176:戦勝会の表彰式
式典に参加するプレイヤーが揃い、私達が案内されたのは壁と天井が一体化したようなアーチ状の屋根を持つ、目の覚めるような赤い絨毯が敷かれた大広間でした。
セントラルライド城はどこも豪華絢爛といったまさに王城といった感じなのですが、この部屋の調度品は品よく纏められ、さり気なく施された意匠が壁に飾られたセントラルライドを示す光と十字の旗を強調しています。
そんな部屋の中、道を示す様に両脇に並ぶのは芸術品のような甲冑を身に着けた騎士達と、今回の式典を見に来た400人近いプレイヤー達の姿でした。
プレイヤーの数が結構多いような気がするのですが、参列者の中には桜花ちゃんやレミカさん、ナタリアさんやヨーコさん、ティータさんやエルゼさんなどの知り合いの姿も多く、大半はMVPに選ばれたプレイヤーの友人達といった感じなのでしょう。
勿論中にはあからさまに野次馬といった様子の人がいて、面白半分に騒いでいたりするのですが、賑やかなのは今回表彰されるプレイヤーの方も同じですね。
30人中今回の式典に出席したのは21名、これだけの人に見られているという事でガチガチに固まっている人や、はしゃいでいる人、「恐悦至極」とR Pに浸っている人と多種多様ですね。
そしてこれだけいるともうMVPというより戦績ランキングと言った感じなのですが、そう考えるとなんとなく並んでいる順番がポイント順になっているような気がしますね。
どちらが1番なのかはわかりませんが、左前から数えるとダンさんが三番目、モモさんが十一番目、スコルさんが十四番目で、シグルドさんが20番目、そしてそのシグルドさんの隣、一番最後が私でした。
グレースさんもMVPに輝いていた筈なのですが、姿が見当たりませんね。
フレンドリストを見る限りでは繋いでいるようなのですが、人見知り気味なところがありましたから、もしかしたら式典は辞退したのかもしれません。
とにかく私は案内人の指示に従い部屋の中央に進み出て、シグルドさんの横に並ぶのですが、私が謁見の間に入ると参列席から野次が飛びました。
「天使ちゃーん!!」
ピューと口笛も吹かれ、ドッと笑うようなざわめきが起こるのですが、これは結構恥ずかしいですね。
声を掛けてきたのは知らない男性プレイヤーだったのですが、視線が集中した事で感覚がチクチクして落ち着きません。
何時もの『サルースのドレス』ではないので蔦の感触は無いのですが、少し体が火照っているような感じがします。
「ぷ…」
その野次に牡丹は何とも言えない顔をしていたのですが、私はそのほっぺをプニプニする事で気を紛らわせました。
「相変わらずの人気よね~」
周囲が騒がしいので少しくらい話しても大丈夫だと考えたのでしょう、左斜め前に並んでいたスコルさんはそんな事を小声で言いながらウィンクをしてきたのですが、隣のシグルドさんが苦笑いを浮かべていました。
「そうだね、でもこんなに可愛い姿で現れたら声をかけたくなる気持ちもわかるかな?」
スコルさんに話を合わせるシグルドさんなのですが、その目はもう完全に七五三とかで着飾った孫達を見るような目をして微笑んでいます。
「あ、それおっさんが先に言いたかった奴ー、あーもう、色々あって言い逃しちゃったじゃない、ユリちー綺麗よー、後でハグしてくれない?」
「嫌です」
2人には笑顔でドレスの事を褒められているのですが、シグルドさんとスコルさんでは受ける印象が全然違いますね。
「シグルドさんもとてもお似合いですが、着慣れているのですか?」
そんなやり取りを聞きながら笑うシグルドさんは、何時もの軽鎧スタイルではなく金刺繍の入った騎士服といったコーディネートなのですが、体格が良いからかそれがまたよく似合っているのですよね。
あまりこういう場にも動じた様子がないですし、着慣れているのかと思って聞いてみたのですが、どうやら違うようでした。
「そうでもないよ、そもそも僕は現実だと和服派なんだけど、TPOに合わせて無理をしているんだ……だから少し不安だったんだけど、変な所はないかな?」
「流石に紋付き袴なんて着ていたら浮くからね」と笑うシグルドさんなのですが、金髪碧眼の王子様スタイルのシグルドさんがそんな物を着ていたら確かに悪目立ちしますね。
「大丈夫だと思いますよ」
「そそ、似合っているわよ、まるで王子様みたい、ヒュー」
「ありがとう、2人にそう言われると心強いよ」
