97:まふまふさん その3
まふまふさんは強引に私を路地裏に連れ込んだのですが、振りほどこうにもその力は私より強く、振りほどけません。
たぶん種族的な補正は同じくらいだと思うのですが、基本となるリアルの筋力がただのゲーマーと、それなりに鍛えている女性くらいの差がありますからね、ゲーム内での筋力差は結構あるようです。そのため無理やり引きずられるように路地裏に引きずり込まれたのですが……。
「あの、ちょっと…待って、ください!」
振り向けば亡者の群れのようにゾロゾロと大量のファンの方達がついてきていますし、カメラを飛ばしている人も沢山いるので、のんびりしている場合ではないとわかっているのですが、こうも無理やり引っ張られると激しく揺れて、ドレスの蔦がキュッと引っかかります。
何とかゆっくり歩くのはコツを掴んできたような気がするのですが、こうもドキドキしてしまえば【高揚】のスイッチが入り、感覚が鋭くなっていくので余計に気持ち良くなってしまうという悪循環に陥り、大変な事になってしまいます。
そもそもまふまふさんが聞きたいのはスコルさんのあの動きについてだと思うのですが、覗きに行こうと促してきたのもスコルさんですし、覗いていた事をばらしたのもスコルさんですから、説明するのもスコルさんからして欲しいと責任を押し付けたくなるのですが、その肝心のスコルさんは群衆の中に紛れて見当たらないという状況です。最悪ですね。
私の中でだんだんスコルさんの扱いが酷くなっていっているような気がするのですが、それはスコルさんの日頃の行いのせいだという事にしておきましょう。
「……何?」
やっと止まってくれたまふまふさんは、軽く動いただけで息も絶え絶えというような私を見て呆れたようにため息を吐いたのですが……私と、私達の後ろから迫るファンの人達を見て、眉を寄せました。
「チッ、ほら、乗りなさい」
まふまふさんがやっと手を放してくれたと思っていると、私に背を向けてしゃがみ込みました。
「あんたには聞きたい事があるんだから、早くして」
背中に乗れという事だと思うのですが、どうしましょう?何故ここまでするのかよくわかりませんし、今のうちに逃げようと思えば逃げられるかもしれませんが、「スコルさんが犯人です」という事を伝えておかないと、後々面倒な事になる予感がするのですよね。
「ほら、早く」
若干苛立たし気に催促され、背後から「あのまふまふが!」とか「羨ましい、俺も背負われたい!」とかの野次が飛んできます。
そう、まふまふさんはちょっと変な人だと思うのですが、一応人気者の配信者なのですよね。今は遠巻きに眺めているような紳士的なファンの方達なのですが、ある事無い事配信中に言われた後は、どうなるかわかりません。とにかく促されるままにおんぶされる事にしたのですが……。
「ひっ…ん……」
大きく股を開けた所にちょうどまふまふさんの尻尾の付け根があって、声が出ました。足を閉じようにも閉じられず、無防備な所にグリグリと与えられる刺激を防ぐ方法がありません。
「やっぱ、り、別の方法で…っ」
「五月蠅いわね、追いつかれる前に行くわよ!」
何とか腰を浮かそうとするのですが、太ももをしっかりと掴まれてしまい、固定するように押し付けられると、衝撃を逃がす事もできません。
種族的にも、スピードに補正が乗っているのでしょう、全力疾走に入ったまふまふさんはみるみるうちに押し寄せてきていたファンの人達を引き離し、狭い路地裏を獣のような速度で走り抜け、時折現れるスライムたちを蹴散らしてい進んで行きました。
「まっ……んっ、く…っ」
その速度はちょっとしたジェットコースターよりスリリングな体験で、私は下腹部に遠慮なく与えられる振動に口を閉じました。
「邪魔くさいわね」
広いところに出れば人に囲まれてしまいますし、私達は人気のない裏路地を走っていたのですが、そういう場所は障害物も多く、回避するたびに下の弱い所がガンガンと責められ、まふまふさんの肩を持つ手に力が入ります。
