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2:キャラメイク

 どこまでも続く真っ黒な空間。目の前には淡く光るウィンドウが浮かんでいます。ウィンドウに書かれているのはどうやらゲームの注意点と同意書のようです。


 内容としてはよくある定型文で、特に目新しい事が書かれているわけではありません。FDVRゲームにおける体への影響や、体感時間を4倍に伸ばしている都合上適度な休憩をとるように等々、私は画面をスクロールさせながら内容に素早く目を通していきます。

 しいて他のゲームと違うところを上げるとすれば、セクシャルガードに関する注意がしっかり書かれている事と、“亜人”を選ぶ際の警告、そしてログインとログアウト時の感覚の変化についての注意が執拗に書かれている事です。


 ここで言う『亜人』とは、ファンタジー系のゲームによくある人間以外の種族の事です。リアル寄りのゲームを作るHCP社のゲームで他種族が選べるのはかなり珍しく、私が知る限りでは『ブレイクヒーローズ』で初めて実装された機能だった筈です。

 この手の種族は感覚のズレが脳に悪影響を及ぼすという理由で近年まで禁止されており、第3世代の後半から第4世代のゲームにかけて実装され始めた要素なのですが、HCP社も流行りに乗ったという事でしょうか?それとも技術的に問題がなくなったから実装しただけなのか、HCP社の場合どちらもありそうで悩むところです。

 オープンβ時の情報では、尻尾のない獣人や、耳がとがっているだけのエルフ、平均より小柄で小太りなドワーフと言った、言ってしまえばコスプレに毛が生えた程度の種族しか選べなかった筈ですが、ここまでしっかりと警告が書かれているという事は、もしかしたら本格的な人外が実装されたのかもしれません。

 これまでのゲームの常識では現実の体から変えられるのは数パーセント、大きく変えられるゲームでも±5パーセントが上限とされていました。そして一番最初に大きく変える事が出来るようになったのが、実は胸の大きさだったりします。

 「ゲームの中くらい胸を大きくしてもいいじゃない!」という女性プレイヤーと、「大きいに越したことはない!」という男性プレイヤーの意見が取り入れられた結果、VRゲーム業界に真っ先に取り入れられたのが胸の大きさの変更と、スタイルの変化です。

 もちろんこれらに対して色々と問題提起がなされたのですが、VRゲームは大なり小なりなりきりゲームみたいなところがありますし、全身を数パーセントプチ整形出来て、胸やスタイルを良くできるとなると、コスプレ感覚というか、自己顕示欲が満たされるというのか、何だかんだありながら受け入れられていき、色々な技術が確立していったという歴史があります。

 それでも時々炎上したりするナイーブな問題ではあるのですが、正直今でもそんな事を問題にしている人はゲーム自体をしない層なので、無視されているというのが現実です。

 『亜人』の実装の流れもその延長線上にあり、実は私がゲームを始めたのもこのあたりの“容姿が弄れる”という事が関係しており、現実世界だとチラチラと覗き見される私の胸(Kカップ)も、ゲームの中だと普通サイズであり、激しく動いても将来垂れる心配をしなくて済むという理由があったりします。


