101:6人目
「ねえ、いつの間にかあたしが全員運ぶ事になっているんだけど!?」
私達は最後の1人を探してアルバボッシュの東側に向かっていたのですが、いつの間にかまふかさんの頭の上にはエルゼさんが、右肩にティータさんが、前には私、そして背中にはHMさんが憑いているという状態になっていました。
「すみま、せん…この方が、楽、で…」
HMさんは漂うような移動速度が精一杯で、誰かに憑りつかなければ速度が出ないとの事です。
「降りたいのはやまやまだが…」
「ごめんすよ」
ティータさんは飛ぶとかなり体力を使うらしく、今はまふかさんの肩の上で休んでいて、エルゼさんは短距離のスピードはそこそこあるのですが、大きさが大きさですからね、距離が稼げないのでまふかさんの頭に乗って移動する事になり……結果的に、一番普通に走れるまふかさんに運ばれるのが効率がいいという事になり、こうなりました。
「ほんっと、いい加減にしなさいよ!あんたら後でただじゃおかないんだから!」
怒鳴りながらも振り落とそうとしない所は律儀というか、若干Mっけがありそうな感じですよね。
「………」
それにしても、まふかさんに抱き上げられているとお互いの胸が当たって、揺れる度に押し潰されている先端がグニグニと鈍く刺激されて、ジワリと広がる快感に、息が詰まりそうになります。
何か日ごとに体がおかしくなっているような気がするのですが、とにかく、我慢しなければと思えば思う程いけない気持ちが昇って来て……私はその刺激から耐えるように、まふかさんの体に回した手に力を込めます。
途中、HMさんが不審そうな目で私の顔を見て来たので焦ったのですが、笑って誤魔化しておきました。誤魔化せて……いたら良いと思うのですが、どうなのでしょう?下は誤魔化しがきかないくらい濡れてしまっているので不安になったのですが、変にモジモジしていると変な目で見られてしまいますからね、キリッとしておきましょう、キリッと。
そんな感じで私がちょっと大変な事になっている間に、どうやら目的の場所の近くまで来たようなのですが……この辺りからはちょっと入り組んだ道になっており、周囲を探索しながら移動しようと、まふかさんは移動速度を緩めました。
とにかく、私達がMAPのマーカーに従いやって来たのは、アルバボッシュ北東の壁の内側辺りで、この辺りは石造りの小屋が乱雑に立ち並び、少し寂れているというか、建物を急遽作り上げたというような無理やり町を拡張した跡があり、外壁も作り直されたような跡がありますね。
周囲には特に目ぼしい店もなく、東門からも北門からも微妙に遠く、人通りはあまりないのですが、流石に今日はチラホラと人を見かけますね。
どうやらスライムを探し歩きまわっているプレイヤー達のようで、人外の集まりである私達を見て指をさしてきたりするのですが、ちょっと集まりが特殊ですからね、まふかさんのような綺麗な人も揃っているのですが、声をかけていいのか躊躇っている様子です。
そんなプレイヤー達が町の中に現れたスライム達を追いかけまわしている訳なのですが……スライムを見ているとちょっと前の事を思い出して、下腹部がキュッとなってしまいますね。落ち着きましょう。結局イケなかったとか、まふかさんだけズルいとか雑念が入ってきますが、早まる心臓の音を落ち着けるように、私は深呼吸をしました。
「ねえ、道すらがらのスライムは倒していいすか?」
折角のイベントですしと、前足を勇ましく振り上げ、今にも襲い掛かるような素振りを見せているエルゼさんなのですが、30センチのスライムに相対するのが10センチの蜘蛛ですからね、どうやって戦うのでしょう?
「いい、です、が…?」
「はいはい、どーぞ、ご勝手に」
私が首を傾げている間に、エルゼさん達はまふかさんからピョンと降りて、手近なスライムに目星をつけて襲い掛かりました。
「しゃー、行くよー!!」
「おー!!」
「ぷっ!?」
青スライムに襲撃をしかけたエルゼさんとティータさんなのですが……。
「ぎゃー!!!」
「ぐわぁあぁああ!!!」
体当たりの1発で、雑にやられていますね。と言うよりこの2人、まともな攻撃手段がないようで、ポカポカと叩いている間に反撃を受けて沈んでいきました。
戦闘になるとHMさんもオロオロしているだけですし、どうやらこの3人に戦闘力を期待するのはやめた方がいいかもしれませんね。
「まったく、何をしているのよ……」
まふかさんはそんな3人を見て呆れたようにため息を吐いているのですが、流石にティータさんがスライムに押しつぶされて大変な事になりそうなので助けに入りたいのですが……何故かまふかさんは私を抱きかかえたままなのですよね。
「あの…?」
「えっ?…って!?」
そろそろ下ろして欲しいのですがと声をかけると、まふかさんが慌てたように私から手放し……無防備な体勢で落下した私は、おもいっきりお尻を打ち付けました。
「っ…た…!!?」
【腰翼】がないので受け身すらとれず、石畳に叩きつけられた痛みと驚きで悶絶する事になったのですが、まふかさんの方が「訳が分からない」という顔をしており、戸惑いを隠しきれていない様子で顔を隠していました。
「なんっ、って、あんた……受け身くらいとりなさいよ!」
「すみま…せん?」
よくわからない理由で怒られたような気がするのですが、とにかくお尻を擦りながら立ち上がろうとしていると、HMさんが手を差し伸べてくれました。
