊樹をバックにした人々を守る剣と盾』という、ブレイカーズギルドのエンブレムが入った大きな旗が飾られている以外は、特に飾り気のないシンプルな作りでした。このシンプルさがいかにも公共施設といった感じです。縦より横に広い建物はアルバボッシュの中でもかなりの面積を占めているようで、この世界におけるブレイカーの役割の強さを感じます。


 開け放たれた扉をくぐると、一斉に視線を感じました。お決まりのアレ(新人観察)ですね。一瞬確認するといった視線が大半なのですが、中にはやはりガラの悪い人も混じっています。私の体を嘗め回すように見つめて、ニタニタしている人がいますね。

 何人かが「動画の」とか呟いており、さっそく誰かが撮った映像が流出しているのかもしれません。そういう人達は話しかけたそうにしていたのですが、まずは自分の用事を済まさせてもらいましょう。


 カウンターは3つあり、左手にはクエストが張り出されたボードの並ぶ受注カウンター。真ん中が総合受付で、ギルド案内、有料でのスキル訓練、銀行業務などが行われているようです。右側が買取や販売を行うカウンターのようで、解体の委託なども出来るようですね。


 私の向かうのは総合受付です。まずはギルドカードを発行してもらいましょう。


 新人ブレイカーに対するお触れが出ている影響か、臨時の机が出され、職員が増員されているようですね。一つのカウンターに大体10人くらいのギルド職員が詰めており、殆ど待たされる事無く案内されました。


「ようこそいらっしゃいました。アルバボッシュ、ブレイカーズギルドです。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 受付の女性はチラリと私の手に持つ金角兎を見て、一瞬だけ買取カウンターの方を見たのですが、ニコリと営業スマイルで内容を確認してきました。


「ギルドカードの発行をお願いします」


「新規のブレイカーさんでしたか、それは……少々お待ちください」

 納得の表情を浮かべ、受付の女性はカウンターの下から水晶で作られたような板と、一つ穴の空いた銀色のカードを取り出します。


「では失礼ですが、確認を行いますので、こちらの石板にお手をおのせください」


「これは?」

 よくある登録なのかもしれませんが、つい気になったので聞いてしまいました。


「こちらは精霊の加護の有無を調べる石板であり、加護を受けた人間が触れた場合、輝く仕組みとなっております。その時読み取った情報をギルドカードに登録し、本人の証明書となります」


「なるほど、そうなのですね」

 何度も説明した事のある内容なのでしょう、流れるような説明に頷いてから、私は石板に手を乗せました。

 少し冷たく、磨き上げられた硬質な感触。手を乗せてから数秒後、うっすらと七色に輝き始める石板に、私は目を細めます。

 暫くするとその光がゆっくりと集まり始め、ギルドカードに流れ込みました。これが情報の受け渡しなのでしょう。光が移ると、銀色一色だったカードに、薄い透かし彫りのような形で、ギルドエンブレムやランク、私の名前が記載されていました。


「はい、完了です。ようこそいらっしゃいました、可愛らしいブレイカーさん」

 受付の女性の言葉と共に、クエスト達成の効果音が鳴りました。

※やっとアルバボッシュに到着しました。これから装備やスキルを整えた後活動を開始するのですが、一度他の人の反応みたいな掲示板回でも挟もうかと思います。


※誤字報告ありがとうございます(10/16)訂正しました。

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