12:ゴブリンとプレイヤー
※戦闘があります、首が飛びます。苦手な人はご注意ください。
どうやら鑑定系のスキルを使うと相手に気づかれる仕様のようです。夜目もある程度効くのか、ゴブリンはこちらを指さして何か合図を送っています。バレた事に関しては、強敵に使ってしまう前に確認できたという事にして良しとしましょう。私は持っていた野苺を地面に置いてから、剣を抜きます。
1匹目のゴブリンが道の真ん中にいて、私と1匹目を結んだ延長線上から少しズレた茂み、道の反対側に2匹目のゴブリンがいますね。どうやら2匹目は弓持ちのようですね。射線が通ってしまいますが、1匹目は短剣でこちらは片手剣ですし、木々が生い茂っている場所より開けた場所の方がリーチ差が生かせるでしょう。下手に茂みや木々を利用されて近づかれても面倒ですし、剣を木にぶつけて不覚を取ったなんてなったら笑い話にもなりません。開けた場所まで一気に距離を詰めて……という事が出来たら恰好良かったのかもしれませんが、私の脚力だと一気に距離を詰める事が出来ませんので、木々が少し疎らになった、少なからず剣を振るのに問題がない場所で迎撃しましょう。
「GOBGOROOBU!!」
何か奇妙な言語を叫びながら短剣を振り回すゴブリンとの距離を測りながら、私は2匹目の動きを確認します。1番嫌なのが1匹目が到着する直前に射られてバランスを崩してしまう事、2番目が同時攻撃ですね。そのあたりの連携のタイミングを見極めようとしたのですが……弓を持ったゴブリンはモタモタしていました。逆にその動きが怪しすぎてざっと周囲を確認してみると、どうやら弓を持ったゴブリンの近くにもう1匹隠れているようですね。こちらはかなり上手く隠れているようで、ゴブリン達が動き出すまで気がつきませんでした。どんな武器を持っているか確認したかったのですが、出鱈目に走ってくる1匹目のゴブリンが距離を詰めて来たので、視線を戻しました。
私は後ろに控えている2匹のゴブリンにも気を配りながら、1匹目に向き直ります。
ゴブリンは涎を垂らしながらニタニタ笑い血走った目で突進してきています。何でしょう、このゴブリンは、かなり気持ち悪いですね。しかもあからさまに私の胸とかを見ていますし、レーティングは本当に大丈夫なのでしょうか?そんな事を薄っすらと考えながら、短剣を振るうゴブリンのタイミングに合わせて、腕を斬り払います。
「GROOBBU!?」
牽制の意味が強かった一撃なのですが、スコルさんの剣の性能がいいのか、相手の耐久が低いのか、ゴブリンの右腕が宙を舞います。そのまま気合で耐えて一撃を入れてくる事もなく、その場で腕を押さえて蹲ったので、私はゴブリンの首を刎ねました。
1匹目は無力化。レベルアップコールが鳴ったのですが、戦闘中なので確認は後にしましょう。その頃になってようやく弓ゴブリンが矢を射かけてきました。連携としてはお粗末すぎですが、まだ第1エリアですし、1匹目だけに気を取られていると戦闘後に矢を射られるといったチュートリアルなのかもしれません。
矢の方にも威力はなく、山なりの弾道で何とか私の場所まで届くといった勢いです。銃弾飛び交う戦場と比べるといかにも間延びした攻撃で、回避は簡単に出来そうでしたが、何かスキルを覚えるかもしれませんので剣で払いましょう。タイミングを合わせて横から叩けば、矢は簡単にパキリと折れました。問題ないですね。そのまま私は弓ゴブリン達の動向を確認します。第2射がすぐに来るのなら木々を遮蔽物にして近づかなければいけませんが、弓ゴブリンは矢が防がれるとは思ってもいなかったという驚愕の表情を浮かべており、手が止まっています。茂みに隠れている3匹目が少し不穏ですが、このまま距離を取っていても攻撃され続けるだけですし、一気に距離を詰めてしまいましょう。
私は飛んでくる矢に対処できる速さで素早く距離を詰め……たいのですが、どうお世辞に言ってもノタノタとした動きですね。胸、胸が弾みます。現実と違い、ゲーム内だとどれだけ揺れても将来垂れる心配がないのは助かりますが、とにかく、何の遮蔽物もない道に出る前に、私はもう一度ゴブリン達の様子を窺います。
