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204:とんでもない依頼

「グレースさんと、ですか?それは…?」

 スコルさんからいきなり「グレースさんと最近どうか」という質問が出てきたのですが、それが漫画とかアニメ的なノリといいますか、「最近学校はどうだ?」という慣れない父と娘の会話のような発言に私は首を傾げたのですが、そういえば何時の間にやらグレースさんには避けられているような気がしますね。


グレグレ(グレースさん)にも色々あってねー、ちょっと落ち込んでいて…まあ理由についてはおっさんの口からじゃなくて本人からって事にして欲しいんだけど、そんで出来たらで良いんで、元気になってもらう為にも一緒に行って来て欲しい場所があるのよ」


「それはまあ、良いですけど……何でスコルさんがそこまでするんですか?」

 何だかんだ言ってスコルさんには色々と手伝って貰っていますからね、多少の用事くらいなら引き受けても良いんですが、スコルさんがそこまでしてあげる理由がよくわかりません。


 それとも2人は何だかんだ言ってよく一緒に居ますし、もしかして実はドゥリンさんのようにリア友やリアルでの知り合いという間柄なのでしょうか?


「おっぱいの大きな美少女の悲しむ姿は見たくないじゃない?」


「………」

 スコルさんは「それ以外の理由は無い」というような間抜け面のヘラヘラ笑いを浮かべ、私はつい本気で睨みつけるように目を細めてしまったのですが、本当にそれ以上でもそれ以下でもないという理由で肩入れをしようとしているようですね。


「ゲームのアバターなんて盛り放題ですよ?」

 聞いた私が馬鹿でしたというようにため息を吐いてしまいましたし、スコルさんにはそれくらいのネットリテラシーがあると思っていたのですが、見た目(アバター)が良ければ良い派なのでしょうか?


「いやーグレグレはユリちーと同じくらいの年齢の巨乳少女よ?」


「…何でそんな事が言えるんですか?」

 胸の大きさはよくわかりませんが、確かに私もグレースさんの動きのちぐはぐさから見た目(アバター)より年齢が低いのではないかと考えた事がありますが、スコルさんは何か確信を持っているような様子で断言しているのが気になりました。


「おっさんの勘!」

 そして自信満々に理由になっていない事を言うのですが、もう呆れて何も言えませんね。


「そうですか……まあいいですけど、で、私はグレースさんを連れて何処に行けばいいんですか?」

 スコルさんの勘というのはこの際置いておいて、さっさと用件を聞く事にしましょう。


「およ、意外とあっさり……断られるかと思ったのに」


「まあ、グレースさんとどこかに行くくらいなら別に…」

 私もグレースさんの態度が変わった理由というのは気になりますし、この誘いが話しをする切っ掛けになれば良いという感じです。

 それに、これでスコルさんへの色々な借りを返せるのならそれはそれでいいかと思う事にしました。


「まあ何にしてもよかったわ、じゃあ今度の日曜日の午前10時、場所は第一宇宙港ね、メルクリウス号っていうI C S(宇宙船メーカー)が作った星間連絡船の試乗会があるの、あーユリちーってチケット受け渡しできるIDある?そっちに交通費と合わせてチケット送っておくから、グレグレ誘って行って来てちょーだいな」


「ゲームの中じゃないんですか!?」

 おもいっきりリアルのイベントですよね、これ?しかも最新式星間船の試乗会!?たぶん欲しい人に渡したら結構プレミアな値段がつく奴ですよね?


「そりゃあゲーム内だったらおっさんでもいいし、え、なに…ユリちーって宇宙船とか嫌い?」

 それこそよくわからないみたいな残念そうな顔をされてしまったのですが、こんなにさらっとリアルでの用事を入れてこないで欲しいです。


「いやーでもユリちーが引き受けてくれてよかったわーおっさんも知り合いから貰ったチケットなんだけど、老若男女のデータが取りたいのにこういうのに興味がある普通の女の子っていうのがなかなかいなくてねーそういうデータが必要なのに誰も女の子と知り合いが居ないって言うから大爆笑!」

 スコルさんはチケットを手に入れた事情なんかを話してくれるのですが、私としてはそんな事よりリアルでの話だった事に驚きですし、そもそもそんなリアルのイベントにいきなり誘ったらグレースさんに変な人だと思われないかの方が心配です。


