183:第一エリアクリアです
どうやら戦勝会を開催する事は大々的に発表してしまっているせいか中止にする訳にもいかず、パーティーは続けられるようですね。
会場のあちこちでは興奮冷めやらぬといったプレイヤー達が襲撃について話し合っており、後始末のために騎士達が慌ただしく動いていました。
なんでも熊のぬいぐるみの経験値が結構よかったようで、急なイベントでしたが好意的に捉えている人が多く「流石ブレヒロ、勝ったと思っても油断ならない」とか「子供の声だったけど、なんだったんだろう」といった感じですね。
中には私が壁の中に取り込まれる所を見ていたという人もいて、その人達の話にはキリアちゃんの事が出てきていたのですが、今のところは謎の人物という扱いのようでした。
そんな話を聞きながら、私は外部ネット経由で式典の様子を配信していた人の動画を見ていたのですが……自分の失態が動画にされ、それが結構な人数に視聴されているというのはなかなかの羞恥プレイですね。
思い出すと頬が熱くなるのですが、とにかく私はボロボロになったドレスを交換し、お城の人にシャワーを借りてから、スッキリしました。
ただ何かもう1人では物足りないと言いますか、キリアちゃんの華奢な体を思い出してしまうのですが……ムラムラしてくるのであまり思い出さないようにしておきましょう。
因みに襲撃してきた熊のぬいぐるみ達がノックバック攻撃を多用してきていたので、意外とドレスや礼服を破いたという人が多かったのですが、代金の請求は無いとの事です。
数が多いので結構な出費の筈なのですが、王様としては度量の大きいところを見せたいという理由や、ゴルオダスとの戦いに勝った戦勝会での盛り上がりに水を差したくないという考えがあるようなのですが、そんな事を考えているゲームのNPCというのは相変わらずよくわかりません。
どう考えても無駄な技術が使われているような気がするのですが、協賛企業の中に電脳系を開発している会社も混じっていたような気がしますので、そういう会社のテストベッドにでも使われているのでしょうか?
「ぷ?」
「いえ、何でもありません」
考え事をしていると牡丹が不思議そうに見上げて来たのですが、どうやら体調不良は落ち着いたようですね。
これはあの異空間に適応するためにキリアちゃんが付与してくれた力が関係しているのだと思うのですが、落ち着いてから改めてステータスを確認してみるとパッシブスキルが一つ増えており、【人外化】というスキルが増えていました。
このスキルは文字通り所有者を人外に変貌させる力があるようなのですが、もとから人外種であった私の場合は種族値の増加と言いますか、補正面での強化という方向で影響が出ているようです。
つまりより『レッサーリリム』らしくなったという事なのですが、これ以上『レッサーリリム』になったらどうなるのでしょう?
心配ではあるのですが、これを外すと牡丹が体調不良になるので外す訳にもいきません。
これは私の推測になるのですが、牡丹に悪影響を与えていたのは『翠皇竜ゴルオダスの怨念』のデバフ効果で、倒した魔物の呪いか何かなのでしょう。
その状態で私が【人外化】する事で魔属性が強まり呪いが中和されたといいますか、同調するようになり無効化されたのだと思います。
まあすべては憶測ですが、とにかく私は新しいドレスに着替えると、2人との待ち合わせ場所であるダンスホールに戻ってきたのですが……そこにはグレースさんの姿は無く、ヘラヘラと笑うスコルさんだけがいました。
「あらユリちー、今度もまた刺激的な恰好で」
今私が着ているのは一見するとシンプルなオフショルダーの白いワンピースドレスなのですが、胸元を隠すように巻かれた布地はアンサンブルになっており、布面積制限をクリアするためにその下は大胆に開いて谷間が見えています。
その辺りを目ざとく見つけたスコルさんはニヤニヤと笑っているのですが、反応したら負けですので軽く笑って流しましょう。
「ありがとうございます、それよりグレースさんはどうしたのですか?」
料理を取りに行っているという感じでもないので辺りを見回してみると……居ました。
