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146:のんびりしていました

 久しぶりに身に着ける白緑(びゃくろく)色のホルターネックのドレス(『サルースのドレス』)の着心地なのですが、他の物(白スク水)を着た後だとこの今にも破れそうな薄さしかないシースルーの布地が色々と不安になりますね。


 全体的にはフローラル・ベクターな蔦模様の入ったドレスなのですが、その細い蔦は指で強く擦れば破れる様な強度の布地を押さえる物で、色々な場所に絡み食い込み固定しているので、久しぶりに着ると少し落ち着きません。

 背中はほぼ丸出し状態でお尻まで見えていますし、蕾のようなデザインの多重構造のマイクロミニ(スカート)はヒラヒラと揺れて中が見えそうで緊張してしまいます。


 私はセットの指輪(小さなバラの蕾)のついたロンググローブを左腕につけ、落ち着かない蔦の位置を調整しました。

 そのドレスの上にイビルストラをつけ、魔光剣を腰に差せば身支度は終了なのですが……投げナイフの殆どは武装ゴブリンに叩きつけましたし、ポーションも使った後ですからね、そろそろ消耗品を補充しなければいけないかもしれません。


(こちらの準備は整いましたが…)

 つい先ほどまで濡れた下着を洗っていたグレースさんは、何故か井戸から汲んだ冷水を浴びながらブツブツと空に向かって祈っていました。


 プルジャの工房にある井戸の水はそれなりに冷たかったような気がするのですが……まあグレース(ヒーラー)さんなりのR P(ロールプレイ)の一環かもしれませんので、ゆっくりと待つ事にしましょう。


 ポタポタと水の滴るグレースさんの服装は前回と変わらず薄水色の膝丈ローブと鎖帷子で、下は黒タイツとショートブーツという恰好だったのですが、変わった点があるとすればリュックタイプのマジックバッグを買われたようで、武器や盾はそちらに入っている事でした。


 そんな姿で一心不乱に祈っているのですが……本人が気にしていないのなら私があまり気にする事ではないのかもしれませんが、濡れたパンツとタイツは洗濯中なので当然そのローブの下には何も履いていない訳なのですが、膝丈ローブなので中が見えてしまわないかが気になると言いますか、何とも言えない気持ちになり頬に手を当ててしまいます。


 というよりそんな事(ノーパンである事)よりグレースさんとは色々ありすぎて若干気まずいのですが、こういう時はどういう態度をとるのが正解なのでしょう?

 変によそよそしくなっても可笑しいでしょうし、グレースさんが困ってしまうかもしれません。

 やはり無難に何もなかったという態度が良いのでしょうか?まあグレースさんからするといきなり牡丹に襲われただけと思っているかもしれませんからね、下手に触れない方が良いのかもしれないのですが……それにしても、何時までたってもグレースさんの祈りが終わりませんね。


 不思議に思ってよく見てみると、グレースさんは時折こちらをチラチラ見てきているようで、ソワソワしていました。おもいっきりさっきの事を意識しているみたいで、止め時を見失っているようなのですが、どうしましょう?


「グレースさん、あまり濡れた服のままでいると風邪を引きますよ?」

 正確には『低体温』や何かしらの状態異常なのですが、私は変に意識するよりかは良いかと思いいつも通りの調子で話しかけたのですが、グレースさんはビクリと体を震わせ、ギギギと音がしそうな勢いでこちらを振り向きます。


「だ、大丈夫です、もう落ち着きました、すみませんでした!!」

 そしてグレースさんには流れるように土下座をしました。その見える後頭部と真っ赤な耳からは全然落ち着けていない事が丸わかりなのですが……まあいいですね。


「グレースさんが謝る事はないですよ、むしろ牡丹の方が迷惑をかけていますから、こちらこそすみませんでした」

 私もグレースさんに合わせる形で地面の上に座り、頭を下げます。


「ぷ!」


「牡丹」


「ぷぅ~ぅ…」

 「自分は悪くない」という牡丹なのですが、どう考えても色々とやりすぎです。


「ユリエルさぁ、ん…っ!?」

 グレースさんは感極まったように顔を上げたのですが、牡丹がおもいっきりファイティングポーズをとるように前垂れを上げていたので引きつった笑みを浮かべます。


 それにしてもだんだん牡丹が好戦的になっていっているような気がするのですが、本当に誰に似たのでしょうね。


「2人は仲良く出来ないのですか…」

 ちょっと呆れてしまうのですが、どうしようもないのかもしれませんね。まあそれより、今はグレースさんの服装の方が問題です。


「その恰好だと本当に状態異常になりそうですし、とりあえず一旦工房に戻りましょう」

 他の人の通る場所に下着を干しておく訳にもいきませんし、工房内の竈か何か火の近くに置いていた方が早く乾くでしょう。


「あ、は、はい」

 まあ火の前には人がいると思いますが、それでも外より室内にいた方がマシでしょう。そう思い提案してみるとグレースさんは頷き、改めて工房の中に入ったところで「そういえば」と言葉を続けます。