 注意事項を読み終えた私は、最後の『同意』のボタンを押します。するとウィンドウが光の粒となりはじけ、辺りに広がっていきました。


 幾重にも重なった複雑な模様を描く光の蔦。


 水平に広がるオーロラ。


 色づき、キラキラと輝き始めた世界に、私は息をのみました。この光景を見ただけで、HCP社の技術力の高さがうかがえます。


『ようこそ、ブレイクヒーローズの世界にいらっしゃいませ。ワタシは貴女の転生をお手伝いする精霊のナビィです』

 そしてどこからともなく現れたのが、手のひらサイズの、小さな緑色の光に羽が生えた何かというモノでした。名前から考えてもきっとこれが案内NPCなのでしょう。


「よろしくお願いします。早速ですが、どうすればいいのですか?」

 所詮AIとぞんざいな態度をとる人もいるのですが、ちゃんと対応した方がスムーズに進む場合が多いので、私は話しかける派です。


『はい!まずはですが、ブレイカー(プレイヤー)さんは今、サンマウンドの世界で起きている危機についてはご存じでしょうか?』

 ナビィさんの言う危機というのは、“魔王の襲来”の事でしょう。魔物を率いる魔王が暴れ回っており、困った人達が異世界から勇者を召喚しようとしたというのがブレイクヒーローズの大まかなストーリーだった筈です。なのでプレイヤーの事は魔王を倒してくれる者、異世界の壁を壊してやってきた異邦人という意味を込めて、“ブレイカー”と呼ばれているという設定です。


「簡単には…ただ私が調べた内容と違う可能性もありますので、一応説明してもらってもいいですか?」

『はい、ではそれは遡ること10年前、魔王アスモダイオスがワタシ達の世界に現れた時から異変は始まりました……』

 ナビィさんが語り始めた内容はほとんど事前に調べていたものと同じでした。違うところは、更なる強さを身に着けたアスモダイオスに対抗するために、正義の心を持つ魔物や亜人達も召喚するようになったという内容が付け加えられていた事です。これはきっと種族が増えた事への説明なのでしょう。


(アスモダイオスですか…)

 確かユダヤ教やキリスト教での悪魔の名前だった筈です。もしくは七つの大罪の方でしょうか?かなり直球な名前のような気もしますが、そのあたりはわかりやすさを優先したのでしょう。


「ありがとうございます。こちらの情報とも差異はありません」

 私が軽く頭を下げると、ナビィさんは『ピピ』と嬉しそうにパタパタと飛び回ります。


『それで、どうしましょう?どうやらブレイカーさんは大精霊の奇跡を1度試せるようですが、奇跡を祈ってみますか?』

 その言葉と共に、私の目の前にウィンドウが開きます。どうやらナビィさんのいう“奇跡”というのは所謂キャラクターガチャの事のようです。

 ゲーム的には、ブレイカー達を召喚している大精霊が力を込めて召喚をする事によって、人間以外の者を召喚したり、力を授けたりするといったもののようです。この場合の種族は完全にランダム。魔物が選ばれる可能性もあり、新たな力を得る可能性もありますが、まともなプレーが出来なくなる可能性もあるとの事でした。

 もちろん試さないという選択肢もあり、その場合は通常の人間か、オープンβ時に選択可能であった亜人のどれかのテンプレートの中から選ぶ事になるそうです。もちろんレア種族はガチャ限定。普通ならガチャ一択と思われますが、悩むところです。


「少し待ってください」

 さてどうしましょうと、私は考え込みました。正直に言うと、シークレットでこういう事を仕込むという、変なところで癖の強いHCP社がこれだけ注意を促しているという事は本当に何かしらの問題がある可能性があります。

 一度外部ネットに繋いで掲示板か攻略サイトを見たいところですが、ブレイクヒーローズでは不正防止のため一部の地域とセーフティーエリア以外での外部ネットへの接続は禁止されており、キャラメイク中も繋げなかった筈です。

 いったんログアウトして種族について調べてからとも考えましたが、脳波測定なども行っているでしょうし、私の行動がガチャの内容に影響する可能性は捨てきれません。ここで一度ログアウトしてしまえば、レア種族が選ばれる可能性が減ってしまう気がします。それにそもそも調べるにしても、正式稼働して数時間では大した情報もないでしょう。


「…では、奇跡をお願いします」

 ガチャチケットを使わないという選択肢もあるみたいですが、その場合高確率でリセット案件になるでしょうし、どちらにしてもガチャなのですから、良い種族が引けるという保証もありません。もし変な種族が選ばれてしまってもリセットすればいいだけですしと、私は頷く事にしました。

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