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グラデーションの境界線  作者: 青峰 叶向
第一章【入部届】
1/6

【プロローグ】止まってしまった世界


 

 人を色で例えるとしたのなら、一人ひとりに、それこそ無数の数の色の名前が付けられるだろう。

 

 赤、青、黄色、紫、ピンク、緑、若葉色、亜麻色……黒、白。


 ほら、今考えただけでもパッと、これだけ続いて思い出せる。まだまだ言えそうな程。

 私が知らない色の名前だって、もっともっと、沢山あるんだろうから。

 貴方にぴったりな色も、きっと、絶対見つかる。


 

 ──じゃあ、私の色は?


 「白の服が良く似合うね。」と言われた事がある。

 「君の青色の目、凄く綺麗だね。」と言われた事がある。

 「その金色のペンダント、君みたいでいいね。」と言われた事がある。


 白が似合っていて、青色の目で、この金色のペンダントが私みたいで……ねえ、私の色はどれなの?この中にある?

 

 白?青?金色?それともまた違うのかな。別の色があるのかな。



 私には、分からない。





 朝の六時半頃、いつものようにスマホの目覚まし時計が煩わしい音を鳴り響かせる。

 手探りでスマホを探し手に取ってそれを止める。

 そして重い体を無理やり動かしてベットから下りて、部屋を出る。

 階段を下りるとリビングがあって。そこへ行く前に洗面所で顔を洗いに。

 目が覚めるようにとわざと冷たい水で顔を濡らしタオルで拭いた。少しは目が覚めただろうか。


 ──鏡に映る自分の姿に、色は無い。見えるのはただ、灰色の世界。

 

 七歳の時から私は、色を失ってしまった。

 どうしてなのかは分からない、でもその時から、私の世界が止まってしまったかのよう。

 自分の事なのに自分が今、何をしたいのか、どんな感情を抱いているのかが分かりにくくなってしまった。

 母にも、家族にも言っていない秘密。言いたくなかったのか、気分じゃなかったのか、それすらも分からなくて。

 

 だから私は、もう何にも期待せず、流れるままに生きて行こうと、そう決めていたのだった。


 ──そういう風に、諦めてしまった自分の事が嫌いだということは、はっきりと自覚できたけれど。

 



眠いのか眠くないのかよく分からない感覚のまま、改めてリビングへ向かい、椅子に座った。


「おはよう、彩希。よく眠れた?」


 彩希はぼんやりとしながら、声の方へ目をやる。母がキッチンで朝食を作りながら笑顔で話しかけて来ていた。


「うん、おはよう、お母さん。まあまあ……かな、多分」

「あら、それは少しだけ心配ね……ほら、今日は入学式なんだから、せめてしっかり朝ご飯食べて、少しでも元気をつけなさい!」


 そう言われると、目の前に朝食が置かれた。朝にしては少しだけ量が多い気がするが……母の料理は絶品なので、有難く頂くことにしよう。


「ありがとうお母さん、いただきます。」


 手を合わせて箸を取り食べ始める。出来たてでご飯は炊きたてで、とても美味しい。

 これが母の味と言うやつだろうか。何だか安心出来る味だ。

 母は私が食べている様子を、にこにこと嬉しそうに、優しい笑顔を浮かべながら見つめている。

 ……流石にそんなに見つめられているとちょっと食べにくいけど。


「ごちそうさまでした。着替えてくる」


 何とか食べ終え、しっかり胃袋を満腹にさせると席を立ち着替えに自室へと戻る。

 真新しい、シワひとつ無い、ピシッとした制服。それに袖を通す。

 自然と、背筋が正される感じがする。新しいからかな。不思議だ。


 着替え終えると再び洗面所へ、長めの髪を適当に整え、鞄を手にしていざ学校へ。

 玄関へ靴を履いていると母が見送りに来てくれた。


「じゃあ、行ってきます。」

「うん。あれ、ちゃんと持ってる?忘れてない?」

「大丈夫、持ってるから。安心して」

「それなら良かった、行ってらっしゃい」


 先程の笑顔で手を振って送ってくれた。


 ──よし、行こう。

 事前に覚えておいた、学校への道のりを、彩希は一人でゆっくりと、歩み始めた。


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