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95:まふまふさん その1

 あちこちから聞こえてくる騒めきと、喧騒。周囲は町中に現れたスライムを追いかける人達で(にわ)かに騒がしくなり、皆がスライムを追いかける様はまさしく“争奪戦”ですね。

 私も早速スライムを探しに……と言いたいのですが、各地にばらけて探し出すのが面倒になる前に『グループ目標』である『グループメンバーの顔を見る』を先にクリアしておきましょう。


 一番見かける青いスライムは1ポイントなのに対して、この目標は1人確認するたびに20ポイント、メンバーは私を除いて5人いるので合計100ポイントと配点が高く、逃す手はないですね。

 たぶん他のプレイヤーも同じような事を考えているのでしょう、スライムを求めて積極的に走り回っている人より、まずはグループメンバーを探そうと、MAP片手にキョロキョロしている人の方が多いような気がします。


 連絡を取り合う事が出来れば話は簡単なのですが、残念ながらそういう機能はなく、メンバー同士はMAP上の青い点だけが頼りですね。そういう訳で、中にはグループメンバー以外の人に話しかけているそそっかしい人もいて、あちこち騒ぎが起きているのですが、運営からすればそういう交流も想定の範囲内なのでしょう。

 あえてそういう機能を実装しなかった理由は、そういう色々な人との交流を楽しんで欲しいという考えがあったのかもしれませんし、知らない人と組むのが嫌な人や、私のように何らかの理由(魅了をかけてしまう)でソロプレイを強要されている人に向けた配慮なのかもしれません。

 もしかしたら、グループメンバーで組もうとするような人は、ほっておいても勝手に合流するだろうと考えているだけなのかもしれませんが、とにかく、魅了の影響で相手を選ばないといけない私からすると、その運営の判断は助かりました。


(さて…)

 そんな推測は一旦頭の隅に追いやっておき、改めてMAPを眺めます。西門(ミキュシバ森林方面)から入って来た私はアルバボッシュの西側に居るのですが、MAP上の青い点は中央に1人、残り4人は東側に居るようですね。

 中央の1人は殆ど動かず、東側の真ん中辺りにいる3人は合流するような動きを見せており、最後の1人は東側の最外周、壁の近くから動く気配はありません。

 とりあえず、いきなり町の外に飛び出していくタイプの人はいないようですし、私はのんびりと、人ごみを避けて中央経由で東側に向かう事にしました。

 何かあっても大変ですしと、人混みは避けるように移動していたのですが……中には目ざとい人もいるようですね。


「ありゃ、ユリちーじゃない」


「んー…?あーあの時の、やほー」

 私に声をかけてきたのはスコルさんと……ミキュシバ森林で酷い目にあっていた、オーガビーストにワンパンされていたウィルチェさんですね。ウィルチェさんは私が人型である事やフードを被っている事で一瞬不思議そうな顔をしたのですが、すぐに私だと気づいてにこーっと笑いました。


「お久しぶりです、お2人は、もしかして?」

 スコルさんは『収納のストラ』を付けていたのですが、どうやら無事に修理できたようですね。どうやって首に結んだのかはわかりませんが、修理に出したお店の店員さん(NPC)に任せたのでしょう。

 とにかく、何か珍しい組み合わせだと思ったのですが、2人とも手元の画面を見ているような動きをしていますし、もしかしてグループメンバーなのでしょうか?


「そそ、バラバラになった後に探すのも面倒でーって事で、近くにいる人の顔くらいは見ておこうっていう訳、ユリちーもそのつもりなんでしょ?」


「はい、東側で集まっているようなので、そちらに向かおうかと」


「そうなんだ、じゃあおっさん達と一緒ね」

 どうやらスコルさん達のグループも東側にいるようですね。そのまま途中まで一緒にという流れになったのですが、私は魅了の事もあり、ウィルチェさんの様子を伺うと……ムフーと笑われました。


「え、なになに?やっぱり僕の事チラチラ見ちゃうくらい可愛い?」

 カメラを回していたウィルチェさんはカメラ目線でポーズをとっていたのですが、とくに魅了がかかっているような様子はないですね。この人も魅了耐性が高い人なのでしょう。


「はい、可愛いと思います」

 そういう風にアバターを作っているだけなのですが、見た目(アバター)は本当に美少女顔なのですよね。


「え、あ、うん、ありがとう」

 私が直球で褒めると、ウィルチェさんはちょっと言葉に詰まったように照れて、背を向けました。それからスコルさんのそばでしゃがみ込み、ヒソヒソと会話を始めます。


「何あれ、僕でもちょっとドキドキしたんだけど」


「ユリちー天然たらしの悪女よー、気を付けないとパクリといかれちゃうからね?」


「わかるーこの前抱きしめられた時なんて僕の股間がやばかったから、あれはもう凶器だよ凶器!あ、思い出したらまた立てなくなりそう…」


「まっ、なんてハレンチな!ふーん、いいもーんだ、おっさんだってもっと凄い事したんだからねー」

 本当にろくでもない会話をしていますね、この2人は。


「…聞こえてますよ?」

 呆れて言葉が出ませんが、とにかくそんな2人と一緒に精霊樹の麓付近までやって来る事になったのですが……流石にこの辺りは人の数が凄いですね。

 たぶんアルバボッシュに集合と言われ、精霊樹の麓に集まった人達なのでしょう。そんな元から人が集まっていた場所に井上さんの質問コーナー(苦情受付所)が出来て、人が更に集まったといった感じですね。