「そういう話ならお断りします」

 流石に色々と怪しすぎる話なので私は断ろうとしたのですが、スコルさんは「まあまあ」と宥めるように話しを続けました。


「テスト試乗って言っても安全だし気負う事はないわよ?おっさんが知り合いから頼まれただけだし、丁度いい子がいたら誘っとくわっていうくらいの軽いノリよ?」


そういう(気軽さ云々の)話ではないのですが…」

 確かに最近ではVR系とかのフルダイブ技術が進んでいますし、ネットで知り合ってそれからリアルで会ってというのも当たり前になってきていますが、流石に人伝いの雑談の延長線上みたいな話しでっていうのは胡散臭すぎます。


「これはちょっとポロっと溢しちゃうけど、実はグレグレって結構な引きこもりでね、同性同年代のユリちーとなら外に出るかなっておっさん思ったのよ」

 多少真剣な顔をしたスコルさんは声を潜めてそんな事を言うのですが、その表情すらどこまでスコルさんの演技なのかわからず困惑するのですが、失礼ながらグレースさんが引きこもりという話には納得がいくところがありました。


 とはいえ今はネットオンリーの学校もありますし、買い物も大体ネットショッピングですませられますからね、本格的に引きこもろうと思えばどれだけでも引きこもれる環境が整っているので、昔ほど心配するような事ではないと思いますね。


 まあそれが心身ともに健康的かというのはまた別の話なのかもしれませんし、グレースさんの場合はコミュニケーション能力面での問題の方が大きそうなので克服させたいという気持ちはわかるのですが、それでもたかだかゲームで知り合っただけの人物に頼むような事ではないと思います。


「……」


「ぷぅ~…!」

 私の不信感に呼応するように牡丹が唸り声をあげたのですが、スコルさんは相変わらずいつもと変わらない胡散臭い笑顔でヘラリと笑いました。


「…グレースさんに声をかけて、少しでも渋るようだったら無理強いはしませんよ?あとスコルさんが言っている事に一つでも嘘があった場合はその場で帰らせてもらいますね」

 まあグレースさん自体は悪い人ではないと思いますし、年齢に関しては推測の域を出ませんが、ブレイクヒーローズの場合は脳波系の問題でネカマ(中身男性)は存在しませんし、グレースさんは女性で確定なのでしょう。


 同性ならまあ意気投合して遊びに行くだけですし、今回はスコルさんを信用する事にしたのですが、それでも引きこもりを連れ出して欲しいという事情やら何やらが嘘だった場合は、私が何かしなければいけないという事もないので帰らせてもらうという条件にしてもらいました。


「OKOK、おっさんも流石にそこまで強く言えないからね、その条件で大丈夫よ。ああ後、もし誘って無理だったらチケットと交通費はユリちーの好きにしていいわよ」


「そういう訳にもいかないと思いますが…その時はお返ししますね」


「んもう、ユリちーはお堅いんだから、今時リアルで会うなんて普通よ普通、それに交通費はおっさんからのお小遣いなんだから、そのままユリちーの大きな懐に入れてくれても良いのに……まあその方が気が楽っていうのならそれでいいわ」

 さらりとセクハラ発言(大きな胸を指摘する)を混ぜながら、私達は外部サイト経由で試乗会のチケットと交通費のやり取りをしたのですが、スコルさんはこういう物品のやり取りに慣れているのか、スラスラと決済を済ませていました。


「本当に…何でスコルさんがここまでしてあげるんですか?」

 念のためスコルさんから送られて来た試乗会のチケットが怪しげな講習会や詐欺まがいの物ではないかとネットで調べてみたのですが、結構ちゃんとした会社のちゃんとした宇宙船の試乗会のようで、チケットの当選倍率は驚きの136倍で、完璧にプラチナチケットの類ですね。


 一緒に送られて来た交通費も2人分合わせて10万円と、学生と社会人の金銭感覚の違いと言いますか、いえそれでもよくわからないネットの知り合いにポンと10万渡せるスコルさんが可笑しいだけのような気がするのですが、現金が絡むと更に胡散臭さが増し、もう一度そこまで肩入れする理由を聞いてしまったのですが……スコルさんはパチンとウィンクをしてみせました。


「おっさん恋のキューピッドになりたくて…って嘘々、そうねー……ユリちーが幸せそうにキャッキャウフフしているのを見るのが好きだから?」

 そんなふざけた事を言った後、スコルさんは「キャー恥ずかしー」と顔を染めて尻尾をパタパタしてしまったのですが、そのあまりにも鬱陶しい光景に私は目を細めてしまいました。


「すみません、余計によくわからない理由なのですが」

 私は冷静にツッコミをいれたのですが、スコルさんは照れたような顔で「そうねー?」とどう説明しようかというように考え込みました。


「まあ良い感じのチケットを手に入れたけど、おっさんが直接誘ったら、ほら…色々と事件の香りがするでしょ?そこでユリチーに白羽の矢を立てた訳よ」


「なるほど?」

 スコルさんは誤魔化す様な照れ顔で笑っているのですが、もしかして本当にグレースさんの事が気になっていて、アプローチをかけているのでしょうか?


