137:白スク
※変な人が出てきて変なノリですと注意を入れようと思ったのですが、大体いつもそういう感じのような気がしました。
いきなり知らない男性から白いスクール水着をプレゼントされるというのはなかなかの恐怖体験で、これがリアルでの出来事だったら絶対に受け取らないのですが……そういう事情を抜きに考えると、小人用の服と言うのは貴重なのですよね。
【ランジェリー】縛りのある私からすると変に布地の多い服を渡されるよりこれくらいの物の方がちょうど良いかもしれませんし、渡された白スクの装備データを確認してみたり、何か変な仕掛けがないかまじまじと見たりしたのですが、変わった所はありません。
「ぷぅ~?」
牡丹も胡乱げな目でその男性を見ていたのですが、「着てくれるかな?」と期待に満ちた邪な目をしている男性はその視線に気づいていないようですね。
「だ、大丈夫だと思うよ、素材的な伸縮性でサイズの幅はあるし、そ、それにこの水着はパッション天使っていうゲームのメイプルっていうキャラが着ている物なんだけど、再現度は僕の中では99.7%くらいで自信作なんだ、特にこの背中の羽を出す所もきっちりと作り込んでいて干渉も少ないんだ」
私達がいきなりプレゼントされた事に戸惑っていると、男性は水着のサイズや【腰翼】が動かせるかというデザイン的なところに見当違いのフォローを入れてきました。
どうやら何か変な事を考えているという訳ではなく……いえ、十分邪な考えがあると言えるのですが、悪意があるというタイプではない、ただの変な人だったようですね。
この白スクが【ランジェリー】に含まれるのか少し悩んだのですが、装備情報を見る限りでは水着類は【服】と【ランジェリー】のどちらでも着れるようですし、自分の装備を男性に作って貰うという事はゲームではよくある事ですからね、晒や褌姿より幾分マシなのでこれはもうそういう事だと思い込む事にしましょう。
「あ、ありがとうございます…でもいいのですか?ずっと小人という訳でもないですし…」
時間制限付きで『小人化』している事を伝え、お金を支払おうとしたのですが、この人にも受け取りは拒否されます。
「い、いい、いいい!!大きくなってまた作って…あ、あぁー、で、でも、しゃ、写真一緒にとっていいかな!?それと出来たらフレンドと……」
「ユリエルちゃん?ユリエルちゃんが帰って来たのかい!?」
「ひゃっほ~おっぱいだ~!!」
私達が話をしていると、フィッチさんグループの人達がワラワラと集まってきて会話が中断してしまいました。相変わらずのセクハラじみたノリに目を細めてしまうのですが……。
「すみません、それで、何ですか?」
私は改めて水着を作ってくれた人に声をかけたのですが、何故か彼は肩を落として「いや、なんでも」と言いかけた事を飲み込みました。
いきなり白スクを渡してくる変な人だったのですが、作った物を見る限り腕は良いようで、ミシンやオートメーションなんていう物の無いブレイクヒーローズでも既製品のような綺麗な縫い目をしていますし、歪みもありません。
ひょんなところから小人用の白いスクール水着を手に入れてしまったのですが、実は使われている材料が良い意味でおかしいのですよね。
このレベルになるとプレイヤー産という訳ではなく、リアルショップに売っている物だと思うのですが、使われている布はミハラ工業製の汎用スキンタイト宇宙服の生地を加工した物で、何でこんな物がゲーム内ショップで売っているのかはわからないのですが、ちゃんとした宇宙仕様の正規品のようでした。
柔軟で強靭、あらゆる宇宙線から人体を守り、ネジ程度の小型デブリなら防ぐという13層の特殊加工された素材は、それ自体が第2の皮膚として機能するという代物で、確か宇宙での課外授業を行うような先進的な学校がこの素材を使った指定の服を作ったという事がニュースになっていたような気がします。
何故そんな事を知っているかと言うと、私の学校でも導入するという話があったのでたまたま知っていたのですが……まあリアルの話はこれくらいにしておきましょう。
