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103:テイミング

 アルバボッシュの一つ隣の草原には、角兎と同じくらいの量のスライムが湧いていました。コロコロと転がっているスライム、飛び跳ねているスライム、日向ぼっこを楽しむスライムと色々です。


 色は殆どが青色(1ポイント)で、たまに黄色(3ポイント)が混じる程度ですね。湧いたスライムを狩る人達もチラホラと見えるのですが、わざわざここ(初心者MAP)を狩場にしようという言う人はいないようで、殆どの人はスライムの強さを確かめた後、めいめいお目当て(レアが出そうな)のMAPを目指して旅立って行きました。


 そんなあまり見向きもされていない場所なのですが、HMさん達のレベルを考えるとこれくらいが丁度いいですからね、気にせずスライム退治といきましょう。


 まずはレベル差により経験値の公平化が出来ないので、HMさん、ティータさん、エルゼさん、ノナさんの4人が1つ目のPTに、私とまふかさんが2つ目のPTに分かれます。


「えぇ~まふまふと別のPTですかぁ~!?」

 ノナさんは最後まで抵抗していたのですが、レベルは6と、私とは10レベル以上離れているので諦めてもらいました。ちなみにまふかさんのレベルは13で、HMさん達はモンスターが倒せずレベルは1か2との事ですね。


 とにかく、そんな感じで2PTに別れて狩りを開始しようとしたのですが……魅了の効果か引くほどモンスターが寄って来て、いきなりワチャワチャした事になりました。


「ふぉぉぉおお!!!」


「ああ、もう、何なのよこいつら!」


「きゃーまふまふぅ~助けてぇ~」


「あんたはもうちょっとちゃんと戦いなさいよ!」

 ティータさんとエルゼさんが奮戦し、まふかさんとノナさんがイチャイチャしているのですが、とにかくまずは襲ってきた20匹ほどのスライムを撃退しましょう。


 人間形態(魅了の効果は弱め)なので、角兎はまだ遠巻きに見ている段階なのですが、スライムが……スライムが物凄い勢いで襲ってきます。

 たぶん可愛い見た目でプニプニしている(遊んでいる)だけだとプレイヤーが倒しづらいからか、積極的にプレイヤーを襲う(反撃を誘う)というAIが入っているのだと思います。そのため角兎のように遠巻きに見る段階がなく、集まってくるたびにそのまま体当たりを仕掛けてきてと、なかなか攻撃的ですね。


 レッサーリリムだと気配を読む事が出来るのですが、人間の状態ではそんな芸当は出来ません。セオリー通りに常に敵が正面に来るように細かく立ち回りながら、1匹ずつ確実にスライムを斬り払っていきます。


 スライムとちゃんと戦ってみた感想としては……まあそれ程と言った感じですね。斬った感触としては硬めのゼリーくらいでしょうか?手ごたえはしっかりあるのですが、武器を使えば易々と倒す事ができますね。一応打撃も試してみたのですが、微量ながら打撃耐性があるものの、根本的な耐久度が低いので補正あり(筋力C)の蹴りの一撃で倒す事が出来ました。

 そしてどうやら色によって強さや属性が違うようなのですが、井上さん(GM)が「基本的な色」と言っていたように、同じ青色のスライムでも水属性で湿っていたり、氷属性でひんやりしていたりと、微妙な違いがあるようですね。

 まあトータルすれば強さは角兎以下で経験値は同等と、もしかしたらこのイベントは初心者救済の意味もあるのかもしれません。


「皆さん、大丈夫ですか?」

 私は息を整えながら、周囲を見回しました。


 まふかさんとノナさんは問題なくスライムを倒せていますし、エルゼさんは何かちゃっかりとノナさん(3メートル)の頭の上に退避していますね、HMさん(幽霊)はそもそもすり抜けていて、問題はスライムに囲まれているティータさんですね。


「全然倒せないんだけど!?」


「ぷっ!」

 木の枝で叩くもぽよんぽよんと揺れるだけで、殆どダメージが入っていません。正直そんな木の枝(振るだけで撓る枝)を振り回すくらいなら、上空からダイブするように体当たりでもすれば倒せそうな気がしますが……ティータさんは囲まれていてそれどころではないのかもしれませんね。


 スライムの攻撃力は硬めのボール(バスケットボール)をおもいっきりぶつけられたくらいの痛さなので、私の場合はよほど変なクリーンヒットでもしない限り大丈夫なのですが、ティータさんやエルゼさんが直撃を受ければ大ダメージ必至ですからね、エルゼさんは上手く避難してくれているのですが、ティータさんが囲まれているのでそちらを優先して投げナイフでフォローしていきましょう。


「大丈夫ですか?」


「サンキュー助かった…に、しても、これはキツイな」

 一通り周囲に沸いていたスライムを駆逐してから、私達は一度集まります。


「でもレベルが上がったすね。結構美味しいんじゃないですか?」


「そう、です、ね…ゆっくり、狩れ、ば…?」

 低レベルの3人は、もうレベルが上がったようですね。


 とにかく最初から湧いていたスライム達を凌いだ私達は、そこからは数匹ずつ引き込むようにして、余裕をもってスライムを狩る事にしました。


 HMさんとエルゼさんが誘導とフェイントをかけ、ティータさんがポカポカ叩き、ノナさんがその巨体で押しつぶすという戦術は、スライムが1匹2匹程度なら十分機能するようですね。

