1:ブレイクヒーローズ
ちょっと気分を変えて、新作を投稿していこうと思いました。VR物ですが、VR物によくあるステータスやアイテム表記などの要素はあまりありません。そういう説明もやっぱり欲しいという方がいれば、それに応じて別記したいと思います。
4話までほとんど設定に近い内容になり、ゲーム開始は5話からとなります。まったりと楽しんでもらえれば幸いです。
高校に入ってから初めての夏休み。その初日。私、九条・U・典子は日課のストレッチを終え、シャワーを浴び、朝ご飯を食べ終わったところで、通知が来ている事に気が付きました。
「?ああ…やっと来ましたか、でもこれは……」
通知が来たのは1時間ほど前、ちょうどシャワーを浴びていた時のようです。その時間に来ていたのなら、お風呂から出て外部デバイスを付けた時に通知が来ても良さそうなものですが、どうやら接触が悪かったみたいです。
ヘアピン型の外部デバイスはこういう事があるのですが、主流の眼鏡型は両親に猛反対されたので、何だかんだでこのタイプを使い続ける事になるでしょう。
そんなとりとめもない事を考えながら外部デバイスを軽く指で押し、頭に接触させると、電子音が鳴った後、網膜に情報が表示されます。
「H C P社から…予想通りゲームの配信開始の案内ですが……」
今日はFD対応VRゲーム『ブレイクヒーローズ』の正式発売日、どうやら一通りやるべき事を先に終わらせておこうと考えていたのが仇となったようです。ゲーム内加速をしているこの手のゲームの1時間はかなりの出遅れで、やはり全裸待機しておくべきでした。いえ、本当に全裸になったりはしませんが、楽しみにしていたゲームの発売日なのですから、気持ちの上ではそれくらいの態度で臨むべきでした。
まあ後悔しても仕方がありませんし、スタートダッシュは失敗したとはいえ、キャラメイクに数時間かける人もいますからと気持ちを切り替えていこうと、私はゲーム専用機になっているF D Cが置いてある部屋に向かいます。
FDCは見た目に拘る人も多いのですが、私は性能重視で見た目にはあまりこだわりはありません。薄い桜色をしたシリコン製のカプセルは一見するとデフォルトそのままですが、中身は色々と弄って完全に私専用の改造を施したワンオフ機です。
最近また少し成長した人より発育のいい胸をちょっとだけつかえさせながら中に入り、私はFDCを起動させた後、通知の案内に従いゲームのダウンロードを開始します。
『ブレイクヒーローズ』。正式名称は『Panne Heros』と言って、開発元はフランスの会社です。フランス語の発音が日本人には少々聞き慣れないもののため、日本向けの邦題がつけられる事になったそうです。ちなみにこの邦題、ネットでは「ダサい」と評判です。
微妙な邦題をつけるのが日本の文化なのかもしれませんし、私は内容が面白ければ何でもいいと思います。後は単純な日本語対応だけではなく、日本向けに色々とアレンジがされているバージョンだとわかりやすくするためのものでもあるそうです。
まあ同意があればSEXも出来るようなフランスのゲームを日本で発売するわけにもいかないといったところが本音なのでしょう。それでも日本製のゲームとくらべるとセクシャルガードが緩く、エッチな少年漫画くらいの要素があるそうですが、HCP社の社長自らがゲームのプレゼンでエロスについて1時間ほど熱弁をふるい大炎上した事があるとかいう企業に今更何を言っても無駄でしょう。ただ「変態に技術力を与えた結果」とか「エロを突き詰めようとしたら技術がついてきた」と言われるHCP社のゲームの技術力は世界中を見ても頭一つ以上抜けている事は確かです。
他のゲームのポリゴン臭さやAIのロボット臭さがまだまだ抜けない中、ほぼリアルと遜色がないレベルのグラフィックやAIを作り上げ、ゲームとして纏め上げたその技術力は純粋に凄いと思います。
そんなHCP社が満を持して発表したのが『Panne Heros』であり『ブレイクヒーローズ』です。
オープンβ時のレビューは賛否両論で、評価は好評。『いつものHCP社製ゲーム』『クソ難易度。だがそれがいい』と、なかなか調教済みのプレイヤー達の評価なのでどこまで信じていいのかわかりません。ただPVや動画を見る限り、既存のゲームの一つ先二つ先を行く出来であることは確かなようです。
HCP社を語る上で外せないもう一つの要素が、このリアル寄りの“ゲームバランス”です。実はHCP社は高難易度のゲームを作る会社としても有名で、私のような硬派なゲーマーファンが多かったりします。
VRゲームといえば普通、誰でもクリア出来るような難易度にするために色々なアシストを取り入れるものなのですが、そういう補助を意図的に最小限にして、P Sが最大限反映されるシステム構成になっています。理不尽ともいえるような鬼難易度というのは、一度嵌るとなかなか病みつきになってしまいます。
大昔でいうところの『高難易度の死にゲー』の系譜と言えばいいのでしょうか?理不尽な難易度なのですが、クリアした時の達成感、成長した感は他のゲームではとても味わうことが出来ない体験だと思います。とはいえ、最近のHCP社は時代の波に押されて色々なアシスト機能を入れ始めたりと、難易度調整をし始めているという事なので、ゲーマーの私としては寂しい限りです。ですが全体のユーザー数は増加しているという事なので、そのあたりは時代の流れとして仕方がない事なのかもしれません。それでも一般的には高難易度のゲームを作っている会社だと言っても差し支えはないでしょう。
そんな事を考えていると、ポーンと、初回調整が終わった事を告げる通知音が鳴り、目の前にウィンドウが開きます。
『ブレイクヒーローズにログインしますか?<YES><NO>』
私は迷わず<YES>のボタンを押しました。
※誤字報告ありがとうございます、修正しました(10/12)。