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130:漂着

※あけましておめでとうございます、今年もブレクヒーローズをよろしくお願いいたします。

 波の音と、砂の感触。私達は色々あって王都とウェスト港の間に浮かぶ島に向かう事となり、何かが海中から迫って来たかと思うと筏が転覆して、それから……。


 『『海嘯蝕洞(かいしょうしょくどう)』がグレース、ユリエル、ウィルチェによって発見されました。それに伴い地理情報が更新されましたので、詳細を知りたい方はブレイカーズギルドにてご確認ください』

 どうやら私は気絶していたらしく、ぼんやりとした頭にワールドアナウンスが聞こえてきました。

 きっと海中からの攻撃に気絶判定が入っていたのでしょう、島に引き寄せられた事から考えても何かしら不思議な力(クエストの強制力)が働いているのかもしれません。


「っ…」

 ゆっくりと目を開けてから体を起こすと、被っていた砂がパラパラと落ちました。

 HPを確認するとちょうど1割ほど削れているのですが、行動制限になりそうな状態異常は『小人化』を除けば『気絶』のみで、それ(『気絶』)は数秒もすればチカチカと点滅し自動解除されます。


 どうやらここは巨大な岩礁のような島の端の小さな砂浜で、振り返れば海峡越しにウェスト港方面の地域が見えました。

 無事?に目的の島に到着したようなのですが、筏は転覆してしまったようですし、そもそも……。


「牡丹?グレースさん?…ウィルチェさん?」

 とにかく皆の無事を確認しようと辺りを見回してみたのですが……この場所に漂着したのは私だけのようで、2人と1匹の姿はありません。


 これはゲームでよくある漂着イベントというものなのでしょうか?確かにそういうイベントでは分断される事はよくある事なのですが、今の私にとって、牡丹がいない事は非常に困りますね。


 テイム画面を見た限りではHPが多少減っているものの牡丹は無事なようですし、イベントでこの島に漂着したのならきっとどこかで合流できるでしょう。


 続いてグレースさん達の無事を確認しようとフレンド欄から通話を試みようとしたのですが『対象プレイヤーは特殊クエスト進行中の為、現在連絡を入れる事が出来ません』と表示されました。


(特殊クエスト?)

 レッドネームになり独房などの隔離MAPに収監されると通話に制限がかかるという事は聞いた事があるのですが、ここ(海嘯蝕洞)もそういう隔離MAPの一つなのでしょうか?

 とにかくステータス画面の『クエスト』欄を確認してみると、私も『海嘯蝕洞からの脱出』というクエストが進行中のようでした。

 内容としては『神々と精霊に封印されし(くら)き海に掴まらぬよう、島のポータルを探し出し脱出せよ』というものでした。

 相変わらず情報量が少ないのですが、たぶん奥に進めばボスがいるけど脱出を優先しろと言う事なのでしょう。

 討伐せずに逃げると言うのはちょっとモヤっとしますが、今は『小人化』していますし、無理は出来ませんね。


 因みにウィルチェさんとはフレンド登録していなかったのですが、配信をしていたようなので早速その配信を見にいったのですが……これは全然役にたちません。


 『島に目掛けてレッツゴーだねー?って、これどうやって操縦するの?』という所から配信が始まり、常にカメラ目線のウィルチェさんを中心に撮影しているので周囲の状況がわかりませんし、数分もしないうちに筏が転覆したところで配信は止まっていました。


 水没した際にカメラが壊れて配信が止まってしまったのでしょうけど、この映像ではまともな情報源にならず、コメントも「何だこれ?」みたいなものばかりですね。ワールドアナウンスが入った後、何か情報があるかと見に来た人達からも「使えねー」と評判です。


 そういう訳でウィルチェさんの配信は残念だったのですが、攻略掲示板には『海嘯蝕洞』についての速報が載っていました。

 それによれば大昔の神々や精霊が強大なギガントモンスター(特別な魔物)を封印した場所のようで、その近海を通りかかる船や獲物を引き寄せる危険海域として知られている場所のようでした。

 仕様的には船を作って別の大陸にショートカットをするのを防ぐためのギミックなのかもしれませんが、とにかくブレイクヒーローズで海に出るのは危険なようです。


 そういう事は出来れば海に出る前に教えて欲しかったのですが、近年では大した活動もなく安定していたとの事で、流石に長い年月が経つうちに力を失ったのではと考えられていたのですが……いつの間にか復活していたようですね。


 いつの間にかと言うのも曖昧な話なのですが、もしかしたらスライムイベント(キングスライム)に刺激されて起きたのかもしれませんし、ウェスト港などの海関連のイベントが進むと開始されるのかもしれません。とにかく、ブレイカーズギルドとしては不用意に海に出るのは控えて欲しいとの事でした。

 とはいえギルドとしてはどこまで復活しているのか調査しない訳にもいかず、危険度の高い上級クエストとして『海嘯蝕洞の調査』というクエストが受注可能なようで、絶対に来るなと言う場所ではないようですね。


