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161:布陣の穴

「諸君、よく集まってくれた!この度の翠皇竜(すいおうりゅう)ゴルオダスの討伐はセントラルライドの…いや!サンマウンドの命運を賭けた戦いとなる事だろう!!」

 私達プレイヤーの前に現れたのは、豪華な騎士甲冑に身を固めた黒い短髪に茶色い目をしたガタイの良い騎士風の男性で、王国騎士団所属であるとか、今回の作戦の責任者だとかいう説明が続くのですが、身も蓋も無く言ってしまえばこの人がワールドクエストの司会進行役(N P C)のようですね。

 一応彼の率いる騎士団も作戦に参加するのですが、精霊の加護の無い彼らは直接的な戦力にはならず、アイテムの運搬や治療に支援などといった裏方業務につくようで、騎士達に話しかけるとちょっとだけ回復してくれたり、消耗品を譲ってくれたりするようです。


 とはいえ、メタ的に言うと彼らがやられるとリザルト結果にも響くと思いますので、出来れば後ろの方で待機していてくれると助かりますね。そういう訳で彼らの事を頼りにする(前線に出す)より、賑やかし程度に考えておいた方が良いのかもしれません。


 因みに話に出て来た翠皇竜ゴルオダスというのはどうやら第一エリアのボスの名前のようで、数多くのワイバーン達を率いる悪知恵の働く個体だそうで、このネームドモンスターの討伐が私達の目標になるそうです。


 そしてここからはもう少し作戦に関係する込み入った話になっていったのですが、この辺りは公式から事前に発表されていた内容とあまり変わらず、簡単におさらいすると、外周部にあるトーチカの内部には対空兵器ともいえる旋回式の巨大な弩、投げ網を射出するような兵器や投石器などがあり、使用は自由という事です。

 撃ち出せる弾にも色々な効果がある物があり、その場にない物は近くにいる騎士に頼めば持ってきてくれるそうですね。

 適時利用して戦況を有利に運んで欲しいとの事なのですが、内側(祭壇側)に撃つ場合は同士討ちする可能性があるのでくれぐれも注意するようにという事です。

 まあこういう注意は、幾ら事前に説明があったとしても使うのは素人であるプレイヤー達ですからね、戦闘時の興奮もあるでしょうし、最悪の場合は頭上から矢や岩が降ってくる事を覚悟しておいた方がいいのかもしれません。


 後は祭壇の効果に関してなのですが、ワイバーンを誘引する以外にも、ブレスを防ぐ結界を張る装置にもなっている事や、結界内のプレイヤーには強化(バフ)が入る事などが説明されます。

 そして誘引効果があるという事はワイバーンが集まってくるという事でもありますからね、結界や強化を途切れさせないためにも祭壇の防衛をして欲しいとの事です。


 要するにタワーディフェンス要素のある戦闘なのですが、空からずっとブレスを吐かれ続けられたらプレイヤー側はどうしようもなくなりますからね、そんな事にならないようにするための対策という意味もかねた祭壇(寄って来る場所)なのでしょう。


 まあ私達の最終目標が翠皇竜ゴルオダスの討伐なので、祭壇が破壊されたからといってクエストが失敗になるという事でもないようなのですが、壊されるとワイバーン達が好き勝手に飛び回る事になりますからね、そうなるとブレスが飛び交う乱戦になる事が予想されており、安定して戦う為には祭壇を守った方がよさそうですね。


「以上、何か質問があったら言ってくれ!無ければ30分後に祭壇の魔法陣を起動する!それまで各自準備を済ませてくれ!」

 この辺りの説明は公式から発表がありましたので、皆さんある程度把握していたようで、大きな質問が出てくる事も無く、それぞれ準備に入りました。


 30分の準備時間というと長いような気がするのですが、これだけの人数(6~7千人)が一斉に動き出し配置につくのはなかなか大変で、辺りは(にわ)かに騒がしくなります。


「ユリエルはどうする?」

 隣にいたシグルドさんが剣の柄に手を乗せながらそう聞いてきたのですが、どうしましょう?


