172:魔光剣の回収と確認
私はまず人気のない路地裏でレッサーリリム状態を【収納】し、人間形態になりました。
その時一度牡丹が目を覚ましかけたのですが、まだウトウトしていいるようなので、このまま寝かしておいてあげましょう。
テイムモンスターも夢を見るのかムニャムニャと首元に擦り寄って来て少しくすぐったいのですが、牡丹も疲れているようなので少しくらいなら我慢しましょう。
とにかく次に私が目指したのはポータル広場で、ネットの情報では市民街の中央広場にある初代国王像がポータルとなっているそうです。
今は復興工事のために人が行き交う資材置き場になっており、人通りも多く、時折見ない顔である私の事を見てくる人もいたのですが、今は復興作業で人が行き交っている状態ですし、胸元にギルドカードを吊るしておけば特に絡まれる事もありません。
そのまま何時もの手順でポータルの開放をして、折角なのでセーブ位置を王都に移し、移動先は……人が居なさそうなプルジャの工房にしておきましょう。
そうして光に包まれ移動した先にはプレイヤーが2人居たのですが、こんな時に生産をしようとしているのは、あまり他人には興味が無いタイプか、マイペースな人なのでしょう、一度こちらを見て来たのですが、誰かが来た事を確認すると1人は軽く会釈しただけで作業に戻り、1人はそもそも何も言わずに作業に戻っていきました。
私はそんな2人の邪魔にならないように部屋の端に寄りながら、ポータルで移動した事で一緒についてきた魔光剣の状態を確かめます。
これは自分の所有アイテムはポータルの移動時について来るという仕様を使った回収方法だったのですが、ちゃんと手元に戻って来たようで安心しました。
戻ってくると言っても投げナイフなどの場合は使用されたと判断されるのか戻って来ないですし、今回の場合はどういう判定になるか少し心配だったのですが……大丈夫だったようですね。
まあ戻って来たと言っても、この状態だとロストしたのとあまり変わらないかもしれません。
というのも、移動して来たのは刀身の真ん中少し下辺りから完全に折れてしまった柄の部分だけで、刃先の方は耐久度切れにより消滅してしまっています。
もし柄の方も耐久度が0になっていたら武器自体が消滅していたのでギリギリ回収できたという事にはなるのですが、ここまで壊れているとちゃんとした修理が出来るかわかりません。
修理チケットを使えば直せるのでしょうけど、ゲーマーとしてはお金を払ってはい修理というのも味気なさを感じてしまいます。
勿論最終手段としてはアリだと思いますが、P Sではなくお金でゴリ押しというのは出来るだけ避けたいのですが……ここまで折れてしまった物を修理するとなると、品質がガクンと下がる事を覚悟しないといけないのかもしれません。
こうなると新しい剣に買い替えるか作って貰った方が早いのかもしれませんが、魔光剣クラスとなると、中ボスのレアドロップアイテムを使っているのでそう簡単に作り直せないのですよね。
(出来たら修理したいのですが…)
折角海嘯蝕洞までいってアイテムを集めてきましたからね、『海嘯石』か翠皇竜シリーズで何とかなればいいのですが、この辺りはドゥリンさんに相談してみないとわかりません。
最悪の場合は新造という事になりますが、第二エリアが解放されるかどうかというタイミングでのメイン武器の喪失は痛いですね。
とはいえ剣を庇って戦える状態ではありませんでしたので、気持ちを切り替えていきましょう。
当面の間は適当な市販品を使って、それでも無理そうなら修理チケット、若しくは潔く第二エリアで新しい剣を手に入れるのもいいかもしれません。
そんな事を考えていると、ピロンと公式から、牡丹のロスト条件に関する返事が返って来ました。
内容としては『スライムの状態でHPが0になるか、イビルストラ形態で耐久度が0になり核が完全に破壊されたらロストになります』との事だったのですが、『イビルストラ』に核なんてあったんですね。
そう言われてから、私は『イビルストラ』を外して魔力の流れを調べてみると、どうやらフードの内側、首の付け根の辺りに縫い付けられている小さな模様のような魔法陣が核になっているようでした。
『イビルストラ』の耐久度が0になった状態でこの魔法陣が完全に破損したらロスト扱いになるようなのですが、こんな所におもいっきり攻撃を受けた場合は、牡丹がロストする前に私がリスポーンしてしまいます。
条件の一つに耐久度が0になる事も含まれていますので、【修復】がある以上イビルストラ形態時のロストはそれほど気にする必要がなく、警戒すべきはスライム形態でのHPが0になりそうな時ですね。
咄嗟にイビルストラに戻ってもらい耐えるという方法が一番無難なのかもしれませんが、この辺りはちゃんと牡丹と相談して、勝手にスライム形態にならないように言い聞かせるしかありません。
「ぷいッ!?」
「んっ…」
そんな事を考えながら軽く核を擦ってみると、ウトウトしていた牡丹がビックリしたみたいに目を覚ましました。
それに合わせて【意思疎通】を通じてピリッとした快感がフィードバックして来たのですが、どうやらここは牡丹にとってかなり敏感な部分だったようで、ピリピリした刺激に目を丸くしたように牡丹が揺れています。
フード付きのケープモドキに、長い2本の前垂れが付いたイビルストラ形態のままピリピリと揺れている様子は、何か海月が踊っているみたいで少し面白いですね。
「すみません、起こして…ちょ、ちょっと牡丹…」
「ぷっい!ぷっい!ぷぅ…いぃぃ……」
私が面白がってそんな場所を触っていたものですから、牡丹は抗議するように二つの前垂れを使って胸をペシペシしてくるのですが、H Pは回復したもののスタミナは減ったままなのか、すぐにバテたように力尽きました。
「ほら、もう…ゆっくりと休んでいてください」
「ぷぃ…」
「そうする」という様に息を吐く牡丹なのですが、どうやら先程の刺激で完全に目を覚ましてしまったようで、どこかソワソワした様子で揺れ……何かを催促するように、紐暖簾のようになったケープ部分の細い触手が私の胸の先端を撫でました。
「ここでは駄目ですよ、人が……ん、牡丹」
近くに人が居ますからと言おうとしたのですが、伸びて来た触手は大事な場所を隠している蔦をほどこうとするようにサワサワと動いて、もどかしい刺激に息が漏れます。
一応牡丹も人が居るので手加減はしてくれているようなのですが、幾ら作業に集中していると言っても大声を出せばバレる距離にいますし、私は声を押し殺しながら、揺れる牡丹を持って一旦部屋から出る事にしました。
「ぷーー」
「バレたらどうするつもりなんですか?」
膨れる牡丹を叱る私なのですが、何か納得いっていない様子ですね。そんなに核に触られるのが嫌だったのでしょうか?