何故か柱の陰からこちらを窺うようにチラチラ見てきているのですが、170近い身長の女性がやや猫背の姿勢でこちらを見てきているというのはなかなか目立ちますね。
因みにグレースさんも今日はドレスを着ているのですが、裾には凝った造りの透かしが入っている白いシスター服といった感じの清楚な衣装で、体にフィットする立体製法で胸が強調されて揺れています。
凝った編み込みの入った髪にはさり気ない装飾品が散りばめられキラキラと輝き、人目を引くような美人なので周囲の人達が声をかけたそうにしているのですが、その動きが時々奇抜なので声をかけづらいようですね。
「あーあれは……ほら、ユリちーってちょっと前にまふまふと一緒に動画録っていたでしょ?あの時イチャイ……仲良くしていたのが羨ましいのよ」
「何でバラしちゃうんですか!?」
あっさりと秘密をばらされたグレースさんは叫びながらスコルさんに詰め寄るのですが、詰め寄られたスコルさんは悪びれもせずにテヘペロと笑います。
「おっと、おっさん口が滑ったわーごめんね~」
どう考えてもワザと漏らしたっぽいのですが、ガクンガクンとグレースさんに胸元を掴まれ揺すられているスコルさんは、私に向けてウィンクをして見せました。
「そういう理由だったんですね」
いきなり距離をとられ始めたので何事かと思っていたのですが、まさかそんな理由だったとは、スコルさんに教えられるまでわかりませんでした。
「あら何、あたしの話?」
そんな事を話していると、タイミングよくやって来たのはファンの人を大量に引き連れたまふかさんで、急な本人の登場に周りの人が騒めくのですが、まふかさんはどうやら私の様子を見に来たといいますか、連れ去らわれた私の事を心配して来てくれたようですね。
「はい、グレースさんがまふかさんの配信を見ていたという話を」
隠すような事でもないので掻い摘んで話すと、まふかさんはフフンと自慢げに笑いました。
因みにまふかさんは装飾を散りばめた黒色のマーメイドドレスを着ており、同色のロンググローブという恰好だったのですが、人外部分を【収納】した人間姿のまふかさんは初めて見たような気がします。
ドレスを着るのにデフォルメされた狼の手足ではバランスが悪いと思ったからだと思うのですが、こうやって改めて人間状態のまふかさんを見てみると……手足はスラっと長く、筋肉のつき方も均整がとれていて良い体をしていますね。
「ねえ変な空間に引きずり込まれていたけど、ユリエルちゃん大丈夫だった!?って、うっわ、まふまふだ!」
私の姿を見つけてやって来たのはナタリアさんで、どうやらキリアちゃんに引きずり込まれたところを見ていたようですね、心配半分興味が半分という様子で話を聞きにきたようなのですが、近くにいたまふかさんに驚いて足を止めます。
「大丈夫だったぁ~?」
遅れて人混みを抜けてやって来たのはタプンタプンと胸を揺らすヨーコさんで、その後ろから知った顔が何人かやってきます。
「おー天使ちゃんとまふまふがいるっす」
「ちょ、ちょっと待て、まだ心の準備が…」
トトトと器用に人の足を避けて駆け寄って来たエルゼさんと、それにつれられてやってきたティータさん。
「あの小さい子の事だけど、何だったのかな?」
「ユリ姉大丈夫だった!?」
情報収集のために来たシグルドさんと、心配そうに駆け寄ってくる桜花ちゃんと、何か急にわちゃわちゃしてきましたね。
その後モモさん達が大丈夫だったのか尋ねてきたり、色々な人に話しかけられたり、ダンスまで踊らされる事になったのですが……戦勝会は概ね楽しいパーティーとして幕を閉じました。
※これで第一エリアクリアとなります。幕間を挟んで第二エリア開始なのですが、閑話を挟むかどうしようかちょっと悩み中です。
調整作業もあるので少し投稿頻度が安定しなくなるかもしれませんが、出来るだけのんびり上げていきたいと思います。
※因みにまふかさんが最初式典に参加していなかったのは、MVPに入らなくて悔しかったからです。
グレースさんはとある理由でまふかさんを見張ったりしていて、そして騒ぎがあったのを聞いてから駆けつけていました。




