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20:ナンパ男と好青年

 金角兎を倒した事でレベルが2も増えていますね。VRMMOにしてはレベルアップが早いような気がしますが、ブレイクヒーローズではそういうものなのでしょう。それよりユニークモンスター初討伐のSP3ポイントが嬉しいですね。少しくらいは残しておいた方がいいのかもしれませんが、貯めすぎてもしかたがないですし、そろそろスキルを取得していきましょう。

 そんな事を考えながら帽子を被りなおし、金角兎が消える前に触っておきます。運搬効率を考えると剥ぎ取りをした方がいいのですが、失敗したらちょっと悲しい事になりますし、アルバボッシュも近いので持ち運ぶ事にしましょう。とりあえず角の部分を持ってみると……意外と運びやすいですね。大きさがあるので重量は感じますが、これなら案外楽に運べるかもしれません。


「ねえねえ君!凄いね、もしかしてソロ?よかったら俺とPT組まない?なんならソレ運ぶのも手伝うしさー」

 私が金角兎を持って揺らしていると、何かものすごくチャラそうな男性の方に話しかけられました。

 種族が人間の方で、褐色の肌に髪は金髪、緑の瞳、武器は剣で、引き締まった体を見せるためか服装を着崩したいかにも軽い感じの人ですね。

 親切心からの申し出という可能性もありますが、鼻の下が伸びきった表情と、視線が胸に集中しているので下心が隠せていません。私が倒した金角兎もすでに自分の物みたいな目で見ていますし、何なのでしょう、この人は。


「組みませんし、結構です」

 こういう人ははっきりと拒絶しないとわかってくれないので言葉にしましたが、それでも伝わらなかったようですね。


「……ええー…いいじゃん、俺、こう見えても結構力強いよ?手伝ってやるからさーなあ、いいだろ~?」

 拒否された事に対してイラッとした表情を浮かべたのですが、それでも何とか薄っぺらい笑みを浮かべると、言葉を続けてきます。この手のタイプは説得しようとするだけ無駄でしょう。


「……」

 周囲の人達が仲裁に入ってくれないかと辺りを見回すと、野次馬根性を出している人もいますが、大半の人は腕まくりをして、仲裁に入る気満々のようですね。現実ではこうはいきませんが、ゲームですし、目の前で質の悪い男性に絡まれている人がいるなんてイベント、私でも見逃しませんからね。


「おいおい、だんまりー?なあ、いい加減にしておかないと俺も怒るよー?」

 唯一周囲のヘイトを買っているという事に気づかないチャラい男性だけが、周囲の状況に全く気付いていません。


「なあいい加減に……」

 男性が私の腕を掴もうと手を伸ばしたところで、その手が横から掴まれます。


「いい加減にするのはどっちだ?君か?彼女か?」


「は?何だてめぇ!?」

 チャラい男性はいきなり割り込んできた男性に驚いて後ずさりをしようとしたのですが、腕が掴まれているので出来ませんでした。そのまま流れるように後ろ手を決められています。


「あだだだ、てめぇ!こんな事をしてただですむと思っているのか!?」


「と、彼は言っているが、もしかして知り合い同士だったのかな?それなら謝罪するのだけど」

 仲裁に入ってきた男性も種族は人間で、短髪の金髪碧眼、武器は片刃の剣でしょうか?かなり体が鍛えられている……というよりも、この人本当に鍛えていますね。力のかけ方や運び方が格闘技か何かやっている人のそれです。そもそも認識能力が通常に戻っている(帽子を被っている)とはいえ、近づかれた事に全く気が付きませんでした。


「いえ、赤の他人です。助けてくださりありがとうございます」

「はっ!?てめぇぶっ殺すぞ!!」

 何故この人は私がフォローしてくれると思っていたのでしょうか?どう考えても迷惑しかかけられていないのですが、そのあたりの事もわかっていなかったようですね。


「そういう事だ、これ以上騒ぐようなら()()がお相手をするけど、どうする?」

 彼が周囲を見回すと、介入したくてウズウズしている人達が大勢いるのが見えますね。ここでやっとチャラい男性の方も周囲の状況を理解したのでしょう、青ざめた顔をすると、何か小声で恨み言を言っていましたが、抵抗は諦めたようです。その事を確認してから、男性は拘束していた腕を放します。


