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206:カナエさんとクロスボウ

 そうしてカナエさんとやって来た南の森の中、得体の知れない気配の漂う大樹の森を見上げると木の上にはマンイーター(植物の魔物)が一体蠢いていますし、近くの茂みからは甘い香りと共にフラワーラビット(花のついた兎)が一匹顔を出していて、こちらを警戒するような目で見てきていました。


「カナエさん」

 私はキャンプ地を出て早々現れたモンスターの情報を共有するためにPTメンバーに声をかけながら剣を抜き(牡丹から渡してもらい)、そのまま鋼の盾を背負った牡丹がポヨンと跳ねてパヴィース(弓兵前の盾)よろしくカナエさんの前に入りました。


「フラワーラビットね、じゃあ早速お願い…って言いたいんだけど、色々と試したいからちょっと待ってて」

 護衛としては他のモンスターが集まってくる前にさっさと倒すべきなのですが、カナエさんが持って来ているクロスボウは実は一つだけではなく、事前のミーティングでは余裕があるうちに色々と試したいとの事だったのでお任せする事にしましょう。


「分かりました、牡丹」

 私もカナエさんがどれだけ戦えるか実際に見たかったですし、まずはお手並み拝見と牡丹に改めて防御指示を飛ばします。


「ぷ!」

 前回の牡丹をイビルストラにしていたのですが、今回はカナエさんの護衛がお仕事ですからね、牡丹にも遊撃できるポジションにいてもらおうとこのまま(スライム形態で)の参戦です。


 そうして私も装填に入ったカナエさんをカバーできる位置についたのですが、カナエさんがまず取り出したのは腰に下げていた一番威力がある滑車付きの大型クロスボウで、装填時間はだいたい三十秒から四十秒、半固定式(脱落防止機能付き)クレインクイン(手回し式ハンドル)でリロードするラック(歯竿)・アンド・ピニオン(歯車)方式の物ですね。


 カナエさんがもう少しクロスボウに習熟すれば装填速度が速くなり運用や取り回しが良くなりそうなのですが、とにかく想定しているのは対魔物用の一撃必殺といった物で、乱戦になる前に装填時間が一番かかる物から試したいとの事でした。


 こういう点で意外とカナエさんは火力主義と言いますか、一撃でモンスターを貫かないといけないと思っている節があるのですが、実際に戦った感想は意外と脆いと言いますか、内部処理的な(出血や欠損判定)ダメージが馬鹿にならないので、私としては取り回しが楽な物で一発入れれば良い気がするのですが……まあどうなるかという実験でもあるのでしょう。


 因みに持って来た別のクロスボウというのはコッキング紐を利用したコンパウンドクロスボウと、連射性だけを考えた連弩の二つですね。

 コンパウンドクロスボウの方は扱い易くバランスの良さを追求した物で、連弩に関してはもうお遊びに近い威力しかない(鎧すら貫けない)ようで、とりあえず作ってみたという牽制用の物だそうです。


(さて…)

 カナエさんがクロスボウの装填作業に集中している間に私達はモンスターの様子を窺うのですが、マンイーターは蔦をこちらに伸ばしてウゾウゾしているものの、私達が途中で進むのを止めたせいで射程が足らずに蠢いているだけになっていますし、フラワーラビットは頭を揺するようにして花の匂いを広げて他のモンスターを呼びにかかっているところでした。


 この様子では今すぐモンスターが襲ってくるという感じではないので、今のうちに私も『レッサーリリム』を【展開】して戦闘準備を整えようとしたのですが……『翠皇竜のドレス』になってから人前で変身するのは初めてですからね、凄くドキドキします。


「【展開】…ッ…」

 それでも精神を集中してから私がレッサーリリム化すると、動きを止めていたドレスが息を吹き返し、キュッと引き締まるような感じで蠢きました。


(大、丈夫…ん…)

 敏感な場所が繊維の束の中にズブズブと埋もれていくような感触とドレスとの接続感、魔力(身体)が吸われていくような感覚に力が抜けていくのですが、反比例するように広がる奇妙な幸福感に身体がポカポカと火照り震えます。


「ん…」

 色々な対策用のスキルを取っていますし、覚悟も決めていたので私はドレスからの第一波を何とかやり過ごしたのですが、もっと魔力を寄こせというように『翠皇竜のドレス』が私の胸を揉みしだき、その動きに合わせて股の間に食い込んだIラインが擦れました。


(そんなに、一気に魔力が吸われたら…ッ!!?)

