【4】入部届
軽く自己紹介を終えれば、後は適当に活動内容などの説明を挟みながら、和気あいあいと話し込んでいる。
先輩も明るくて優しいし、まさにアットホームな雰囲気で。
彩希からしても、その方が気楽で良かった。ピリピリした空気の中に放り込まれるなんて御免だ。
でも、久しぶりだからか、少しだけ疲れてしまったかもしれない。
「すみません、ちょっとお手洗いに行ってきますね」
彩希はみんなにそう断って、一旦部室から出る。
トイレには行かない。ただの理由付けだから。
少し歩いて階段の踊り場に来て、壁に寄りかかる。
徐に、スカートのポケットからタブレットを取り出し、一粒飲み込む。そしてゆっくりと、息を吐いた。
疲れた……でも、
──嫌な疲れじゃないかも、と。なんだかそんな風に思えて。
「あんまり長く戻らないと、心配されちゃう……よね」
短い休憩を堪能した後、部室の前に戻ってくるとそこにはまた知らない男子の姿。
彩希の気配に気付いて目が合った、しかしその男子はすぐに視線を戻すと部室の中へと入っていく。
それに続いて彩希も部室へと再び足を踏み入れる。
「おお、怜、来たのか。彩希もおかえり」
「……俺はカメラを取りに来ただけです。すぐに帰るので、じゃあ」
怜、と史哉から呼ばれたその男子は恐らく部員だ。と言うことは先輩なのだろう。
彼の態度のなんとまあ無愛想なこと。
無造作にされた黒髪に赤い目、整っているのにその表情は真顔そのもので。
怜は宣言通り、スタスタとカメラの前まで歩きそれを手に取ると、即座に出ていってしまった。
彩希も雫も思わずぽかん、としてしまった。
すると史哉が先程の彼に代わって謝りながら、
「さっきの文月 怜って言うんだけど、二年生な。あいつも部員なんだ。つっても、ほとんど幽霊みたいな……一人で気ままにやってるだけなんだけどな」
……なるほど、納得がいった。
にしても、なかなか個性的なメンバーが揃っている部活だ。
それとも、他の所もこんな感じなのだろうか?
そんなちょっとしたイベントを挟みながら、終わりの時間がきた。
「……わ、もうこんな時間!早いねー……帰らないと。そうそう、二人ともどうする?ここ、入ってくれる!?」
キラキラした目で、私と雫を交互に見てくる。圧がすごい。
もう若干、なれてしまったけれど。
「えっと……私は、まだ少し考えたいなって」
「私……は、その……は、入りたいです……!」
それぞれ答えを出し、口にする。
私の答えを聞くなり雪はガックリ、と肩を大袈裟に落としながらも、雫の答えを聞くと、満面の笑みを咲かせて。
「ほんとに!ありがとー!!じゃあじゃあ、この入部届けに、名前と部活動名を書いて、先生に提出してね!」
そう言って一枚の紙を雫に手渡す。それを受け取って雫は鞄の中にしまった。
ついでに、と、何のついでか分からないが私にもそれを渡してきた。
断るのも面倒だしそのまま受け取っておいたが。
そうして、二人して部室を後にした。
雫ちゃんの家を聞いたら、私の家と意外と近かったらしい、途中で別れてしまうけれど。
なのでそこまでは一緒に、という事になった。