191:第二エリア
予想外のトラブルもあったので結構時間がかかってしまったのですが、第一エリアで出来る準備を全て終えた私達は、時間も丁度良かったので一度昼食を挟み、それから第二エリアに移動する為にセントラルライドの王城に向かいました。
この大陸間移動に使う特別製のポータルは王城の一角にある東屋に設置されている巨大な魔法陣なのですが、第二エリアの開放が昨日の今日だったからかちょっとした人混みでごったがえしています。
「押さないで、ギルドカードを提示しながらゆっくりと魔法陣の中へ進んでください!」
人員整理の騎士達が声を張り上げて行列を捌いているのですが、行儀よく列に並ぶ人ばかりという訳でもないのでなかなか苦労しているようですね。
そんなプレイヤーの中には私の事を見ながら鼻の下を伸ばす人もいてなかなか落ち着かなかったのですが、とにかく上級ブレイカーのギルドカードを見えるように提示すると、係の人達に誘導される形でポータルに案内されました。
「牡丹、行きますよ」
「ぷ!」
魔法陣の真ん中に立つと『第二エリアに移動しますか?<YES><NO>』という確認のメッセージが出てきたので、私は牡丹に一声かけてから『YES』を押します。
普通のポータルは場所を選択すると光に包まれスッと移動する感じなのですが、大陸間移動のポータルの行き先は固定です。
一瞬だけ放り出されたような奇妙な浮遊感と共に雲の上から大陸を見下ろしているような視点になり、そのまま落下するような感じで第二エリアのベースキャンプともいえる『セントラルキャンプ』に到着していました。
この大陸間移動の演出で見えた大地が第二エリアで、ネットでは何度も往復して全体MAPを把握したという人もいるのですが、それもまたなかなかの執念ですね。
まあそのおかげで第二エリアの情報がプレイヤー間で共有されており、全景としては九州地方を左に九十度倒したような地形と言いますか、上の出っ張った四国地方と言いますか、とにかく大雑把には下側がへこんでひしゃげた五角形といった形で、セントラルキャンプは大陸中央からやや南東に外れた森の中にあるという事がわかっています。
そして攻略ルートは今のところ大まかに五つあり、一つ目はキャンプ地から見て北西にあるエルフの都を目指すルートでした。
これは魔王軍に占領される前まで交流のあったエルフ達の都を目指すルートで、第一エリアでいうところの王都解放ルートのようなもので、メインルートではないかと噂されています。
二つ目は西に広がる未開エリアの探索で、こちらに関してはエルフの遺跡があったりなかったりというあやふやな情報しかなく、殆ど手探り状態での探索が進められていました。
三つ目が北東エリアの探索で、魔王軍が襲来する以前はペルギィというこの大陸の首都があった場所に行ってみようというルートで、エリア移動時に見える街並みからすると廃墟になっているようなのですが、とりあえずその調査に向かおうというルートですね。
四つ目がそのペルギィから更に東に行った所にあるイースト港行きのルートで、第一エリアのウェスト港と海を挟んだ向こう側にある町を目指すルートです。
まだペルギィにすら辿り着けていない状態では全く情報がなく、行けば何かしらのイベントがあるだろうと言われているのですが、費用対効果が悪いからか、このルートはあまり人気がありませんでした。
五つ目がそういう探索をする前にキャンプ地を整えようとするルートで、南の森の中からアイテムを集めて野営地をバージョンアップさせていこうというルートですね。
これはとりあえず周辺のモンスターの強さを確かめようという人や、森歩きに慣れていない人向けのルートではあったのですが、メインは第二エリアでは必須とされている麻痺治し関連のクエストに使われる『ピリリ草』の群生地がある場所でもありました。
そしてこの『ピリリ草』を納品するクエストは結構重要で、麻痺治しの材料である『ピリリ草』を採って来た人にだけに麻痺治しを販売してくれるようになるという内容で、第二エリアに来たらまずはこのクエストを受けた方が良いとまで言われています。