相手の動きに合わせて飛び出すか判断しようと思ったのですが、3匹目は今のところ動きを見せておらず、弓ゴブリンは今から矢を取り出して構えているところでしたので……行きましょう。
物理的に弾む胸を片手で押さえながら、私は一気に距離を詰めます。
それほど広くもない道の半ばを過ぎたころ、やっと弓ゴブリンが矢をつがえ、構え始めます。近づいた分避けるのは難しいかもしれませんが、このスピードなら何とか反対側の茂みまで走り切れそうです。ゴブリンの技量的にも木を遮蔽物にすればそれほど問題は無いでしょう。
問題なのは走り寄る私を脅威とみたのか、3匹目が動き始めた事です。その3匹目はカタカタという音をさせながら、隠れていた茂みからいきなり飛び出してきました。
「おらーまずはお前じゃー!!」
少し前に見たスケルトンです。手に持ったこん棒を思いっきり振りかぶり……弓ゴブリンの脳天に叩きつけました。
グシャリという生々しい音と、飛び散るポリゴン。スプラッタな事にはなりませんでしたが、感触はかなり生々しいのか、スケルトンの表情が歪んでいます。というよりこのスケルトンさん……喋っていますよね?
「おっしゃーユニークモンスターがなんぼのもんじゃい!ワイは負けへんでー!!」
弓ゴブリンを倒したスケルトンさんは続けて“私に”こん棒を向けました。
「ま、待ってください。プレイヤー、私もプレイヤーです!」
慌てて手を振りながら、急停止します。普通にPKできる仕様ですから、スケルトンさんの攻撃を受けたらたまったものではありません。
「なんやて!?」
こん棒を振りかぶり、今にも襲い掛かろうという体勢でスケルトンさんは止まってくれました。破いているとはいえ私の服装な初心者装備です。一目見てわかりそうなものなのですが、スケルトンさんは疑わしそうな視線で私の頭の角を、胸やお腹を、そして腰翼などを順に見た後に……どこか納得できないというような顔で横を向いてしまいました。
「ホンマやろうな?そうやって油断させといて後ろからガブーって事にはならへん?」
「なりません。疑うのでしたら鑑定系のスキルを使ってくれてもかまいません」
ちょっと破いているとはいえ、何故初心者装備丸出しの私の事を疑うのでしょう?
「……いや、そういうのは生憎取ってない。まあ……悪い。色々気に食わん事があってむしゃくしゃしてて襲ってもうた!ほんまかんべんな!!」
スケルトンさんは勢いよく頭を下げます。
「いえ、こちらもすみませんでした…横殴りをしてしまいましたし…」
スケルトンさんが茂みに潜んでいたのは、弓ゴブリンの方を先に排除しようと距離を詰めているところだったのでしょう。それに気づかずゴブリン達を横取りしてしまいました
「かまへんかまへん、抱えてたわけやないし、こんな見た目やからな、敵と間違われてもしゃーないわ」
「そう言ってくれると助かります」
姿が見えていたわけではないのですが、その辺りはいちいち言わなくてもいいでしょう。
「まっ、謝りっこはそんでお終いや。ワイの名前は我謝や、がしゃ髑髏のがしゃやな。見ての通り種族はスケルトンや!他のプレーヤー見んのは初めてやからちょっとだけ照れるけど、人外同士よろしゅーに」
我謝さんはあっけらかんと笑いながら自己紹介してくれました。
「ユリエルです。種族は魔人です。こちらこそよろしくお願いします」
こちらも同じように挨拶を返すと、何故か「えっ!?」と思いっきり驚かれました。
「魔人!?え?……マジ?え~~?」
どこを見て判断していたのでしょう。いえ、胸を見ているのはわかっているのですが、何故私と出会う人出会う人皆同じような反応をするのでしょう。
私は何とも釈然としない気持ちを抱えながらこめかみに手を当てて、狼狽えている我謝さんを眺めていました。
※誤字報告ありがとうございます(1/28)。