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152:ポーションの効果

 私達が逃げ込んだ横穴は、アンギーフロッグ(2m近い魚人)が入り込めないような壁の隙間の奥にある2㎥程度の空間で、何とかギリギリ1PTが隠れる事が出来るかどうかという穴倉のような場所ですね。


 当然中に灯りが設置されている訳でもなく、出入り口の隙間から洩れる明かりだけが頼りなのですが、私には【暗視】スキルがあるので内部の様子が見えました。

 その為、中に居た数匹のウィークスラグやボーンフィッシュは問題なく仕留める事が出来たのですが、この仕様(セーフポイントの造り)はどう考えても運営の罠といいますか、準備が無ければ逃げ込んだ先でデバフ液を浴びてそのまま大変な事になるという流れのような気がします。

 そう考えるプレイヤー達のために用意されたセーフポイント(安全地帯)というより、ただモンスターがタコ足から避難する場所なだけで、別に運営の優しさの賜物(救済措置)という訳ではないような気がしてきました。


 まあ逃げ惑うモンスターが全員上へ上へと逃げて行ったら、島の下の方にはモンスターがいないという事になりかねませんからね、上層部に溜まらないようにする工夫の一つなだけなのかもしれません。


 私がそんな事を考えていると、程なくして横穴の外を巨大なタコ足の触手が通過して行き……どうやら横穴で息を潜める私達には気付かなかったようですね。


 巨大な触手が岩盤を削りながら通過していく振動と、時折聞こえる鼓動に合わせてパラパラと砂や小石が降ってくるのですが、実害と言えばそれくらいで、後は時折逃げ込んできたボーンフィッシュやウィークスラグを倒していけば問題ありません。


 その乱入者もタコ足の本数が増え、逃げ遅れたモンスターが容赦なくホログラム(肉塊)にされていくと、途絶えます。


 最初はいつタコ足に気づかれて襲われるかと身構えていたのですが、次第に安全だとわかると、私は緊張を解き、一度肩の力を抜きました。


 穴倉の横を通過中のタコ足は島の中央下部から上層近くまで伸びていきますので、触手が伸びきり引き返してくるまでもう少し時間がかかりそうですね。

 油断しきる訳にはいきませんが、この時間を利用して少し休憩する事にしましょう。


(牡丹、外の様子をお願いします)


(ぷ)

 そしてある程度安全だとわかると、次にしないといけないのは狭さと緊張で抱きしめたままだったまふかさんの状態の確認ですが……まふかさんの治療をしている間に外からモンスターが入り込んできたら対応が遅れる可能性がありますからね、私達は【意思疎通】で段取りを決めると、牡丹に外の警戒をお願いします。


 普通に後ろを見張ってくれていればよかったのですが、奥の方からでは外が確認しづらいからでしょう、牡丹はポヨンとスライム形態になると、出入口の岩陰に隠れるようにして外の様子を窺い始めます。


 その牡丹の大胆な行動に、タコ足に見つからないか少しハラハラしたのですが……どうやら大丈夫のようですね。


(気を付けてくださいね)


(ぷ!)

 牡丹は「大丈夫!」と言っているのですが、タコ足に見つかったら全滅ですからね、念には念を押しておき、私はそれからまふかさんに向き直ります。


「まふかさん」

 小声で囁きかけるとまふかさんはビクンと体を震わせ、潤んだ瞳で私の事を見返してきました。


 流石に追走設定にしていたカメラは消した(収納した)ようなのですが、こんな状態(ポーション異常)でもログアウトしようとしないのは配信者魂(芸人魂)が凄いというか、根性があると言いますか、とにかくビニールシートに包まれたまふかさんは何かもう……凄い状態ですね。

 潤んだ瞳からは涙がこぼれていますし、汗が凄くて焦点が揺れています。息をするだけでその朱に染まった身体が小刻みに震え、苦しそうでした。


 汗以外の匂いがする事を話すと烈火のごとく怒鳴られそうなのですが、媚薬でもキメてしまったような様子のまふかさんには、そんな事を気にしている余裕はないようですね。

 そのトロけた顔にはもう限界だとか、背に腹は代えられないだとか、色々な羞恥の感情みたいなものが入り乱れていたのですが……恥を忍ぶように、ポツリと掠れたような小さな声で呟きました。


「    」

 その言葉は小さすぎて良く聞こえなかったので首を傾げてしまったのですが、私が不思議そうな顔をしているのを見て、まふかさんはハッと我に返った様子で横を向いてしまいます。


