173:戦勝会へ
急ぎセントラルライドに戻って来た私達は、スタミナ回復ポーションを飲みながらお城に向かいました。
時間を空けた事で人混みは緩和されていたのですが、王都なだけあって人の多さは他の町とは比べ物にはならないですね。
ただでさえ人通りが多い中、ブレイカー達のパレードについて行っていた市民達が「あの人は強そうだった」とか「見事ゴルオダスを倒してくれた」とか興奮気味に話しながら引き返してきており、私はそのごった返した流れに逆らいながら、王城を目指す事になりました。
そんな人混みの中を逆走しているとたまに私達の事を見てくる人が居るのですが、翠皇竜との戦いで【隠陰】スキルが上がったおかげか、私の状態が人間形態であり、相手がNPCであればすぐに視線が外され、魅了が発揮されている感じもありません。
これでやっと町の中の移動が楽になりそうなのですが、今はスライム形態になった牡丹をお腹の前で抱えた状態で移動していますし、目立つと言えば目立つのですよね。
それにスキルが絶対という訳ではありませんし、周囲をよく見ている人には見つかるようですし、目立つ事をすればすぐに騒ぎになるのでしょう。
とにかく、【隠陰】以外にレベルが上がったスキルは【魔人の証明】【腰翼】【魔力操作】【片手剣】【筋力増強(微)】【見切り】【魔力視】【鞄】【ランジェリー】【投擲】【キック】【高揚】【尻尾】【短剣】【アピール】【ダブルアタック】【扇動】【テンプテーション】【魅惑】【スタミナ増強(微)】【感覚上昇(微)】【テイミング】【魅了】【蠱惑】【意思疎通】【収納術】【精神対抗】と、エリアボス相手だから経験値が良かったのか、戦闘スキルと集団の中に居た方がスキルレベルの上がりやすいものを中心に上がっていますね。
クリア報酬のSPもありますし、翠皇竜との戦いで便利そうなスキルが幾つか憶えられるようになったのですが、どんな変な効果があるかわかりませんからね、新スキルを覚えるのは戦勝会が終わった後にしましょう。
「ぷー?」
「美味しいというよりも、そういう味かと?」
そんな事を考えていると、一緒にスタミナ回復ポーションを飲んでいた牡丹が「これの何が美味しいの?」と首を傾げながら聞いてきました。
牡丹は回復のために飲んでいるというより、私がよく飲んでいるから飲んでみたいという感じなのですが、そういう理由だから、回復量より味の方が気になったようですね。
とはいえ、私は飲んだ時のわかりやすさ重視でエナジードリンク味を選んで買っていたので、特に美味しさは重視していないのですよね。
なので「美味しいの?」と聞かれると困るのですが、牡丹は私と一緒にポーションが飲めるだけで嬉しいようで、瓶を咥えながら腕の中でポヨポヨと揺れていました。
「牡丹…」
そんな所で揺れられると歩きづらいですし、胸まで揺れて少しだけ周囲の視線を集めてしまいます。
ここまで【隠陰】スキルが効いていると、イビルストラ状態にして身に着けていた方が目立たないとは思うのですが、まだ少し牡丹は不安定なままなのですよね。
「ぷー…」
あれだけ牡丹が必要だという事を教えてあげたので少しは落ち着いたようなのですが、どうやらよくわからない不安は続いているようで、モゾモゾする感じらしいです。
こんな状態の牡丹を身に着けているとどんな悪戯をしてくるかわかりませんし、まだスライム形態の方が安心なのですよね。
牡丹がこうなってしまった原因として考えられる事としては、【テイミング】スキルのレベルが上がって自我が芽生えてきているのか、そうでなければ『翠皇竜ゴルオダスの魔核』と『翠皇竜ゴルオダスの怨念』の二つが悪さをしているのではないかという事くらいなのですが、怨念の効果なのでしょうか?