 どうやら一度ログアウトしていった高橋さんも質問コーナーには居るようで、そちらにもかなりの人数が詰めかけているのが見えました。

 「お姉さんに彼氏はいるんですか!」とか「その服趣味なんですか?」とか「振動するんですか!?」とかセクハラ紛いの質問が飛び交い、高橋さんは顔を真っ赤にしてプルプル震えているという、何とも言えない空間になっているのですよね。

 これだけ人が居るとどの人がグループメンバーなのかわかりませんが、とにかく手元のMAPと地形を照らし合わせて、中央に居る筈のグループメンバーを探すのですが……。


「お…?」

 何かを見つけたというようにスコルさんが声を上げ、合図するように尻尾でパタパタと私の足を叩きます。


「…何ですか?」

 魔狼になってからのスコルさんの毛は硬いので、尻尾でパタパタされると結構痛いのですよね。注意するべきかどうかと悩みながら、スコルさんの示す方向を見ると……どうやら有名人か何かがいるようですね。物凄い人数が集まっている集団が居る事に気づき、私はスコルさんに促されるようにその中心に居る人物を見て……目を逸らしました。


 中心に居た人物は、銀髪のウルフカットに狼の耳をした……あのローパーに捕まって酷い目にあっていた女性ですね。

 今はビキニの上にジャケットという、露出は多いもののちゃんとした服装をしていたのですが、その、どうしてもローパーにめちゃくちゃにされていた時の印象が強いと言いますか、何か気まずいですね。


 私は軽く頬を押さえながら、スコルさんに「何が言いたいのですか?」と聞こうとしたのですが、それより先にウィルチェさんが反応しました。


「あーまふまふだ、やっぱり凄い人気だよねー、ま、僕の可愛さには負けるけどねー」

 との事ですね。え、あの人がまふまふさん?私が主に見ている動画とはジャンルが違うので、ブレイクヒーローズでの姿は知らなかったのですが、結構有名な配信者さんですね。

 いえ、動揺する必要はないのですが、その……エッチな場面を見ていたのが有名配信者だとわかると、やはり少し動揺してしまいますね。


「…スコルさんは知っていたんですか?」

 反応からしてスコルさんは最初から知っていたような気がするのですが、どうなのでしょう?私も何か聞いた事のある声だとは思っていたのですが、まさかまふまふさんだとは思いませんでした。


「おっさんまふまふのファンよ?え、なに、ユリちー、ゲーマーっぽいけどまふまふ知らなかったの?」


「名前くらいなら……」

 私が主に見る動画と言えば、攻略動画や解説動画が多いのですよね。もしくは参考になるような上級者のプレイ動画で、まふまふさんはその……視聴者の無茶振りに答えるタイプのエンターテイナータイプなので、見ててもあまり参考にならないのですよね。


「あ、でも、『ジュエルクラウンが出るまで絶対に寝ない実況』とかは飛ばし飛ばし見てましたよ?」

 32時間かけて結局入手できずに落ちるという凄い動画で、結局入手前に落ちたので炎上していたのですが、とにかく凄い動画でした。


「うっは、何でよりによってそれ」


「僕もその実況見てたよー途中からのグダグダっぷりが凄かったよね」

 とまあその辺りの事は良いのですが、その、やっぱり色々と気まずいですね。スコルさんはその辺りは気にならないのかニヤケ顔で呑気に舌を出しているのですが、あんな姿(触手まみれの姿)を見ていたと知られたら、まふまふさんのファンの方に刺されませんか?

 まあでも、関わり合いにならなければいいだけですしと改めてMAP上の青い点を確認してみるのですが……その青い点と、目の前の景色と、まふまふさんを見比べて……あの、この青い点、まふまふさんじゃないですか?まふまふさんを見た後に『グループ目標』の『グループメンバーの顔を見る』が(1/5)になってポイントが入っているのですよね。


 まあ、中央には人が多いですからね、いつの間にかグループメンバーの顔を見ていたという事も考えられるのですが、まふまふさんが周囲のファンの方達に何か言いながら手元のMAPを確認するような仕草をした後、辺りを見回して……私の顔をしっかりと見据えた後、手招きをしてきました。


「ねえ、ちょっと……そこのフード被ったピンク髪!こっちに来なさい!」

 これはまふまふさんが1人目のグループメンバーで確定かもしれませんね。

※ちなみに住人(NPC)からは、宙に映った井上さんとか、大量発生したスライムは女神の御使い様だとか諸々の不思議現象みたいに捉えられています。


※ちょっと途中3人の会話を変更して全体を調整しました。(11/12)

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