表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

170/527

160:ワールドクエスト前の騒がしさ

 川に飛び込み、びしょ濡れになったスコルさんを拭いてあげていたので結構ギリギリな時間になってしまったのですが、集合場所である王都西の草原に到着した頃にはすでに沢山のプレイヤーが集まっていました。


「いや~何とか間に合ったみたいね」


「誰のせいで遅れたと思っているのですか…」

 しっかりと拭いてあげたスコルさんの機嫌はよく、嬉しそうに尻尾をブンブンと振っていたのですが、意外としっかり拭き切るのに時間がかかってしまったのですよね。


 集まっているプレイヤーの数はだいたい6~7千人くらいでしょうか?それに加えてプレイヤーの補佐をするNPCが居るのでなかなかの人数がこの場所に集結しているのですが、かなり広い範囲に分散しているので密集しているという印象は薄いですね。


 動画配信やネットの評判を考えるとプレイ人数が少ないような気がしますが、まあ色々と(バグ騒動とか)ありましたからね、そういうのが影響しているのでしょう。

 そう考えるとまだこれでも居る方だと言いますか、ここに来ているのは近接攻撃組や遠距離攻撃組だけで後方生産組は含まれていませんからね、ウミル砦に居る人も足すとトータルではそこそこの数なのでしょう。

 むしろワールドクエストの開催が事前に告知されていたとはいえ、開催の決定は当日の深夜3時という急な発表でしたので、そういう事情を考えると高い参加率だと言えるのですが、まあその辺りの事情を一プレイヤーが考えても仕方がないですからね、今は目の前のお祭り(ワールドクエスト)を楽しむ事にしましょう。


 とにかくワールドクエストはまだ準備段階という感じで、皆さんめいめいに好きな事をしながら時間を潰しているようですね。

 自然と幾つかのグループに分かれているようで、中にはまふかさんなどの目立つグループもチラホラ見えるのですが……ファンの方と何か盛り上がっているようですし、邪魔をしては何ですのでお金を渡すのはまた今度にしましょう。

 それにここまで来ると人の目も多いですし、変に騒ぎになっても嫌なので、私は見つからないようにイビルストラになった牡丹を目深に被ってコソコソしておく事にしました。


 因みワールドクエストに向けた準備に関してなのですが、NPC(騎士達)の手によってプレイヤー達が今まで納品したアイテムが祭壇の上に運び込まれ、積み上げられていっています。


 このフィールドに設置された祭壇の横幅は一辺十メートル、高さは三十センチくらいでしょうか?四隅には水晶のついた三メートルくらいの柱が立っており、何でもその水晶からワイバーンを引き寄せる特殊な電波が出るらしく、その効果と餌の効果でボスワイバーンをおびき寄せる作戦のようですね。


 戦場はその祭壇を中心にした一平方キロメートルの範囲で、足場は平地の草原です。

 空から襲ってくるモンスターと戦うにはかなり開けた場所のような気がするのですが、だいたい数十メートルおきに半埋没式のトーチカが点々と築かれており、遠距離攻撃組はこれに隠れて攻撃し、近距離攻撃組も何かあった時にはそこに避難できるようですね。


 そのトーチカは祭壇(中央)から放射線状に広がっており、一番近い物で十メートル、一番遠い物は五百メートルくらと、思ったより遠距離組との距離が近かったのですが、これはFPSのように武器が銃火器メインという訳ではないからですね。

 矢が届けばいいという訳でもなく、きっちり手傷を負わせようとした場合の有効射程は精々四十~五十メートル、何かしらの特殊な武器やスキルを使っても有効射程距離は百メートルあるかないかで、それより遠くから狙える遠距離魔法でも有効射程は精々数百メートルで、その攻撃が届く範囲に避難所(トーチカ)が作られているのでしょう。

 勿論届かせるだけなら端から端まで届かせる事も出来るのかもしれませんが、そこまで離れると命中率にも響いてきますし、ワイバーンの皮膚を貫けるかは腕とスキル次第になってきますので、その辺りの攻撃力と安全性の取捨選択は各プレイヤーに一任されているという感じなのでしょう。


「お…」

 時間までのんびりと辺りを見回っていると、スコルさんが外周部を見ながら声をあげ、何だろうと私もその方向を見てみると……どうやら上空に向けて矢を撃っている人が居るようですね。


 矢が飛んでいく先を見上げてみれば、餌の匂いにおびき寄せられたのか、それとも暗闇に浮かぶ祭壇の篝火に寄ってきたのかはわかりませんが、まるで地上の様子を窺うように、数匹のワイバーンが上空を旋回しているようでした。

 気の早い人達がそんなワイバーン目掛けて矢を射かけているようなのですが……まともな攻撃が届かない高さを飛んでいますからね、その攻撃にワイバーンが反応した様子はありません。


 その辺りはワールドクエストまで襲ってこない仕様なのかもしれませんが、ダメージを与えた場合は流石に襲ってくるでしょうし、そうなると色々な段取りがめちゃくちゃになりかねません。

 この戦いはワールドクエストなので今後に大きく影響を与えますし、大丈夫だろうかと少し心配になったのですが、攻撃していた人は効果がないと諦めたのか、それとも周囲に止められたのか、程なくして矢による攻撃は中断されました。


 まあこれだけプレイヤーが集まると色々な考えの人がいますからね、こういう小さなトラブル(先走る人)の一つや二つくらいはあるのでしょう。


 ただそんな騒ぎでワイバーンが出現した事に気づいた人が多いようで、周囲がザワつき、緊張が走ります。


 今までのだらけ切った空気が一変し、皆がめいめいに戦闘準備を始めるのですが……何て言いますか、こういう空気は燃えますね。

 もうすぐワールドクエストが始まるのだという実感も湧いてきましたし、私は近くにいるスコルさんの様子を見てみると、何故かとても呆れたような(戦闘民族を見るような)顔で見返されました。