こういう物には加護が付きづらいという設定で、生産に使っても強度が落ちたり特殊効果が乗らなかったりと色々と制限が入り、加工したせいで逆に性能が落ちてしまっていますし、皮膚のようにブヨブヨした生地に普通の糸が使われているのでどうしてもその部分が硬く盛り上がっているような引っ掛かりを感じるのですが、プロが作ったという訳でもないのでそういう細かな所にツッコむのは野暮かもしれませんね。
それでは早速着てみようと思ったのですが、流石にここだと人の視線がありますし、バレていないと思っているのかもしれませんが中にはカメラを出している人もいますからね、隠れて着替える事にしましょう。
「牡丹」
「ぷ」
私が声をかけると牡丹はパッと口を開き、その中を簡易更衣室として使う事にしました。やはりあちこちから私達の事を窺う人がいたようで、周囲からは大きなため息や何故か悲鳴が聞こえてきます。
いい大人達が何をしているのでしょうと思わなくもないのですが、それは一旦横に置いておき、早速巻いていた布を外して水着に着替えるのですが……思ったより変な着心地ですね。
薄手なのに弾力があり、内側は毛穴一つ一つにまで張り付くような感触で、この手の素材は基本的にオーダーメイドでその人のスタイルに合わせて制作される物なのですが、このミハラ製の物は汎用性を売りにしており、着用者に合わせて形を変える素材で出来ていました。
本来の使用用途としては共用の宇宙服の関節部やアンダーなど、不特定多数の人が使用する場所に使われる素材として開発された物で、人体を検知すると自動で膨張収縮して体にフィットするという物なのですが……裁縫上の問題なのか、修正範囲を超えてサイズ感を間違えているのか、胸がきついですね。
目測で全体のサイズを決めたのだと思うのですが、胸の大きさを測り間違えているようで、布が引っ張られ全体的にピチっとして体の凹凸が丸わかりになってしまいます。
布面積が大きいので食い込んだりはみ出たりするという事はないのですが、ここまで体に張り付くと材質と糸の質が違いすぎる事がどうしても気になってしまい、軽い緊縛感があるのですが、動いたところ特に支障はないですし、【腰翼】も問題なく動かせそうですね。
少し動いて着用感を確かめるのですが、何かおかしな物が仕込まれている様子もなく、むしろ何も着ていないかのような着心地なのですが……デザインが少し子供っぽいという事と合わせて、ちょっと恥ずかしいですね。
小学校低学年の女の子が着たら似合いそうな水着なのですが、一体どういうキャラの衣装を模したのでしょうね?
私はゲームのタイトルくらいしか知らず、内容がテイマー系の対戦物だという事くらいしか知らないのですが、詳しく調べるのが怖いような気がするので検索しないでおきましょう。
とにかく何時までも牡丹の中に居ても仕方がないですし、私は軽く呼吸を整えてから、白スクを着た姿を皆さんに披露する事になりました。
「すげぇ、本当にメイプルだ!後はもう髪を後ろでまとめて金髪にしたら完璧じゃないか!?」
「ふぉぉおおお!!!おっぱいおっぱい!!」
外に出ると何故かワーっとおっぱい祭りが始まっていたのですが……たったこれだけの事でここまで盛り上がれるこの人達は人生を楽しんでいるような気がしますね。
恥ずかしいような、呆れてしまうような、まあいいかという気持ちになってくるのですが、女優である母もこういう気持ちを経験したのだろうかと考えてしまいます。
そういう訳で私は小人用の新しい衣装を無料で作って貰ったのですが、ここの人達には色々と借りが出来てしまっていますからね、フィッチさん達の船作りのお手伝いをして、お礼は体で返しておく事にしました。
※作中に出て来た『パッション天使』というのは、タイトルとは裏腹に電脳世界を舞台としたSFチックな内容で、幾つかの陣営に分かれて色々なモノを使役し戦わせる大規模なポケ〇ンのようなゲームです。
その光陣営に出てくる重要キャラであり、見た目やプレイヤー側へのボーナス要素などが高い人気キャラに、おっぱいの大きなメイプルというキャラがいます。
元は18禁で開発されていたらしく対象年齢が高く設定されており、お色気要素もふんだんに取り入れられているので、ユリエルはあまり詳しく知りませんでした。




