94:ぷるぷるスライム争奪戦!!開会式
※祝・100話記念!何か記念のSSでもあげようかと思ったのですが、更新を停止してまで上げるのも何かと思いましたので、通常更新を頑張る事にしました。ただこういう話が見てみたいっていう人がいれば何かしらの形で実現していきたいとは思いますので、感想などと共に送ってくれれば猫は小躍りして喜びます。100話が第1回目のイベント開会式だったのが妙に感慨深い猫でした。
私はモモさん達と別れ、誰かに魅了をかけてしまう心配のない人気のない路地裏に移動してきたのですが……これからどうしましょう?集合場所があるのならそこに向かうべきなのですが、『開会式はアルバボッシュで』としか記載されていないので、特に向かうべき場所はないのですよね。
これでもう少し時間があれば、使ってしまったスタミナ回復ポーションを補充する事や、スキルの調整が出来るのですが、開会式まで殆ど時間がありませんし、大人しく待っていた方が良いのかもしれませんね。時間になれば何かしらの案内があるでしょうとのんびり待つ体勢に入ったところで……いきなり空からハラハラと花弁が降ってきました。
まるで世界樹に咲いた花がアルバボッシュ全域に降りしきるように舞い落ちて来た花弁を追って見上げれば、そこには宙に浮かぶ巨大な人の姿が映し出されていました。
「お~ほっほっほ~、皆楽しんでるー?GMの井上よ~今回はブレイカーの皆さんにイベントの紹介をー…って、ほら、高橋ちゃんも、貴女もこっちきて」
妙な高笑いのあと話し始めたのは……何でしょう?一言で言うと、オネエ口調の男性です。
ギリシャ風の顔立ちの細マッチョな男性なのですが、髪型は女性的なブロンドの盛り髪で、遠目にも造花とわかる草花が、頭の天辺から足先までまるでクリスマスツリーか何かのように絡み飾られていました。一応肌色のピッチリしたスーツを着てはいるのですが、造花の方が目立っているので遠目には全裸に見えるという、まるでファッションショーで着るコンセプトアートのような恰好をした人ですね。
そして井上さんに手招きされて、嫌々というように姿を現した背の低い女性は……電気的な和風兎がコンセプトでしょうか?
紫色の長い髪は手入れがされていないのかボサボサで、前髪は顔の半分を覆っているという、所謂メカクレと言う髪型ですね。隙間から覗くブドウ色の瞳はどこか面倒くさそうな感じで、ウキウキしている井上さんとは対照的に「早く終わって欲しい」とでも言わんばかりに冷めきっており、頭の上に2つついている巨大な長方形の板のような機械が、心情を表す様に面倒くさそうにピコピコと揺れていました。
服装は半透明にグラデーションが入った白いスクール水着で、ぷにっとした足を包むハイソックスは水着と同じ素材で薄く、金属板で足先や踵は覆われていたのですが、足裏や足の指が動く様子が透けて見えるというなかなかマニアックなデザインですね。
勿論、体の大事な部分はメカニカルなパーツで覆われてはいたのですが、隠れている範囲は最小限ですし、機械が稼働している事を示す電子的な光が何か余計にいやらしい感じです。
そんな露出の多い服装を隠すためか、鎧の首当ての様なパーツから足元に届く長くゴテゴテとした振袖が伸びていたのですが、だらしなく着こなしているせいか余計にその下の肌の存在感を際立たせているという、なかなか艶めかしい恰好をしていまいた。
ファンタジーな衣装の多いブレイクヒーローズでのメカニカルな衣装は新鮮に映り、コンセプトもわかるのですが……生活習慣に気を配っていない人特有のたるみのある体が残念ですね。逆にそれが良いという人がいそうなマニアックな体型をしていたのですが、そんな事より大事な事と言えば、角度的にどうしても私達は下から見上げる事になるのですが……その服装はあまり下から見られる事を想定していないのか、見上げると薄っすらと覗きかけているというか……これは大丈夫なのでしょうか?