『何て言ったんですか?』

 私が改めてPT会話の方で話しかけると、まふかさんもここでは(避難中の横穴)声を潜めないといけないと理解するだけの理性は残っていたようで、画面を操作しているのか瞳が揺れていたのですが……少しするとPT会話が繋がります。


『全部あんたのポーションのせいでしょ!何なのよこの効果!!』

 いきなりガーっと勢いよく発せられる言葉に、それが外に漏れていないという事はわかっているのですが、ついタコ足の様子を窺ってしまいます。


『え…っと、実は作ったのはいいのですが、どういう効果までは詳しくわかっていなくて……どういう状態異常が出ているんですか?』

 私が聞き返すと、まふかさんは『あんたが作ったの!?』とビックリしたような顔で口をパクパクさせていたのですが……詳細を話してくれない事には私もどうしようもないのですよね。


『一応簡単な毒消しならありますので、その範囲でなら治せますが…』

 そしてまふかさんから投げつけられたショルダーバッグの中には携帯錬金釜がありますので、材料さえあれば治療薬が作れるかもしれませんが……この状態(制作物の被害を受けた)で新しい薬を作ると言うと怒られそうですね。


『っーー~~~~……』

 まふかさんは物凄く葛藤しているような顔をしているのですが、その間も体の方は徐々にポーションに蝕まれているようで、状態は悪化していっているようでした。

 その事はまふかさんもわかっているようで、もう本当に藁にもすがるような思いで、今どんな状態になっているかを教えてくれます。


『『性感上昇』と『精力増強』と『発情』…あと『弱体化』が入っているのよ!』

 まるでとても恥ずかしい事を暴露したようにまふかさんの顔は真っ赤になり、フーフーと荒い呼吸をしているのですが、とにかく私はその教えてもらった状態異常について考えます。


 まあ『弱体化』以外はどれもネットに情報の無いステータス異常なのですが、名前だけ聞くとこれまた凄い物が複数かかっていますね。


 『性感上昇』は緑リリスポーションの効果で、『精力増強』は黄色リリスポーション、複合で『発情』が発動したといったところで、敏感になった体は上手く動かないのに精力が増して発情している状態と……それはなかなか生き地獄ですね。


(それにしても、発情、ですか…)

 私の場合は装備制限で一度発動した事があり、その時は勝手に発散したのですが……あの感覚が続いているとしたら、本当に辛いですね。


 つい「大変ですね」と同情の目で見てしまったのですが、その目が軽蔑されているとでも思ったのか、まふかさんは睨み返してきたのですが……流石に今の状態では迫力もなく、無理やり強がっているようにしか見えません。


 怒鳴り散らそうにも、もう呼吸して衣擦れするだけで苦しいようで、何とかしてあげたいとは思うのですが……。


『その……一度ご自分でなされてはどうですか?私は向こうで見ないようにしておきますので』

 私の時は装備制限が解除(マントがはじけ飛んだ)されただけかもしれませんが、一度発散すると楽になりましたし、このままずっと溜まっていくだけよりかはいいと思います。

 それに『発情』というくらいですから、行くところまでいったらその……落ち着くかと思い提案してみたのですが、まふかさんに「馬鹿じゃないの?」みたいな顔で睨まれてしまいました。


『『弱体化』が入ってまともに体が動かないっていうのに、どうやってやれっていうのよ!?じゃあ何、あたしの代わりにあんたがやってくれるっていうの!?』

 たぶん売り言葉に買い言葉といいますか、冷静さを失っているまふかさんはフーフーと荒い息をしながら「出来ないでしょ?」という挑戦的な目で睨みつけてくるのですが、私はちょっとだけ考えます。


 つまりこのまままふかさんが徐々に状態異常でおかしくなっていくのと、万が一治る可能性があるかもしれない治療法を試す(発散させる)かという事ですね。


 私やまふかさんの気持ちとか、羞恥心とか、色々なものを考慮しなければヤルべき事は一つですし、色々と酷い内容のブレイクヒーローズで私はもう何度もそういう目にはあっているのですが……改めて自分の意志でとなると、また違う感じがしますね。


 ただ上気したまふかさんは本当に苦しそうで、何とかしてあげたいとは思います。


合意の上(代わりにやって)、という事でよろしいですか?』

 こういう事は初めてなので自信は無いのですが、私は目を見開くまふかさんの顔を見つめながら、ゆっくりと深呼吸をして、覚悟を決めました。

※一線を越えそうなレッサーリリムさん。あくまで人助けで、緊急避難的な措置です。


※誤字修正しました(3/27)。

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