「ユリエルさんは生産をしているって言っていましたけど、何をしていたんですか?」

 たぶんそれは話を繋げるとか話題の提供とかだったのかもしれませんが、いえ、グレースさんの場合は単純に気になったからと言う可能性もありますが、そんな事を聞いてきました。


「【錬金術】でポーションを作っていました」


「錬、金、術!!」

 これも何かグレースさんの琴線に触れたのか目をキラキラさせていたのですが、流石に人のいる1階の作業場で騒いでいるのは何ですね。


 何人かが作業の手を止めて「何事だ?」というように振り返って来たので、私は軽く会釈する形で謝罪して、一旦2階の休憩できる部屋に向かいます。


「す、すみま……」

 大声を出して注目を浴びた事が恥ずかしかったのか、自分の口を両手で塞ぐようにして申し訳なさそうにしているのですが、私が手近なベッドに腰を掛けるとグレースさんは当然という様に肩が触れる真横に座ります。


 人の視線は気にするのですが、時折グレースさんの距離感がバグっているような気がするのですが、このグイグイ来る感じはなんでしょう?まあこういう人なのだと思う事にしたのですが……。


「ぷ~い!」


「おっぅ、あた……すみません、近すぎました」

 ただ牡丹は気にいらなかったようで、グレースさんを押し退けようとしていました。


「牡丹……大丈夫ですよ、それでこういう物を作っていたんですけど…」

 私は2人のやり取りに息を吐きながら、百聞は一見に如かず(話題を逸らすために)というようにイビルストラの内ポケットから、作っていたポーションを取り出します。


「へ~こういうのが作れるんですね……そ、その、ユリエルさん、これ貰っ……売って貰ってもいいですか?」

 何故か言い直したグレースさんはおずおずというように言い出してきたのですが、自分で使う事を考えていて特に売るつもりはなかったのですよね。

 というより売れる様な物でも品質でもありませんし、欲しいというのなら無料でもいいのですが……流石に効果が不明に近い物を渡すのは不味いでしょう。


「売り物ではないので」


「か、家宝にしますから!一生大事にします!!それでも駄目ですか?」


「いえ、譲る場合は消耗品なので出来れば使って欲しいのですが…ってそうじゃなくて、アイテムの詳細データを見てください、ポーションの効果が少し不明で、お売り出来るような物じゃないんです」

 私がそう言うとグレースさんはしょげかえってしまったのですが、グレースさんがこれ以上“元気”になってしまったら大変な事になってしまいそうだと思ってしまうのですよね。

 だからと言って何か「この世の終わりだ」みたいな様子のグレースさんをほっておくのも気の毒のような気がします。


「それでは……代わりにケーキでも作りましょうか?」

 それなら回復アイテムという訳でもないですから、(レッサーリリム)でも普通に作れるでしょう。


「ケーキ?」

 【錬金術】の話をしている時にいきなり私が「ケーキ」と言ったものですから、グレースさんは不思議そうに首を傾げたのですが、【錬金術】について色々と調べている時に『錬金術で作れるケーキのレシピ』なんていうのも見つけていたのですよね。


 何故わざわざ【錬金術】で作ろうとしたのかわかりませんが、何故か情報サイトにはパイとかケーキの作り方が載っており、特にチーズケーキに関しては一家言あるらしく、かなり事細かな配合比率が載っていました。


 そのレシピについては覚えていますし、消耗品の買出しには行かないといけませんからね、その時ついでに材料を買って来れば問題なく作れるでしょう。


「はい、ちょうど『グリーンベリー』という食べられるアイテムを拾っていましたし、丁度いいかと」

 前にグレースさんとケーキを食べた時にはこういう特殊な果物系の物を選んでいましたし、グレースさんはこういう少し変わった果物が好きなのかもしれません。


 勿論普通のショートケーキや簡単な物の方が作りやすいとは思うのですが、こういう難易度の高い物や作った事のない新しいアイテムの方が経験値の伸びが良いですからね、ポーション以外の物もそろそろ作ってみようと思っていたので丁度いいです。


「あ、じゃ、じゃあ、是非!」

 本当は人間形態に戻ってから『グリーンベリー』は納品しに行こうと思っていたのですが、グレースさんはキラキラと楽しそうに笑っていますし、一つ二つ消費するくらいなら安いものですね。


「では早速足りない材料を買いに行きましょうか」

 色々と買い足す物もありますし、早速アルバボッシュに向かいましょう。


「はい!あ、あの、作っていただけるのでしたら私も材料費…」

 金額の事を気にしてかそう提案してくれたのですが、市販されている小麦粉とかを買う程度なのでお金自体は問題ないのですよね。まあグレースさんはその辺りを気にする人のようですし、半分持ってもらう事にしましょう。


「では材料費の半分だけお願いします」

 こうして私とグレースさんはアルバボッシュに買い物に出かけて、色々ウィンドウショッピングをした後、必要な物を買い揃えて一緒にケーキを作る事になりました。


 そのケーキにもやっぱり変な効果があって、食べたグレースさんが大変な事になったのですが……グレースさんはその時の事は「墓場まで持って行きます」と真っ赤になっていたので、私はあえて思い出さない事にしました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] そこ見せないのか… まあ結果は分ってるけどみたいね
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