正義か悪か
「イムル!?ボスはどうしたの」
「もうこっちで始末したのん!」
「えっ、てことは、さっきの悲鳴は・・・」
「そんなことより、アヤネ!早くこいつらにとどめを刺すのん!」
「!!」
私は、男の方を見た。
「や、やめろ、助けてくれ・・・」
男の目は大きく見開かれ、その中に恐怖の色を宿している。
「・・・。」
「アヤネ!何を迷っているのん!早くするのん!今朝、教えたはずだのん!」
イムルが急かす。
迷っている暇はない。
私は覚悟を決めた。
今朝教えてもらった、とどめの刺し方。それを思い出して、私は男の足元に跪き、祈った。
「天の者よ。地の者よ。この悪人に、鉄槌を下したまえっ・・・!」
私の周りが、神秘的な光を放つ。
その途端、3人の男はもがき、苦しみ始めた。
血を吐き、体を硬直させ、最後にはぐったりと倒れた。
「死んだ。」
私の口からは、いつの間にかそんな言葉が漏れていた。
そして、耐えられない程の後悔が、私を襲った。
「死んだ?私が、殺した?ああ、ああああ・・・」
「アヤネ?落ち着くのん、アヤネ!」
イムルの言葉は、私の耳には届かなかった。
ただ、人を殺したという事実だけが、私の頭をぐるぐる駆け回っていた。
「39度8分、か。」
私の寝ているベッドのすぐ横で、スーラは呟いた。
私はあの後高熱を出し、イムルに運ばれて帰ってきたのだ。
「まったく、最初から世話の焼ける奴だ。」
「・・・。」
「でも大丈夫だ。これぐらいなら、一週間で治る。」
「…スーラ様。」
「?」
「私は・・・、人を殺してしまったんですよね?」
「ああ、そうだ。お前は、正しい事をした。」
「何が正しいんですか!?」
私は勢い良く起き上がった。
「私は、人を殺した。悪人とはいえ、人の命を奪ってしまった。どこが・・・」
「アヤネ」
「!!」
スーラは、私にぐっと顔を近づけた。
金髪の髪が、ふわっとなびく。
「お前は、何か勘違いをしているようだ。これは、人の命を奪っているわけではない。
そこで不要な命を、あるべき場所へ持っていっている。それだけだ。」
「あるべき、場所?」
「地獄だ。」
スーラの口から出たその言葉は、私の心の中にすとんと落ちた。
「何を有り得ないという顔をしているんだ。悪いことをしているから、地獄に連れて行かれる。
自業自得だろ。」
「で、でも・・・!?」
反論しようとした私の口を、スーラは塞いだ。
自身の、唇で。
「っ・・・。」
顔が真っ赤に紅潮しているのが、自分でもわかった。
スーラは私をじっと見つめて、言った。
「いい加減黙れ。もう、仕事に疑問を抱くんじゃない。いいな。」
「・・・。」
スーラは踵を返し、去っていった。