125:小人化と状況把握
『プラチナボックス』を開けていたらいきなり体が小さくなってしまったのですが、落ち着いてステータス画面に表示されている『小人化』という状態異常をタップして調べてみると、どうやら単純に小さくなったというより、夜中に靴を直すタイプの小さな妖精になってしまったという状態のようですね。
何でも単純に小さくなった場合は『小人』で、妖精化したのが『小人化』と一応違う状態異常のようでした。
とにかく単純に小さくなったという訳ではない『小人化』は、日中なら他の人に認識されづらくなり、夜間なら殆ど気づかれる事がなくなるという特殊な状態のようです。
例外的に魂の清らかな人や妖精側から指定した特定の人には見えるようになるらしいので、本当におとぎ話の小人になったような状態のようですね。
まあその辺りは良いとして、課金装備と同じようなタイマーが設置されているのでこれもれっきとした“アイテム”という事なのでしょう。
そしてこれが課金装備と同じような物であれば、タイマーが0になれば効果が消えると思うのですが……残りは『23:57:12』なので、私はゲーム内時間でほぼ丸一日この状態のようですね。
いきなり効果を発揮する物がランダムボックスの中に入っている事には言いたい事がなくはないのですが、その辺りの事を今更突っ込んでもしかたがないゲームですからね、いきなり小さくなってしまった私に慌てる牡丹を宥め、散らばった装備を回収しておいてもらいました。
牡丹との大きさを比較する限りではどうやら私は10センチ程度まで縮んでいるみたいなのですが、こうなると本当に何もできませんね。
「どうしましょう?」
改めて口にしてみたのですが、それで問題が解決する訳ではないですからね、一つずつ問題を整理していきましょう。
一番の問題である『小人化』については意外と解決は簡単で、時間が経過すればそのうち治ると思いますので、その辺りの事は考えないでいいでしょう。万が一タイマーが0になっても戻らなかったら一大事ですが、その時になったら考えればいいですね。
それより問題なのが今の私が全裸であるという事で、いくら人から認識されないと言っても例外が居るようですからね、こんな格好では恥ずかしくて出歩けませんし、だからと言ってずっと同じ場所で24時間待機するというのは暇すぎです。
小人用の服とまではいきませんが適当な布切れでも確保したいのですが……この状態だと布切れ一枚手に入れるのにも苦労しますね。
そしてふと気になったのですが『小人化』の状態で服を着た場合、他の人からはどう見えるのでしょう?
着た物が一緒に透明になってくれたら楽でいいのですが、布だけ浮いて見えるようになると少し不自然なのですよね。
まあ隠れている訳でもないので見られて困る訳ではないのですが、何て言うか透明化あるあるみたいな単純な疑問です。
説明文を見る限りでは、透明になったというより妖精化して認識を誤魔化しているみたいな感じなので服ごと見えなくなってもいいような気がするのですが、碌でもない事をするHCP社の場合はちょっとどうなるのかわからないのですよね。
そんなどうでもいい事を考えながら私は布の調達を始めたのですが、『イビルストラ』や『サルースのドレス』は自動修復を使って無限増殖できないようにするためか、切れ端はそのうち消える仕様なので切り取る候補から除外ですね。その為いつも通り、便利使いしている大きな袋の端を切って貫頭衣を作る事にしました。
今の私では魔光剣を持てませんし、投擲用のナイフですら身長と同じくらいの大きさがありますからね、そこは牡丹が頑張ってくれました。
そうして何とか切れ目が荒いぼろ布を手に入れると、体に巻いておきます。この状態の私が他の人からどう見えるかは少し気になりますが、おいおい確かめる事にしましょう。
巻いた布は『サルースのドレス』のように半透明でないので、見えている肌面積と言う点では実はぼろ布一枚巻いた方が着込んでいると言えるのですが、バスタオルを巻いただけで外に居る様な、妙に不安になる感覚がありますね。
