運営者Side(鈴木主任視点):ぷるぷるスライム争奪戦!!の裏側
※バタバタ用事をかたずけ、またのんびり更新を再開です。
全体の流れをモニタリングしていた俺は、無事にキングスライムが倒された事に息を吐いた。
あのキングスライムはスライムを倒したら倒しただけ大きくなる仕様になっており、プレイヤーの処理能力と比例して強くなるように作られてはいるのだが、流石にあそこまで成長すると本当に倒せるのかと心配になってきていたのだが、どうやら無事に倒せたようだった。
他のメンバーも自分の仕事をしながらゲーム内の動向を確認していたのだろう、キングスライムのコアが破壊されポイントとアイテムの配布が開始されると、室内に騒めきのような空気が充満し、あちこちで安堵の息を吐く音が聞こえて来た。
まだイベントは終わっていないのだから、俺の立場上皆の気を引き締めさせるべきなのだが……途中かなり致命的なバグの報告が上がって来て、チーム一丸で対応した後なのだ、今回くらいは大目に見る事にしよう。
というより本社から送られてきたトロイの木馬というか、セキュリティーホールが拡大した結果、スライム達の挙動がおかしくなり、イベント中にその対応に忙殺されるっていうのはどういう事なんだ?
何かしらのトラブルはあるだろうと思ってはいたが、まさか『乳首舐りスライムが出た』とか『服が溶かされて丸裸にされた』とかいうクレームがあがってくるとは思ってもいなかった。
お前らの所のとは違って、ブレイクヒーローズは18禁ゲームじゃないんだぞ。本気でブチギレそうになったが、ともかく対応に向かわせた高橋がそのスライム達の逆襲にあうというアクシデントがあったり、そういう事に免疫のない中村が一時的に使い物にならなくなったりしながら……まあ、本人の名誉のためにその時のデータは自分の手で消去してもらう事にして、俺もその事は思い出さないでいる事にしておこう。
(というより、この件で辞表を出したり労基に訴えたりしないでくれよ、ただでさえ最低限の人数でやっているんだから……頼むぞ高橋!!)
そう考えると色々と頭の痛い問題が残っているような気がするのだが、俺は祈るような思いでFDCの中から出てこない高橋のいる方向に向かって手を合わせてから、仕事に戻る事にした。
少し早めに決着がついたのでまだイベント終了まで時間はあるが、ここからはもうほとんど消化試合みたいなものだろう。めいめい残りの課題……もう少しポイントを稼ごうとする奴や、未消化のグループクエストのクリアを目指して散って行くプレイヤーの映像を見ながら、俺は準備だけさせておいた、アルバボッシュ崩壊ルートのデータを閉じておくように指示を出す。
何時もなら他のメンバーと感想や改良点の話しでもするところだが、予備人員まで投入して対処に当たらせているチームメンバーが忙しそうに手を動かしていたので、俺も各部署から上がってくる報告の対処とデータと数値の羅列に集中する事にする。
途中色々と辻褄合わせ的なデータの弄りかたをしたし、これからに備えて機材の増設なども行う予定なので、その辺りのデータは今のうちに整理しておいた方が良いだろう。
明日のスケジュールとしては、0時からイベントと増設時の必要なデータの集計と最適化、その間に仮眠をとって、早朝機材の接続の指示を出しつつ俺はその間に本社とのミーティングして、実装後にアップデートの対応と……糞忙しすぎてウキウキしてくるね!
