144:錬金術に挑戦してみます
掲示板や情報サイトの速報を見ている限りでは王都攻略イベントの開始が明日以降でほぼ決定し、『小人化』を解除するために繋いでおく必要がなくなった私は後回しにしていたリアルの用事を終わらせる事にしました。
とはいえ現在の進捗のまま伸びていったらという話ですし、VRMMOではありえない追い込みがかけられる可能性が0ではないのですが、どれだけ早く『小人化』が解けたとしても最短21時頃で、もし20時開催となるとどうやっても間に合わないのですよね。
今日開催となると繋いでいても繋いでいなくても『小人化』したままの参加になりますので、こうなると進捗を時々確認する程度にしておいて、ゆっくりと夕食を食べてからゲームにログインする事にしました。
*****
そうして戻って来たブレイクヒーローズの世界ですが、早速【錬金術】に挑戦していきたいと思います。
本来なら最低限の基礎をギルドや書物で学び、色々と試行錯誤していくスキルではあるのですが……ネットの情報サイトにも基本的な事やレシピは書かれているので、その範囲は予習済みです。
別にやり込むつもりはないですし、とりあえずまずは回復スキルが習得不可能である『レッサーリリム』でも回復アイテムが作れるかの確認ですね。
最初に目指すのは『初心者ポーション』の制作で、必要な物はポーションを入れる瓶……これは市販されている物でもいいのですが、材料があれば【錬金術】でも作れるようですね。
大量生産する訳でもありませんし、そもそも時間を潰すための生産ですからね、スキルのレベルを上げのためにも自作する事にしましょう。
瓶を作るのに必要な材料は『輝きの砂』というアイテムで、フィルフェ鉱山やウェスト港周辺の砂浜などで入手が可能なようですね。
量や質としては鉱山の方が安定して採掘できるのですが、ウェスト港の方が手軽に採取できるようなのでそちらから拾ってくる事にしましょう。
そして中身のポーションを作るのに必要な材料は薬草と水で、『初心者ポーション』を作る場合は『ホーリーリーフ』という薬草と『水』が必要なのですが、『ホーリーリーフ』についてはアルバボッシュ周辺やその辺りに生えているようなので、道すがら探してみようと思います。
『水』の方は本当にただの『水』なので、町や村の井戸から無料で汲めるようですね。そちらは瓶が完成したら汲みに行く事にして……後は【錬金術】をおこなう場所と言いますか、道具が必要なのですが……これはヨーコさんやドゥリンさんがやっていたように何かしらの施設を借りるのが一般的なのですが、私の場合はお試しなのでそれほどの質は求めないのですよね。
どういう道具をレンタルすれば良いのかもネットの情報以上の物がありませんし、まずは練習としてプルジャの工房の無料施設を借りる事にしましょう。
このプルジャの工房は少し前までは多くの人が利用していたらしいのですが、今はウミル砦に生産広場が出来ており、そちらの方が質の良い道具が揃っているので大半の生産者は砦に移動してしまったようですね。
勿論プルジャの工房に誰もいないという訳ではないのですが、工房に残っているのは人混みが苦手な人が多いようで、あまりコミュニケーションをとってこない人が多いらしいというのも良いですね。
それにプルジャの工房は人外種族のスタート地点だからかモンスタープレイヤーにも寛容で、私や牡丹が居ても違和感はないでしょう。
というよりプルジャのこの辺で意思疎通可能なモンスターを下手に倒していたらレッドネーム一直線ですからね、工房付近でいつもは見かけないモンスターを見つけた場合PvPを警戒して攻撃を控えるのが暗黙のルールになっているようです。
そういう訳で、私達は必要な材料を集めてプルジャの工房に移動する事にしました。率先して採取系のクエストを受けた事がないので手間取るかと思ったのですが……。
「簡単でしたね」
「ぷっ」
『輝きの砂』はウェスト港の海岸に行けば岩塩のようなキラキラ光る砂の塊として落ちていましたし、『ホーリーリーフ』もその途中に生えていたので毟ってきました。
まあ採取が簡単なのは作るアイテムが一番簡単な物だという事が関係していそうですし、難しい物ほど採取も難しくなっていくのでしょう。
完成品の質を考えると厳選するべきなのですが、まずはお試しなのでC~D品質の物を大雑把に十回分拾っておきました。
プルジャの工房には井戸がありますので『水』の心配はないですし、これで問題なく【錬金術】を使う事が出来ますね。
プルジャの工房には何人かの生産プレイヤーがいてチラホラとこちらを見てくる人がいたですが、「ああ、スライムプレイヤーか」みたいな顔をしたあと作業に戻っていき、1人か2人軽く会釈をしてきてくれるくらいで、各々の反応としてはその程度ですね。
変に絡んでくるような人はいませんし、魅了が発動する様子もありません。私達は周囲の人の反応が薄い事を良い事に、改めて道具を見て回り……丁度錬金術に使う釜が空いているようでしたので、早速使わせてもらう事にしました。