私はこれ以上牡丹の核を弄らないようにして、モジモジと揺れる牡丹を見ていたのですが……そういえばフードの中に入れてある『翠皇竜の魔核』はどうしましょう?
別に吸収されても良いと思って入れておいたのですが、牡丹が眠っている間は吸収されない仕様なのか、並んで入れられている『翠皇竜ゴルオダスの怨念』と共に黒い靄を発生させていました。
この二つは何か早く処分した方が良いような禍々しいオーラを発していたのですが、武器の修理に使うか牡丹のレベル上げに使うか、どちらが良いのでしょう?
「牡丹はどちらが良いですか?」
「ぷー」
牡丹が「欲しい」というのならあげようと思って聞いたのですが、「どっちでもー?」という感じで、牡丹は牡丹で私に任せると言った様子です。
「ぼ…ひっんぅッ……こら、牡丹」
「何を不貞腐れているんですか」と言おうとしたのですが、言う前に牡丹がいきなり吸い付いてきて、身体がピクンと跳ねました。
まるでただの駄々っ子のようになってしまった牡丹なのですが、【意思疎通】を通して伝わってくる感情は「怖かった」というものです。
翠皇竜に食べられた時には死を覚悟して、そして目が覚めたらちゃんと私が居た事に安堵して、折れた魔光剣は牡丹の未来だったかもしれず、壊れて使い物にならなくなれば新しい物に変えられるのではないかという不安にちょっと暴走してしまっているようでした。
どうやら牡丹がウトウトしている時に魔光剣を新しい物にしようかと考えていた事が【意思疎通】を通じて伝わってしまっていたようで、不安定なまま赤ちゃん返りしてしまった牡丹が胸にむしゃぶりついてくるのですが、今の牡丹はイビルストラ形態のままですからね、端から見ると奇妙な触手の塊に襲われているようにも見える状況です。
こんな所を人に見られたらどんな勘違いをされるかわかりませんし、恥ずかしいどころの騒ぎではなくなるのですが……周囲に人の姿はないようなので、ホッと息を吐きました。
何時ものパターンなら、私の身体を知り尽くした牡丹に好き勝手にされてという場面なのかもしれませんが、私も牡丹の弱点を知りましたからね、ちょっとだけお返しをしてあげましょう。
「ん…ッ【てん、か…い】…つ、ここ、ですよね?」
「ぷぃぃッ!!?」
私の両手は牡丹に絡めとられ押さえつけられていましたので、まずは【尻尾】を【展開】して、生やします。
後は牡丹の一番弱い所に尻尾を滑り込ませ、強めに擦ってあげると……牡丹はピリピリとした刺激に動きを止めました。
まるで反撃される事を考えていなかったような様子の牡丹は、混乱して目をぱちくりさせている感じなのですが、だからといっておいたをする子に対して手を緩めてあげる訳にはいきません。
「大丈夫ですよ、牡丹の替えは居ません、むしろ絶対に無理をしないでください……ね?」
強く擦った後は一転して、今度は囁くように優しく一定のリズムで核を撫でてあげるのですが、それだけで牡丹はピクンピクンと小刻みに身体を震わせます。
そしてトロンと油断したところを、フードごと尻尾を絡ませギューッと強く絞り揉みしだいてあげると、面白いくらいビクンビクンと痙攣しました。
「ぷっ?ぷぃ!?」
自分の身体に何が起きているのかわかっていなさそうな牡丹なのですが、愛情に飢える駄々っ子には、ちゃんと愛しているという事を教えてあげなければいけませんよね?
「牡丹…」
「ぷ…ぷい!」
三勝一敗一引き分け、私は牡丹に大切な相棒である事を嫌という程教えてあげていたのですが……不意に戦勝会の事を思い出して、私達は慌てて身支度を整えセントラルライドに引き返しました。
※九条家の愛情表現は肉体言語に近いのかもしれません。