大きくため息を吐きながら、俺は色々な事から目をそらして目の前のモニターの数値に視線を戻した。
複数のデータがいくつものウィンドウに分かれて表示されているのだが、一番最初に目に入ってきたのは集計しているポイントの、ランキング表だった。
一番の大物が討伐されたので、今から順位に大きな変動はないだろう。数値的にはランキングトップから10位辺りまでは確定しているようなもので、二位と大差をつけた一位のポイントを見ながら、俺は小さく呟いた。
「ユリエル、か…」
キングスライム戦の前にポイントアップを貯めておき、大物で一気にポイントを稼ぐ。似たような作戦を考えたプレイヤーは数多くいるのだが、討伐の貢献度という意味でユリエルに勝てる奴はいなかった。
というより何だあの火力は、現時点で出せる火力要員300人分に近い火力を1人だけで叩きだすという、データのミスか何かしらの外部チートかと疑う火力を叩きだした問題児なのだが……トーマスが計算した結果は、色々な複合的な要因で起きた正規のダメージだとわかって二度驚く事になった。
あのキングスライムに叩きつけた火力はあくまでスライムを使ったイベント限定の攻撃力であり、そこまで警戒しなくても良いとは思うし、無駄にプレイヤーに制限をかけるのは悪手だとは思ったのだが、残念ながらその辺りのデータには手を入れる事が確定している。
ユリエルのデータは本社に握られているためキャラクターデータの方は弄れないが、ゲーム全体の仕様変更や、装備品の調整と言う形でナーフさせてもらう予定だ。
まあ本人も色々と可笑しいとは感じているだろうし、最悪の場合は何かしらの補填は出さないといけないかもしれないが……とにかくあの『サルースのドレス』と『イビルストラ』に関しては調整を入れるつもりだ。
特にイビルストラの方はバグの塊というか、あの特殊なスライムが今回の大規模バグの原因であり、最優先事項の修正ポイントだ。
途中何故か一時的に安定したのだが、これ以上本社側のデータ改編の起点にされても何なので、先手を打たせてもらおう。調整としてはストラの能力は残しつつ、スライムとしての機能はイベント終了後に消させてもらう予定だ。
まあスライム自体がイベント中のモンスターだったわけだし、その辺りを消すのは自然な流れだし、ユリエルにも受け入れてもらうしかないだろう。
個人装備単品を調整すれば目立つかもしれないが、丁度大規模アップデート前、かなり大きくシステムを弄る予定だし、影響を受けるのはユリエルだけではなくほぼ全プレイヤーなわけだし、問題はないだろう。それらに対して大小のクレームは出てくるだろうが、全員を満足させるシステムなんてないのだから、そういう物だと諦めてもらうしかないだろう。
クレーム対応やアップデートの件も問題だが、イベントを見た限りだと、第一エリアのボスも少しくらいテコ入れをしないと簡単すぎて拍子抜けになるかもしれないし、配布アイテムの中には本社のお遊びで混ぜられた物もあるので面倒ごとは増えていくだろう……と言うかすでに『高橋のお姉さんはいないんですか!?』『GMの内1人が帰ってきません、バグですか!?』『ウサミミのお姉さんは!!』『お姉さんがスライムの海で溺れていました』とかいう変な報告がプレイヤーから上がってきているんだが、何だこれは?
とにかくそんなよくわからない話にはAIによる定型文を返しておいて、俺はその間にデータや報告を確認して、本社にイベントの途中経過のデータを送り、書式に則った要望書を送って……一言で却下されて、訂正して送って、却下されて、台パンしてと、情報のやり取りをしている内に時間は過ぎていった。
『は~い、お疲れ様~どうだったかなー?初めてのイベントは楽しめたー?お友達は出来たかなー?お目当ての景品を還元するポイントは溜められた人もー溜められなかった人もー明日の大規模アップデートの後に交換できるようになるから、うんっと考えて、これだって思うアイテムと交換してねーそれじゃあ『ぷるぷるスライム争奪戦!!』これにて終了ー皆ーおつかれさま~!!』
井上がノリノリでイベント終了を告げているのをモニター越しに見ながら、俺はどこか疲れた目で、夜食代わりのブロック栄養食を、苦さだけのインスタントコーヒーで胃の中に流し込んだ。
※疑問に思うかもしれない補足説明ですが、「スライム以外でテイム爆弾出来ないの?」と言う問題ですが、小規模なら可能ですが、大量になるとユリエルの単体だけでは負荷の問題で難しいですし、そもそも準備に時間がかかるので現実的な攻撃ではありません。
じゃあ牡丹に【テイミング】を付与して補助してもらえばと思うかもしれませんが、【テイミング】には『愛情値が一定以上』であり『特定の行動をする』と言うのがキーとなる場合が多く、モンスターとモンスターの間で愛情値は上がりづらい仕様です。つまり牡丹が【テイミング】を使用するよりユリエルが使った方が効率が良いという事になり、時間当たりの攻撃力の上昇値と言う意味では牡丹の補助があってもあまり意味がありません。
そして少数のテイム爆弾を作るくらいなら、純粋に【ルドラの火】を纏わせたナイフを投げた方が早いので、たぶん仕様変更されなかったとしてもよほど準備がしっかりできる状況など限定的な場面でしか使えない能力になると思います。まあ本気で準備をしていいのなら、ユリエル以外でもタル爆弾か何か作って数百個埋設からの着火で似たような事は出来るかもしれません。
今回その方法が取られなかったのは、あくまでプレイヤー達は個々の意思で集まっているからで、たぶん軍隊のように指揮が取れていたのなら爆破作戦が取られていたかもしれません。
※誤字報告ありがとうございます。1/30訂正しました。