想像すると少し【高揚】が入ってしまい、感覚が研ぎ澄まされて布ずれの感触を感じるのですが……深呼吸をして落ち着かせておきましょう。
風が吹けば体に巻いた布が捲れそうになり肌が泡立つのですが、これ以上しっかり着込んで【服】判定になったら『発情』状態になってしまうかもしれませんからね、程ほどの布面積にしておきます。
と言うより、状態異常の表示はありませんが多少の『発情』が入っているのか頬が微かに熱いのですが、とにかく後の問題は『小人化』した事で色々と予定が狂ったというか、本当なら王都攻略に乗り出すつもりだった予定が完全に駄目になった事ですね。
攻略サイトを見ている限りではメンテ明けから本格的な王都攻略が始まっており、数日以内には王都攻略戦が始まりそうな勢いです。
なんでもブレイカー勢力がそろそろ王都に届きそうというどころか、王都内に居る騎士団の協力を取りつける密書クエストなんていうのも発生していたようで、王都内に入ったという人もチラホラいるようなのですよね。
プレイヤーが王都内に入った事でイベントが進み、本格的な解放のために王都周辺を荒らすワイバーン討伐のイベントが始まっているようで、縦横無尽に空を飛ぶワイバーンを特定の場所におびき寄せる匂い玉を作るクエストや、遠距離攻撃用の弩や罠を設置するクエスト、ワイバーンが引き連れる手下を減らす塒に押し入るクエストなんかが並行して進んでいるようでした。
これらのクエストを達成すると攻略ポイントが貯まり、一定数貯まるとワールドクエストである『王都攻略戦』が始まるという流れのようですね。
メインルートの戦況はだいたいそういう感じで、塒に押し入る戦闘組や、罠を作る生産組に分かれて活発に動いているようでした。
因みにその攻略ポイントはブレイカーズギルドか前線であるウミル砦で確認できるのですが、数分遅れで攻略掲示板の方にも速報が出ているので外部ネットに繋げばどこにいても確認はできました。
そのためまだ全然慌てる時間ではないという事はわかっているのですが、こういうゲームでの必要ポイントなんていうのは一気に溜まるのが相場ですからね、参加できないかもしれないという焦燥感といいますか、何か祭りに置いて行かれた寂しさを感じてしまいますね。
とはいえ流石にこの状態で戦うのは無理ですし、それ以前にもう寝る時間ですからね、今日はそろそろログアウトしておく事にしました。
考えるのを諦めたともいえるのですが、ログアウトしている間にもタイマーが進んでくれていたら朝には半分以上減っている計算になりますからね、果報は寝て待てではないのですが、あれこれと考えるよりもいっその事寝てしまった方が良いでしょう。
そう思ってログアウトしようとしたのですが……どうやらこの辺りはセーフティーエリアの外だったようで、ログアウト制限の警告文が出てきました。
はぐれの里の鍛冶場は村の外れにあり、そこから半ば無意識に人気のない方向に歩いてきましたからね、いつの間にかセーフティーエリアの外に出ていたようですね。
周囲にモンスターが居ないので村の中と外の境界線上なのかもしれませんが、もしかしたら『小人化』した影響で安全な場所までの距離の判定がややこしくなっているのかもしれません。
とにかくログアウトするためにはもう少しだけ村の中心に向かわないといけないのですが、身長10センチともなると人間の時には感じなかった起伏がちょっとした丘のようになっていますし、意識すらしない小さな雑草ですら腰が浸かる程の長さになっています。
そういう厄介な地形も【腰翼】を使えば難なく越えられるのですが、人間なら数歩の距離も小人なら50メートルや100メートルくらいの距離があるように感じますし、これからずっと【腰翼】での移動となると体力の消費が問題になってきそうです。
「牡丹、お願いしてもいいですか?」
なので今回も牡丹に頑張ってもらう事にしましょう。
「ぷっ!」
任せてというように自信満々の牡丹によじ登り、私はその体の上でバランスをとります。
牡丹に騎乗。これなら牡丹の移動速度で移動する事が出来ますし、私がチマチマ地上を歩いたり、【腰翼】で全力疾走したりしてばてる事もないですね。
