【1】灰色の景色
初めて歩く通学路。
アスファルトの色、道端のふとした隙間に咲いているたんぽぽ、散歩をしている犬とその飼い主さんの服の色。
一体何色なんだろう。
その全てが、私にとっては灰色で、ただ少しの濃淡がついているだけで。
きっと綺麗なんだろうな、でも期待よりはそんな事無いのかな。
もう何十回、何百回と思ったそれを無意識に心で呟いた。
諦めたと言っても、やはり願ってしまう。期待してしまう。そんな事は絶対に訪れないと、分かっているのに。
──またもう一度、色の着いた景色がみたいと。色を取り戻したいと。
誰か、誰でもいいから、一度だけでもいい、この無機質な苦しみから、救って欲しいと。
学校の門が視界に入った、到着したようだ。
門をくぐって、学校の敷地内へと足を踏み入れる。
この学校も、ただ趣味も楽しみもなく膨大に有り余した時間を勉強に費やして、入る事が出来た学校。
特に入りたいとか、此処の部活に興味があってとか、そう言うのは特に無かった。
上履きに履き替えると、先に自教室へ向かうようだ。
張り出されている紙から自分の所属するクラスを探し、教室へと向かう。
教室へ着き、自分の席を確認して座ると時計を見た。
まだ入学式には時間がある……まぁ、ぼーっとしていれば過ぎ去るだろう。そう思っていた時だった。
「あ、あのっ……!」
まさに女の子らしく、可愛らしい声で私に話しかけて来た子が目の前に。
短く、焦げ茶色に深緑の目をしたその少女は、少し緊張した面持ちで彩希をじっとみつめている。
「えっと……私、かな?どうしたの?」
「そ、その……私、隣の席の雫です!挨拶して置きたかったから……えっと、よかったら、体育館まで一緒に行きませんか?」
雫は彩希にそう誘い出ると、答えを待っている。
特に断る理由も無いし、隣ともあれば仲良くした方が身のためだろう。
それに、入学早々一人きりになる訳にはいかない。
「……うん、勿論いいよ。私は、彩希。よろしくね、雫ちゃん」
彩希は薄く微笑みを浮かべて、こくりと頷いた。
その答えを聞いた雫は安堵と嬉しさを表情に全開にだした、可愛らしい笑顔で。
「…はいっ!よろしくお願いします、彩希ちゃん……!」
と、返して、二人で体育館に向かったのだった。
入学式は粛々と終わり、ただ疲労だけが残る。
教室に戻ると少しの休憩を挟んだ後、軽く学校についての説明や、自己紹介があって……それも無事に終えると早めの放課後。
さっさと帰ってしまおうと荷物を纏めていると
「彩希ちゃん、この後の部活動体験とかって、見たりする予定、ありますか?」
既に大分打ち解けた雫が、横から話しかけて来た。
おっとりとした性格の彼女は、一緒に居て何だか心地がいい。
この学校では入学式の日の放課後から、部活動勧誘が始まるそうだ。
私は特に、入るつもりも無かったのだが……雫ちゃんのこの視線、それにこの言葉、誘ってくれているのと同義である。
「えっと、私は特に行きたい所とかは無いから……」
と、やんわりと断ろうとすると雫が挟んできて、
「私、気になっている所があって……で、でも一人は少し心細かったので……彩希ちゃんが来てくれたら、とっても助かるし嬉しいなって」
懇願してくる雫は、彩希からみてもとても可愛い。自分が男子だったら惚れていそうな程。
──ま、家に帰ってもする事は無いし。少し位はいいか。
と、その可愛さに負けた彩希は、雫に着いていく事にしたのだった。