「そうですね…」

 改めて周囲の動きを見るのですが、やはり祭壇の防衛を重視した方が良いと考えた人が多いようで、近接攻撃組の大半は祭壇を中心に布陣するようですね。

 まあ下手に散開していると遠距離攻撃組の流れ弾を受けかねませんからね、固まった方が良いという判断なのでしょうが……人の動きを見る限り、主力はワイバーンの(ねぐら)のある南側に集まりそうです。


 集団戦に強いモモさん達や、まふかさん達のような有名配信者といった人達は撮れ高を求めて激戦区になりそうな祭壇南側に布陣するようですし、その声掛けにつられるようにして南側に人が集まりつつあります。

 反対に一番遠い北側にも人が集まっているのですが、こちらは少し(強さ)に自信がない人が集まっている感じですね。

 戦闘が始まったらどこに居てもあまり変わらないような気がするのですが、人が集まっているからとりあえず集まってみたという感じの人も多いようで、やる気が満ち溢れている南に行くのはちょっと怖いけど、人の少ないところはという初心者さん達も北に集まっているようです。

 そうなると自然と東西の防衛が手薄になるのですが、流石に防衛上の穴を残しておく訳にはいきませんね。


「私は東側の防衛をしようと思います」

 東西どちらが良いかと聞かれると、王都側である東側の方が何かあるのかもしれませんし、そちら側の防衛をする事にしましょう。


「それじゃあ僕は反対側の防衛をしようかな」

 一緒に戦えれば心強いのですが、飛び交うワイバーン相手の防衛戦となるとある程度戦力を均一に分散させた方が良いですからね、シグルドさん的には「背後は任せた」という事なのでしょう。


「わかりました、ご武運を」


「じゃあねユリ姉、ワイバーンなんてけちょんけちょんにやっつけちゃって!」

 桜花ちゃんは当たり前のようにシグルドさんについて行くようで西側の防衛に、ナタリアさんとヨーコさん達遠距離攻撃組は南側のトーチカに向かうようですね。


「それじゃあユリエルちゃん達も頑張ってね、流石に私達は乱戦になったらどうしようもないから」


「そうねぇ、ここに居ても足を引っ張るだけだし、出来るだけ数を減らしてみせるわぁ」


「はい、お願いします」

 そして残ったティータ(妖精)さんとエルゼ(蜘蛛)さんなのですが、この2人はどうするのでしょう?


「2人はどうするのですか?」


「うーん、あんまり考えてなかったんすよね、ぼくこんな(蜘蛛)だし」


「対空に役立てればと思ったが、ワイバーンが相手だと火力が如何ともしがたい…」

 まあ2人は元から賑やかしの参加とかで特に考えていなかったようで、最悪の場合はトーチカにでも籠っていようかなという感じのようです。


「まあ途中までは天使ちゃんについて行くっすよ、その方が面白そうだし」


「わかりました、それではよろしくお願いします」

 との事で、私達3人は東側の防衛につく事になりました。


 あちこちで同じように相談する人達や、どうしようと考える人達、指示や相談などが飛び交い、何千人もの人達がザワザワと無秩序に動いています。

 大半の人はノリや流れで動いているようなのですが、中には練習の為なのでしょう、ギミックの試射をしている人もいるようで、バタバタとした熱気や喧騒がありました。


 そんな中を移動して配置につく事になるのですが、なかなかの人混みですし、はぐれないためにもこの3人でPTを組もうという事になったのですが……何故か移動を開始した辺りで数十個のPT申請が飛んできて、私は目を丸くします。


「どちらか、PTを作りました?」

 私はティータさんやエルゼさんがPTを作ったのかと思ったのですが、2人とも不思議そうな顔をして、首を振ります。


「ユリエルが作ると思っていたが…トラブルか?」


「そうっすよね、ぼく達がリーダーより、天使ちゃんがリーダーの方が映えますし」

 との事で、2人ではないようですね。何でしょうと思いながらPTを作ると、私がPTに加入した事によって申請は軒並み却下(PTに参加しています)されたようで、どうやら送り主らしい人達から「うがーPT加入しているってよ!」とか「くそー!先を越された、どのPTに入っているんだ!?」とか「別れたからソロかと思ったのにっ!」とかいう嘆きが聞こえて来たのですが……無作為にPT申請を飛ばしている人達がいたようですね。