「いやーユリちー達って本当に元気よねーおっさん若い子についていけるかしら」


「どういう意味ですか?」

 苦笑いを浮かべるスコルさんに私は聞き返したのですが、スコルさんは「さあ?」とヘラヘラと笑っており、深く追求する前に人混みの中から知った人がやって来ました。


「あ、やっぱりユリエルだ、やっほ~」


「あら、ほんとうねぇ、お久しぶり~最近は繁盛しているみたいねぇ」


「はい、お久しぶりです」

 やって来たのはナタリア(狩人)さんとヨーコ(錬金術師)さん、そしてその2人に少し遅れて人混みを抜けてきたのが、エルゼ(蜘蛛)さんとティータ(妖精)さんですね。

 見事に女性だけの集まりなのですが、ブレイクヒーローズの男女比率では男性の方が多く、周囲のグループも男性だけのところが多いですからね、自然と女性同士で集まっていたのでしょう。


「ねね、あの動画見たけど、天使ちゃんとまふまふっていつの間にあんなに親しくなっていたの!?というより今はあのスライム連れてないんすか!?」


「牡丹はいますが、それにまふかさんとは…」

 まふかさんとの間柄は、色々(若気の至りも)あったので説明しづらいですね。


 私が口ごもるとエルゼさんは目を爛々と輝かせて詰め寄ろうとしていたのですが、そんなグイグイくるエルゼさんをティータさんが止めてくれていました。


「そんなにいっぺんに聞いたらユリエルも困っているだろ…すまんな、騒がしくて」


「いえ、賑やかな方がイベントっぽくていいですし」


「そうっすよー広いサンマウンド(ブレヒロの世界名)の世界でこうやって出会えたのも奇跡みたいなものですし、こうやって出会えるのも一期一会すよ」

 よくわからない持論を展開するエルゼさんなのですが、その理論にはナタリアさん達も苦笑いを浮かべています。

 そんな風に辺りが騒がしくなってくると自然と人が集まってくるようで、遠巻きにこちらを見ているグレースさんを見かけたのですが……何故か視線が合うとアワアワと慌てたような素振りをしながら、ピンと直立し、手足を変な方向に伸ばしていました。

 木のフリでもしているのでしょうか?相変わらずよくわからない反応なのですが、今日は一段と奇妙ですね。


「どうったの?」


「あそこにいるはグレースさんだと思うのですが、様子が変じゃないですか?」

 何かあったのかと訝しがる私の様子に気付いて声をかけてきたのはスコルさんで、私が木のフリをしているグレースさんを示すと訳知り顔で「あ~」なんて呻かれました。


「あれは拗ねているだけよ、まあ気持ちはわかるけど…しゃーない、おっさんが一肌脱いであげますか!あ、脱ぐって言っても本当に脱ぐ訳じゃないからね、いやらしい意味じゃないわよ?」


「そんな心配は最初からしていませんが…」

 むしろわざわざ訂正した事でいやらしさが増していますし、私は真面目にグレースさんの事が心配なのですが……スコルさんにはヘラリとした表情で受け流されました。


「ま、アレに関してはおっさんに任せてちょーだいな、という訳でユリちーは寂しいかもしれないけど、ちょっくら行ってくるわ」

 スコルさんはそう言うと、本当に気軽な様子で尻尾を振ってグレースさんの方に歩いて行ってしまったのですが……そんなスコルさんと入れ替わりにやって来たのが、桜花ちゃんとシグルドさんですね。


「あ、ユリ姉!ユリ姉がここにいるって事はユリ姉も参加するんだよね、やった!」


「そうだね、ユリエルが居ると心強いよ」


「こちらこそ、2人が居ると心強いのですが……」

 今日は2人だけのようで、十兵衛さんの姿が見えませんね。


「ん…?ああ、十兵衛はちょっと用事でね、今日は不参加なんだ」

 シグルドさんは私の視線の意味を察したようで、簡単に説明してくれたのですが、やはり人それぞれリアルの事情というものがあるのですよね。


「いいじゃん、お兄なんて居ても足でまといだし、シグ兄とユリ姉がいたら十分……って何、2人とも笑って」


「いえ…」


「そこまで期待されているのなら頑張らないとね」

 桜花ちゃんのフォローに回っているのであまり目立たないのですが、正直に言うと桜花ちゃんより十兵衛さんの方が強いような気がするのですが……その辺りの事は桜花ちゃん(守っている対象)には上手く伝わっていないようですね。


 十兵衛さんの実力に対して、私とシグルドさんの間で認識が共有できたような気がして苦笑いを浮かべ合ってしまったのですが、そんな笑い合う私達を見て桜花ちゃんが膨れっ面になってしまいました。


 そんな感じに徐々に知り合いが集まりワイワイしていると、祭壇の方で動きがあり、どうやらそろそろワールドクエスト(エリアボス討伐)が始まるようですね。

※ユリエルの時代ですと日本の総人口が増えているのでゲーム人口自体は増加していますし、アクティブユーザー換算だと参加者の数が少なく感じてしまいますが、人数はゲームの販売本数みたいな感じで、年間販売本数が3万~4万本辺りでランキング100位圏内、数十万本も売れれば十分ヒット作品です。

 ブレイクヒーローズは初動がちょっと失敗したのでまだ1万~2万本くらいですが、日本だけでこの数なのでまあなんとかという感じです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