【2】生物部へようこそ
雫に誘われて、部活動見学に行く事にした彩希。
中学の時も何にも入らなかったし、見学さえしていなかった。
それは今回も例外ではなく……しかし、誘われては仕方ない。無理やり気持ちを切り替えよう。
そう、逆に考えれば、行ったことが無いのだから一定の興味は沸くはず……だ。多分。
まぁそもそも、どっちでも良かったから、行くつもりは無かっただけなのだが。
「そう言えば、雫ちゃん、何部が気になってるの?」
「生物部、です。私の勝手なイメージなんですけど、男子の方が多そうだなぁって。なのでちょっと一人では勇気が……」
「なるほどね、それは確かにそうかも。と言うか少し意外……てっきり吹奏楽部とかなのかと」
その理由に納得しつつ、そのまま疑問をポロッと漏らす。
雫は軽く苦笑しながら── 、
「好き……なんです。動物とか……植物とか。特別詳しいとかじゃ、無いんですけど……」
照れくさそうな、嬉しそうな、そんな表情で話してくれた。
人が好きな物や人について話すときに見せる表情は、彩希にとっては憧れのものである。
ゲームだって、読書だって、勉強だって。他にも沢山、今まで色々やってきていた、見つけようとした。
それでも、彩希にとってのそれは見つからなくて。
あの表情はあの顔は、大切な何かを想っていないと出来ないのだ。
色も、感情も薄く、失ってしまった今の彩希には、分からない。
そんな事を無自覚に自覚しながら、彩希は素直に、その語りに答える。
「……そうなんだ、いいと思うな。別に詳しくなくても、好きなんだからさ。大事にするべきだよ」
雫は「……はい!」と、ただただ、満面の笑みで頷いた。
そんなこんなで生物部の部室へ到着した。
雫は笑顔とは一変して緊張な面持ち。
初対面は苦手なタイプ……なのだろう。朝、彩希に話しかけた時も同じ顔をしていた。
コンコン、と部室の扉を叩く。すると出てきたのは── 、
「はーい……わ、いらっしゃい!ねえねえ史哉先輩、お客さん来たよ、可愛い女の子二人!」
「……雪、怖がっちゃってるだろ、もう少し静かに」
「だってー!まさか初日に来てくれるなんて思って無かったんだもん。それも二人!」
とても元気のある雪、と呼ばれた女子生徒……明るい茶色の髪をポニーテールにして纏めている。黄色の瞳をしたその先輩。
なんだろう、物凄く期待の眼差しを感じる。
そして史哉先輩、先程と雪に大きな声で呼ばれ、顔を出してきた男子生徒……同じく明るめの髪色をした、少しはねっ毛で、群青色の瞳でこちらを見ている。
「驚かせてごめんな。えーと……見学だよな?」
「は、はいっ!見学に来ました……!大丈夫でしたか……?」
「もちろん、さあ入って入って!生物部へようこそ!」
雪と言う少女に背中を押されて、半ば強引に、二人は部室の中へと入った。