【5】悪夢
家に帰って夕飯を食べてお風呂に入って、自室に戻る。
ばたりと、ベッドにそのまま倒れ込んでぼーっとしていたら、
いつの間にか彩希は、深い眠りに落ちた。
──夢を、見ている。
小さくって、まだ色が見えていた頃の、私が居る。
隣には、その頃よく遊んだり話したり、仲良くしていた男の子がいて、二人とも楽しそうに笑っている。
もっともその男の子の顔は、私が昔の事で覚えていないからか、はっきりと確認できないけれど。
すると二人は、ダメだと言われていたのに部屋を飛び出して、駆け出した。
親から、周りの大人からの言いつけを破る。
七歳にも満たない二人には、その小さな禁忌を犯した事に、ドキドキしながら、手を繋いで、一緒に。
その小さい足で、どこまでも駆け続ける。
それを今の私は遠目から見ている。
──嗚呼、私って、昔はあんな顔をしていたんだ。
満開の笑顔。今の色の無い景色からも分かる。
きっと、花のような、桜のような笑顔って、こういう事を言うんだろうな。
こんな思い出があったなんて、すっかり忘れていた。
そんな風に微笑ましくも、儚げな表情を浮かべながら二人を見ている彩希。
すると突然、男の子がつまづいて転んでしまった。
幼い彩希は、立ち止まって男の子に手を差し伸べる。
男の子はその手をとって立ち上がろうと── 、
幼い彩希と男の子の手が触れた瞬間、彩希の足元が崩れ落ちた。
驚いて、周りを見る。
既に世界はパリンと、硝子のように割れて、無数の破片になって、砕け散って崩れ去って。
そのまま、彩希は重力に任せて落ちていく。
どこまでもどこまでも、真っ黒な底無しの世界に。
──そこで、目が覚めた。
特に驚きは無い、夢の中で夢だと自覚していたから。
体を起こし、しばらく呆然とする。
悪夢、と言うのだろうか……そもそも、久しぶりに夢を見た気がする。覚えていないだけなのだろうか。
にしても、起きた今でもこんなに鮮明に、はっきりと覚えているとは、そっちの方に驚きだ。
ふと、窓の方を見ると既に日が差し込んでいた。
スマホを確認して時刻を確認してみると、丁度六時を少し過ぎたあたり。学校にはまだ余裕があるが……
特にすることも無いし、悪夢ですっかり目は覚めてしまったし。ゆっくり準備を始めてしまおう。
ベッドから下りて、彩希は二日目の朝を、迎えたのだった。