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111:西の街道と謎の島

 私達はグレースさんのグループ目標を一つずつクリアしていったのですが、やはり問題となるのはウェスト港付近の敵である『アンギーフロッグの討伐』ですね。正確には道中遭遇するであろうオーガビーストだったのですが……。


「ユリちー来たわよ!」

 スコルさんの声で私は目の前の戦闘に集中する事にして、右手に魔光剣、左手に投げナイフ、尻尾には適当に拾っておいた木の枝を構えながら、突撃してくるオーガビーストに備えます。


 どうやらブレイクヒーローズでは一度倒したボスクラスのモンスターをスキップするような機能がある訳ではないようで、襲われたら襲われただけ戦わないといけないようですね。


「わかりました、2人とも、気を付けてください」

 私とスコルさんは討伐していますからね、グレースさん単独で戦わないといけないという状況になるよりかはいいのですが……私は呪文詠唱(【ライトアロー】)に入るグレースさんを横目で確認してから、とにかくスキル(【扇動】)のためにも声をかけつつ構えをとります。


 グループ目標にはオーガビーストの討伐は入っていないので逃げればいいのですが、相手の速度を考えると変に逃げるより迎撃した方がいいでしょう。


 とにかく、情報を整理すると、今私達が居るのは西側のムドエスベル山脈を越えた辺りで、アルバボッシュとウェスト港を繋ぐ街道から少し南に逸れた場所ですね。フの字(第一エリア)で言うと左の横棒の下側あたりでしょうか?

 何時も通っていたミキュシバ森林より南側の街道ルートで、途中、ムドエスベル山脈がかなり低くなった場所が封鎖されていた場所だったのですが、今は誰でも通行できるように障害物が脇にどけられ、バリケードが撤去されていました。


 代わりに兵士の詰め所みたいな小屋が建てられ、ちょっとした検問所のような状態になっていたのですが……ギルドカードを見せたら特に手続きもなくあっさり通してくれました。

 小屋に詰めている兵士さん達が言うには、モンスター対策で居るので、人の通行に対していは自由だそうですね。私達の場合はちょっと見た目が特殊(淫魔に狼に人間)だから確認しただけで、お手数をおかけしましたとの事です。


 そういう兵士さん達の頑張りのおかげで、街道沿いを移動する限り安全だと言う事なのですが……私達が狙っているアンギーフロッグは街道から離れた海岸沿いにいますからね、近場の海岸に降りようと坂を下っている所でオーガビーストの襲撃にあったという訳です。


 迎撃する場所としては緩い下り坂になっているのはマイナスポイントですが、開けた草原なので足場は悪くないですし、オーガビーストの方が駆け上がってくる状態というのはプラスに働いていますね。


 ちなみに峠の兵士達の詰め所なのですが、小屋程度の防備では危なくないかと思ったのですが、なんでも魔物除けの花(『浄罪の花』)の影響があると言う事で、意外と大丈夫なのだそうです。

 ただ通常のモンスターと違い、オーガビーストはその花の光を食べに来ていましたからね、暴れ回っていたころは危なくて常駐していられなかったそうなのですが、通りすがりのブレイカー(私とスコルさん)に大きく傷をつけられ弱体した今なら、魔除けの効果もあり何とか出来ているのだという事でした。

 まあその辺りの事は良いとして、今は目の前の問題を先に対処する事にしましょう。


 襲ってきたオーガビーストの見た目は殆ど変わっていないのですが、体高が2メートル程と一回り小さくなっており、速度はオリジナルの7~8割程度、そこに魅了のデバフが乗って最終的な速度は半分くらいと、私でも十分対処できる速さになっていますね。

 動きもフェイントをかける様な複雑な動きはみせず単調で、飛ばしてくる電撃球の速度は変わらないものの、誘導が無くなっているので避けやすいと大幅な弱体化が入っていました。


 オリジナル(弱体化前)はフル編成のPTか、複数の小規模PTが協力して戦うレイドボスに近い強さだったのですが、弱体化後は少人数のPTでも倒せるような強さになっていますね。


「GUOOOUUU!!!」

 牽制のように飛んでくる電撃球目掛けて投げナイフを投げてから、私はそのまま二本目のナイフを投げます。大量に持ち歩くようにしているので、事前に電撃球を幾つか潰そうとしたのですが……。


