115:キングスライム戦(前哨戦)
※レイドボスとの戦いになります。プレイヤーにも被害が出ますので、戦闘描写が苦手な人は若干ご注意ください。
キングスライムの上陸に合わせてワールドアナウンスが入り、それと前後して前線に出ていた魔法使い組が詠唱を開始し、弓等の中~遠距離組の攻撃が開始されました。
あちこちで喊声があがり、その中にはどうやら知り合いの声も混じっているようで、モモさんやまふかさんが周囲に声をかけている姿が見えました。
掲示板経由の大雑把な指示をもとに動く人、現地で叫んでいる人、流れに任せる人、そんなものを無視して個人で突出する人と、数千人のプレイヤー達が雄叫びをあげながらバラバラと攻撃を開始すると、辺りは地鳴りのような揺れと騒音に包まれます。
ワールドクエストだったらもう少し配慮と言うか、イベント用PTを組ませてくれてもいいような気がするのですが……運営からするとその辺りは自分達でなんとかすればいいという事なのでしょう。事実皆さん周囲の騒音に曝されながらめいめいに動いているようなのですが、それでも意外と一致団結しているというか、ブレイクヒーローズのプレイヤーはやはり変な団結力がありますね。
「 」
隣にいたシグルドさんは何か言ったようなのですが、周囲の騒音に搔き消されてよく聞こえませんでした。ただ「君はどうする?」みたいな笑みを浮かべてから、剣を抜いて走り始めました。
どうやらシグルドさんが中段辺りに居たのは、前線を囮にして側面から攻撃を仕掛ける為だったようですね。
まああれだけの巨体が相手ですと、正面から斬りつけてどうなるものでもありませんし、攻撃したあと後ろに抜けるという事も出来ませんからね、味方に轢き殺されないためにも時間差をつけて攻撃に移ったのでしょう。
「シグ…待っ…~…あ、ユリ姉、行って…るね!」
「はい、気をつけて」
「お…お前……何か作戦は!?」
シグルドさんに続いて、桜花ちゃんと十兵衛さんが周囲の騒音に負けないように叫びながら、突撃を開始します。
どうやら周囲の人達は動き出した前線に引っ張られて動き出したようですね、緩く前に進む流れが生まれているのですが……私はその流れから離れるように動き、自分のペースで行く事にしましょう。
「で、おっさん達どうする?」
私が桜花ちゃん達を見送っていると、スコルさんが人の流れの間を縫うように近づいてきました。
「そうですね…」
声が通るようにすり寄って来たスコルさんの質問については、保留ですね。人間形態の私が一緒に突撃というのはちょっと難しそうですし、少し様子を見たいのですよね。
もしアレが私の予想通りジャイアントスライムと同じようなものだとすれば、徒歩で近づくと逃げ場を失う可能性がありました。
そんな風に私達が立ち止まっている間にも、前線では物理による遠距離攻撃が断続的に行われ、事前に魔法を準備していた人達から各種魔法が飛びましたが……弓矢による攻撃はせいぜい数メートルから十何メートル突き刺さる程度、一際目立つ光の矢ですら数十メートル刺さっただけと、中心部まで届きそうな矢は一本もありません。
魔法による攻撃はキングスライムにダメージを与えているのですが、連射は出来ませんし、そもそも属性耐性がかなり高いようで、全体ではそれ程ダメージを与えているようには見えないのですよね。
遠距離攻撃が一巡すると、突撃系のスキルや移動系のスキルを使い距離を詰めた近接組の人達が、遠距離攻撃の合間を埋めるようキングスライムに取りつき始めているのですが……足元で剣や槍を振るだけではキングスライムは歯牙にもかけませんね、逆にプチプチと踏みつぶされている人がいるような有様です。
「BUTTTTTUUUUUUUUU!!!!!」
そんな中、空気を振動させるようにキングスライムが戦慄きました。
小さなスライム達は聞き取りやすい声をしているのですが、キングスライムクラスの大きさになると、もうほとんど騒音と変わりありませんね。空気を振動させるようなその音に合わせて、キングスライムの口の辺りに魔力が集まっていくのですが……。
「やはり、そうなりますよね……皆さん、回避してください!」
ジャイアントスライムですら魔法を使いましたからね、キングスライムも当然使ってくるのでしょう。
私は【扇動】の効果を期待して叫びながら、射線から離れるように左側に向けて走ります。