(たしか、まず釜に魔力を通してスキルを発動させる……でしたか)
【錬金術】に使うこの釜は特殊な『錬金釜』という物で、魔力を通した状態でアイテムを入れかき混ぜると大体の物を溶かす事が出来るようになり、色々なアイテムを作れるようになるそうです。
釜の大きさは千差万別で、携帯用の物となると手乗りサイズの物まであり、作れる物の大きさや品質に影響するのですが、プルジャの工房にあるのは直径1メートルの特殊な金属製の大きな釜で、平均品質は『C』、情報では『B+』が出来たという報告があるようですね。
拾ってきたアイテムの品質的にもまずは平均である『C』、もしくは『D』あたりのクオリティを狙うとして、大体の物を溶かせるのならこれでモンスターを倒せないかと少し考えてしまったのですが、残念ながら出来ないようですね。
生きているモノを入れると抵抗されると言いますか、弾かれてしまうようで、ある程度死んでいる事が『錬金釜』で混ぜる時の条件になっているようです。
このある程度と言うのは曖昧な言い方ではなくて、【錬金術】には『生きてる**』といった生命力が残っているアイテムや、アイテムの説明文に『**の魂が宿った』とか『まだ生きているような**』といった、生命の残滓が残っているアイテムを材料にする場合があるので、こういう説明のようですね。
まあ【錬金術】に使用できる状態というのが設定されているのでしょうし、大人しく攻撃に使おうとするのは止めておきましょう。
そして生きている物は抵抗されるというように、生きている系の材料を使うと成功率に影響がでるようなのですが、今回は砂と草と水なので問題ないですね。
情報サイトに載っていた事を思い出しながら私が『錬金釜』に魔力を流していると、ポッと光ったような気がして、流していた魔力が弾かれるような感覚がありました。どうやら準備が整ったようですね、早速材料を入れていきましょう。
(まずは瓶作りからですが…)
魔力を通した『錬金釜』に『輝きの砂』を入れ、釜の縁に立って2メートルくらいの長さがある木の棒でかき混ぜる訳なのですが……小人にはちょっと辛すぎませんか?
「ぷぃ」
「ありがとうございます」
その辺りは牡丹に手伝ってもらう事にして、一緒に混ぜていきましょう。
これで本当に大丈夫なのかという事は少し気になったのですが、失敗したら失敗したらで、その時は私1人で混ぜる事にしましょう。
とにかく『輝きの砂』を錬金釜の中に放り込み、木の棒で擦ると……みるみるうちに溶けて液体のような状態になっていきます。
『輝きの砂』だけを使うのは本当に基本的なレシピで、ここに他のアイテムを投入して色々な配合を試すとまた違う物が作れるらしいのですが……とにかく今回は基本通りを心がけましょう。
砂がトロリと溶けるのは不思議な感じなのですが、とにかくここからの邪念は厳禁です。コツとしては制作物を頭の中にしっかりとイメージする事が大切で、それによってアイテムが生成されるようでした。
混ぜ方にもコツがあるようで、混ぜる力や速さ、魔力を一定に流したりリズムよく流したりと色々な方法があるようなのですが、今回は一番簡単な一定のスピードと力加減で、魔力を細く長く流していきましょう。
かなり繊細な魔力操作を要求されるのですが、一度アイテムを作ってしまえばレシピが登録できるようで、登録したレシピは『オート制作』でコストを支払えば適当に混ぜても作れるようになるようですね。
ただ初回はどうしても完全に手動で、失敗すると自分の作りたい物と全然違う物が完成したり、酷い時には爆発したりするようです。
私はゆっくり慎重に、持ち運びに便利そうな四角い瓶を想像しながらかき混ぜていくと……底に溜まった砂の液体がカッと光ったかと思うと、私が思い描いていたような、蓋のついた角瓶が完成しました。
(出来ましたが…)
『角瓶』:生成の腕が甘く、ガラスは濁ってしまっている。しかし瓶としての用途に使えなくもない。レアリティ:C。品質:E。制作者:ユリエル。
ガラスに艶はないですし、光が歪んでいるので厚さも一定ではないようですね。レアリティが『C』なのは単純なガラス瓶なのでしかたがないとして、品質が『E』なのがちょっと気になります。
「……牡丹、今度は1人でやってみます」
なのでもう一度挑戦してみましょう。
「ぷぃ?」
錬金釜の底から完成した瓶を咥えて戻ってきた牡丹が呆れ顔をしていたのですが、材料の品質的には『D』くらいなら出来そうなのですよね。
(魔力の流し方がいけなかったのでしょうか?それともイメージの方ですか?)
材料は残り9回分ありますし、折角なので少しだけ試行錯誤する事にしてみましょう。
※気軽に時間を潰するつもりが、ユリエルのアトリエが始まってしまいました……そして諸々の諸事情によりブレイクヒーローズの更新を数日間停止させていただき、ちょっと別の作品を上げようかと思います。
ちょっとバタバタするので更新は不定期になる可能性がありますし、ブレヒロを楽しみにしている人には申し訳ないのですが、不意に書きたくなったのでどうかご了承ください。




