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115:海岸防衛戦

 私は【腰翼】を使い、軽やかに戦場を駆け抜けながら、改めてキングスライムの攻撃で阿鼻叫喚の様相となった戦況を眺めました。


 私達が居るのは右側が崖になった海岸線で、元は障害物の無い見晴らしのいい場所だったのですが、キングスライムの攻撃(氷の盾)により、海側には氷の塊がゴロゴロと転がった岩場の多い地形のような状態になっており、一部は足場が凍結しているような場所が出来ているようですね。


 そしてそんな場所で上陸したキングスライムを迎え撃った数千人のプレイヤーの内、キングスライムの攻撃を受けて立っているのは当初の人数の7~8割といったところでしょうか?

 まだまだ十分な人数が居るように見えますが、とりあえずイベントに参加してみようみたいなノリでやって来ていた人が怖気づいて足を止めており、実際に戦闘に参加しているのは4~5割程度と、戦力としては半数近くまで落ち込んでいるようですね。何とか立て直そうとしている人もいるのですが、こちらは意思統一すら難しい即席大規模PTですし、なかなか難しいようです。


 唯一の救いは、所々に小さなスライムは居るものの、キングスライムに怯えて通常のモンスターが出現していない事ですね。


 とにかくそんな周囲の状況を眺めながら、私が全力疾走して体を弾ませると、一歩ごとに集中力が高まっていくような気がします。


 身に纏うドレスの感触と、周囲の視線、火照った頬を撫でるように撫でる空気を思いっきり吸って、私はキングスライムに向けて駆け寄ります。


「ぷぃ!」

 牡丹も意外と好戦的な性格なのか、ある意味同士討ち(スライムVSスライム)になる事については頓着ないようですね。

 テイムされたからかもしれませんが、やる気満々というように長い前垂れを器用に動かして二本の投げナイフを掴んでいました。

 流石に短い帯の方で掴むのは、器用さや射程(伸ばせる距離)が色々と足りないのですが、長い二本の前垂れはかなり自由に伸び縮みする(1mちょっと伸びる)ようで、ナイフを扱う程度の芸当なら出来るようですね。

 まるでイビルローパーのような動きなのですが、原材料が原材料(イビルローパー)ですからね、成長していったらローパーの触手のように動くのかもしれません。


「ホントにそれ、便利よね…ってうおっ!?」

 会話がしやすいようにすり寄って来ていたスコルさんは、呆れたような、感心したような眼差しで牡丹を見ていたのですが、ヒュっと軽くナイフを振られ、大仰に驚いて飛びのきました。


「ぷゅいーー!!」


「えっと…「それ以上近づくな」との事です」


「そういうのはナイフを振る前に言ってくれない!?何かその子ユリちーに似てきてるんだけど!?」


「そんな事はないと思うのですが…?」

 何か失礼な事をスコルさんは叫んでいるのですが、それはまあ良いとして、流石にこの状況で(作戦なく)正面突破は無謀ですし、一瞬右の崖を登って高さをとりましょうかとも考えましたが、私達にとって10メートル20メートルはなかなかの高さですが、キングスライム(100m級)の足元にも及びませんからね、私もシグルドさんに習って左迂回からの攻撃する事にしましょう。


「すぅー……」

 私は軽く息を吸い、全速で(ラストスパートをかけ)人ごみを迂回して、キングスライムの左側面に回り込みます。


 私よりスコルさんの方が優速なのですが、どうやら同時攻撃かフォローに回る事に決めたようですね、どこかで見た事のある(ヨーコさんが持ってた)小瓶を口で咥えながら、並走しています。

 そんなスコルさんから視線を外し前を向けば、キングスライムと戦う最前線の様子が見えました。


「あーもう!遠距離攻撃が出来る人は牽制を!魔法が使える人はブレスに気を付けて詠唱を続けなさい!!戦えない人は後退!踏みつぶされますわよ!」

 前列中盤で指揮をとり続けていたモモさんは、ブレスに煽られたのか火傷を負いながらも戦闘を続行しているようですね。周囲の味方に声をかけながら仲間達と連携して戦っていました。

 その中に何時も一緒に居るレミカさんの姿が見えないのですが、もしかしたらもうすでにやられてしまったのかもしれません。そしてイベント前に会ったダンさんは、その巨体と盾でモモさんを庇うような姿勢で焼け焦げていて、こちらはリスポーン待ちをしているようですね。


「これ本当に効いているの!?ヨーコも攻撃できない?」

 途中から遠距離攻撃組に参加したナタリアさんとヨーコさんは、中央に入れなかったのが逆に功を奏したのか、炎のブレスの攻撃を受けなかったようですね。

 武器も遠距離武器()なので氷の盾(近接防御)の範囲外、無事に攻撃を続けているようなのですが、弓矢とキングスライム(矢が突き抜ける)の相性が悪いので、あまり効果的なダメージを与えられていないようですね。


「ちょっとぉ、難しいかしらぁ~?」

 短期的な火力ではかなりのD P S(『ダメージ/秒』)を発揮できるヨーコさんなのですが、その攻撃方法はアイテムの投擲ですからね、ヨーコさんの運動神経でその距離まで近づくと離脱が出来ずに踏みつぶされる可能性が高いですし、攻撃の主軸は弓を使うナタリアさんに譲り、ヨーコさんはポーションによる回復とバフに選任する形になっているようですね。


「ぎゃーー!??ぼくは味方すよ!!?こうして同士討ちにやられるのでした……ガクッ」

 そして私のMAP上に見えていたグループメンバーは3人で、ティータさんとまふかさんが参加している事はわかっていたのですが、どうやらもう一人はエルゼさんだったようですね。