「阿鼻叫喚だねーウキウキするねーいや~気分がいいっす」


「趣味が悪いぞ…」

 そんな周囲の様子を見ながらエルゼさんがニマニマしていたのですが、ティータさんに窘められていました。


 きっと戦力を求めて無秩序にPT申請を送っていたのだと思うのですが、流石にどんな人が居るかわからないPTだとまともに連携が取れませんし、騒動のもとですね。というより申請してきたPTの中には『天使ちゃん親衛隊』なるPTもあったのですが、いったいどういう人達が参加しているのでしょう?

 色々と気にはなったのですが、今は人の心配より自分達の心配ですね。

 私は2人にPT申請を送っておき、忘れないうちにイビルストラ状態の牡丹に盾を装備させて、【秘紋】で【ルドラの火】を付与しておきます。


「いざという時はお願いします」


「ぷ!」

 牡丹は自信満々に「任せて!」と言いながら、右前垂れには盾を、左前垂れは手持ち無沙汰だったからか投げナイフを一本構えます。

 ワイバーン相手にナイフ一本では火力不足ですが、【ルドラの火】を纏わせれば結構火力が出ますからね、その瞬発火力には期待しておきましょう。


 そういう感じに準備は進み、どうやら大半の人はそこに居る顔ぶれや戦力を見てどこにつくか決めたようで、最終的には有名どころの揃う南側に2千人前後、北側が1200人前後で、東側が800人前後、西側が300人前後という配分になったようです。

 後はトーチカに籠る遠距離攻撃組の2千人ちょっとが点在してという感じなのですが……どう考えても西側の人数が足りませんよね。

 流石に薄すぎるので東側から移動しようとしたのですが、こちら側も南や北と比べると人数が多い訳ではありませんし、何故か私達が動こうとするとそれにつられて結構な人数が移動しようとするので、離れる事ができません。

 出来れば人の多い南北から配置転換して欲しいのですが……この辺りは全体を見て指示を出すような人もいない混成部隊の欠点と言いますか、足並みが揃いませんね。

 一応モモさん辺りは気づいて大声で指示を出しており、数十人単位では西側に移動しているのですが、全体で見ると焼け石に水です。


 これがB L O(ビーエルオー)A W(アーマードウォー)辺りなら全体通信で一発なのですが、というよりもそもそもこんな偏った人員配置にならないと思うのですが、ブレイクヒーローズだと声が届く範囲でしか指示を出せませんし、PT単位の連絡しか送れません。

 しかも全体の戦力を見るよりノリで動いている人が多すぎるような気がして少しモヤモヤしてしまったのですが、そうこうしているうちに時間になってしまったようですね。


「それではこれより『翠皇竜ゴルオダスの討伐作戦』を開始する!!」

 騎士の人達の号令が無慈悲に響き渡り、西側の(配置300人)を残したまま、祭壇の魔法陣が起動してしまいました。

※薄々感づいているような人もいるかもしれませんが、ユリエルはブレイクヒーローズ以外ではFPS系の物をよくプレイしています。

 B L Oバトルレジェンディアオンラインというのは簡易パワードスーツのような物を装備して戦う100人マッチの勝ち抜き戦をするゲームで、数十人単位のチーム戦も出来るバトロワ物です。

 A Wアーマードウォーはユリエル達基準の現代戦をモチーフにしたゲームで、小型のアーマードコアみたいなロボットに乗り込み戦う1対1、もしくは少数のチームで戦うゲームです。こちらは対戦だけではなく本格的な作戦をクリアしていく協力モードもあり、難易度も歯ごたえのある内容となっています。

 2つとも本物の軍需産業がデータを提供しているので割と本格派で、世界大会が開催されたりするくらいには人気だったりします。

 もしこれらのゲームで防衛に穴があるなんてなるとヌーブ扱いで、スラング交じりの罵声が飛びかいめちゃくちゃ怒られます。


※誤字報告ありがとうございます(10/18)訂正しました。

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