154:その後の2人
※実は153話は内容が内容なので飛ばして154話に繋げようかと思いましたが、色々と諦めたという経緯があります。その為153話を飛ばして読んでも話が繋がるかもしれません。
我に返るとタコ足の時間はとっくに過ぎ去っており、幾ら治療のためとはいっても色々とまふかさんに大変な事をしてしまいましたし、本気で殴られても仕方がないかとドキドキしてしまいました。
やった事を考えると訴えられてアカBANされる可能性があるような気がするのですが、問題のまふかさんはポーションの効果時間がきれただけなのかもしれませんがスッキリした様子で、何とも言えない顔で横を向いていました。
どうやらすぐに罵倒だBANだという状況ではないようで、まふかさんなりに気持ちの整理をつけてくれようとしているみたいなのですが、私としてはもう今回の件は若気の至りと言いますか、犬にでも噛まれたと思ってくれると助かるのですが……。
「ぷー」
そんな気まずくなりそうだった私達の横で一声鳴いたのが牡丹で、どうやら私達が致している間に外から入って来るモンスターを1人で押しとどめてくれていたのでしょう、近くにはウィークスラグが2匹、ボーンフィッシュが1匹倒れていました。
なかなかの激闘があったようで、その横には自分で使ったと思われる初心者ポーションの空瓶が何本か転がっていたのですが、それでもなお牡丹の体はボロボロで、結構HPが減っています。
「すみません、すぐ治療します」
そんな戦いがあった事に全く気が付かなかったのはこちらの落ち度ですね、私は追加で『初心者HP回復ポーション』を出してもらうとHPの残量を見ながら牡丹にかけていき、その間に私もスタミナポーションを1本飲んでおきます。
その様子……というよりポーションを見たまふかさんがギョッとしたような顔で体を震わせたのですが、おもいっきり警戒されていますね。
『これは普通のポーションなので大丈夫ですよ』
『普通のって…』
その言い方が気になったのか、まふかさんは胡散臭いものを見るような目で私の事を見つめてきたのですが、そのまま少し考え込んでしまいます。
『ねえ、妙に手馴れている感じだったけど、あんたって何時もあんな事やっているの?』
それから軽く息を整えて、まふかさんはいきなりそんな事を聞いてきたのですが……まふかさんは私の事をどう思っているのでしょう?
『やっていませんよ、まふかさんが初めてです』
何をやったか思い出せば思い出す程恥ずかしくなってしまうのですが、何でしょう、種族の隠れ特性みたいなものがあって、そういう空気になりやすいとかいう呪いでもあるのでしょうか?
『そう…』
私の返事に横を向くまふかさんなのですが、その頬が満更でもないように赤くなっていて、尻尾が嬉しそうに揺れているのですが……これはまふかさんの方もよかったという事でしょうか?
牡丹が横で「ちょろい女だ」みたいな顔をしていたのは失礼ですし気になったのですが、嫌われていない事がわかると凄くホッとして、恥ずかしくなって、頬と下腹部が熱くなってしまいますね。
『何よ、ニヤニヤして気持ち悪い…』
『すみません、まふかさんに嫌われていないって分かったら安心して』
『っー~~……嫌いよ、嫌い、なんでいきなり襲ってくる奴の事好きにならないといけないのよ!!』
勢いよく捲し立てるまふかさんなのですが、本気で嫌っていないという事が丸わかりな表情と口調で、年上の筈なのですがこういう分かりやすいところは妙に可愛いと思ってしまいます。
「ぷーい」
「あ、そうですね」
牡丹が呆れ顔で急かす様に外を示しており、確かに何時までもここに居るとモンスターに出入口を塞がれてしまうかもしれません。
移動した方が良いとは思うのですが、私の方はともかく、まふかさんの方は万全ではないのですよね。
どうやら『発情』関連の状態異常は治ったようなのですが、まふかさんの手足はデフォルメされた獣みたいな感じで毛深くなっており、染み込んだデバフ液はかかったままです。
急ぎならポーションで洗い流す事も考えましたが、今ならタコ足の影響でモンスターの数も少なそうですし、水場まで降りて洗い流す事にしましょう。
「触手の引いた今なら突破も簡単でしょうし、まずは染み付いたデバフ液を洗い流しに行こうと思いますが、良いですか?」
これ以上潜んでいる必要性はないと思い通常の会話に切り替えておき、私はまふかさんを抱きかかえるためにビニールシートを用意したのですが……まふかさんは息を吸い、視線を逸らしました。
「それを使わないのなら……後、肩に担ぐのは無しね」
どういう譲歩の仕方なのかはわかりませんが、まふかさんなりの歩み寄りなのだと思う事にしておきます。