私達はそんな会話をしていたのですが、不意にキリアちゃんが「また後で」と言っていた事を思い出し、私は周囲を見回してみたのですが……その姿はどこにもありません。
てっきり参列しているのかと思っていたのですが見つからず、私がその姿を探していると、スコルさんが首を傾げてみせました。
「どうったの?」
「キリアちゃんの姿が見えないと思いまして……そういえばやる事って何だったんですか?」
折角その話題になったのだからついでに聞いてみたのですが、スコルさんは私の言葉に目を丸くしてみせました。
「あれーユリちー気付いてなかったの?んーそれじゃあ言わない方が楽しめると思うからおっさんは黙っておく事にするわ、ま、そのうち分かるんじゃない?」
「どういう事ですか?」
さっぱりわからないのですが、スコルさんは「いいからいいから」と胡散臭い笑顔で流してしまい、答えは教えてくれそうにありません。
「…2人とも、もうすぐ始まるみたいだよ」
そんな事を話しているとシグルドさんがそっと教えてくれたのですが、彼はそう言うと前に向き直り、私達もそれに倣って前を向きます。
まだ周囲はザワついていたのですが、これだけのプレイヤーがいる中で完全に静まりかえるのを待っていたら時間がどれだけあっても足りませんからね、始める事にしたのでしょう。
そうして隣の部屋から侍従を連れて現れたのは、金の王冠と豪華なマントを身に着けた180センチ近いお爺さんで、年季の入ったグレーの髪をオールバックに撫でつけ、立派な髭をした好々爺といった人物です。
昔は歴戦の勇士だったと言われても頷けるほどの立派な体躯をしているのですが、流石に寄る年波には勝てず筋肉は落ちたようなのですが、それでもその歩みによどみは無く、力強さがありますね。
この人がセントラルライドの現国王、アルバード14世なのですが、国王陛下は謁見の間の一段高くなった王座の前に立つと、気軽な様子で私達に向けて話し始めました。
「諸君、まずはあの憎きゴルオダスを倒してくれたことに対して礼を言おう」
そんな王様の言葉から始まった式典にリハーサルはなく、中にはウケ狙いでふざけるプレイヤーもいる様な状態ですからね、内容自体は誰にでもわかりやすい簡単なものでした。
流れとしてはまず王様に付き従っていた従者がプレイヤーの名前を呼び、呼ばれた人は前に出て一言二言お言葉を貰い、セントラルライドの国旗の入ったコイン型の勲章を受け取り、また元の場所に戻るだけです。
中には手足が同時に出る人が居たり、演劇じみた動作で周囲を沸かせる人もいたのですが、始まってしまえば式典はスムーズに進行していきました。
後この勲章はかなり小さな物ではあるのですが、正直に言うと邪魔になるだろうという事で、ブレイカーズギルドに持って行くとギルドカードと統合してくれるそうですね。
何でもギルドカードの端に模様が入るらしく、功績を立てていくとまた別の模様が入り更新されていくようで、これはブレイカーズギルドのランクとは別の国への貢献度といった感じなのでしょう。
今の所は名誉賞以上の物ではないようなのですが、もしかしたら後々何かしらのイベントを発生させたりするのに必要になって来るのかもしれません。
因みに今回の式典に参加していない人達は、ギルドカードを『上級ブレイカー』に更新した時点で付与されるようで、どうしても外せない用事とかで参加できなかった人も安心という仕様らしいです。
そんな説明がされながら順番に表彰され、勲章が授与されて行くのですが、控室に居た3人のうちで最初に呼ばれたのはあの壁にもたれかかり目を閉じていた男性で、ジョン・ドゥさんというらしいですね。
名前がちょっとふざけた感じの人なのですが、納品方面で活躍した人のようで、グリーンベリーの納品が一番多かったようです。
「貴殿の貢献により見事ゴルオダスを引きずり出すことが出来た、その功績をもって、この聖光章勲八級を授与しよう」
名前を呼ばれても無言でスタスタと所定の位置に立ち、王様の言葉にもどこかつまらなさそうに無言で頭を下げるのですが、勲章自体は普通に受け取り元の場所に戻っていきました。
次に呼ばれたのは七番目のあのイライラしていた女性で、カナエさんと言うらしいのですが、どうやら対空兵器の作った数での表彰のようですね。
「貴殿は討伐の為の兵器をよく作ってくれた、その活躍をもって、この聖光章勲八級を授与しよう」
「ありがとうございます」
始まってしまえばどこか生真面目な様子で勲章を受け取っていたのですが、もしかしてイライラしていたのは単純に長時間待たされていたからでしょうか?