牡丹に乗った感触としては水風船と言うか硬めのゼリーと言いますか、何とも形容しがたいプニプニ感でバランスボールの上で直立しているように不安定なのですが、私は『レッサーリリム』を【展開】して、【腰翼】を使いバランスをとっておきます。
足場はかなり悪いのですが、今の私からするとそれなりの広さがありますからね、中央辺りの頭皮?を掴むようにしてしがみついておけば大丈夫でしょう。
「ぷーーーっ!!!」
牡丹が出発を知らせるように軽く揺れてからピョンと跳ぶと……私は転げ落ちました。
いえ、掴んでいましたがこれはちょっと無理ですね。ロデオ真っ青どころか、人間の尺度で言うと数メートルの高さに跳びあがり、十数メートル横に移動しているようなものですからね、そんなGと急加速が加われば流石に『レッサーリリム』になっていても転げ落ちました。
【腰翼】で受け身を取った私は無傷なのですが、掴んでいた場所を引き千切られた牡丹は髪の毛1本を無理やり抜かれたくらいの痛みがあったようですね。
「大丈夫ですか?」
「ぷ、ぷぅ~…」
ダメージ自体は1あるかないかなのですが、牡丹は涙目で千切られた場所を見ながらプルプルと揺れていました。
もういっその事自分で歩いた方が早いのかもしれませんが、騎乗に成功しない限りこれからの移動が常に全力疾走に近い状態になり、しかも全然距離が稼げないという状態になりますからね、もう少しだけ試行錯誤させてもらいます。
「すみません、今度は支えてもらっても良いですか?」
先ほど転げ落ちたのは固定の甘さが問題でしたからね、今度は私が牡丹を掴むのではなく、牡丹が私を掴む形でチャレンジしてみましょう。
「ん……っ」
そうして再度私が上に乗ると牡丹は乗っている場所を少しだけ軟化させ、体の一部を私の膝下辺りまで伸ばして固定します。
その時の感触が何か冷たい舌で嘗め回されているような感じで、思わず声がでました。
今は裸足なので指の隙間まで舐められているような気もしますし、くすぐったい様な気持ちいい様な、不思議な感じですね。
笑いを堪えているような状態なのですが、とにかくその状態で牡丹がピョンと跳ぶと、思いっきり上半身が折れそうな勢いでガクっと曲がり胸が暴れるのですが、何とか移動できそうですね。
「ぷ?」
「…はい、ですがもう少し固定してもらってもいいですか?」
「これで大丈夫?」と聞いてくる牡丹なのですが、流石に膝下固定だと腰に負担がかかりすぎるので、出来たら下半身辺りまで固定してくれると助かります。
「ぷい」
私のお願いに応えてくれたのか、ズブズブと下半身が牡丹の中に飲み込まれて行くのですが……これはちょっと、不味いですね。
というよりどういう判定になっているのかわからないのですが、嘗め回されているような感触の足の方からゾクゾクとした熱が広がり、体が震えます。
もしかしたら牡丹はテイムモンスター兼イビルストラなので、足に固定した事で装備判定が入ったのかもしれません。
つまり布の貫頭衣と合わせて【服】の判定か、何かしら特殊な【軽鎧】を着ているという判定になって……装備制限のペナルティーである『発情』が発動していますね。
「待って、牡丹、止…ッ」
お腹の辺りが熱く、胸の先端が荒い布に擦れるだけでピリピリとした甘い刺激が全身に広がり腰が砕けそうになりました。そんな状態で足の指の間から、太ももから、股までスライムに包み込まれていると、我慢なんてできません。
「……ぷぃ!」
これ以上は色々と不味いという制止の声に牡丹は一度動きを止めてくれたのですが、私のこのまま跳んで欲しいという気持ちと跳んで欲しくないというせめぎ合う気持ちを感じ取ったようで……。
「まっ、お願…ッあ、ひっあッッンあぁーーッ!!?」
牡丹がピョンと跳ぶと、『発情』の効果が乗った特大の快感が体全身を貫き、その一突きで私の頭の中は真っ白になりました。
※色々あって王都攻略戦に乗り遅れたユリエルはちょっと寄り道をする事になります。因みに防具の無限増殖については、千切った切れ端を【修復】して元通りにもどったら増やせる事になりますから、核のついていない小さい方は一定時間で光になります。