それにしても、そのデバフ液のかかった腕や足に触れると私まで『弱体化』が入るので、そのままというのは色々とリスキーな気はするのですが……今回はまふかさんに従いましょう。
「わかりました」
肩に担ぐのは無しと言われているので、私はまふかさんを横抱きで抱えます。
密着した肌の柔らかさと温もりは先ほどの行為を連想させてドキドキしたのですが、平常心ですね、平常心。
私は深呼吸をして軽くまふかさんを持ち直すと、お互いの体臭が混じり合ったような匂いが漂ったのですが……閉所でずっとまふかさんの匂いに包まれていたので、鼻が麻痺しかけているのですよね。
そう考えると結構な臭いを発しており、私も汗臭い状態だと思うのですが……そんな事に気付いてしまうと一気に恥ずかしくなってしまいます。
こんな状態で他のプレイヤーに出くわしてしまったら大惨事ですからね、こうなったら一刻も早く水浴びをしましょう。
そういう訳で出来れば距離を離したいのですが、まふかさんはその匂いを楽しむように体重を預けてきて、首元に頭を寄せてきました。
ピクピクと動く狼耳が擽ったいのでやはり肩に担ぎたくなるのですが、我慢ですね。そういえばグレースさんも肩に担がれるのは嫌と言っていましたので、ブレイクヒーローズだと肩派の人が少ないのかもしれません。
(まあ他のゲームだとよく担いでいましたが…)
FPS系のゲームでは肩に担ぐのが一般的でしたからね、ついその時の癖で肩に担ぎたくなるのですが……どうもブレイクヒーローズでは不人気のようです。
そんな事を考えていたのですが、まふかさんは考え事をする私の横顔を見つめていたようで、何故か小さく「ずるい」と呟いていました。
「何がですか?」
「知らないわよ……あーもう、顔の良い子は色々と得よね!!」
聞き返すとまふかさんは真っ赤になりそんな事を言うのですが、意味がわかりません。
「まふかさんには負けると思いますが…?って!?何で引っ掻くんですか!?」
「自分で考えなさい!なんで…ひゃっん!?え、まって、待ちなさい!?どこ撫でて…」
何か理不尽な怒り方をするまふかさんなのですが、そんな事をされるとこちらからも仕返しをしたくなります。
「知りません、どこでしょうね?」
両手が塞がっているので尻尾でまふかさんの足を撫でたのですが、ピクリと跳ねる反応が面白いですね。そのまま足の付け根に向けて尻尾を滑らせていくと……。
「ぷっ!」
「…そうですね」
「っ~~~」
隙間から体を出し外の様子を窺ってくれていた牡丹が「早く」と合図を送って来たので、私は冷静さを取り戻しました。
いけませんね、何か一度羽目を外したせいかブレーキの掛け方がわからなくなってしまっているような気がします。
ふざけすぎたかと思いまふかさんの様子を窺うのですが、尻尾で撫でられたまふかさんは顔を真っ赤にしていて、本当は両手でその顔を隠したいのでしょうけど腕が上手く動かないようで、凄い顔をしていました。
「っ…」
どれだけ可愛いんですかとまた押し倒したくなったのですが、今回はその顔を堪能するだけにしておき、私達は横穴から外に出たのですが……暗所に適応していた瞳に外の明るさは眩しいですね。
そして明るい場所で改めて見るとやっぱり私達は汗とか涎とか涙とか色々な液体で凄い事になっていたのですが、これは絶対に臭いますよね?嗅ごうとしてみても鼻は利きませんし、色々と心配になってきてしまいます。
「牡丹」
防具性能を考えると牡丹にはイビルストラになって貰う方が良いのですが、まふかさんを抱えている状態で身に着けるとワサワサした触手部分が当たってしまいますからね、やめておきましょう。
まあ走り抜けるのならそれ程時間はかかりませんし、ビニールシートを咥えてデバフ液を防いでもらう事にします。
「まふかさん、少し揺れますよ」
「わかった…落とさないでよ、あんたってどこかどんくさそうだし」
こんな時でも憎まれ口を叩くまふかさんには苦笑いしか出ないのですが、とにかくまずは海ですね、そこでまふかさんのデバフ液を洗い流し、何をするにしてもそれからです。
私がまふかさんを抱きしめる腕に力を入れると微かに擦り寄ってきたような気がして照れるのですが、とにかく私達は湧き出始めたモンスターを避けながら、全速力で坂を下り始めました。
※これが嫌いな人や中途半端にブサイクな人だったらブチぎれていたかもしれませんが、まふかさんもユリエルの事は嫌いじゃないですし、美少女に迫られてドキドキしてしまいました。酷い事をされたとは思っていますが、それ以上にめちゃくちゃ気持ちよかった事に恥ずかしさとかを感じています。とどつまり、セーフです。
※誤字報告ありがとうございます、修正しました(8/2)。




