11:リベンジマッチ(別の敵に)
「はぁ~~~~……」
リスポーン地点に戻されたところで、私は大きなため息を吐きました。空腹による怠さも手伝い、スタート地点に戻されたのには中々の徒労感がありますね。
とりあえず初死亡を経験した感想を言うと「嫌な経験でした」です。痛みや意識がなくなっていく感覚をここまで再現しなくてもいいと思ってしまうのですが、死ぬ事自体が嫌な経験になるからか、デスペナはそれほど重くありません。
リスポーン地点への送還と、30分間の移動用ポータルの使用不可だけです。これは町の近くにいるような初心者の頃には軽く、遠出してダンジョン攻略などをするようになると重くなるというバランス調整のようです。そんな軽さだからか、低レベル時のデスペナ免除というのもありません。免除がないのはまあ、気軽にゾンビアタックをするなという事もあるのでしょう。
ちなみに死亡判定後は基本的に即時リスポーンする仕様なのですが、PTメンバーがいれば1分間の猶予時間が生まれるとの事で、長時間かけて何かを攻略する場合や、遠出をする場合はPTプレーが推奨されていました。この辺りは運営側にPTを組んでもらいたいという意図もあるのかもしれません。
そして今更気づいた事なのですが、今回死亡するきっかけになった腰翼ですが、どうやら畳む事が出来るようです。いえ、正確に言うとSPが足りずまだ畳めないのですが、【収納/展開】というスキルがあり、それを使えば畳めるようでした。
【ルドラの火】のような特殊なスキルはアナウンスされるのですが、ごく自然な動作で習得したスキルに関してはいちいちアナウンスは流れないようです。ステータス画面を見ていたら、いつの間にか増えていたという感じです。
【収納/展開】は種族特有のもので、特定の部位を隠す事が出来るスキルとの事です。レベルが低いうちは完全に消す事は出来ず、隠せる部位もそれほど多くありません。その種族を特徴づけるパーツは消しづらく、私の場合は角が消しづらく、腰翼は消しやすいとの事です。そのあたりの基準はよくわからないのですが、スキルレベルが上がれば完全に人間の姿になる事も可能だそうです。
他にも取得出来るようになったスキルが結構ありましたが、今は灰色表示されています。この灰色のスキルにSPを振り分ければレベル1で取得となり、加護を受けて効果が出るという仕様のようです。
そんなスキル周りや状態の確認をしているうちにとうとう満腹度が0になってしまい、『飢餓状態』に突入です。胃がキリキリと痛み、HPとMPが徐々にですけど減っていきます。早く何か食べないとまずそうです。死ぬ事を恐れなければデスペナもそれほど心配しなくていいのですが、無駄に死ぬ必要もありませんし、動けなくなる前に食料を探しに行きましょう。
という訳で、2度目の挑戦です。道沿いに歩いていてもめぼしいアイテムがなかったので、私は出来るだけ足音を忍ばせながら、森の中に入る事にしました。どうしても木々の生い茂る場所は飛び出た腰翼が茂みや枝にぶつかってそのたびに声が出そうになりますが、そこは集中力でカバーしましょう。今の状態で戦闘は考えていないのでゆっくりと慎重に進み、少しでも気配があれその場を離れ、迂回します。
これが本当の森の中でしたら、食べ物を見つけるなんていうのは至難の業でしょう。ウロウロと徘徊した挙句に餓死するというのが関の山です。ですがまあ、難易度が高いと言ってもそこはゲームです。しかもこの辺りに他のプレイヤーはおらず、採取アイテムは手つかずの状態です。程なく捜し歩けば、野苺のような赤い実の群生地を発見する事ができました。
早速食べてみましょう。本当なら毒だとか状態異常だとか慎重さを求められる場面ではあるのですが、『飢餓状態』によってHPは3分の2をきっていますし、食べて死ぬか食べずに死にかの2択なので悩む必要はありません。
一口食べるとプチプチした食感の後に、甘酸っぱい果汁がジュワっと口の中に広がりました。
空腹度が回復した事により『飢餓状態』のデバフもとけるので、体の隅々まで染み渡るような、この世の物と思えない味がします。脳がとろけるような美味しさです。
(まずいですね)