私はスカートの中の蔦が湿り気を帯びてきてしまった事がバレないか気が気でなかったのですが、流石にこれだけ密着していると難しい注文だったようですね。
「って!?あんたまさかオナってるんじゃないでしょうね!?」
「ち、違いッま、す、これは、種族、的なもの、で…ぇ…っっ…ああぁ…」
指摘された事で余計に意識してしまい、全身から汗が噴き出ます。完全にスイッチが入ってしまい、我慢していた気持ちよさが一気に背筋を上って来て力が抜けそうになりました。
振り落とされまいと、何とかまふまふさんにしがみついて耐えたのですが、まふまふさんの背中で胸が押しつぶされて、こねくり回され、声がでました。
「耳元で喘ぐな!あたしまで変な気持ちになってくるでしょ……じゃなくて!?」
オートスペルが発動する寸前に速度を緩めてくれたので大惨事は免れたのですが、やっと一息つくことが出来ました。
ゆっくり息を吸って、ゆっくり吐いて、耳元に息を吹きかけられる形となったまふまふさんがよろめいてバランスを崩します。
「すみません…」
真っ赤になったまふまふさんはプルプルと奮えており、怒られるかと思ったのですが、どうやら声を押し殺そうと懸命に口を閉ざしているようですね。
その後少しの間、まふまふさんは私の事を気遣って減速した速度で走ってくれたのですが、後ろからはファンの人達のカメラが飛んできて、あまりのんびりしている場合でもなくなりました。
このカメラは自分の周囲で固定する場合はそれ程難しい操作は必要ないのですが、遠くに飛ばす場合はドローンを手動操作するくらいの難易度がありました。
狭い路地裏の中を飛ばすとなると、ぶつけて失くすリスクを負う事になるのであまり効果的な索敵方法とは思えませんが、もう何か、私達を見つけるゲームか何かのようになっているようですね。
「ショートカットするわよ」
アルバボッシュは中央の精霊樹を起点として、周囲に広がる根っこに支えられるような形の立体的な構造の町なのですが、まふまふさんはしつこく追ってくるファン達の追跡を振り切る為に、根っこを伝って下の階層に降りる事にしたようですね。
「それは…」
何か嫌な気配がして私は制止しようとしたのですが、まふまふさんはさっさと下に続く蔦の上に飛び乗ります。
軽い浮遊感、それはルートと言うにはあまりにも細く、何とか人が滑り降りる事は出来るという感じの太さで、私はギュッとまふまふさんに抱きついてしまったのですが、路地裏を疾走していた時の運動神経を見る限りでは大丈夫と思ってそれ以上止めなかったのですが……。
「ぷっ!」
「ちょっ!?何でこんな所にスライムがいるのよーーっ!!!」
まふまふさんは蔦の上に居た透明なスライムを踏みつけて、もうバナナでも踏んだのかというくらい見事に後ろにステーンと転びました。
スライムのスポーン状況はよくわかりませんが、人の多い町中は大体駆逐され、こういう人の来ない場所に残っているようですね。
それにしても透明なスライムと言うのはレア種だったのですが、そんな事を考えている余裕なく、背負われていた私は背中と後頭部を強打して意識が飛びそうになりました。そして当然、狭い蔦の上で盛大に転んだわけですし、私達は滑り落ちて……。
「っ……て【展開】!」
私は【腰翼】を広げるのですが、一瞬意識が飛んでいたので反応が遅れました。しかも今は私とまふまふさん2人分の重さが【腰翼】にかかり、こうなると落下スピードを緩めるのが精一杯です。
運の悪い事に足を滑らせた所は根っこと根っこの隙間のようで、落下距離は目算20メートル程度、これは何もしなければ即死するかもしれませんね。
「ひぃあああぁぁあああああ!!!!」
私は叫ぶまふまふさんを庇う様に体を入れ替えながら、落下の衝撃に備えて身構えました。