そう思えるほど落ち着き払った様子で勲章を受け取り、まるで角度を計算しているようにピシッと頭を下げていました。
そして最後に呼ばれていたのが控室で寝ていた女性で、シノさんというらしいですね。
呼ばれた順番は十八番目、魔法ダメージトップだというシノさんの名前に引っ掛かりを覚えたのですが……私が引っかかった理由を思い出す前に、シノさんは王様の前に進み出ていました。
相変わらずどこか眠そうなフラフラとした足取りだったのですが、王様の前に立つと興味深そうに辺りをキョロリと見回し、大きな欠伸をしています。
その若干不謹慎ともいえる態度に騎士達が難しい顔をしていたのですが、シノさんは特に気にした様子はないようですね。
王様もそんな態度に微かに苦笑いを浮かべたようなのですが、ブレイカーとはこういうものだと思われているのか、そのまま進行するようです。
「空を飛ぶ奴らを落とすのに、貴殿の魔法の力には大いに役に立った、その功績を持って、この聖光章勲八級を授与しよう」
「ありがとー」
厳かな場面から飛び出てくるどこか眠そうな口調には気が抜けるものがあったのですが、その独特なイントネーションのある声を聞いて、私はシノさんの事を思い出しました。
といっても別に知り合いであったとかそういうのではなくて、単純に知っているゲームの配信者だったというだけですね。
ブレイクヒーローズの配信はしていなかった筈なので少し驚いたのですが、シノさんが主に配信しているジャンルはクソゲー寄りの高難易度ゲームですからね、ブレイクヒーローズをプレイしていてもおかしくはありません。
因みにシノさんのチャンネル登録者数はまふかさんの二十分の一程度で、内容も知る人ぞ知ると言った感じなのですが、P Sでいうとシノさんの方が断然上です。
面白い攻略方法を試している事もあり、私も時々参考にさせてもらいましたし、確か別のゲームでは顔を合わせた事もあった筈です。
アバターを使い回す人でもないですし、シノという名前も単純でどこにでもある名前なので最初はわからなかったのですが、その特徴的なイントネーションと声質を聞いた限りでは、シノさん本人で間違いなさそうですね。
そしてそんな風に私がじっくりと見ていたからでしょう、シノさんはその視線に気づいたようにこちらを向いたかと思うと、「にしし」と笑って元の位置に戻っていきました。
そんな感じで控室に居た3人の授与も終わり、ガード率トップのダンさん、指揮指導のモモさん、誘導攪乱率トップのスコルさん、ワイバーン討伐数トップのシグルドさんと、知り合いの皆さんも間々に呼ばれていたのですが、皆さん如才なく勲章を受け取っていました。
まあスコルさんの場合は参列席のあちこちからブーイングが飛んでいたのですが、きっとそれが平常運転ですね。
そしてシグルドさんが勲章を受け取った辺りで「そろそろご準備を」と案内の人に声をかけられ、最後に私の順番が回ってきました。
※参列者を少し修正しました(3/8)。




