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13:人外種の悩み

「そんでまあ、とりあえず戦利品は自分が倒した奴でええか?」

 自己紹介を終えた後、我謝さんはそう提案をしてきました。


「わかりました。問題ありません」

 この場合私は錆びた短剣と汚れた腰布で、我謝さんが弓矢と汚れた腰布という振り分けですね。ちなみにこれらの装備は確定ドロップという物で、採集系のスキルがあれば死体が消えるまでに別のアイテムを剥ぎ取れるようになります。ゴブリンの場合は確か小さな魔石などが取れたはずですが、我謝さんも採集系スキルはもっていないのか、使い忘れていたのかはわかりませんが、特に剥ぎ取りを行っていなかったので確定ドロップ分だけですね。


「おおきに、じゃあ早速……つーても、弓なんよな」

 我謝さんはゴブリンが持っていた弓の弦を弾くのですが、その張りは甘いですし、質も高くなさそうです。そもそも我謝さんは弓矢の心得がないようですね、かなり渋い顔をしています。


「折角ですし練習してみたらどうですか?遠距離攻撃が出来たら便利ですよ?」

 私は錆びた短剣を腰布で包んでおき、剣帯のベルトに挟んでおきます。後忘れないうちに野苺も回収しておきましょう。


「せやな、そうしてみよか…って、なんや自分、くいもん集めてたんか?」


「ええ…遠出をする前に集めておこうかと思いまして」

 燃費が悪い事はつい伏せてしまいました。別に隠すほどの事でもないのですが、我謝さんとも何かのイベントで戦う事があるかもしれませんし、知らないうちに弱点が広まっていたという事もありますので、心苦しいですが黙っておきましょう。

 この手の攻略情報が公式からバンバンでないタイプのゲームの場合、情報収集を趣味とした解析班なんていうのも出てきたりしますからね、情報を出す出さない(売る売らない)は少し吟味した方が良いかもしれません。


「へーやっぱり他の種族やと食べんといかんのやなー…って、考えたら当たり前か」


「そういう我謝さんは、空腹度はどうなっているのですか?」

 スケルトンの食事ってどういう物なのでしょう?


「ん?ワイの方か?MPが代わりに消費されとる感じやな。自動回復の範囲やから実質無限や!」


「それは、便利ですね…」

 空腹度との戦いになりそうな私とは真逆の体質です。ただ我謝さんの場合、体を動かすたびにカタカタと音が鳴っていたりしますから、何かしらのメリットとデメリットの差が激しい種族という事なのでしょう。


「すみません、もう一つ質問良いですか?」

 我謝さんは色々と聞いても特に嫌な顔をしなさそうだったので、気になった事を質問させてもらいましょう。


「ん、なんや?」


「どうやって喋っているのですか?」

 見たところ声帯らしき物はありません。表情豊かといいますか、喜怒哀楽がはっきりと顔に出ているスケルトンが流暢に喋っているという絵面がどうしても気になります。


「ああ、これな。【人語】っていうスキルなんやけど、どうも魔力を振動させているみたいやな。叫んでいたら覚えたんや」

 叫んでいたらというのは何か凄い取得条件ですが、たぶん何かしらの言語を発しようとする行動が条件になっているのでしょう。そしてVRMMOですからね、そのあたりのコミュニケーションスキルは取得条件が緩く設定されているのかもしれません。

 言われてみると私の腰翼を隠すスキルも比較的すぐに覚えましたし、その手のデメリットを打ち消すスキルは案外簡単に覚えるのかもしれません。と、レベルが上がっている事ですし、忘れないうちに【収納/展開】のスキルを取っておきましょう。


「【ステータスオープン】」

 ステータス画面を確認してみますが、レベルアップによる成長は見た目上特にないですね。レベル表記が2になっている事と、SPが1ポイント付与されている事くらいです。早速【収納/展開】を取っておきましょう……取得ボタンに手が伸びたところで、私は少し考えます。