 辺りには通常スライムもいて、集団から孤立したプレイヤーを狙って体当たりをしかけているのですが、蜘蛛の魔物であるエルゼさんは混乱したプレイヤーの同士討ちでやられてしまったようです。何故かやり切った顔(グッバイフォーエバー)でリスポーンしていきました。


 桜花ちゃんと十兵衛さんはキングスライムの足元で戦っているようなのですが、氷塊が邪魔で何をしているのかまでは見えません。とにかくまだ生存している事に少し安心しながら、視線をキングスライムに移します。


 【魅了】や【アピール】の効果か、キングスライムは走り寄る私の方に視線を移したように見えたのですが、私はそれを無視して氷塊を掻い潜りながら、攻撃範囲に踏み込みます。


 遠くで見ていた時は水風船のような印象を受けたのですが、近づいて見るとその表面は意外と柔軟に動いているようで、軟体生物のような印象に変わりました。


 半透明で奇妙なテカリのある表面は距離感が掴みづらく、不用意に近づきすぎた人を飲み込み押しつぶしていくのですが、流石にこの頃になるとキングスライムの正面(足元)に立とうという人はおらず、前線で攻撃を仕掛けている人は左右に分かれて戦っているようですね。


 人口密度的(最初の布陣上)に右側の方が人が多く、ロックゴーレム戦の時に一緒に戦ったアヴェンタさんが何か叫びながら大剣を振るっているのですが、単純な物理攻撃では決め手に欠けているようでした。


「ぷっ!」

 キングスライムの足元、氷塊と氷塊の間でウロウロしていたスライムは牡丹の支配下においたのか、【魅了】の効果がでているのか、同士討ちを躊躇うようなアワアワしたような様子だったので、簡単に突破します(走り抜けます)


「牡丹」


「ぷゅぃっ!!」

 これ以上キングスライムに近づくと地面が凍結していて滑りそうだったので、ある程度の距離で足を止め、私が攻撃の合図を送ると牡丹は【ルドラの火】を纏わせた投げナイフを思いっきり振りかぶり……へろりと投げました。


 【秘紋】のスキルレベルは1ですし、このレベルだと付与できるスキルは一つだけなので、【投擲】は付与できていません。

 それでも的がこれだけ大きければ、届きさえすればどこかには命中しますからね、牡丹の投げた投げナイフが命中するポイントを狙って、私も【ルドラの火】を込めた投げナイフを【投擲】します。


 ドドッ!!!!


 ほぼ同一ヵ所に命中した投げナイフは連続して爆発し、数メートルの範囲を纏めて吹き飛ばすのですが、全体としては微々たるものですね。

 爆発の衝撃も軟体生物特有の柔軟性で吸収したようで、キングスライムの全体が震えるように揺れたのですが、特にこれと言った痛打になっている様子はないですね。


 私が開けた穴も程なくすれば埋められ塞がりそうなのですが、その瞬間を狙ってスコルさんが走り寄り、体と首を思いっきり横に反らすと、咥えていた小瓶を投擲します。

 それは私の穴の中に吸い込まれるように入って行き、キングスライムの体内で爆炎を撒きあげるのですが……数秒間キングスライムを赤く照らした程度で、すぐに消化されてしまったようですね。


「内側は弱いとかだったらよかったのだけど、そういう訳でもないみたいねー…」

 「結構高かったんだけどなぁ」とぼやくスコルさんの位置(キングスライムの足元)からではわからなかったようなのですが、一連の攻撃で、私はキングスライムの中央に奇妙な部位がある事に気がつきました。


 それはキングスライムの核とでもいえばいいのでしょうか?全身が揺れた時と赤く染まった時に、一切揺らがない(変化のない)30センチ程度の大きさの何かがあるようなのですよね。


 攻撃の衝撃が収まれば、周囲の半透明で黒くてヌメヌメ滲んでいる他の部分と同化して目視での判別が出来なくなるのですが……何とか攻略法が見えて来たところで、キングスライムは踏ん張るような動作をみせ、周囲に纏わりつくプレイヤーへの反撃というように、魔力がキングスライムの周囲に集まって行きます。


「BUOXxxxt!?」


「まっず」

 無理な投擲をするためにかなり接近していたスコルさんが慌てて引き返してくるのを見ながら、私も【腰翼】を使い後退します。


「BOOOOOUUUXXXXXxxxxttt!!!!!」

 バチバチっと帯電するような音の後、キングスライムを中心に直径数メートル規模の太い雷の柱が数十本発生し、それが放射線状に発射されました。


「くっ…」

 キングスライムの周囲何百メートルかの空間と地表を高電圧の雷の柱が駆け抜けていき、退避が遅れたプレイヤー達を焼き切っていきます。

 特に高台のせいで逃げ場のない右側の人達の被害の方が大きく、足場が凍結している場所(近距離)まで踏み込んでいたプレイヤーはその電撃で軒並みやられてしまったようで、筋肉が引きつるような悲鳴を上げながら、黒焦げになり動かなくなっていきました。


 『サルースのドレス』が軽度の麻痺状態等を無効化していってくれるのですが、パチパチとした電気に肌が粟立ち、反応が遅れます。


 白む視界が回復した先に見えたのは、戦線が崩壊した海岸線で、キングスライムが私達の事を見下ろしながら、のそりとアルバボッシュに歩を進める姿でした。

※攻撃時に他のプレイヤーの声が聞き取りやすくなったのは、人が減って聞き取りやすくなったからです。


※作中言及されていないユリエルの知り合いも参加しており、我謝さん(黒マントの怪しい男)ドゥリンさんウィルチェさんは開幕早々やられています。HMさんは不参加で、ノナさんは遠くから観戦していて戦闘には参加していません。

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