「はっ、覚えてろよ!暴力振るわれたって通報してやるからな!」

 あまりの捨て台詞に呆れていると、男性の方も肩をすくめていました。


「ありがとうございます、おかげで助かりました」


「いや、僕の方も絡まれた女性を助けるなんて貴重な経験が出来たからね、お礼を言いたいくらいだよ。そもそも、僕の力なんて必要なかった(自力でなんとかした)かもしれないけどね」

 そう爽やかに笑う男性は、シグルドさんと言うらしく、何か騒ぎが起きているようだから見に来たとの事でした。


「それがさっきアナウンスの入っていたゴールドホーンラビットかい?」

 シグルドさんは私の持つ金角兎を興味深そうに見ています。その目は愛玩動物に向けているものというより、研究目的というか、そういう(攻略)方面で興味があるといった様子ですね。


「はい、そうです」

 触ってみたそうにしていたので、助けてくれたお礼にと見やすいように差し出してみたのですが「ぐっ」と詰まられました。


「…ありがとう。興味はあるけど、衝撃を与えると品質が下がるからね。解体出来なくなったら恨まれそうだし、自分で狩る事にするよ」

 気軽に「狩る」と言っているのですが、この人なら本当になんとかするのでしょう。そんな気がします。


「…そうですか。それにしても、やはりそういうの(品質低下)があるのですね」

 品質低下があるのなら、運ぶ場合も気を付けないといけません。となると、ちょっとナップサックの中身を確認するのが怖いですね。ぐちゃぐちゃになっていなければいいのですが……。


「ん?…ああ、そうだね。上手く【解体】したらそのあたりの保護もされるらしいけど、今のところは検証待ちかな?品質に関してはギルドでも簡単に説明してくれるよ」

 シグルドさんは一瞬私の発言に首を傾げたのですが、私がその手のスキルを持っておらず、効果が良くわかっていないという事に思い至ったのか、説明してくれました。


「そうしてみます」

 と、あまり長時間の立ち話はまずそうですね。先ほどのワールドアナウンスも含め、人が集まってきています。収納が出来ないので金角兎を手に持った状態ですし、このままここにいたら囲まれそうですね。


「それでは、色々とありがとうございました」

 ここはさっさとこの場を離れましょう。


「いや、いいよ、これも人助けさ。それじゃあ、気を付けて」

 もう一度お礼を述べると、シグルドさんは軽く手を挙げて、ニコリと笑います。その笑顔に見送られるようにして、私は周囲の野次馬に囲まれる前に、急いでアルバボッシュに向けて歩き始めました。


 流石にこの状態で戦闘は出来ませんし、途中で遭遇した角兎はすべて無視します。相手の方が低レベルであり、元から好戦的なAIでもないので、こちらから変なちょっかいをかけなければ特に戦闘になる事もありません。


 金角兎を手に持って移動していますからね、すれ違うプレイヤー達はギョッとした表情をするのですが、話しかけられても面倒ですし、そういう好奇の眼差しは無視しておきましょう。


 草原を歩く事1時間、地平線から頭一つ抜けるように飛び出していた大木の裾野が見えてきました。淡く光る輝きが大樹の周りを飛び回っており、まさしく精霊樹という見た目です。

 すそ野に広がる巨大な根に沿うように町が形成されており、その町を守るように分厚い壁が張り巡らされています。道の先には正門らしき物があり、簡単な検問が行われているようで、出入りする人はそこに向かえばいいようですね。


 何か凄く時間がかかったような気がしますが、何はともあれ、始まりの町、アルバボッシュです。

※現在のユリエルのレベルは7、残りSPは8です。正式版が稼働してからまだ半日ほどしかたっておらず、トップ層でも平均レベルは3~4程度なのでレベルは高めです。これは経験値効率のいいモンスターが多い僻地スタートの恩恵ですね。ここからは他の人と同じになるので、引き離すという事はありません。

 SPも余っているのでこれからスキルを取得していこうとは思いますが、ユリエルのスキル選択は面白みのないものになりそうです。

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