 本当に取得してしまっていいのでしょうか?レベル上限がどれくらいかわかりませんが、上限を100と考えた場合、レベルアップで取得できるSPは99です。上級スキルはポイントが倍とかいう仕様でなければ取得スキルの数も99個、そのうちの1ポイントを消費していいのか考えてしまいました。

 将来的に腰翼が動くようになり、移動補助にも使えるようになれば【収納/展開】は完全に死にスキルとなります。今ちょっと不便だからという理由で貴重なSPを消費していいのかと少し考え込みましたが、将来的という事を考えるのでしたら、他の有用そうな種族スキル……見た目が変わってしまうスキルを取っていった方が強くなれるでしょうし、それらを隠す利便性や必要性が出てくるかもしれません。


(という事にしておきましょう)

 今のところ死にスキルになるかなんてわかりませんし、低レベルの腰翼だと大して動かす事も出来ず、完全に足を引っ張っています。

 もともと飛行出来るタイプの種族でもないので、スキルレベルを少し上げた程度で自由に飛び回れるという事もないでしょう。動かそうとしてみた結果もそれほど芳しくなく、大器晩成型のスキルのような気がします。ある程度スキルレベルが育つまでは【収納/展開】は有用でしょうと判断して、貴重なSPを振ってスキルを取得します。


「【収納】」

 早速使ってみると、腰翼が解けるように渦を巻き、小さな黒い蕾のような形になりました。大きさは卵より少し小さいくらいで、それが腰翼の付け根のところについている感じですね。硬さは角くらいで、【収納/展開】のスキルレベルが1だとそれより小さくはならないようです。この大きさだと気を付けないとまたゴリっといきそうですね。


「ほー…ソレ()、小さくもできるんやな」


「はい、流石に森の中だと不便ですので」


「せやな……あーだから茂み避けるためにクネクネ動いとったんか…」

 どうやら我謝さんから見た私はかなり変な動きをしていたようですね。何か言いたげな顔で頬をかいていましたが、何も言いませんでした。


「あの、何か?」

 妙に歯切れが悪いというか、気になります。


「いや、いい、気にすんな。いや、やっぱ気にせい。ワイが言いたいのはつまり……慎みをもてっちゅーことや!」

 たぶん胸が揺れていた事を言いたいのでしょうが、私も別に好きで揺らしているわけではありません。嫌らしい下心のある誹謗中傷というわけでもなく、顔を赤らめての注意だったので、私も「わかりました」とだけ返しておきました。

 もしかしてですが、我謝さんはあまりゲームをしない人なのかもしれません。胸の大きな女性アバターは多いですし、それが女性配信者となると煽情的な服を着てのプレーなども普通です。見慣れていないという事は、そういう動画もあまり見ない人なのでしょう。


「う、わかってない反応やが、まあええわ……ほんまなんつー目に悪い…いや、ええわ。あー…そんでワイからも質問なんやけど、この辺りでなんか大きな布とか見かけへんかったか?もしくは最悪編むのにちょうどいい蔦みたいなもんがあればええんやけど」

 我謝さんは日光ダメージを受けてしまうとの事で、それを防ぐためのマント代わりに使える物が欲しいそうです。影があれば微回復するスキルも取っているとの事で、何とか減少させる事が出来たら行動範囲が広がるのにとの事でした。


「残念ながら。あ、ゴブリンの腰布ならありますが」

 布がなくて服を破いたくらいですし、そんな物を見つけていれば真っ先に拾いに行っています。今私が持っていて、人にあげていい布は先ほどの戦利品(腰布)だけです。


「いらんわボケ!ワイも持ってるちゅーねん、つーかそんなん被れるか!!」

 我謝さんのツッコミが激しくて少し驚きます。


「つっても、最悪被るしかないんやろうなー……どうしよ、このまま朝になったらまたリスポーン祭りやで…」


「そういえば……」

 私は他に何か代用にできそうな物を思い出そうとして、ある物を思い出します。


「布ではないですけど、道沿いでウルフに襲われましたね。あの大きさでしたらそれなりの大きさの毛皮が取れるかもしれません」

 採集系スキルは取っていないのですが、最低品質で毛皮をはぐ事くらいは出来るかもしれません。というより剥げなければ新規で【採集】スキルを取る事ができませんので、剥ぎ取れるでしょう。

