運営者Side(鈴木主任視点):スライムイベント後~ゴルオダス戦前までの裏側
※ちょっと文字数が多くなってしまったので、運営者Sideを2つに分ける事になりました。その後掲示板回を挟んで第一エリア編終了です。
本社から送られてくる色々とおかしいデータや、勝手に書き換えようとするAI。
もとから運営本部程度の規模しかなかった日本支社の人員では対処できなくなり、とうとうバグが発生した。
一部の誤動作と表示バグ程度で重大なものではなかったのだが、この手のフルダイブ系のゲームの場合すぐに「人体への悪影響が」とか「安全規定はどうなっているんだ」と騒ぎ立てる鬱陶しい連中がいた。
この手の連中は自分の考えを無邪気に妄信しているので科学的根拠を示しても無駄だし、本当の改善なんか求めていない。
特に重大な被害者というのも出ていない現状では、叩くだけ叩いてまた別の話題に飛びつく事がわかっていたので、俺はこれ以上無駄な労力を使いたくなかったので、無難に収めようと社会人らしく頭を下げた。
因みに彼らの言う通り、一応ゲーム制作に対する安全規定というのはあるにはあったんだが、FDVR機器本体に安全機構が備わっているので、多少のバグなら許容されていた。
そもそもバグが一つ出たら営業停止なんてやっていたら会社は立ち行かないし、そもそもAI補助による開発が主流となった現在、製作者が知らない仕様なんて言うのが実装される場合があるのが近頃のゲームだ。
一々バグだなんだと揉めていたらゲーム業界自体が委縮してしまい、新たに参入しようなんていう会社が無くなり、産業が先細る。
そういう判例がいくつもあるというのに、何十年前と同じような批判しか繰り返さない連中にはウンザリするんだが、驚くべき事に意気揚々とHCP本社の方にまでインタビューをしに行った奴が居たようで、それに対する社長の発言がまたとんでもなかった。
「日本人はアホなのか?」
「批判して気持ちよくなりたいだけのオナニー猿」と続き「こちらはお前ほど暇じゃないんだが」と前置きをしてから、つらつらと技術的な話や安全面などを社長は語ったのだが……それがもう面白いくらいに大炎上した。
最初の「アホなのか?」発言が故意に抜き取られ、拡散され、一部の界隈からは絶賛されながらも一部の界隈からは大パッシング、本社の株価にまで影響を与える形となり……俺は緊急の本社会議に呼ばれる事となった。
「はぁ…」
まあHCP社がもとからこういう会社であるという事は知れ渡っていたおかげか、プレイヤーの大量離散という最悪の事態にはならず「いつも通りのHCP社」みたいな反応に収まってくれたんだが、売り上げには確実に響くと試算されていた。
それでも少しずつ売れているのはまあ……それでも買おうという変な奴らに一定の需要があり、これからもまた変な奴が増えるんだろうなという事だ。
「本社会議ごくろうさま、どうだったの?」
会議用のセキュリティー空間から戻って来た俺を出迎えてくれたのは井上で、俺は散々だったという事がわかるように肩をすくめて見せた。
「社長は大爆笑、土下座までしてくれたが、気にするなって言われたよ」
本当はもっと色々な事で重役から突かれ絞られたんだが、その辺りはチームメンバーに話す必要のない事なので、俺は黙っておく事にした。
そもそもの炎上のきっかけは日本支社にあるとしても、火に油を撒いたのは社長の一言だし、売り上げの低迷に関しても各国の売り上げを纏めてみるとまあ十分だろうという判断で、色々とテコ入れはあるようだが咎めは無し。
逆にその軽すぎる処分が何とも気持ち悪く、この先どんな無理難題が本社から出されるのか考えると、今から胃が痛い。
「ああ、せめてもの嬉しいニュースと言えば、人員や機材の補充が認められたぞ」
「あら~それはよかったわ、流石に中村ちゃんと高橋ちゃんがしんどそうだし、そろそろちゃんとした休日とかも回していかないとね」
「どんな奴が来るかまだわからないけどな」
こちら側でホイホイと雇えれば楽なんだが、色々な会社の試供品やテストをしている関係上、守秘義務的な規約で人員については本社任せのところがあった。
そんなんだから業務がパンクしたともいえるんだが、規約上の問題であり、本社が「これで行く」と決定している以上、俺が口を挟める問題ではない。
「それより、調整は終わったのか?」
この後はゴルオダス戦と、続いて第二エリアの開放だ。
すでにテストサーバーを動かしてシミュレーションしているんだが、正直な所ゴルオダスの強さをどうするかで若干悩んでいた。
「オーケーバッチリよ、こんな感じなんだけど」
そういって渡されたデータを見てみると……酷いな、プレイヤーの全体の強さを把握して調整するのは井上に任せているんだが、これは本当にクリアできるのか?