 まふかさんはソロでも大丈夫なようですし、経験値が個人に入るように設定しておけば、私が何かしなければいけないという事も無いでしょう。


(それでは…)

 皆の狩りが安定したところで、私は私でスキルの検証をさせてもらう事にしました。早速【テイミング】を……と思うのですが、スキルの説明文には『魔力を与えて条件を満たせば』と書かれているだけで、細かな条件は不明なのですよね。

 HCP社がこういう書き方をするという事は、モンスターごとに【テイミング】の条件が違っている(長すぎて説明できない)のだと思いますが、とにかく私は、コロコロと足元に転がってきた青スライムで試してみる事にしました。


「【テイミング】」

 スキルを発動させると、スライムが「ぷいっ!?」と驚いたような顔をして、私の顔を見つめて固まります。ここから魔力を与えればいいという事なのですが、改めて言われると魔力って何なのでしょう?【ルドラの火(魔法)】でもいいのでしょうか?

 試しに【ルドラの火】を発動してみると、青スライムは何か物凄く嫌そうな顔をしました。これだと魔力として強すぎるのでしょうか?とりあえずその【ルドラの火】を発動したままスライムに左手を近づけてみると……。


「ぷいっ!!」

 ポンッと音を立てたように青スライムは飛び跳ねて、『仲間になりたそうにしていますが、仲間にしますか?<YES><NO>』と確認のアナウンスが出てきました。

 『仲間になりたそう』という割には怯えた様子を見せて涙まで浮かべているのですが、まあ仲間にはするので<YES>を選択しましょう。


「ぷゅぃ~…」

 【テイミング】が終わるとひと段落なのか、青スライムは息を吐きながらぺたりと平べったくなってしまいました。


 私と青スライムではレベル差があるからだと思いますが、意外と簡単にテイムできましたね。大体どのゲームでもテイマーという職業には一定の需要がありますし、この情報(【テイミング】)を攻略掲示板に流すだけで歓喜する人がいるかもしれませんが、テイム出来る事が普通になってしまえばデコイ(視線誘導)としての能力が下がってしまいますからね、心苦しいですが秘匿しておきましょう。


 さて、それでは改めてテイムしたモンスターの扱いですが……【テイミング】のスキルレベルが1だと名前を決める事が出来て、テイムしたモンスターのステータス画面を見る事が出来るようですね。一応レベルが上がればスキルを振る事も出来そうなのですが、今の段階ではスキル欄はグレー(使用不可)で表示されていますね。


 そして肝心のテイムモンスターへの指示に関しては単純な口頭指示のみで、モンスターが理解できないような行動は指示出来ないようです。


 何て言いますか、本当に“テイムしただけ”といいますか、ちゃんと使役(マニュアル操作)出来る訳ではないようですね。その分テイマー側()の負担が少ないとも言えるのですが、これだとあまり大きな期待はしない方がいいかもしれません。


「何サボってるのよ…って、スライム?」

 1人で戦っていたまふかさんが呆れたようにやってくるのですが、手乗り(襲ってこない)スライムになっている青スライムを不思議そうに見ながら、首を傾げました。


「はい、ちょっとスキルの検証を…」

 言いながら、私は手の上に乗っていた青スライムを潰します。「ぷッ!!?」という断末魔と共に青スライムは砕け散り、1ポイントと経験値が入りました。


 『テイムモンスターは野生に帰って行った』という一文と共にスキルの効果が切れたようで、クールタイムを挟んで再召喚という訳にはいかないようですね。スキルレベルが上がればまた別の判定になる可能性がありますが、このレベルだと何かの拍子に野生に戻ってしまうのでしょう。これだとテイムしたモンスターを使ったゾンビアタック(物量戦)は出来ませんね。


「すみません、もう一匹テイムするので、その子を倒した時に経験値が入るかどうか確かめてもらっても良いですか?」


「い、いいけど……あんた、時々凄い事するわね…」


「そうですか?」

 効率的に動いているだけなのですが、まふかさんはどこか引いたような顔で後ずさりをしていました。


 さて、そんなまふかさんは横に置いておくとして、2匹目のテイムですね……魔力に関してはわざわざ【ルドラの火】を使わなくてもいいようで、指先にそれっぽく力を込めて差し出せば勝手に吸ってくれるようですね。


「ふふっ…」

 ちゅぱちゅぱ吸われる感触がくすぐったくて、声がでてしまいます。これだけで無事に『仲間になりたそうにしていますが、仲間にしますか?<YES><NO>』と出てきました。

 勿論<YES>を押して、改めてまふかさんが倒した場合の経験値を確かめようと思ったのですが……まふかさんは口元を手の甲で隠しながら、赤面していました。


「どうしました?」


「な、なんでもないわよ!!ああ、もう!これを倒せばいいんでしょ!!」


「はい、お願いします」

 私はテイムしたてのスライムをまふかさんに差し出します。


「倒せば…倒せば……って、物凄く倒しづらいんだけど!?」


「ぷい?」

 不思議そうに首を傾げる青スライムは確かに可愛らしいのですが、それだと検証にならないのですよね。とにかくまふかさんに何とかスライムを倒してもらい、ちゃんとポイントと経験値が入る事を確かめてから、私は次の段階(皆のレベリング)に進もうとスライム達を集める事にしました。

※対人以外は時折妙に効率房になるユリエルでした。そして次回の更新なのですが、22日の6時にUPする予定です。そこからは定時更新になり、のんびりと書き進めていきたいと思いますので皆さまどうかご了承ください。

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