「ぷッ!」

 ストラスライムがやる気を漲らせ、前垂れの部分でファイティングポーズをとるように少し先端を浮かせたので、内ポケットに手を入れようとしていた私の左手が空を切ります。


「…動かないでもらっていいですか?」

 流石に装備しているイビルストラが勝手に動くと戦いづらいのですが……秘紋(【鞭】)を外した後も何故かこの子はちょっとずつ動けるようになっているのですよね。


「ぷぅ~ぃ……」

 しょんぼり垂れるストラスライムなのですが、ぺちょりと垂れて来た前垂れの内側のジェルが胸の先端に絡みついて、ちょっと変な気持ちになってしまいます。


「んっ……だから…」

 他人の意志で擦られる刺激に文句を言いたいのですが、流石に戦闘中ですからね、集中しましょう。集中……出来ないのですが、強制的に【高揚】スキルが引き出されて、感覚だけは鋭敏になっていきます。


「だ…【ダブルアタック】」

 スローモーション(感覚が研ぎ澄まされ)のような電撃球を躱しながら、当たりそうな物は尻尾で掴んでいる木の枝で叩き落とし、そこに突っ込んでくる本体の無防備な側面にルドラのナイフを叩き込みます。


「GYUax!!?」

 いくら弱体化していると言っても【ルドラの火】のナイフを1度叩き込まれた程度では耐久度は削り切れないようですね。


「ooGYU……」

 よろめいたオーガビーストが体勢を立て直し、2本の鬣がパチパチと電気を貯めるような動きをしているので、私はバックステップでその場を離れます。


「……UOOOXX!!!」


「…邪悪を滅する光の一撃をお貸しください、ライトアロー!」


「ox!!?」

 電撃による攻撃も溜がわかりやすくなりましたので、私は余裕で電撃を回避します。そしてその放電の撃ち終わりを狙ったグレースさんの光の矢(【ライトアロー】)が突き刺さり、オーガビーストは大きくバランスを崩しました。


 弱体化したボスと戦ったのはこれが初めてだったのですが、本当に大幅に弱体化していますね、そのまま難なく討伐したところで、私達は一息入れました。


「まっ、かなり弱体しているからこれくらいならおっさん達の手にかかればちょちょいのちょいよ、ユリちーは平気?」

 今回は軽い牽制を入れただけのスコルさんは余裕の表情で、グレースさんはグループメンバーが「オーガビーストは強い」と話していたのを聞いて気負っていたようなのですが、結果は楽勝だったようですね。


「大…丈夫です」


「ぷっ!」

 ストラスライムは元気一杯に返事をしているのですが、私はちょっとだけ目を細めてしまいました。


 疲労と言う面では私も特に問題ないのですが、装備面でのトラブル(ナイフキャッチミス)がありましたし、あと刺激された乳首が……ちょっと、人に言えない状況になっていますね。


 私は胸から全身に伝わるジンジンとした感覚を落ち着かせようとするのですが、命が宿ったようにうねる前垂れに緩く揉まれて、声が出ないようにするのが精一杯です。


 体が火照り頬も赤くなり、一度イビルストラを外そうかと思ったのですが……ここまで立って(目立って)しまっていると、付けていないと周囲の人にバレてしまいますし、イビルストラを付けていたら付けていたらで刺激され続けるというジレンマに陥ってしまいます。

 こうなると坂を下る衝撃もあちこちに響きますし、何とか我慢する私を見ながらスコルさんはニヤニヤしているのですが……茶化されても何なので、私はただ睨むだけにとどめておきました。


 とにかく、オーガビーストを【解体】してからアンギーフロッグの居るとされている海岸線まで降りてきたのですが……スライム達の姿はあちこちに見かけるのですが、肝心のアンギーフロッグの姿がありませんね。


「この辺り…なんですよね?」


「その筈だけど~おかしいわね、βから分布が変わったのかしら?」

 周囲は段差のある岩場と砂浜が合わさったような場所で、死角の多い場所ではあったのですが……スコルさんの索敵範囲にも入らないというのは不思議ですね。

 まるで何か天敵から身を隠したように姿を消してしまっているのですが、オーガビーストがこちらに流れてきていましたし、モンスターの分布が変わったのでしょうか?


 私が改めて周囲を見回してみると、目の前には少し波立った海が広がっており、位置的(海の向こうは王都方面)セントラルライド(王都)が見えるかと思ったのですが、スコルさんが言うには間に丁度島があって見えないそうですね。


「ほら、あそこの島、あの向こうが丁度……」

 スコルさんが示す島はミキュシバ森林とどこか植生の似た植物の生えた島だったのですが……。


「何かあの島……動いていませんか?」

 正確には島の端の方なのですが……島と同じくらい巨大な何かが、動いているのが見えました。

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