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120:緊急メンテと食事

※何やら運営の予期せぬ挙動が見られたようです。

 言う事を聞かない牡丹を叱っていると、何やら不具合が発見されたとかで緊急メンテに入ったので、私は一旦ゲームからログアウトする事になりました。


 何でも各国のゲームの仕様の統一といいますか、擦り合わせが甘かったそうで、その辺りの微調整をするそうです。公式からはシステム自体は問題ないので安心してくださいとの事でした。


 終了時間はまだ未定なのですが、この緊急メンテナンスに対するお詫びとして時間換算した経験値やお金、消耗品の配布があるそうですね。

 その辺り(補償)はまあいいのですが、HCP社は技術力を売りにしている会社なのですが、何か最近バグやシステム回りのトラブルが続いているような気がします。

 前回のスライムバグ(意図せぬ挙動)でのプチ炎上や、今回のメンテの延長で会社の株価が下がったとも言われているのですが、その辺りの事を私が心配する必要はないですね。


 急なメンテで掲示板が賑わっており、この手の騒動によくある「システムエラーによる人体への悪影響」といった話がされていたのですが、VR機器には色々と対策が講じられているので、よほどの事(機器が燃えて火傷等)がない限りON/OFFはしっかりしていますので、FD(フルダイブ)VRが人体に悪影響を及ぼす事はありません。


 ゲーマーとしてはトラブルがあってゲームの中に閉じ込められて云々というシチュエーションにはちょっと憧れるものがあるのですが、残念ながらそのような事が起こる事はないのですよね。

 まあそういう安全柵(セキュリティー)でもなければ、ゲーム業界に新規参入しようなんていう会社が危なくて出てこなくなりますからね、ゲーム会社が増えなければ裾野の広がりがなくなり業界自体が縮小しますので、その辺りの対策はVRゲームの進歩と共に真っ先に対策されていました。


「典ちゃ~ん、出来たわよ~」

 とにかく、緊急メンテで私がログアウトする頃には丁度お昼ご飯が出来たようで、()()()()()姿()の母が呼びに来るところでした。


「え、ええ」

 確かに全裸を咎めはしましたが、今年42歳の母親が裸エプロンをしているというのは娘としては何かちょっとくるものがありますね。

 「見られて困るような体はしていない!」と豪語し、事実その通り完璧なプロポーションを維持している母は同じ女性として見惚れてしまいはするのですが……エフェクト過多で目がチカチカ(目を逸らしたくなり)しますね。


 完璧に目の錯覚なのですが、自信に満ち溢れた母は光り輝いて見えるような、どんな人混みに紛れても見つけ出せてしまう気配と言いますか、こういう人が女優になるのだなと思わせるオーラと色気を放っているのですが……それが自分の母で、何故か裸エプロンという姿だと不思議な羞恥心を覚えてしまいます。


「そりゃあ、こんなに可愛い天使が女の顔をするようになるくらい大きくなったのだから、年も取るわ」

 たぶん年齢の事を考えている事を察したのでしょう、母は失礼な事を考えていた私をギュッと抱きしめると、そんな意味深な事を言いました。


「お……」

 「女の顔とはどういう事ですか?」と聞きたかったのですが、多分その事を尋ねると色々と理解させられて(わからされて)しまうような気がしたので、私は言葉を慌てて飲み込みます。


「うふふふふふ」

 そんな私の反応を楽しむように母は笑い、ギューッと抱きしめられたりおでこにキスをされたり、そのまま振り回されていると父が様子を見に来たので、その話はそこで終わってしまいました。


 2か月と7日ぶりの親子3人揃っての昼食ですね。何だかんだ言って、私も日にちを覚えているくらいには楽しみにしているのですが……両親の作ったお昼ご飯は煮物をメインにした魚料理と、妙に日本食に寄った物でした。


 これは母が日本食好きというのもあって……というより、煮物は何か愛情がこもっているような気がするという不思議な理由で母の好物で、愛情のこもっていない煮物は嫌いだそうです。


 今時料理用のロボットに頼むか、作るとしても調理機器を使えば材料を入れるだけで作ってくれるのですが、両親は手作りに拘っているのですよね。

 まあ効率より愛情云々を重視していますから、相手のために時間をかけて作ったという事の方が大事なのでしょう。そして不思議な事に、2人の手料理はそこらの料亭で食べる物より美味しいのですよね。


 これがおふくろの味と言う物なのでしょうか?そうだとしたらゆくゆくは私もこの味を再現できるようにならないといけないのですが、難易度はとてつもなく高そうですね。


 昼食後、ブレイクヒーローズの公式ページを確かめてみると緊急メンテは18時まで延長されるという事だったので、私は母と食後運動をしたり、何かよくわからないレッスンを受けたりしながら時間を潰しました。


 その後は夕食を食べに行く(ドレスコード)ためのドレスの試着をしていたのですが、どこからともなく現れた母の専属スタイリストさんや両親の手によって、私は着せ替え人形のように色々な服やアクセサリー、ヘアセットや細々とした手入れまでされる事になりました。