 皮の間に入り込んだ細かな繊維が蕾の根元をシコシコと扱きあげ、その一本一本が私の魔力を吸い取ろうとネットリと吸い付いてくるのですが、押し寄せて来る刺激にまだスキルレベルの低い【ポーカーフェイス】が崩れかけ、ピクピクと身体が跳ね、何とか奥歯を噛みしめてその波をやり過ごします。


 たったそれだけの事(初期起動)で肌はジワリと汗ばみ下半身が凄い事になっているような気がするのですが、ドレスの魔力補充とレッサーリリム化を終えると一気に感覚とステータスが上がったような気がします。


「ふっ…ッ―…」

 そうして私がこっそりと大変な事になっている間にもカナエさんはクロスボウの準備は進んでおり、私が体の中で渦巻く快楽を吐き出すようにゆっくりと息を吐いていると、最初に動いたのはフラワーラビットでした。


「PUXII!!」


「っ…!?」

 多少覚悟はしていたのですが、私がレッサーリリム化した事によって魅了(挑発)の力が強まり襲い掛かってきたようですね。


「え、ちょっと待って、まだ準備が!?」

 カナエさんは慌てて矢をつがえている状態なのですが、フラワーラビットの動きに合わせて盾を構えた牡丹が防御位置に入ってくれていますし、魅了を振りまく私に向かって一直線に襲い掛かってきているので大丈夫でしょう。


 第二エリアのモンスターと言っても所詮は少し強い角兎程度の強さですし、集団にならなければフラワーラビットはそれほど脅威ではありません。


 このまま投げナイフを投げるか鋼の剣で払えば倒せそうではあるのですが、まずはクロスボウの試射実験ですからね、フラワーラビットの突撃に合わせて後退してカナエさんのフォロー(援護射撃)を待つ事にしましょう。


(マンイーターは…)

 私はフラワーラビットを気にしながらチラリと頭上のマンイーターを確認したのですが、ウゾウゾと触手を蠢かしてこちらの頭上の木に乗り移ろうとしているようで、襲ってくるまでにはまだ時間がありますね。


 流石にキャンプ地の近くではすぐに他のモンスターが集まって来るという事も無いようですし、スカートの羽は使えない(広げられない)ものの、フラワーラビット程度の速度では【腰翼】があれば十分に時間稼ぎが可能です。


 動き、跳びはね、フラワーラビットの攻撃を剣でいなすとその度に胸が弾み、ドレスが擦れる感触にゾワゾワと【高揚】が入り身体がフワフワするのですが、感覚は冴え渡りとても気持ちがいいですね。


「で、出来たわ、離れて!」

 踊るようにフラワーラビットをいなしているとカナエさんの攻撃準備も完了したようで、クロスボウをフラワーラビットに向けていました。


 カナエさんとフラワーラビットの距離は七メートル程度の至近距離、私を追いかけているところを狙う形になったので横からの射撃になっているのですが、自分が襲われている訳ではないので狙う時間と精神的な余裕はありますし、後衛としては理想的な状態での射撃ですね。


「ぁ、たれぇぇええっっ!!!」

 相手は立体的な森の中を不規則に跳ねているとは言え至近距離(競技では35-65m)であり、花弁のような大きな耳を除けばクロスボウ競技に使われる(20-60cm)と同じくらいです。

 そんな(魔物)目掛けてカナエさんがクロスボウのトリガーを引くと発射音と着弾音がほぼ同時に聞こえてきたのですが……。


「Pix!?」


「えぇぇえええええーーっ!?なんでこれで当たらないの!!?」

 カナエさんはこの至近距離で矢を外していました。


 いえまあ拳銃でも十メートル近く離れた的を狙うのは素人には難しいですし、そもそも戦闘に自信がないとの事でしたが、この状態でフラワーラビットにカスらせるのが精一杯となると実戦では少し厳しいですね。


「落ち着いてください、これくらいの敵なら…どうとでもなりますから」

 因みに私の目からみたカナエさんの射撃なのですが、偏差射撃ようの計算はかなりしっかりしているものの、狙いすぎている事と、保持力が足りないのかトリガーを引く時に大きくブレているのが問題だと感じました。


 下手にきっちりと狙えているからこそ、そこからズレてしまうとまぐれ当たりすら期待できないというちょっといただけない射撃センスのような気がしますが、反省は程ほどに今は目の前の戦闘ですね。


「カナエさんは上のマンイーターをお願いします」

 こうなったらカナエさんには制止目標に近い敵を狙って貰う事にして、私は下から跳びあがるように体当たりを仕掛けて来たフラワーラビットの動きに合わせて、靴の裏で削るようなカウンターキックをお見舞いして弾き飛ばします。


 第一エリアのホーンラビット程度ならこの蹴りで倒せていたのですが、流石に第二エリアのモンスターはそうはいかないようで、「PYUGI!?」と弾かれ跳ねるように受け身を取って後ろに跳びずさろうとしたところに投げナイフの一撃を叩き込み、確実に止めを刺しておきました。


「う、上!?」

 カナエさんは木の上のマンイーターにはまったく気付いていなかったようで、私の言葉で初めて頭上を見上げるのですが……その時のカナエさんはおもいっきり棒立ちの無防備状態で隙だらけですね。


「ぷぃ~…」

 そんなカナエさんのフォローに入っていた牡丹が何とも言えない表情でため息を吐いていたのですが、まあ護衛のしがいのある人だと思います。


「カナエさん、装填」


「え、あ、はい、大丈夫!任せてっ!」

 言われてからワタワタと装填を開始したカナエさんなのですが、二射目は木の枝の陰に隠れるように蠢いていたマンイーターの芯を外して致命傷にならず、最終的には私が投げナイフで止めを刺す事になりました。

※細々と修正しました(5/17)。

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