「大、丈夫…です、か?」
「ありがとう……ござ、います…?」
私は反射的にその手を取ろうとしたのですが、その手はすり抜けてしまいました。キョトンとする私の前でHMさんは困ったような「そういえばそうでした」というような、時間差で納得したみたいな表情を浮かべて、笑います。
「すみ、ません…うっかり…」
まあHMさんは幽霊ですからね、すり抜けてしまうのは仕方がない事なのでしょう。とにかく少しほっこりした後、ティータさんを襲うスライムを撃退しておきました。
「うぇーキツイ…」
べちょべちょになったティータさんなのですが、その姿を見て濡れていたまふかさんを思い出したのか、皆で「なるほど」みたいな顔をして少し笑ったのですが、戦いに関してはこんな感じですからね、スライムは後回しにする事にして、先に最後の6人を探す事になりました。
私はこの辺りの土地勘は無かったのですが、どうやらティータさんとエルゼさんは来た事があるようですね。2人の先導で、MAPに印された場所を目指します。
ティータさんが言うには、今向かっているのは枯れた水路といいますか、壁沿いに作られた排水設備か何かのようですね。何でも、どうやっても門をくぐれない人外用の通路がそこにあるとかで、何となく飛行訓練代わりに散歩している時に見つけたティータさんと、完全に蜘蛛の姿をしているエルゼさんはその通路を通った事があるそうです。
「ここよ、ここ!」
案内された場所には2メートル程の深さの石張りの水路があり、その先の用水路を通れば外に続く水門があるという事なのですが……向こうもMAPを見て私達の接近に気づいたのでしょう、毛量の多いボサボサ頭の女性が、上半身を水路から出して手招きをしていました。
「おぉ~い、こっちですぅ~~」
それは萌黄色の髪と、それを明るくしたような黄色い瞳をした……ラミアの方ですね。名前はノナさんと言い、上半身は完全に人間と同じなのですが、その体には布を巻いただけのようなブラ以外は何も身に着けていないという、なかなか凄い恰好をした人ですね。
足の付け根辺りからは黄色みがかった肌色の蛇腹になり、蛇っぽいテカテカした緑色が散りばめられた尻尾が伸びているいるのですが……そのギリギリ具合はちょっと他人事ながら心配になります。
何て言いますか、アンダーヘアの処理をしていない人なら普通に見えるような際どい所までが人の姿なので、鼠径部の名残と思われるへこみが見えているのですよね。
人間と蛇の尻尾の接合部は若干隙間があるようなのですが、その中がどうなっているかは聞かないでおきましょう。
とにかく、全体的にはそういう凄い恰好をしているのですが、ノナさんはモンスターになりきっているのか、ゲームだからと割りきっているのかどちらかはわかりませんが、あまり自分の姿には頓着していないようですね。
「いやぁ~大変でしたよぉ~どうやって町の中に入ろうって、本当に、困っていてぇ…」
そして水路の下から顔を出している事からわかるように、全長は3メートル程あり、人間化も出来ないのでずっとこの大きさだそうです。
確かにこの大きさでは人前に出てくるのは難しいでしょうし、実はまだギルドカードも手に入れていないそうで、どうやって町の中に入ればいいのか悩んでいたそうです。
そんなノナさんと合流を果たした事でイベント目標が達成され、1つ目の目標をコンプリートですね。
「で、これからどうするの?」
とりあえず集合したけどみたいに、まふかさんが代表して口を開いたところで、ノナさんがビシッと背を伸ばします。
「はうぁっ!?まふまふ!?まふまふじゃないですか!!うわぁーもしかしてグループメンバーがまふまふ!?私ファンなんです、握手してください!」
「え、いいけど…ってぇ、何するのよ!?」
ノナさんは興奮のあまりか、その全身を使ってまふかさんに巻き付いてしまいました。
「うわぁ~うわぁ~肌すべすべーやっぱり私と違っていい物食べているんだろうなーいいなぁ~」
「ちょ、ちょっと、放しなさい…」
絡みつくノナさんはまふかさんに頬ずりをしながらニョロニョロと尻尾を足に絡ませ胸に手を伸ばします。
「よいではないか、よいではないかぁ~」
「よくないわよ、ひゃっん!はな…放ッ!!」
取り残されてしまった私達はぽかんとその様子を眺めていたのですが、どうやら最後の1人もちょっとだけ変な人だったようですね。
「ッ!!ッー!!?」
HMさんが咄嗟にティータさんの両眼を塞ぐのですが、その手は半透明だからティータさんはガン見して固まってしまいますし、エルゼさんが面白くなってきたという様に笑っていますし、私は……とにかく何か面倒な事にならないうちに離れようと、息を吐きました。
※アルバボッシュの東側の一部は、氷結の大地などからの避難民のために急遽増設された地区があり、その増設の隙間に門を通過できなさそうな人外用(RPが苦手な人外含む)の通路が開けられています。ちなみにHMさんも幽霊で人外ですが、彼女は普通に壁をすり抜けてきたのでこのルートのお世話にはなっていません。
※3人組はユリエル達と合流するまでにスライムと戦わなかったの?という疑問ですが、ユリエル達が中央付近という人の多い場所にいたので隠れる事を優先して戦っていません。外周部に来て人が少なくなってきたので「そろそろ戦ってみよう」みたいなノリで襲い掛かり、逆襲にあいました。