 メタ的に考えると、少し海に出ただけで送られるMAPですし、人によってはゲームが出来る時間というのがありますし、それほど長時間拘束するような場所でないと思うので、脱出するだけならそれ程難しくない場所なのでしょう。

 そう考えると、現在のプレイヤー達のレベルからすると危険度は高いけど一応探索は可能なエリア、というのが妥当な難易度だと思います。


 まあHCP社の場合とんでもないMAPを用意しているという事も考えれますし、集めた情報から考えると今の段階でどうにかなるという相手ではなさそうなので戦闘を回避する方向性は変わらないとして、まずは周囲の探索とグレースさん達との合流ですね。


(さて)

 私は気持ちを切り替えて、自分の状態を確認してから周囲を見回しました。


 今の私は『小人化』しており、HPは1割減少ダメージ、装備は布の晒と褌だけで他のアイテムは持っていません。

 この状態ではまともな戦闘は出来ず、火力となりそうな【ルドラの火】も『サルースのドレス』の補助(持続時間延長)がないので燃費はなかなか悪いですね。

 そもそも左手で直接【ルドラの火】を使うとダメージが入りますし、ポーションすらない状況で使うのは自殺行為なので、使うとしても最後の最後、リスポーン覚悟での使用となるでしょう。


 万が一の長期戦を考えると積んでいたアイテムくらいは回収しておきたいと思うのですが、どこかに漂着しているのでしょうか?(移動手段制限)に関しては諦めるとしても、所持品以外のアイテムが問答無用で全ロストするイベントでないと思いたいのですが……ワールドアナウンスの名前の順からするとグレースさんが先頭(主体)のようですし、もしかしてそちらと一緒に漂着しているのかもしれませんね。


 牡丹に関しても、私のテイムモンスターなので一緒に漂着していてもいいような気がするのですが何故か分断されていますし、筏に引っ付くようにと言っておいた指示が守られアイテム側に行っているのでしょう。

 そうなると余計にグレースさん(アイテム漂着組?)との合流を目指すべきなのですが……私は周囲を眺めて、軽く息を吐きました。


 島の標高は500~600メートル、全長3~4キロくらいの四角い形をした巨大な岩のような島で、日の当たる最上部には苔や湿地帯に生えるような植物が生えているようなのですが、大半はヌメヌメとした岩場が広がっており、長年の風雨や波の影響でアリの巣のようなトンネルが上下左右、縦横無尽に伸びています。


 私のいる猫の額のような砂浜からは遠く海を隔てウェスト港方面が見えるので島の北側だと思うのですが、波打ち際の、島の一番下の階にいる状態のようですね。


 最下層スタートとなると、ゴールは最上階とかがセオリーなのかもしれませんが、切り立った岸壁のような岩肌はヌルヌルしていて登るのは難しそうですし、今の私(15分の1)からすると体感標高は7500m~9000m級の山々と変わらないですからね、ちょっと昇るのは無理なので、まずは水平移動をして2人を探す事にしましょう。


 それにしてもこういうのは海食洞(かいしょくどう)というのでしたっけ?立体的な道は自然が作ったにしては少し不自然な気がするのですが、ゲームのフィールドにたいしてそういう事を気にするのは無粋なのでしょうか?

 まるで何かが這いずったような跡があるようにも見えるのですが……今は考えても仕方がなさそうなので、心にとどめておく事にします。


 島の材質としてはあまり見た事のない青みがかった黒っぽい岩質で、どうやら特殊な鉱石が含まれているらしいですね。

 こういうの(調査)は得意ではないのですが、【看破】で細かく見て回った結果、粘土層と鉄が混じったような『粘鉄(ねんてつ)』や、水属性が込められた『ウォーターライト』、特殊な効果がある『海嘯石(かいしょうせき)』などで構成されているようでした。


 調べ物をしていると【看破】ではなく【鑑定】が欲しくなりますが、ない物ねだりをしてもしかたがないですからね、チマチマと【看破】を打っていきましょう。


 その中で私が気になったのは『海嘯石』で、これは特定の魔力や水分に触れると周囲のモノを引き寄せる効果があるようで、この効果で周囲の海流が乱れ、船や筏などをこの島に引き寄せているようでした。

 ある意味私達が漂着する事となった元凶ともいえる鉱石なのですが、加工の仕方によっては色々と面白そうな物が出来そうですね。


 因みに『粘鉄』のレアリティは『UC(アンコモン)』、『ウォーターライト』が『R(レア)』で、『海嘯石』は『S R(スーパーレア)』と、後者2つがなかなかの高レアです。

 ただ流石に島の端(スタート地点)ともいえる場所では品質が低く使い物になりませんし、混じっている量もごく少量なので、どこかに『ウォーターライト』か『海嘯石』の鉱床があれば、武器の改修のために回収する事にしましょう。


 それでは合流して脱出する以外の目標も出来た事ですし、あまりスタート地点で立ち止まっていても仕方がないですからね、私は周囲を調べ終えてから、島の探索を開始する事にしました。

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