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15:毛皮狩り

 私達はナタリアさんと別れ、森沿いの道を歩いていました。そろそろ朝になるかならないかという時間帯で、空の向こう側がうっすらと明るくなっています。まだ木々によって太陽の光が遮られてはいるのですが、我謝さんがしきりに空を見上げて心配そうな顔をしていました。


「大丈夫ですか?」

 日光ダメージを受けるとの事でしたが、そろそろ厳しいのかもしれません。暗い場所を探すか、引き返す事も検討すべきかもしれないのですが、我謝さんは「かまへんかまへん」と気軽そうに、カタカタと手を振ります。


「どうせ死んでも戻るだけやからな。そうなったらエルフっ子(ナタリアさん)驚かしてくるだけや」


「そうですか」

 それが強がりか冗談かはわかりませんが、本人が大丈夫と言うのなら、そういう事にしておきましょう。毛皮がなければ日が暮れるまで森の奥をさ迷うか、建物の中で缶詰ですからね、我謝さんは急いでいるのかもしれません。


 そんな訳で、時間的には少し心配なのですが、案外何とかなりそうです。前回ウルフと出会った場所の近くで、前回同様、茂みの奥からモンスターがついてくる気配がします。この辺りにウルフのリスポーンする地点があるのか、それとも私を倒した個体が近くをウロウロしていただけなのかはわかりませんが、むやみやたらに探し回らなくてもよさそうです。 声を出すとなし崩し的に戦闘になるかもしれませんので、私は我謝さんに目配せでウルフが出た事を伝えようとしますが……。


「お、なんや?ワイの顔見てもおもろーないで?」

 通じませんね。私はため息を吐きながら、剣の柄に手をかけます。


「右後ろの茂みの中に何かいます。前回襲われた時と同じですから、たぶんウルフだと思います」


「うん……?」

 我謝さんが振り返った先で、一度茂みが揺れました。いきなり襲われないのはこちらが2人だからか、警戒しているのか。

 私は剣を抜きながら、さてどうしましょうと考えます。森の中で狼と追いかけっこというのはどう考えても効率が悪いですし、そもそも私の足で追いつける筈がありません。

 これなら襲い掛かって来てくれた方が楽でしたねと考えていたところで、我謝さんは手に持ったこん棒を構えます。


「しゃおらー!いてこましたるでぇー!!」

 そして突撃しました。


 そうでした、我謝さんはそういう人でした。弓ゴブリンの時も勢いよく飛び出してきましたよねと考えながら、仕方なく私も距離を詰める事にします。

 逃げられるかな?と思いましたが、こちらが攻撃の意思を見せた事でウルフの方もアクティブになったのでしょう、こん棒を振りかぶる我謝さんに襲い掛かります。


「なんやて!?」

 茂みから飛び出してきたウルフは我謝さんの足に噛り付くと、その勢いと質量で我謝さんを引き倒します。ちょうど前方から足払いを受けたような感じですね、我謝さんは何か叫び声をあげながら盛大に転倒してしまいました。私は走り寄ると、まだ我謝さんの足に噛り付いているウルフの首筋目掛けて剣を振ります。


 ウルフは足に嚙みついたまま歯を食いしばったのでしょう、バキリと我謝さんの足の骨が折れる音が響き、「GYAU」と鳴きながら後退し……我謝さんが泣き叫びながら転がり回りました。回復してあげたいところですが、方法がないので諦めましょう。


(浅いですね)

 走りながらの攻撃はどうも苦手です。どうしても攻撃出来る範囲が限られてしまいますし、その範囲で何とかしようとするとブレて精度が下がります。弾む胸を押さえながら、私は改めて間合いを測ります。

 逃げられると少し厄介ではあったのですが、先ほどの1撃は十分な威力となっていたのか、ウルフは血をダラダラと流しながらよろめいています。私は反撃される前に距離を詰め、止めを刺します。


 ちなみにブレイクヒーローズでは、モンスターが消えるまでに1分の猶予時間がありました。その間に解体するかしないかの選択をする事が出来るようになっていて、その時間内に手で触れると解体作業に入ったと判定されるのか、それとも所持品扱いになるのかわかりませんが、だいたい1日程度消えなくなります。それ以上延ばそうとするのなら、保管庫のような場所に運ぶ必要があるのですが、今回は工房までもてばいいので1日で問題ないでしょう。更に言うと、【解体】スキルがあれば任意のタイミングで死体を消せるようになりますし、【解体】された物は『素材』扱いとなり、消える事がなくなるという効果がありました。


「ふー……大丈夫ですか?」

 前回は後れを取りましたが、万全の状態だと問題はなさそうです。良い感じに決まらなければ一撃必殺とはいきませんが、十分な手ごたえです。私はウルフに手を添えて消えないようにしておき、改めて我謝さんの様子を伺います。


「お、おう、こ、ここれくらい何ともないで!」

 生きていますね。普通の人間なら足が欠損するレベルのダメージを受けたら死亡判定を受けるものですが、人外特有のタフさなのか、それとも影に入れば微回復するみたいな事を言っていたような気もしますから、そのスキルが発動しているのかもしれません。


「どうしましょう?その足で移動するのは難しいと思いますが」


「あー…そうやな……これが夜間なら足をくっつけるくらい何とかなったかもしれへんけど、今の時間やとなー…」

 ゆっくりと昇り始める太陽を見上げながら、我謝さんは諦めたように呟きました。セーフティーエリアまでそれほど遠い距離でもないのですが、這いずって戻るには流石に距離がありました。