ちょっと嵌りそうです。考えてみてください、数個食べるだけで今までぼんやりしていた思考や体がシャキッとする実です。その効果はエナジードリンクや薬なんていうレベルではありません。とはいえ空腹度が回復してから食べた実にそのような効果はなく、普通においしい野苺です。そちらの味を覚えておく事にして、空腹度の回復に努めましょう。
回復速度は一粒2~3%と言ったところで、とりあえず30粒ほど食べておきましょう。どれだけ食べても満腹感を得られないので不思議な感じがしますが、ゲームとはこういうものです。そして美味しいには美味しいのですが、流石に30粒も食べようとすれば飽きますね。まあそれでも、目の前に十分な量の実がなっていたので私は野苺を食べ続けるのですが。
(さて)
満腹度は十分。後は燃費が悪いこの体のためにいくつか回収しておきたいのですが、鞄どころか風呂敷のような布すらありません。近場にちょうどいい大きさの葉っぱもなかったので、しかたなく私は服を破く事にしました。お腹にあたるところをぐるりと一周、クロップドTシャツみたいになってしまいますが、仕方がありません。加護もないので防御力には期待できませんし、気にしない事にしましょう。後はその布に包めるだけ包んでから、移動を開始します。
方向はまだ決まってはいませんが、道なりに進んでいけばどこかにはつくでしょう。とりあえず近場の道に出ようとしたところで、道の真ん中にモンスターが居ることに気づき、私は手近な木の陰に隠れました。
子供よりも小さな体。頭の大きさに反比例した細長くひょろりとした手足。奇妙な病気のような緑色の肌をもつ魔物。RPGゲームでは定番のモンスター、ゴブリンですね。
VRMMOのセーフティーエリアの近くにいる敵としては珍しい気がしますが、ブレイクヒーローズの世界だとゴブリンのような人型の魔物は魔王の手先といった扱いとなっており、あちこちに出現するありふれた魔物となっています。この辺りは完全にHCP社の趣味ですね。そしてこの手のファンタジー物でゴブリンとくると、まあ、その、あれです。何でも本国では腰布の下まできっちりと描写されていて問題になったという話ですが、日本版のブレイクヒーローズだと調整されているようです。あまり見てはいけない膨らみも見当たりませんので、そういう心配もないのでしょう。
とにかく、そんなゴブリンがしきりに後ろの茂みを気にしながら、道の真ん中に立っているのですが、その行動が怪しすぎます。
集団を形成するというイメージのあるゴブリンが単体で、しかも道の真ん中というのは罠を警戒するべきでしょう。
そう思いながら改めてゴブリンが時折見ている視線の先を確認してみると……2匹目のゴブリンが居ました。
道にいるゴブリンが錆びた短剣と腰布を装備しているのに対して、後ろの茂みにいるゴブリンはどうやら弓を構えているようです。連携と言っていいのかわかりませんが、リンクモンスターの一種でしょう。
「【看破】」
私はゴブリンに聞こえないように、小さく唱えます。まずはデータを見てみようとしたのですが、スキルを使ったところでゴブリンの体が何かビクッとしたように揺れました。それからキョロキョロと辺りを見回し、鼻をひくつかせていたかと思うと……私の存在に気づき、ニタリと笑いました。
※覚えたスキルを書こうかと思ったのですが、種類が多く冗長になりそうなので省きました。本国の仕様に関しては、まあ、うん。
ちなみにこの時点で取得できるスキルは以下の通りです。これからも延々と増えていきますが、たぶん詳細に語られる事はないと思います。
【基本スキル】
【魔力視】【登攀】【水泳】【見切り】【飢餓耐性(微)】【隠陰】
【戦闘スキル】
【鞭】【服】【ランジェリー】【カウンター】
【生産スキル】
【採集】
【種族スキル】
【収納/展開】
次回ゴブリン戦となります。戦闘描写が多めになりますので、苦手な人はご注意ください。
※次回の更新は深夜を飛ばして朝方に投稿しようと思いますのでご了承ください。
※8/21 スキル統廃合により、習得可能スキルの表記が少し変更されました。
※誤字報告ありがとうございます(10/15)訂正しました。