「ワイバーンの数は最大、ゴルオダスも基本的に強化の方向か……大丈夫なのか?」
一応こちらのレベル設定としては大きく分けて三つの案があり、一つ目が騎士達が参戦するという内容で、プレイヤーが何もしなくても勝てるかもしれないという甘々設定だ。
とはいえこれはいくら何でも難易度が低すぎると早々に没になったんだが、続く第二案は普通のレベルだ。
ちゃんと戦えばA評価かB評価、頑張ればS評価が出るかもしれないという難易度だ。
この辺りが一般的なゲームの難易度なんだが、井上が採用したのは一部の頭がおかしいプレイヤーに合わせた最高難易度で、こちらの想定していない珍事が起きるか、全員が軍隊並みの統率のもと戦えばA評価、どう頑張ってもBかCという頭のおかしい難易度だ。
「需要と供給よ、もとから皆で協力きゃーやったーなんて、誰もHCP社に求めていないでしょ?」
「まあ、そうかもしれんが…」
「むしろバッドエンドになるくらいが丁度良いんじゃないの?今時そういうゲームも少ないし、もういっその事まともに剣とか槍が通じない硬さにして……後は……」
そのあと井上の熱弁を聞く事になり、そのまま第二エリアの準備作業の指示を出したりと、諸業務に忙殺された。
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本社としても日本支社の人員の少なさには前々から思うところがあったようで、増員についての話はとんとん拍子に進み、とりあえず他支社から助っ人を送り、その人材で繋いでいる間に新たな人材の募集をかける事になったようだ。
俺はその面接のスケジュールなどを調整しつつ、本社から追加で空輸されてきた機材がサーバールームに搬入され、設置されていく様子を眺めていた。
ほぼ即日に近い形でAI管理や保守要員の人数も増加、データを直接弄る権限を持ったプログラマーも1人追加された事で、これでやっと初期メンバーも一息入れる事が出来る。
「カトリーヌ・ポルトーで~す、よろしくネ!」
各メンバーの紹介があり、皆の前で明るくポーズをとるのは、アメリカ支社から日本支社に転属になった金髪碧眼の女性プログラマーだ。
何でもフランス系アメリカ人だそうなんだが、血筋を辿ると色々と多国籍らしい。その中には日本人の血も少しは入っているとの事で、日本の文化に興味があり、来日のために日本語を勉強していた事も相まってこの度日本支社勤務になったようだ。
「わーよろしくーって、皆暗~い、やっと人員が増えたのよ、喜ばなくちゃ」
これでやっと一息つけるんだが、いきなり他所からやって来た助っ人を手放しで喜びはしゃいでいるのは井上くらいで、他の連中は戸惑ったようにパチパチと歓迎の拍手をしていた。
国際化云々と叫ばれ一世紀以上、金髪碧眼というのも珍しくなく、プログラマーというのも電脳世界の広がりとともに男女の比率差は無くなってきているので今時は珍しくもない。
そういう意味でおもいっきり洋風の容姿を持ち、女性でプログラマーというポルトーの存在はそれほど目を引くものでもなかったんだが……ただその服装がちょっと酷かった。
「どうも…」
井上に促され、硬い表情で返事をしたのは律儀な高橋くらいで、大半のメンバーは何となく見てはいけない物でも見ているような顔をして、ポルトーから目線を逸らしている。
「ポルトー、その、なんだ、確かにうちの会社に服装規定はない事になっているが、その格好はどうなんだ?」
「似合ってマせん?」
ビキニにホットパンツスタイルという「お前会社舐めているのか?」と問いただしたくなる服装をしたポルトーは、大袈裟なゼスチャーを交えながら服装を示してみせた。
それだけでボインとおっぱいが跳ねて、小さなビキニから零れ落ちそうな巨乳の圧力に俺は気圧されかける。
しかもホットパンツは腰履きでボタンを外しており、一見下着は履いていないように見えるという……とにかく目のやり場に困るからちゃんとホタンは止めて欲しい。
このあまりにもな格好に女性に免疫のない中村は赤くなって横を見たままだし、田中に至っては「プログラマーですか?では自分とは関係ないですね」と、サーバールームの人員と交流を図ると言って逃げ出してしまった。
「う、う~ん…」
これが完全に俺の部下というのなら「明日からは普通の格好をしてくれ」と言えるんだが、他支社からの助っ人であり、ただでさえ今回の件で日本支社は白い目で見られているというのに、そんな状態で他支社の人間と揉めるのは避けたかった。
しかも仕事が出来ないとかいう業務上の理由ではなくて、服の露出が多いから何とかして欲しいなんて本社に言うと……まあ俺の方が問題視されるよな。
「日本の夏ってジメジメして熱くないデすかー?ベリーホットネ!」
「あーわかったわかった、とにかくポルトーは……そうだな、高橋が面倒を見てやってくれ、同じプログラマー同士だし、同性だと色々と都合がいいだろう」
部屋の温度設定はちゃんとしているんだがなと内心ツッコミをいれつつ、どうせ本格的な増員の前の助っ人要員だ、俺は事を荒立てないようにしようと高橋にすべて丸投げする事にした。
その丸投げされた高橋からは「は?」みたいな顔で凝視されてしまったんだが、プログラマーという業種上任せるとしたら中村か高橋で、中村がどう見ても女性に免疫のないタイプだったので、ここは同性である高橋に頼むしかない。
「OK、よろしくネ、タカハシ!」
「はい…」
スキンシップ過多なポルトーにいきなり抱きしめられ、高橋は何とも言えない死んだ魚のような目をしていたんだが、自分が適任である事は理解しているようで、不承不承というように頷いた。
そんな感じで色々と問題が増えていっているような気がするんだが、俺はスケジュールを頭の中で組み直しながら、皆に指示を出し始めた。