 大人しめの物を選ぶ父のセンスはいいのですが、母のセンスは……ちょっと露出が多いのですよね。

 プロ(スタイリスト)につま先から頭の天辺までトータルコーディネートされるとなかなか様になるのですが、同じ系統の服を着る母と並ぶと見劣りするというか、差が酷い(月と鼈)ですね。


 母としてはお揃いのコーデにしたいのでしょうが、父の勧めである落ち着いた服の方が対比があってまだマシなのですが……どちらを選んでも両親のどちらかが難しそうな顔をするという、その辺りの折り合いが難しいですね。


 私のために数十着用意されている服やアクセサリーはどれも買い取っているらしく「気に入ったのがあったら持って帰っていいわよ」との事なのですが、母の買った物がメインなので、イブニングドレス寄りの、ちょっと日常使いするには露出が多いデザインの物が多いのですよね。

 下手したら『サルースのドレス』より露出の多い物もあったりして……どういう人が着るのですかとツッコミたくなる物が混じっているのですが、そういう服も母が着ると様になるから不思議です。


 思う存分着せ替え人形扱いされた頃にはそれなりにいい時間になっており、私達はいつものレストランに向かいました。

 機械で料理を作れるご時世に態々レストランをしているくらいですからね、味は勿論美味しいのですが……このレストランにはいつも来ていますから、行動を読んでいた母の付き人や父の部下の人に見つかり、いつも通り大変な事になりました。


「だ、か、ら!戻らないとスケージュールが大変な事になるんです!!お願いです!ほんとーに、戻って来てください!!」


「あの~所長、明日の裁判の資料の確認がまだ……」

 懇願して土下座までする2人(付き人と部下)と、レストランの個室から出た所でヒシッと抱き合う両親は若干目立っているような気がするのですが、一応ここは会員制のレストランですからね、時折通る人も見て見ぬふりというか、ジロジロ見てくるなんていうマナーの悪い人はいません。

 むしろ騒いでいる母の付き人や父の部下の人の方が睨まれているのですが、2人とも両親に仕事に戻って欲しいと必死ですからね、そういう周囲の視線には気づいているようなのですが、無視しているようでした。


「人生はままならないものね」


「まったくだ…」

 抱き合う両親は自分の仕事に信念を持っているので「仕事なんてほっておいて」なんていう事は絶対に言わないのですが、それ程大事な仕事とイコールで結ぶくらい愛し合っていますからね、「仕事にいかなければ」という気持ちと「一緒に居たい」という気持ちがせめぎ合い、レストランの廊下で2人は熱いまなざしで見つめ合っていました。


 そこまでは良いのですが、2人の世界に入った両親が人前でキスを始めるのは娘としては気まずくなるので止めて欲しいですね。


「典子ちゃんからも何か言ってくださいよ~」

 両親に何を言っても無駄だと切り替えたのか、私に頼み込んでくる父の部下の人……この人とも子供の子ころからの顔見知りですからね、結構気さくな感じで両親の説得を頼んでくるのですが……。


「何を言っても無駄かと」

 母が仕事を抜け出してきて父とイチャイチャするのもいつもの事ですし、付き人や部下の人が仕事に連れ戻そうというのもいつもの事です。連れ戻さないと(引き離さないと)いけない2人には同情するのですが、その辺りの管理も仕事と諦めてもらうしかありません。


 下手したら仕事より「愛情」の方を取りかねない両親を呆れながら見ていると、ほっておかれて拗ねているとでも思われたのか、両親からはキスとハグの猛攻を受ける事になったのですが……何とか2人を説得してしぶしぶ仕事に戻らせる事に成功すると、嵐が去ったような気持ちになりますね。


「まったく…」

 両親のしょうがなさに呆れながらも、いつも仲がいい事や、忙しい中何かと私の事を気にかけてくれている事がわかるのは嬉しいような恥ずかしいような、不思議な気分です。


 とにかく私達は、母が仕事(アメリカ)に戻ったのを見届けてから「夜道は危ないから」と言う父と一緒に、一旦私の家(タワマン)の方に帰る事になりました。

※ちょっとした補足ですが、ユリエルが自分の容姿に無頓着なのは母が美しすぎるからです。


※両親の家の方でなくユリエルのマンションの方に戻ったのは、父も仕事で泊まり込みになるからで、そちらの方が1人暮らしの設備や警備(タワマンにプロの警備員常駐)が整っているからです。

 あと両親の家は自分達である程度の事をする前提に作られているので、ユリエルに生活面での苦労をかけたくないからというのもあります。

 もし両親の家に残った場合、朝食の準備はユリエルがしないといけなくなりますからね、適当に買うか出前をすればいいのですが、ユリエルのマンションだと家事ロボットが全部やってくれるので楽ちんです。


※「手間暇かけた愛情の込められた料理が美味い」と言うと色々と問題がありそうですが、純粋にユリエルの両親の料理の腕がとんでもないだけです。地味に何でも出来る2人です。

 あと両親ともに高身長でワイルドなイケメンと美女のカップルなのですが、ユリエルは父方の母、小柄で愛くるしいタイプの祖母の血を色濃く受け継いでいるので、可愛さに全振りしている感じです。目元は母に似ているけど全体的なパーツ(胸などのスタイルや要所要所以外)は父親似だとよく言われます。

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