(結構年齢差があるような気がするのですが…)

 私がスコルさんの実年齢を予想しようとその間抜け面を眺めていると、スコルさんは相変わらず胡散臭い笑顔を浮かべながら舌を出してへっへっへっと犬っぽく呼吸をしていたのですが、まああんまり嘘は言っていなさそうですし、ここはスコルさんの熱意に負けたという事にしておきましょう。


「わかりました、誘うだけ誘ってみますね」


「ありがとーだからユリちー大好きっほう!?」


「ぷぅー!!」

 私が根負けしてそう言うと、スコルさんはパァーっと顔色を輝かせて自然な動きで擦り寄って来ようとしたのですが……牡丹にボコボコにされていました。


 とにかく私とスコルさんがそんなやり取りをしていると、シグルドさんとドゥリンさんの方も話しが終わったようで、意気揚々と試し斬りから戻って来ました。


「確かに少し引く時に引っ掛かりがあるような気がしますね、それでも大まかに打つところまで出来ていますし、研磨の方法を変えてみては?」


「そりゃあ分かっているんだが、研ぎあげようにも日本刀用の研磨剤なんて売ってなくてな、刃取りも上手くできねえし、まずは似たような物から探さないといけねーんだ」


「なるほど、それは確かに問題ですね…」

 2人は難しい顔をしているのですが、何かしら良い進展があったようで何よりです。


「では、私はそろそろ…」

 話しも一段落したようですし、私はカナエさんとの約束の時間もあり、細々とした残りの準備を考えるとそろそろ移動しないと不味いでしょう。


「ん、おう、もう帰るのか…剣の修理については任せとけ、すげーもん作ってやるからな!ってそういや、どういう仕上がりにして欲しいとかはあるか?」


「そうですね…私の場合は結構雑に使いますので、頑丈さがある方がいいですね」

 その後ドゥリンさんと魔光剣の事で幾つか打ち合わせをして、修理費は完成後に改めて話しをするという事になったり幾つかの決め事をしてから、私はドゥリンさんの鍛冶場をお暇する事にしました。


「じゃあおっさんもそろそろ…」


「何逃げようとしてんだ!てめぇも手伝いやがれっ!!」

 その流れでスコルさんも私について来ようとしたのですが、シグルドさんにすべて押し付ける作戦は失敗したようで、見事にドゥリンさんに捕まっていました。


「えぇ、なんで?!おっさんにも、おっさんにも休みを、癒しを頂戴っ!?ユリちー助けてぇぇ!?」


「後はよろしくお願いします」

 私は軽く頭を下げてから、泣き叫ぶスコルさんを無視してその場を後にしました。

※捻くれているおっさん、そして『ICS』というのはアメリカに本社があるインターステラー・コネクト・スターシップ社という、宇宙船のエンジンとかを主に作っている企業です。

 歴史的には宇宙開拓が本格化した時期からの会社なのでまだ新進気鋭といった感じの民間会社なのですが、地球と月面都市との交通網を整えるのに一役買ったおかげで、宇宙船分野においては世界中の誰もが知るという企業でもありました。


 今回の試乗会はそんな企業が出した新型エンジンである『AGECF.Ver2.7』の商業利用に向けての最終テストで、このエンジンを搭載した宇宙船が運航を開始すれば火星まで片道7時間前後での到着が可能となり、火星開拓が現実的になるとまで言われている物凄いものです。

 そんなテスト色の強い試乗会ではあったのですが、一般人であるユリエルが乗り込めるレベルなので勿論試験運転は完了しており、商用の安全基準はクリアしています。


 今回開催されている試乗会は一般の人が感じる諸々みたいな感じの乗り心地チェックで、そんなプラチナチケットをスコルさんが手に入れたのは本人が言っている通り完全にただのコネと伝手です。

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