「た……」
高橋ちゃんと紹介された女性は自己紹介のために口を開きかけ……自分の姿を見て、固まりました。何故か井上さんも固まっていました。
高橋さんのその刺激的な格好と、「何かトラブルか?」という騒めきで周囲がちょっと騒がしくなったのですが、高橋さんは特に何の説明をする訳でもなく無言でログアウトしていきました。
「さあ、それじゃあじゃんじゃんと進めていくわよー!」
残った井上さんは何事もなく司会進行を進めようとするのですが、辺りはざわついたままですね。
「それじゃあまず、はい、先にちゃちゃっとグループ分けをしちゃいましょーう、どーぞー!」
井上さんはプレイヤー間の騒めきを完全に無視する事にしたようですね、問答無用で司会進行を続けると、各プレイヤーの手元にはウィンドウが出てきて、数字がシャッフルされて始めました。カシャカシャチンと表示される私の番号は『L-56』ですね。
「全く同じアルファベットと番号を持つ人が同じグループねー、近くにいるグループメンバーはMAP上で確認できるからー、一緒に行動するもよし、しないもよし、ポイントは個人に入るのでその辺りは皆の判断に任せるわー」
何か乗せられているような気がするのですが、説明が始まると皆騒ぐのをやめ、自分の番号や、MAP上で同じグループの人を探し始めたようですね。
私も数字を覚え、MAPを確認してみたのですが……グループメンバーは私を含めて6人のようで、アルバボッシュ内に5つの青い点が表示されていました。
「たーだー…折角知らない人と組んだのだから、皆で仲良くして欲しいなーっていう事で、サプライズでこんなイベントを用意したわー」
「じゃーん」という効果音と共に出て来たウィンドウには『グループ目標』と書かれたリストが表示されました。一番上が『グループメンバーの顔を見る』で、2番目が『ゴブリンのナイフの入手』で、他にも討伐やアイテムの入手などのクエストがあり、一番難易度が高いと思われる最後のクエストは『スノーベアの討伐』になっていました。
内容としてはソロでも十分達成できるけど、グループで行動すれば楽になると言った内容のものが殆どのようですね。
「これは達成しても達成しなくても良いオマケ要素みたいなもので、ポイントも1つ達成で20ポイントだけどー…ウフ、まあ利用してみてね~という事でー、そしてここからが皆お待ちかねのスライムちゃんの説明よ!」
井上さんはそう言いながら、今回のイベントモンスターであるスライムを取り出しました。
それはリアル志向のHCP社とは思えない程デフォルメされた、プニっと透き通った青色のスライムですね。大きさは30センチ程度、つぶらな瞳にωみたいな口と可愛らしい見た目をしていました。そんなスライムが井上さんの手のひらの上でプルプルと背伸びをする様子はなかなか癒されますね。事実、何人かのプレイヤーから感嘆の声があがります。
「この青色の子が1点、黄色が3点、赤が5点で、銀色が10点、金色が100点、ひゅーすごーい、イベント中は各種フィールドにスライムちゃん達が出現するようになっているわ!と言ってもこれは基本的な子達で、他にも特別なスライムもいるから、そっちは頑張って見つけてね!」
ある程度予想はしていましたが、やはり何かしら特別な個体がいるようですね。他のプレイヤーもその事は予想していたのか、特にその事については反応はありません。
「それじゃあ長々と説明していると皆も飽きちゃうだろうし、ここからは注意とおさらいだけど、このイベントは9時から24時の15時間、その間はログインもログアウトも自由!でもねー疲れないように時折休憩を挟むのよーそ、れ、は、お、兄、さ、ん、と、の、約、束、ね!」
バチンとウィンクする井上さんにどこからともなくブーイングが飛ぶのですが、そんな反応は慣れているのか井上さんは笑ってスルーしていきました。
「まあ休憩はちゃんと取りなさい、これは体のためっていうのもあるのだけどー、イベントモンスターを倒さない時間が長ければ長いほどポイント倍率が増えるアップチャンスがあるわ~そういう訳で、戦うタイミングと休憩のタイミングは見極めなさいねー」
ここで一度井上さんは辺りを見回して、私達がちゃんと理解したのかという確認を取り、頷きました。
「以上、説明終わり!今言った事や注意事項は『クエスト』欄から随時確認できちゃうし、イベント中は私も精霊樹の麓で質問コーナー開いているから、忘れちゃった人はどしどし確認しちゃってねー!それじゃあオリエンテーションイベント『ぷるぷるスライム争奪戦!!』開始よ~!」
井上さんの開会式の宣言と共に、どこからともなく白い梟が一斉に飛び立ち、イベントが開始されました。何故か最後まで高橋さんは復帰してこなかったのですが、皆はそんな事を忘れたようにイベントに向けて動き出したようですね。
※高橋さんの衣装ですが、犯人(本社)は「イベントにバニーは必要だろう」という謎の主張をしており、余罪がある物としてこれから追及していく所存であります。
※司会進行中の井上さんの語尾が伸びているのは皆に呼びかけるように話しかけているからです。喉がしんどかったそうです。