この配置には若干運営の誘導を感じるのですが、第一エリアと第二エリアでは敵の強さも勝手も大きく違いますし、攻略法が確立されるまでは無理をするなという配慮なのかもしれません。
というのも第二エリアは足場が悪く見通しのきかない樹海での戦いとなり、出てくるモンスターは何かしらの毒や麻痺を持っているという状態異常対策が必須で、下手に動けなくなれば即座にモンスターにやられて大変な事になるという話です。
私も『翠皇竜のドレス』が万全の状態なら耐性が発揮されているので何も問題はなかったのですが、今は接続を切っている状態なので治療アイテムが必要になってくるのですよね。
そういう訳で現在第二エリアを進めるのなら麻痺治しクエストは受けていた方が良いと言われていますし、第二エリアのモンスターと戦えるかも確かめたいですからね、まずは採取クエストを受けてから南に向かった方が良いのかもしれません。
とにかく他のプレイヤーの動向や第二エリアの情報を思い出しながら、私はセーブポイントをセントラルキャンプに移し、それから改めてキャンプ地を見回しました。
この辺りは本当にゲーム的と言いますか、第二エリアはウェスト港から海を挟んだ向こう側に見える大陸なのですが、空気から植生まで様々な物が大きく違うというのは不思議な感じですね。
まず驚くのはその湿った空気なのですが、これはジメっとしているというより滝つぼの近くの空気と言いますか、木々の匂いや花の匂いが充満している感じで、何か空気が濃いような気がしました。
見渡した野営地はまだゴチャゴチャしている感じで、周囲は簡易な木製の柵で囲われ、その外側には樹海と言った方が良いような鬱蒼とした森林地帯が広がり、見通しは悪そうです。
そんな森の中にあるセントラルキャンプはセーブ兼ポータルにもなっている洋風の東屋を中心にテントと天幕が立ち並び、あちこちにセントラルライドの旗が掲げられていました。
ブレイカーズギルドはまだ進出してきていないようで、ウミル砦のように騎士達が管理運営して色々な依頼を出しているのですが、今は不審者探しで人手が足りないのかバタバタしているようですね。
今の所は本当にただの野営地という感じで、あるのは武器屋と防具屋、後はちょっとしたポーションと携帯食料だけを売っている道具屋があるだけと、まともな施設はありません。
売られている物の品揃えも悪く、武器や防具は『N』ランクの鋼シリーズが置かれているだけで、ポーションは基本の3種類と毒消し草、後は干し肉と乾パンなどの携帯食料が置かれているだけという貧弱っぷりです。
受注できるクエストの内容を見る限り徐々に発展していくのだろうと言われているのですが、今のところはとりあえず最低限の物資を運び込みましたというような感じで、本格的な買い物をする場合はセントラルライドまで戻った方が良いとまで言われています。
(このまま麻痺治しクエストを受けてもいいですが…)
『謎の侵入者』という別の臨時クエストを受けているので、どこにも出かけずにキャンプ地の散策と聞き込みをしていても良いのですよね。
ただ改めて同じクエストを受けた他のプレイヤーの情報を調べてみると、侵入者は熊っぽい何かだったという話ですし、きっとキリアちゃんが裏で何かしていたのでしょう。
その動向は気になりますが、今のところそれ以上の情報はありませんし、他の人がこれだけ調べても何もわからないとすれば、この辺りにはもう目ぼしい情報はないのかもしれません。
そもそも王城に現れたキリアちゃんが第一エリアに居座っているという可能性も高いですし、流石にどこにいるのかわからないキリアちゃんを探すというのは現実的ではありません。
まあ何かしらの封印を解くと言っていましたので、何かしらの前兆があってから探し始めても遅くはないのかもしれませんし、まずは無難に進める事にしましょう。
そういう訳で一旦キリアちゃんの事は横に置いておく事にして、まず第二エリアの探索をするために必要な麻痺治しクエストを進めようと、私達はクエストを受注してから南側の森に向かう事にしました。
※ちょっとだけ修正しました(4/16)。