 私の場合は食料()を確保するという意味合いや、単純なレベル上げ目的も含まれますが、再挑戦してみるのもいいかもしれません。


「お、それはええな、ワイが出会ったのは梟や蝙蝠ばかりの小物でちょーっと量が足りへんかったからな。そんなんチマチマ集めてられへんし、大物は歓迎や!そんで、どのあたりにいたんや?」


「案内しますよ、私もリベンジしたいですし。行くのならPT組みましょう」

 2人で攻撃すると経験値が良くわからない事になりそうですし、PTは組んでおいた方が無難でしょう。


「お、助かるわ」

 PT申請を送るとすぐに了承が返ってきます。これで範囲が『PT』となっているスキルの適応内になり、PTチャットという連絡手段も使えるようになりました。後はPT欄に名前が表示されるだけで、HPが見えたりはしないようです。やはりどこか不便さを感じてしまいます。


「うーん、ほんまショボいな」

 我謝さんも似たような感想を抱いたのでしょう、手元の空間を見ながら呟いています。ステータス画面を見ているようなのですが、同意がなければ他人からは見えない仕様のようですね。ん?というより、我謝さん通報していますね。この場合は“要望”かもしれませんが。この手の公式への通報はセーフティーエリア外でも出来るようです。というよりも、どこでも出来ない方が問題がありますね。


「ん?ああ、ちょっとPT関係不便やないかって送ってるだけや、ちょっと待ってな…っし、完了や。お待たせやで」

 私は結構そのままを受け入れるタイプですが、我謝さんはガンガン要望を出していくタイプのようですね。それが変な内容でしたら止めた方がいいかもしれませんが、PT周りの仕様は私も不便だと思いましたし、この辺りはプレースタイルの違い程度の話でしょう。


「わかりました、ではこちらです」

 我謝さんが要望を出し終えてから、私は道沿いの、ウルフを見つけた場所に向けて歩き始め……る前に空腹度を少しだけ回復させておきましょう。ウルフと遭遇したら戦闘ですし、その前に野苺を2粒ほど食べておきます。


「?」

 歩き始めていた我謝さんは、いきなり食べ始めた私を不思議そうに振り返り……そのタイミングで、風切り音が聞こえてきました。


「我謝さん!」

 射撃音。たぶん弓矢。先ほどのゴブリンとは比べ物にならない練度の矢が我謝さん目掛けて飛んできています。射点は少し遠い茂みの中。そこまで確認はできたのですが、食べていて反応が遅れてしまいましたし、私の両手は野苺と錆びた短剣で塞がっていました。横から妨害するにはリーチが足りません。


「え?」

 いきなり呼び止められた理由がわからなかったのか、我謝さんはのんびりとした表情で振り返ります。矢は我謝さんをとらえ……アバラ骨の間を通過していきました。


「おっわ、なんやなんや!?」

 スケルトンには貫通耐性があるのでしょう。それとも単純に隙間が多くて命中しなかったか、いえ、今はそれよりも、射点にいる人物の方に向き直りましょう。


 茂みの中から上半身を出しているのは、金髪緑目のエルフの女性ですね。弓を構え、そして私たちの反応を見て「しまった!」みたいな顔をしています。


「ご、ごめーーーん!!」

 エルフの女性の謝罪が響き渡ります。どうやら人外プレイヤーは一般プレイヤーにも気を付けないといけないようですね。

※巨乳が体を左右に振ったら胸が揺れます。それは物理法則の範囲であり、世界の摂理です。

※8/21 誤字修正。報告ありがとうございます。

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