17:猫耳帽子とバッグ類
まずナタリアさんが取り出したのは、膨らみの大きな、グレーのキャスケット帽でした。ウルフ頭部の皮を使っているからか、デフォルメされた猫耳帽子のような形状になっていますね。狼なのに猫耳帽子と言うのは少しモヤっとしますが、狼耳帽子という単語があるのかわかりませんので、暫定的にそう呼ばせてもらいます。
内側は柔らかめの革を使い、外には硬質な革が使われているという2重構造になっており、これは防具としての効果云々というよりも、ウルフ頭部の皮を帽子に加工するのが難しく、体裁をとるために外側に革を張り付けたといった感じです。ステッチが少しガタついていますが、それが逆に手作り感という味を作り出しています。
「大丈夫そう?調整できるように出来たらよかったんだけど…私の腕だとどうしてもね」
調整するベルトもボタンもなく、ただ被るだけの構造です。計測もされていないのでナタリアさんの目測だけで作られた物なのですが……促されるまま被ってみると、頭囲が少し緩いですが、深さはちょうどいいですね。帽子の耳の部分がちょうど角の部分と重なっており、サイズは誤差の範囲で納まりが良いです。ただ、被った時に少し変な感じがしますね。何かが塞がれているような、奇妙な感覚です。
その違和感が何なのかわからず帽子の位置を調整していると、ナタリアさんに心配そうな顔で見られてしまいました。
「どう?やっぱり何か変?」
「…いえ、大丈夫です。角が生えているせいだと思いますので、帽子のせいでは……どうですか?」
説明しづらい感覚だったのでその点は追求せず、私は2人に見せるように帽子に角度をつけ、ポーズをとってみます。
「わー可愛い!可愛いよユリエルちゃん。よかったーこういうの作るの初めてだったから心配したんだけど、何とかなるものね」
「…なんかワイのよりしっかり作られてない?」
「そりゃー骨を着飾ってもしょうがないでしょう?可愛い子は可愛い恰好をしなくちゃね!」
後ろから見るとまるで灰色のテルテル坊主といった様子の我謝さんは納得がいかないといったように首を捻っているのですが、ナタリアさんに一刀両断されています。
「結構無理を言ってしまったようなのですが、本当に手数料とかはよろしいのですか?」
角が隠せればどんな物でもよかったのですが、思いのほかちゃんとした物を作ってくれたので申し訳ない気持ちになってしまいます。
「いいのいいの、私も作っていて楽しかったし。それじゃあ次だけど、頼まれていたのは袋っていうことだったんだけど、じゃじゃーん、革のナップサック~」
上機嫌のナタリアさんは続けて革のナップサックを取り出します。大きさは4リットルくらいでしょうか?かなりシンプルなデザインの物なのですが、きちんとマチもあり、紐の部分は重ねられた革が使われています。
「流石にそのままだと持ち運びが不便でしょ?口を縛る必要もあったし、こうした方がいいかなって。あ、でも、手で持ちたかったら持ってくれてもいいし、好きに使ってくれたらいいわ。それで素材なんだけど、こっちは簡単に処理してまとめて入れておいたから、町についたら売るなり何なりして清算したらいいわ」
ナタリアさんのリュックから取り出されたのは、余った毛皮のロールや、ウルフの爪や牙、魔石もありますね。結構色々な物がナタリアさんのリュックから出てきたのですが、まだまだ入っていそうな気配ですね。もしかしたら何かしらの収納アイテムなのかもしれません。その手のアイテムはまだ一般では出回っていない物なので、βからの引継ぎ品なのかもしれません。
「本当ならもうちょっと大きな物がよかったんだけど、ユリエルちゃんの場合は羽もあるし、邪魔になりそうだから……という事で、こっちはお姉さんからのオマケね」
最後に出てきたのは小さなベルトポーチです。私の剣帯に取り付けられるようになっていて、小物などが収納できるようです。
「これは…ありがとうございます」
いたせりつくせりで申し訳なくなります。しっかりと頭を下げてお礼を述べると、ナタリアさんは照れたような、満足そうな顔でパタパタと手を振ります。
「あ、できたらスクショとっていい?」
「はい、もちろん」
「骨君も一緒に取る?両手に花よ?」
「いらんわ!どうせアバターなんて変えれるわけやし、リアルだとブ……ぐぅ!?」
「そーいうこと言っているとモテないわよ~君ぃ。女の子はね、いつでも綺麗になる権利があるのよ」
「あの、いきなり蹴るのはどうかと…」
ナタリアさんの蹴りが脛に入り、我謝さんが蹲っています。我謝さんには肉も何もついていないですからね、打撃に関してはダイレクトに伝わっているのかもしれません。
「いいのいいの、はぁ~一仕事終えたらお腹すいてきたわ。ユリエルちゃんともうちょっとお喋りしていたいけど、流石にそろそろお昼食べてくるわ」
「ぐ…じゃあワイももうちょっと耐性つけられへんか挑戦してみるわ。誰かさんが中途半端なもんよこし…たぁあ!?」
我謝さん、また蹴られていますね。どうやら2人はいつの間にか仲良くなったようです。
「はい、またどこかで」
角を隠せた事ですし、私はアルバボッシュを目指してみましょう。
「ええ、じゃあ、また今度ね」
「またなーウルフの借りがあるし、何かあれば呼びやー夜間で時間があったら手伝ってやるさかい」
という事で、ご飯を食べるために落ちるナタリアさんと、日光耐性を強化する我謝さんとは別行動です。
ちなみに他の人外プレーヤーさんの姿を見かけませんでしたが、どうやら私がいない時にお一人来られたみたいです。その人は大柄なゴーレムの方で、どうにも動き方がぎこちなく、建物の中にいるとあちこち体をぶつけて大変だったそうです。そのため外で体を動かしてくると出ていったきりとの事でした。私が戻ってきた時に辺りが散らかっていたのはそういう理由があったようですね。
後、ログインした時に感覚が研ぎ澄まされたように感じたのは、どうやら角から微量の魔力か何かが放出されているようで、それがレーダーのような役割を果たしているみたいです。常に角から何かが抜けていっているような感覚はそれが原因だったようで、たぶんですが、【魔力操作】が少し伸びていた原因もそのあたりにあったのでしょう。
認識できる範囲はそれほど広くなく、遮蔽物の向こう側もわかりませんが、認識面が強化されるのは嬉しい誤算です。
我謝さんも日光関連や痛覚関係が通常とは違うとの事でしたし、人外系プレイヤーは大なり小なり感覚が違うのかもしれません。この事が分かったのもナタリアさんが作ってくれた帽子のおかげです。被った時と被らなかった時の違和感の差からそんな予測を立ててみたのですが、大きくは外れていないと思います。
そんな訳で、折角作ってもらった帽子ですが、【魔力操作】や【魔人の証明】を伸ばすためにも偽装をする時以外は外しておきましょう。毛皮や各種下処理された素材、腰布が巻かれたナイフ、お肉等と一緒にナップサックの中へ入れておきます。
私の今の装備は、お腹を大きく出した服にミニスカート、腰羽の上に乗るようなナップサックに、剣帯の左には剣を、右には食べ物を入れたベルトポーチをつけたという恰好です。
改めて見直してみるとすごい恰好ですが、機能性があれば見た目は二の次という事にしておきましょう。とにかく、そのような装備を整えたところで、私はアルバボッシュに向けて歩き始めました。
※やっと始まりの町に旅立ちですが、工房周りよりフィールド難易度が下がるのであっとういうまに到着する予定です。
※誤字報告ありがとうございます(1/28)。