二つ一緒に持ち歩いていると変な黒い靄も流れてきていますし、何か対処法を考えないといけないような気がします。
いつも通り一時的にW Mに置こうかとも考えたのですが、剣の材料に出来るかどうかドゥリンさんに判断してもらいたいので変に売れたら困りますし、牡丹も少しは我慢できるようなので、戦勝会が終わったら考える事にしましょう。
こうして色々と後回しにしているような気がするのですが、肝心の戦勝会の方はと言えば、万単位のプレイヤーが一気にお城に詰めかけている状態ですので、すぐに始まるという訳ではないようですね。
こうなる事を見越して運営もある程度余裕を持ったスケジュールを組んでいたようなのですが、ネットの掲示板やら速報情報からは阿鼻叫喚の様子が実況されていました。
戦勝会の流れとしてはまず、お城の入った所で受付をして、パーティー衣装ともいえる正装に着替え、それからMVPプレイヤーと一般プレイヤーに分かれて、それぞれイベント会場に向かってというシンプルなものです。
王様の言葉を賜る式典には一般プレイヤーも参列が出来るようで、そちらに参列するか、普通のパーティーに参加して食事やダンスを楽しむかはプレイヤーの自由と、一見すると何も問題がないように思えるのですが、参加しようとしているのは万に近いプレイヤーなので色々と混雑しているようですね。
特に問題になっているのは衣装を着替えるというところで、これは何時もの服装ではパーティー感が薄いからという配慮なのでしょうけど、王城に揃えられているドレスは部屋を埋め尽くすほど多種多様、基本的には世界観に合わせた物が多く、まるで体験型テーマパークのようなラインナップになっているのですが、中にはちゃんと現代風のドレスがあったり、HCP社と提携しているブランドの新作ドレスを着る事が出来たりと幅広く取り揃えられているようです。
しかもアクセサリーなども無料でレンタル出来るようで、一人一人にお城のヘアメイクさんやスタイリストさんがついて着飾ってくれるサービスがあるとなればどうしても時間がかかり、自分好みのドレスや宝石を求めて熾烈な争いになっているようですね。
デジタルデータなのですからと個人的には思わなくもないのですが、綺麗になりたいというのは基本的な欲求ですし、そういうのを抜きにしても、コスプレ感覚でアンティークなドレスに挑戦している人もいるようです。
そういう何重にも羽織るタイプのアンティークなドレスを選んだ人や、コルセットでギチギチに締めるタイプのドレスを選んだ人は更に着替えに時間がかかっているようで、カツラや帽子や小物まで選び始めると無限に時間が溶けるようでした。
とにかくそういう訳で色々と遅れているらしいのですが、遅刻する訳にもいきません。
私は少し速足気味に市民街の人混みを抜けると、薄い光の膜で覆われた、貴族街を囲う二つ目の城壁に到着しました。
ここはセントラルライドの最終防衛ラインとして設定されていた場所で、この壁には魔法の結界が張られていて、空から襲い来るワイバーン達を撃退していたようですね。
それだけ聞くと貴族だけを守っているのか?と言われそうなのですが、この壁の内側には騎士団の司令部もあったようで、そこが落とされたら人類は負けという布陣だったようです。
そんな重要拠点だったからか、戦闘終了後もピリピリした空気がまだ漂っており、見張りの騎士達が何重にも巡回していたのですが、門の所でギルドカードを見せると話が通っていたようで、今時珍しい紙の束という帳面を確認すると「おお、活躍したブレイカーか」と感心したように頷き通してくれました。
「よし、問題ない!ただしそのスライムは大人しくさせておくように、何かあった場合の命の補償はしかねるぞ。それから、明日からはちゃんとギルドカードを更新してくるように」
との事で、テイムモンスターとしてちゃんと認識されている牡丹が変な動きをしたら容赦なく叩き斬るぞという事と、王様の言葉がある初日以外はギルドカードを『上級ブレイカー』に更新してから来て欲しいとの事ですね。
まあ初日が免除されるのはお城の内部で渋滞が起きているのと大体似たような理由で、戦いに直接参加した人だけでも7千人近く、ウミル砦で生産していた人も入れたら万を越えていますからね、この人数が一斉にギルドカードを更新するためにブレイカーズギルドに押し寄せたら受付がパンクしかねないという物理的な理由があるのでしょう。
そういう訳で比較的簡単な手続きで二つ目の門も通過する事ができたのですが、ここからは貴族街という事で建物が豪華になり、縦に伸びる傾向のあった市民街と比べると横に伸びている感じなのですが、こちらもバリケードや土塁などの戦時仕様が色濃く残っており、完全武装の騎士達がバタバタと行き交っていました。
翠皇竜討伐戦が終了するまでは通行規制が敷かれていた事もあり、第二城壁内側の情報はあまりありません。
一応セントラルライドで情報収集をしていたプレイヤーの話では、貴族街には国営の大図書館があるという事だったのですが、大通り沿いにはそれっぽい建物は見当たらないですね。
この辺りはいかにも高級住宅街と言った様子の場所で、見える範囲の道幅の大きな通りや広場には、騎士達が野営をするためのテントが数多く建てられており、武器や物資を貯めた臨時の小屋が建てられているようでした。
その蓄えられた物資や畳んだテントなどは王城に運び込まれているようなのですが、何かあるのでしょうか?
その辺りの動きはよくわからないままなのですが、ここまで来て遅刻したら馬鹿らしいですからね、とにかく今は大人しく王城に急ぎましょう。
※何故かちゃんと味があるポーション。市販品にも数種類の味があり、基本薄められたポカリっぽい味とか、薄められた**シリーズみたいな味で、正直美味しい物ではありません。
効能が増すたびに薬味が増していく仕様なので、一番飲みやすいのは初心者用ポーションです。
ユリエルの場合はHPポーションは果物系か清涼飲料水系、MPポーションはポカリとかスポーツドリンク系、スタミナポーションははエナジー系と大体系統別に分けてその時の気分で買い替えています。
※NPCから見たテイムモンスターの認識は「ブレイカーの中にはモンスターと心を通わせる者もいるらしい」という感じです。まあよほど上位種を引き連れていなければ呼び止められる事もありません。
※ユリエルの現在のスキルがどうなっているかは中途半端に長いの、第二エリアに移動する前のリザルト画面的に別枠を用意しようと思います。