「BOOOOXXxxxxxxxx!!!!」
キングスライムの口から発射されたのは、火属性を固めただけの魔力の塊なのですが、ブレスを放っているのが100メートルクラスの巨大スライムですからね、放射状に延びる炎のブレスにより前線の中央が崩壊し、その攻撃は中段まで届きました。
この手の魔法を使うスライムと戦った経験のあるプレイヤーの反応は比較的速かったのですが、そういう経験のないプレイヤーはほぼ棒立ちでそのブレスを受けて火達磨になりました。
中には盾で防ごうとした人もいる様なのですが、そういう人はその防御の上から丸焼きにされて焼け焦げていきます。
辺りから響く悲鳴や叫び声。被害を受けたのはざっと見て4~500人くらいでしょうか?何割かの戦力が一気に削られ、プレイヤー側からの攻撃が一時的に中断します。
私達は比較的中央から離れた位置に居たので何とか直撃は免れたのですが、熱波が通り過ぎるとそれだけでチリチリとダメージを受けました。
「ゆ、ユリエルさん!?」
人混みに流されていたグレースさんは少し遅れて合流したのですが、周囲の惨状をみて息を飲みます。ギュッと杖を握り、倒れている人達を見つめていました。
「行ってあげてください」
「は…はい!」
グレースさんはヒーラープレイをしていますからね、怪我人を見て居てもたってもいられなかったのでしょう。それでも私と一緒に居るか、回復に回るか悩んだようなのですが……私が背を押すと、グレースさんは怪我人に向けて走り出します。
「こりゃーちょっと強すぎない?怪獣退治じゃないんだから、おっさん達にどうしろっていうのよ」
氷の魔法で近接組の相手をするキングスライムを見ながら、スコルさんはそうぼやきました。
「どうにしろもこうしろも、どうにかしないといけないのですよ」
キングスライムの作り出す氷の盾……というよりも、この大きさだとちょっとした小山のような大きさなのですが、近接攻撃を仕掛けた人達はその数十メートル近い氷塊に行く手を阻まれるだけではなく、崩壊して落ちてくる氷に押し潰され、押し流され、叫び声をあげています。
それでもシグルドさんがその氷塊を避けて足場にしながら駆け上がっていますし、あれは……アヴェンタさんでしょうか?それにまふまふさんも身体能力に任せて攻撃を敢行しているようですね。
勿論他のプレイヤー達も攻撃を仕掛け続けており、最初のイベントの敵としては確かに強いのですが、人数差を利用して波状攻撃をしかければ削り切る事も……と思ったのですが、この辺りには一般モンスターはいないのですが、イベントモンスターであるスライムはチラホラいるのですよね。
そしてキングスライムがその小さなスライムをプチプチと踏みつぶし吸収していくと……HPが回復していました。いえ、そんな事をされるとスコルさんじゃないですけど、どうしろっていうのでしょうね。
「仕方がありません、私達も行きましょう」
集団戦でレッサーリリムになれない以上、ある程度他のプレイヤーが削って弱った所を投げナイフでチクチクとみたいな事を考えていましたが、この調子だと難しそうですね。
「【展開】…【秘紋】【ルドラの火】付与」
キングスライムの攻撃でプレイヤーの半数近くはダウンしたようですし、最初の方に倒れた人のリスポーンが開始しているような状態ですからね、今更私の事を注視しているプレイヤーはいないでしょう。
というより、レッサーリリムにならなければ私の運動神経でキングスライムの攻撃を掻い潜る事は出来ませんから、多少の被害は覚悟しましょう。
「MP消費が激しいですからね、節約してください」
「ぷ…!」
そして牡丹に付与したのは【ルドラの火】ですね。イビルストラになっている状態で、テイム向けの【秘紋】の付与が出来るかどうかは謎だったのですが、どうやらちゃんと機能しているようですね。
牡丹が軽く持ち上げた前垂れの先に青白い炎を灯しながら、「任せて!」みたいな声をあげます。
「そんじゃ、おっさん達も行きますか……狙いは?」
「とりあえず火力を叩き込みましょう」
私達の火力がどこまで通じるか試してみないとわかりませんからね、私は右手に魔光剣、左手に投げナイフを持って突撃を開始しました。
※途中人の声が聞き取りづらい場所があるのは、周囲が五月蠅く聞き取りづらいからです。ニュアンスを読んで何て言っているか想像してくれると助かります。