「つーわけで、すまんけど、ソレ、運んで行ってくれへんか?ワイは歩けへんし、もうしばらくしたらリスポーンすると思うわ」


「そうですか」

 この大きさの獣を一人でとなるとかなり骨が折れるのですが、実際に骨が折れている我謝さんに手伝ってもらうのも……難しくはないですね?よくよく考えたら我謝さんに運んでもらった方が早いかもしれません。


 私はフレンドリストを確認して、ナタリアさんがまだ繋いでいる事を確認してから、連絡を取ります。


『すみません、今どこにいますか?』


『え、なになにユリエルちゃん?今(セーフティーエリア)についてポータル開放したところだけ、何かあったの?』

 タイミングのいい事に、ナタリアさんもちょうどセーフティーエリアに到着したようですね。


『ウルフ1匹、送りますね』


『え、あ、うん。あれ、()()?』

 さて、ナタリアさんへの説明も終えました。


「我謝さん、リスポーンまでもうちょっと時間がかかりそうですか?」

 日光ダメージがどれくらい入るかわかりませんが、ご飯を控えているナタリアさんをあまり待たせるのも悪いと思います。


「ん?ああ、おひーさん照ってる所やったら一瞬やろうけど、ここなら(森の小道)もうちーっとってところやな。それがどうしたんや?」


「そうですか」

 私も空を見上げますが、角度的にまだもう少しかかりそうですね。仕方がないので、私は我謝さんにウルフの死体を渡すと、我謝さんもその方法に思い至ったようで、唸ります。


 “デスルーラ(死に戻り)”。所持金も所持品も減りませんから、我謝さんにウルフを手渡してリスポーンさせれば一瞬で到着です。


「あーそうやな、ワイが運んだ方が早いんか……よし、ワイも男や、リスポーン待ってたら時間がかかる、一思いにやってくれ!」

 ブレイクヒーローズのPKの仕様はかなり緩い仕様となっており、基本的にPKは自由です。PKされた側が訴え出て、調べた結果悪質と判断されたらレッドネーム(犯罪者)に認定されるという、現実と似たような仕様になっています。

 この仕様だと緩いと思うかもしれませんが、そもそも相手を殺しても軽いデスペナを食らわせられるだけで、ドロップ品が落ちるわけでもなく、所持金が減る事もありません。PKしたとしても嫌がらせの範疇を超えませんし、それなのに訴えられればレッドネームになる可能性があるという、率先してPKをするメリットがない仕様となっています。将来的には何かしらの変更があるかもしれませんが、少なからず今のところPKに対する規制は緩いです。


「わかりました」

 まあそのあたりの事はいいとして、この場合はお互い同意の上のデスルーラですし、容赦なくいかせてもらいましょう。

 我謝さんがウルフをちゃんと持ったことを確認すると、その首を刎ねます。PTに入っているのですぐに消える事はないのですが、ほどなくしてリスポーンを選択したのでしょう、我謝さんはウルフと一緒にポリゴンとなって消えていきます。


『わ、な、何!?いきなり骨とウルフが送られてきたんだけど!?後「やってくれとは言ったが思い切りがよすぎや!」って叫んでるよ!?ユリエルちゃん何したの?』

 どうやら無事に向こうに到着したようですね。ナタリアさんからメッセージが届きました。


『我謝さんが足を負傷したので、ちょっとデスルーラを』


『あ、あー…うん、OK把握。とにかく、これを加工すればいいのね?』


『お願いします。私の分はこれから狩って戻りますので、我謝さんのマントを先に作ってあげてください』


『OKーじゃあ受け取ったらお昼ご飯食べてきて、その後にね!』

 ナタリアさんと打ち合わせを終えたところで、続いて我謝さんに連絡を取りましょう。PTチャットを開いて、メッセージを送ります。


『すみません、ソロになるのでPTを解散させておきますね』

 一人で活動しているのに組んでいても仕方がないですし、ナタリアさんへの納品をすましたら私もお昼ご飯を食べようと思いますので、今のうちに解散させておきましょう。

 別にそのまま残していても問題ないような気もしますが、PTを組んだ(即時リスポーンしない)ままだと、死亡判定を受けて動けなくなった後に死体蹴りを受ける可能性があるのですよね。わかりやすい一例だと、大型モンスターにかみ砕かれた後、即時リスポーンしないと、そのまま飲み込まれるというトラウマレベルの経験を味わえる訳です。やられるのは仕方がないとしても、しなくていい経験をする必要もありません。


『お、おう…しっかしほんまに一思いにやる奴がおるか!躊躇いとか色々あるもんやろ普通!?』


『すみません』


『全然反省していない感じやが、まあええわ。とにかく、ワイは皮だけ貰ったらええから、中身は自分に譲るさかい、後でエルフっ子から受け取ってもらってええか?あと、ワイは日中動かれへんからあんま協力できへんけど、夜間で時間ある時なら手伝ってやるさかい、また声かけいや!』


『わかりました、その時はよろしくお願いします』

 連絡を送り終えてから、私は一度深呼吸をしました。ウルフくらいなら問題なく狩れる事が証明できましたし、狩りを続けましょう。


 私は木漏れ日の漏れる明るい世界を見渡して、少し気合を入れました。

※8/20 【解体】した素材は消えなくなることを記載しました。


※誤字報告ありがとうございます(10/16)訂正しました。

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